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コラム:
働き方改革が難航、景気好循環に黄信号
永井靖敏大和証券 チーフエコノミスト
[東京 10日] - 安倍政権は現在、「同一労働同一賃金」を成長戦略の最重点項目に事実上据えている。2016年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」で、「働き方改革」を、最大のチャレンジと位置付け、具体的な方針の筆頭に「同一労働同一賃金の実現」を掲げたためだ。
こうしたなか、2016年12月に政府は、「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」(検討会)の中間報告を発表した。働き方改革は、一朝一夕にできるものではない。中間報告は、日本の雇用環境の現状を踏まえ、段階的に「同一労働同一賃金」に至るまでの方向性を示したという点で、現実的な内容と評価することができる。
ただし、成長戦略という視点では、スピード感がなく、賃金発の景気好循環の発生を促す内容とは言い難い。
<英国型から独仏型へ舵を切った理由>
「同一労働同一賃金」を目指すには、さまざまな手法がある。検討会では、現在日本で中心となっている企業別の労働条件設定から、フランスやドイツのような「企業横断的・雇用形態横断的な賃金決定システム、あるいは比較検討可能なシステムへの移行が一つの方向性である」とする考え方を提示している。
同時に、検討会は、英国の制度・判例・実態も詳細に検討している。英国と日本の共通点として、1)主に企業ごとに賃金が決定される点、2)労働者が自らの賃金決定方法を必ずしも容易に知り得る状況になっているとは言えない点、を挙げた。ただし、英国は、労働市場の流動性が高い点で日本と異なる、とまとめている。
安倍首相は、第2期政権発足当初、解雇法制を整備することで、雇用の流動化を促進させようとしたが、法整備は現在棚上げ状態になっている。日本で、英国型の制度を目指し労働市場を流動化させることは、政治的にも企業文化的にも困難と判断し、フランスやドイツで実施されている職種別賃金交渉を促すことで、「同一労働同一賃金」を目指そうとしている模様だ。
ただ、検討会は、当初は同一企業内での正規社員との不合理な待遇格差をなくすことが現実的とし、「同一労働同一賃金」を理想的な形で実現するよりも、日本の最大の課題である非正規社員の待遇改善に焦点を絞り、次の一歩を進めることに力点を置いているようだ。
中間報告の冒頭にも、「正規・非正規間の待遇格差が大きいことが、検討会のメンバーとして共有する問題意識である」と記載している。方向性は意識しつつも、現実的な手法として、同一企業内という方向での取り組みを目指していることからも、「働き方改革」実現の難しさが読み取れる。
不合理な待遇格差をなくす具体策として、検討会は、正規・非正規間の格差に関する合理性・不合理性のガイドライン(案)を示した。現行の労働契約法第20条やパートタイム労働法第8条でも、不合理な格差を設けることを認めていないが、合理性・不合理性の判断基準は明示されていない。
すなわち、現状では、合理性・不合理性の判断基準は司法当局に委ねられる。具体的な判例を積み重ねることにより、判断基準が明確化する仕組みになっているが、日本の労働争議は、解雇の正当性を問う場合でさえ、あっせん・調停・仲裁で調整されるケースが多く、訴訟に持ち込まれるケースは少ない。このため、政府が率先してルールを策定する必要がある。検討会は、ガイドラインを提示することで、「同一労働同一賃金」に向けた一歩を進めた、と評価することができる。
<崩れつつある改革主導の成長シナリオ>
ただし、中間報告は、スピードよりも問題発生回避を重視しているようにみえる。この理由として、1)正規社員と非正規社員の格差是正を非正規社員の待遇改善で行おうとしていること、2)ガイドラインには依然として曖昧な面が多いこと、が挙げられる。
1点目について言えば、短期間に格差を是正するためには、正規社員の待遇を悪化させる必要がある。最近は、労働需給のひっ迫を受け、相対的に非正規社員の待遇が改善しているため、格差は縮小傾向にあるが、依然として2倍程度ある。正規社員の待遇を維持したままでは、「同一労働同一賃金」が実現するまで、かなりの時間がかかると言わざるを得ない。
2点目については、ガイドラインは、あらゆる業務を想定していることから、やむを得ない面があるが、分かりにくい。「同一労働同一賃金」の基本原則として、「職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない」とした上で、格差があっても問題とならない事例や問題となる事例を挙げている。
