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ジョン・スン・ハン氏
ゲームソフト会社が作る自動運転システム
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8620
2017年1月8日 土方細秩子 (ジャーナリスト) WEDGE Infinity
世界最大の家電展示会として発展してきたCESは今年50週年を迎える。その記念すべき年の最初の基調演説を行ったのは、NVIDIA社CEO、ジェン・スン・ハン氏だ。NVIDIAは元々ゲームソフト開発会社だったが、そこからVR(バーチャル・リアリティ)、AR(拡張現実)、MR(ミックスド・リアリティ)の開発、さらにAI、そしてAIを使った自動運転システム開発へと、ユニークな発展を遂げた企業だ。
特にAIの分野ではディープ・ニュートラル・ネットワークによるマシン・ラーニングに注力し、「人間のようにモノを認識し、考え、判断する」システム作りに定評がある。
そのNVIDIA社は基調演説の中で今後の企業の方向性を示す新製品、技術の発表を行った。まず、そもそもの業務であったゲームにおいて、同社はジーフォースという独自のプラットホームを持つが、このプラットホームをそのままクラウドに取り込み、ユーザーが自分のPCからオンデマンドでゲームを楽しめる、というシステムを構築した。
ハン氏によると「ビデオゲームは年間に50億ドルの売上がある、映像産業の中で最も成功した分野だ。しかし世界にはゲームへのアクセスができないPCユーザーが10億人いる。この人々に気軽にゲームを楽しんでもらうには、スーパーコンピュータにインストールし、そのままクラウドに持ち込むという方法が最も手軽」なのだという。
料金は20時間で25ドルで、今年の3月から実施される。PCユーザーなら誰でも同社のゲームプラットホームにアクセスでき、そこからタイトルを選んで自分のPCで遊ぶことができる。本来のストリーミングならばゲームをダウンロードするのに数十分かかることもあるが、クラウドにアクセスする形をとるため数分でダウンロードが完了する、という。
次に、映像という観点から「テレビをもう一度発明し直す」という「シールド」という製品だ。これはPCとテレビをつなぎ、グーグルアシスタント、AIエージェントを用いてテレビをハブとしたスマートハウスを構築するアイデアだ。ユーザーはテレビの前に座り、「イエス・グーグル」と呼びかけて「音楽が聞きたい」「ドラマが見たい」などと音声コマンドを送ると、テレビがそれに従って画面を表示する。
「フェイスブックのマーク・ザッカーバーグは優れたプログラマーで、自宅に自分たちのためだけのAIアシスタントを創りだした。でも私はみんなに同じようなものを安い価格で提供しようと考えた」と、ハン氏は話す。
さらにこのスマートTVと連動する「スポット」と呼ばれる小型のマイクロフォンも合わせて発表された。このマイクを家中に複数設置することで、例えば2階にいても1階のスマートTVを起動させ、そこからコマンドでエアコン調整などを行うこともできる。シールドは199ドルで発売される予定だ。
最後が現在NVIDIA社が最も注力する自動運転システムだが、同社は片手に乗る大きさのXAVIERというAIカー・スーパー・コンピュータを開発している。この小さなデバイスにはセンサーなどが装備され、これが自動運転を可能にする。
NVIDIA社が開発する自動運転システムは、現時点ではドライバー・アシストの形を取る。外側に向けたカメラの他、ドライバー自身をモニターするカメラがあり、前方の障害物を察知し、ドライバーの視線がそちらに向いていない場合、警告を発するなどの機能がある。
AIを中核に据えた自動運転システムの特徴は「自分で考え、判断する能力がある」点で、ユニークなのは道路状況、障害物の多さなどから「自動運転ではすべてを防ぎきれない」と判断した場合、ドライバーに運転の交代を要求する。つまりAI自身が「自分で運転できる自信があるかそうでないか」を判断できる、という。NVIDIAではこのシステムを「AIコパイロット」と呼ぶ。AIはドライバーとナチュラル・ランゲージ・プログラムにより対話するが、モニターを使ってドライバーの唇の動きを読み取り、音声が聞き取れない場合でも85%程度の精度でドライバーの意図を理解できるという。
■ボッシュに採用されたシステム
同社のビデオコンピュータシステムは、世界最大級の自動車サプライヤーであるボッシュ社に採用され、今後世界中でカーコンポーネントとして利用される。さらにNVIDIA社は自動運転システムにおいてドイツのアウディ社との提携を発表、「2020年には完全自動運転の車を完成させる」と宣言した。
2017年はAIが本格的な企業での実用化を果たす年になるだろう、と言われる。単なるデータ処理、分析ではなく、そこから自分で判断し結論を導き、学んだ結果から自分を進化させるAIは、自動運転のコアシステムだけではなく様々な分野で能力を発揮できる可能性がある。自動車メーカーとNVIDIAのようなAI開発企業との連携は今後ますます進むだろう。
2020年には自動運転の実用化を目指す企業は多い。グーグル、フォードもこれまでに同様の宣言を行っていた。今後の開発競争の中でどのシステムが最も安全性を確保しながら自動運転の汎用に成功するのか、それぞれのシステムが統合されるのか、あるいは様々な技術が今後の競い合う方向となるのか。今後3年間の動きに注目が集まりそうだ。
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