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ドナルド・トランプ次期米国大統領(写真:AP/アフロ)
トランプ氏の米国第一主義は、米国民の生活苦と企業のコスト負担増の悲惨な結末を招く
http://biz-journal.jp/2017/01/post_17744.html
2017.01.17 文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授 Business Journal
ドナルド・トランプ次期米大統領は11日午後(日本時間12日未明)、ニューヨークのトランプタワーで当選後初となる公式な記者会見を行い、世界中がその発言に注目した。
トランプ氏とその陣営が強調したのは、主に3点である。アメリカの主要メディアが報じていたプーチン露大統領との関係(ロシアのハッキングや大統領選での支援問題など)、トランプ氏の抱える膨大な企業グループと大統領職務との利害背反問題、そして経済政策である。
ロシアとの関係については、ハッキングの事実を認めると同時に、トランプ氏がロシアに弱みを握られているという一部報道を手厳しく批判した。特にCNNとバズフィードを「偽ニュース」と酷評した。また、自身の企業グループの経営権については、2人の息子に譲る法的手続きが終了したとしている。
日本では、何か問題が発生すると「安倍政権のせいだ」とする、いわゆる“アベノセイダーズ”がインターネットや一部マスコミでも観察できる。同じように、トランプ氏についてもその発言を客観的な尺度ではなく、彼に対する嫌悪感や政治的イデオロギーで評価してしまう論者やメディアが多いのは事実だ。もちろん、この種の報道バイアスはどの政権も直面する問題ではあるが、トランプ氏の場合は特に過剰だ。今後、報道や識者の発言を鵜呑みにするのではなく、できるだけ多様な報道・意見をみて、証拠をもとに客観的な判断に努める必要がある。
■目的はひとつ、手段は2つ
さて、3つめのトランプ氏の経済をめぐる発言は、世界中のマーケット(株価、為替レートなど)に衝撃を与えたことからも、注目度の大きさがうかがえた。記者会見後の12日の日本市場では株価が急落し、また為替レートは円高ドル安に急激に傾斜した。ただし、本稿を執筆している13日には市場は落ち着きを取り戻し、株価は反転、為替レートも円安方向に戻している。これと似た事態はトランプ氏が大統領に当選したときにも観測され、いわば2回目の“トランプ・ショック”である。
今回の記者会見からは、トランプ氏の経済政策は「目的はひとつ、手段は2つ」ということがわかる。トランプ氏の経済政策、いわゆる「トランプノミクス」の目的は、記者会見でも名言した「史上もっとも雇用を生み出した大統領になる」というものである。
トランプ氏はまだ大統領に就任しておらず、その政策が具体性を帯びてくるのは相当に時間がたってからだろう。
■国境税=保護貿易的手段か
ところで、中国、メキシコ、日本などを具体的に例示して、貿易赤字がアメリカの雇用の最大化を妨げているというのが、トランプ氏の経済観の根底にあることは間違いない。そのため貿易赤字を削減することが、国内雇用を最大化するとみなしている。貿易赤字を削減するためには、たとえば輸入される財には関税を課し、他方で輸出には税制上の優遇措置を施すことが考えられる。
保護主義的な手法で貿易黒字を生み出し、国内の雇用を最大化する手法は、古くから議論されている。たとえば、ジョン・メイナード・ケインズは『雇用、利子および貨幣の一般理論』(1936年)のなかで、重商主義の優れた点として、このような保護貿易による貿易黒字増加と雇用最大化の関係を詳細に議論している。固定為替レートを前提にした場合で、国内の不完全雇用が深刻であれば、ケインズ=重商主義的な手法での雇用増加は試してみるべき手段ではある。
この設定では、簡単にいえば海外からの(純)支払いの増加によって、それを得たアメリカ国民が豊かになり、消費が活発化し、また輸出向けの財などの生産も増加する。これがアメリカ経済の再生につながるに違いない。トランプ氏の頭の中には、このような筋書きがあるのだろう。
ただし、現状のアメリカ経済は変動為替レート制であり、不完全雇用であったとしてもその水準は深刻なものとはほど遠い。変動為替レート制の話はとりあえず脇に置くとして、もしアメリカ経済が完全雇用に近いか、もしくは完全雇用の水準にあるとしたら、トランプ=ケインズ型重商主義は、どうなるのだろうか。
その前に、そもそも「国境税」は単なる国境調整での税制手段であり、関税や補助金とは異なるという指摘がある。たとえば、日本のように海外からの輸入品には日本の消費税率が適用されるが、他方で輸出品には税額分が還付されている。アメリカではこのような税の国境調整がないので、これを是正するものとして国境税が議論されている。現在、共和党が議会通過をもくろんでいる税制改正もそのような趣旨である。簡単にいうと、国境税は雇用創出とは関係ない。
だが、トヨタ自動車のメキシコ工場建設を批判するツイートや今回の記者会見を見る限り、トランプ氏の頭の中では、どうも国境税は貿易不均衡是正の手段に置き換わっているようだ。貿易赤字の削減がアメリカ国内の雇用増加に結びついているので、トランプ氏の認識では、国境税は保護貿易的手段として位置づけられている。
■トランプ=ケインズ型重商主義が直面する困難
さて話を戻そう。アメリカ経済が完全雇用か完全雇用に近い水準だと仮定しよう。ちなみに筆者の認識では、アメリカ経済は完全雇用ではないが、それにきわめて近いものだ。
このとき、トランプ=ケインズ型重商主義は困難に直面する。完全雇用までは失業が減少することで、アメリカ国民の経済的な満足度も上昇するだろう。しかし他方で、国内で利用されるさまざまな資源(生産に利用する財やまた消費財)は割高になってしまう。なぜなら安価な資材や消費財を海外から輸入する際に、国境税分をアメリカの生産者と消費者は負担しなくてはならないからだ。
経済が完全雇用に近い状態であれば、雇用増加のメリットよりも、はるかにアメリカの国民(生産者と消費者)の負うデメリットは増加するだろう。雇用は大して増えないのに、他方で食料品などさまざまなモノが値上がりしていく、そんな事態が生まれてもおかしくない。
また、企業は割高になった生産コストを負うので、海外企業との「国際競争力」を次第に失っていくだろう。したがって実質的な生活苦が増す一方で、大して雇用は増えない。これが記者会見からみえてきた、トランプの経済政策の帰結である。まさに「悲惨」の一言である。
現在のアメリカの経済政策では、雇用の最大化と物価の安定(すなわち実質的な生活の安定)は、FRB(米連邦準備制度理事会)が担っている。リーマンショック以降の経済危機をなんとか「回復」といえるレベルまでに引き上げてきたのは、この金融政策中心の政策フレームの貢献である。仮にトランプ氏が国内での完全雇用がいまだ達成されていないとするならば、FRBと政府が協調して、よりいっそうの金融緩和と財政拡張に努めるべきである。
実際に、トランプ当選直後に市場は急落したが、その後上昇に転じたのは、トランプ氏の経済刺激政策が財政政策主導だと解釈されたことに大きく依存している。今回はこの期待を大きく裏切ったことになろう。
ただ、トランプ政権の経済政策はまだ実行以前だ。その姿が本当にはっきりするのはまだしばらく後のことである。とはいっても、トランプ政権が保護貿易的色彩を強めることは、アメリカ国民にとっても、また世界経済にとっても好ましくはなく、その結果は悲惨なものになるだろう。
(文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授)
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