例えば基本給に関して問題とならない例として、正規社員が、1)特殊なキャリアコースにより職業能力を習得した場合、2)キャリアコースの一貫として定型的な仕事に従事している場合、3)将来転勤・職務内容の変更がある場合、などを挙げ、逆に問題になる事例として、4)現在の業務に関連性を持たない業務経験を有する場合、を挙げている。
もっとも、1点目と4点目を線引きすることは難しく、会社が2点目と3点目を想定しても、結果として正規社員が定型的な仕事を続けるケースや、転勤・職務内容の変更がないケースも想定される。
また、一部の職種を除くと、職業能力の測定自体が困難である、という根本的な問題もある。このため、ガイドラインは、完成形とは程遠い、と言わざるを得ない。
実際、中間報告でも、「ガイドラインの制定・発効にあたっては、適切な検討プロセスを経ることが望ましい」「今後必要な法的見直しに向けた考え方の整理を行う予定」と記載しており、ガイドラインは、単なる「たたき台」にすぎない点を認めている。
現状の「働き方改革」で、日本の潜在成長率が急上昇することは期待できない。改革を進めることは必要だが、改革により高成長を目指す、という安倍政権のシナリオは崩れつつあるようだ。
*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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視点:強い米国の強いドルが復活へ
武者陵司武者リサーチ代表
[東京 10日] - トランプ次期米政権が、サイバー空間で培われてきた自国産業の圧倒的優位性をフルに生かす「強いドル」政策を追求するならば、経済の独り勝ちと覇権強化に基づく「パックス・アメリカーナ」再現も夢ではないと、武者リサーチの武者陵司代表は指摘する。
また、その場合、最大の負け組は中国で、最大の受益国は日本となり、ドル円は年内に130円超、日経平均株価は2020年にかけて3万円台も期待できると予想する。
同氏の見解は以下の通り。
<米国際収支構造の大転換>
米国の圧倒的隆盛と中国の顕著な衰弱――。2017年は、米中の明暗がはっきりし始める1年となるだろう。トランプ次期米政権が「強い米国の強いドル」という正しい方向性を途中で見失わなければ、経済的・軍事的なプレゼンス再構築に基づく「パックス・アメリカーナ」再現も夢ではないと考える。
米国にとって、「強いドル」が今ほど国益にかなう時代は、変動相場制移行(ニクソン政権下の1973年)以来、なかったのではないか。米国の国際分業上のポジショニングは特にこの10年余りで大きく強化され、もはや「弱いドル」は必要ではなくなっている。
キーワードは、レーガン政権時代の1980年代に発見(商用利用が開始)された第7大陸(影も形も国境もないサイバー空間)だ。世界貿易の停滞を受けて、資本主義が限界を迎えたとの間違った悲観論が最近はびこっているが、この新大陸の発見とその後の目覚ましい成長が歴史上まれな大発展時代をもたらすのはむしろこれからだと思う。
インターネットが今や世界中で必須の生活基盤・経済資源となり、価値創造の最大の源泉となっている点に誰も異論はないだろう。そして、この新大陸におけるイノベーションの担い手(そして「口銭」を稼ぐインフラを牛耳っている主体)は圧倒的に米国企業だ。第7大陸の発展が、米国経済のファンダメンタルズを歴史的水準に押し上げているのは、空前の企業収益や過去最高値更新を続ける株価などを見れば明らかだ。
こうした視点で、米国の国際収支統計を眺めてみると、興味深いことに気付かされる。過去10年間(2005―15年)で米経常収支赤字は8067億ドル(対GDP比5.7%)から4630億ドル(同2.6%)へと大きく改善しているが、そのけん引役は金融・知的所有権料・ビジネスサービスなどのサービス収支(686億ドルから2622億ドルへ3.8倍)と、直接投資・証券投資などの第1次所得収支(676億ドルから1823億ドルへと2.7倍)なのだ。
他方、米貿易収支赤字はこの10年間、年7600―7800億ドル近辺でほぼ横ばい推移している。もし今後もサービス収支と第1次所得収支が過去10年間と同様の年率12.5%のペースで増加し、貿易収支が今の水準で推移すれば、米国はあと6年程度で経常収支黒字国に転換する計算となる(しかも、ドル高が進行すればさらに早まるかもしれない)。
米国から見て、「強いドル」のデメリットはもはや小さい。そもそも、他国と価格競争をしている品目が少ないからだ。この10年余りで、労働集約的な低付加価値品を他国から買い、独占的な高付加価値品やサービスを他国に売る(そしてサイバー空間に張り巡らせたインフラから「口銭」を稼ぐ)という経済に転換したためである。こうした産業構造では、自国通貨高が有利だ。海外利益のドル換算額減少リスクを指摘する声もあろうが、それは基本的には値上げで対処可能だ。
また、トランプ次期米大統領は、保護貿易的な言動からドル安論者と見られがちだが、それは彼の主張するポリシーミックス(財政出動・金融引き締め・軍拡)とは整合的ではない。結局、ドル高を容認せざるを得ないだろう。
ちなみに、トランプ氏とよく似たポリシーミックスだったレーガン政権もドル高コストに耐えられずに2期目の初年(1985年)にプラザ合意でドル安誘導に転じたではないかとの意見をよく聞くが、製造業中心だった当時とは米国の産業構造は決定的に違う。
現在は、前述の通りサイバー空間の高付加価値分野が米国企業のグローバル独占によって不完全競争状態になっており、ドル高でも米国の対外赤字が増加しにくい。ドル円は今や120円台後半どころか、130円台すら年内に試す可能性があると私はみている。
<中国で懸念されるドル高の「負の連鎖」>
ただし、ドル高のデメリットが海外において現われる点には注意が必要だ。米国の経常収支が改善している中でのドル高は、国際的なドル調達難をもたらすだろう。懸念されるのはドル負債を多く抱え、経済ファンダメンタルズの弱い国々だ。
そうした国々は自国通貨を防衛するために金融引き締めを余儀なくされると同時に、それによって生じる国内経済の困難に対処することも迫られる。結局、どの国も拡張的な財政政策に打って出るしかなくなる可能性が高い。
特に大きな困難に直面すると思われるのは中国だ。まずドル高・米金利上昇によって中国からの資本流出圧力が強まるのは必至だ。また、中国は外貨準備高(約3兆ドル)を上回る4兆ドル超もの巨額対外負債を負っている。人民元の下落はその負担増を招くことになる。
ならば人民元の下落を抑制すれば良いという簡単な話ではない。通貨防衛をすれば、金融のタイト化で不動産バブルの崩壊リスクを高め、国内金融危機を引き起こす恐れがある。また、アジアの競合諸国に比して割高になっている中国の人件費を一段と高め、製品の競争力をそぐことになる。
結局、大幅な通貨切り下げも切り上げもできない中で、現状程度の中途半端に緩やかな元安政策(言い換えれば実力以上の通貨高維持政策)を継続せざるを得ないのではないか。
では、それで中国の経済危機は回避されるのだろうか。確かに、同国の財政は比較的健全なので、国内景気テコ入れのために財政出動を繰り返せば、当面は目立った危機が起きない可能性は高い。だが、過剰投資・過剰債務の上に屋上屋を重ねていくような政策の末には、やはり破局が待ち構えているだろう。ハードランディングとならずとも、緩慢な衰退は必至だ。
しかも、中国の困難は今後、対中貿易摩擦という方向からもやってくる。周知の通り、米国では、中国の不公正な貿易通商慣行(知的所有権の侵害、サイバー空間での不正アクセス、国内市場の極端な閉鎖性、政府によるあからさまな自国企業優遇、外資投資規制を維持しながらの海外での積極企業買収など)に対する批判が強まっている。
「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げるトランプ次期米政権下で、米国の対外貿易赤字の5割を占める中国が貿易摩擦の主な標的となるのは火を見るより明らかだ。
むろん、中国の輸入は政府が実力以上の内需を維持しようと図るため減り難いが、輸出は実力以上の通貨高と貿易摩擦により一段と困難になるだろう。貿易黒字の減少、純輸出の減少は中国経済のもう1つの成長制約要因となる可能性が高い。
<トランプノミクスとアベノミクスの相乗効果>
他方、「強い米国の強いドル」誕生で最大の受益国となりそうなのが、日本だ。円ベースでの輸出単価上昇により円安が企業収益の大きな押し上げ要因になることは言うまでもないが、より大きいのは対外資産の増価である。
日本の対外純資産(資産と負債の差額)は約2.8兆ドルと世界最大級であり、ドル高となれば、そっくり円ベースで増価する。10%のドル高で2800億ドルの差益が発生する計算であり、海外直接投資・証券投資の果実は日本経済を大きく支えるだろう。
また、そうした受益が見込める中で、アベノミクスが財政金融総動員のリフレ政策を継続するならば、今後は労働需給による賃上げに加え、原油価格の下落一巡と円安加速により、物価に強い上昇圧力がかかる。実質金利の低下は、国内のリスク資産投資を大きく鼓舞するはずだ。
日経平均株価も、トランプノミクスとアベノミクスが相乗効果を発揮するベストシナリオでは、2020年にかけて3万円台を視野に入れるだろう。
*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2017年の視点」に掲載されたものです。
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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