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2017年のマンション市場には様々な影響要因がある。これから自宅を売買しようとする人にとって、移ろうトレンド、普遍的に変わらないトレンドを区別して対処する必要性が高そうだ
不透明なマンション市況に惑わされない「普遍の売買鉄則」
http://diamond.jp/articles/-/112759
2017年1月5日 沖有人 [スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント] ダイヤモンド・オンライン
2017年1回目となる今回は、過去1年を振り返り、今年の住宅の売買に必要な戦略を読者と一緒に考えたいと思う。不動産市場に様々な影響要因があるなか、これから自宅を売買しようとする人にとって、移ろいつつあるトレンド、普遍的に変わらないトレンドを区別して対処する必要性が、高い年になりそうである。不動産市場は不透明感があっても急に大きく動いたりしない。現状の延長線上で、落ち着いてとるべき振る舞いを決めておいた方がいい。
■「杭問題」以降のマインドは低下
2016年のマンション市場を総括
まずは、2016年のマンション市場の総括をしよう。昨年の新築マンション価格は、3年間連騰した後を受けて、当初は上昇相場が継続すると思われた。これは、アベノミクスの金融緩和により不動産価格が堅調にインフレしてきたことからも想定しやすかった。しかし、2015年秋に発生した「杭問題」以降、急速にマンション需要は冷え込んでしまった。価格が安くない中で、スタイルアクトが提供する「住まいサーフィン」での購入者調査でも「買い時」と思う層が減り、マインドの低下は売れ行き悪化につながった。結果的に、2016年の価格は前年比でやや高くなったものの、供給戸数は15%ほど減少した。
中古市場については、筆者は2015年10月の当連載で、在庫が急増し始めたため、売るなら在庫が多くなる前に対処すべしと警告していた。その結果は、同じく2月に検証したように「潮目が変わった」と位置づけられ、価格も頭打ちになる形で証明された。売出と成約の価格差はかつてないほど大きく開き、成約する物件数が減ることになった。
そんな中にあって、売れ行きをある程度保てたのは、金融緩和の最終局面におけるマイナス金利導入の影響が大きい。金利が1%下がることで住宅購入者の月々のローン返済額は15%超下がる。つまり、十数パーセント価格が上昇しても金利が1%下がれば、返済額は同額の負担になる。家賃負担との関係でローン返済額を考えるならば、金利が相当な追い風であったことは改めて確認しておきたい。
■価格水準は横ばいに?
2017年の市場はどうなる
次に、2017年の市場予測だ。2016年の価格水準では、供給者側が今後も販売リスクを抱える状況は変わらない。売れ残りが増え、値下げ交渉ができるようになるかもしれないが、金融緩和は継続されるので、表向きの価格水準は横ばいを続けるのではないかと予測している。
なぜなら、仕入れた土地価格や発注予定の建築費はすでにほぼ決まっており、デベロッパーの粗利益しか変更できないからである。実際の取引価格は緩やかな下落傾向になっても、それは止むに止まれず売主側が妥協点を見つけるという状況に過ぎないと理解した方がいいだろう。これは中古市場でも同様で、売出と成約の乖離は大きいまま、売買期限がある(いつまでに売らなければならないということが決まっている)人が妥協する構図と同じになるであろう。売主受難の時代にすでに突入している。
買い手優位の中で、割安な物件は少なからず発生する可能性が高い。売れ行きをよくするために広告掲載される割安住戸などは、つぶさに広告に目を通すことで見つけ出すことができるし、新築マンション価格を予測した「沖式新築時価」より割安な物件も、最近増えてきた。これは周辺の中古時価からして割安な新築物件であることを表しており、「住まいサーフィン」上でいつでも比較できるので、参考にしてもらいたい。
■マンション市場への影響が大きい
金融緩和は長期化しそうな予感
金融緩和によるマネーは融資先として担保の取れる不動産に流れやすく、それまでよりも多くローンを貸し込むことでバランスシート上の資産もインフレするという構造を、まずは理解しておいてもらいたい。
では、アベノミクスの3本の矢の1つである金融緩和はいつまで続くのかというと、これが長期化しそうな条件が揃ってきている。まず、2017年3月の自民党大会で党則が改正される見通しが出始めたことにより、自民党の総裁任期が3年×3期に延長される可能性が高くなっている。こうなると、安倍政権は9年、2021年まで継続する可能性が高まる。
政権だけではない。2018年の黒田日銀総裁の任期も、今後5年延びて2023年まで続くかもしれない。それまで現状と同じリフレ派の総裁が続投するとなれば、金融緩和は長期にわたって継続されることになる。こうなると、不動産価格は高止まりする傾向が強まり、大きくは下がらない可能性が高くなる。
とはいえ、景気循環や金融ショックが約10年という長期間に起こらないという保証はどこにもない。一時的な相場の動揺がいつか起こることを想定し、その際に慌てないことが必要になる。そのためには、ローン設定(低金利への借り換えや長期固定への変更など)を考慮する必要がある。
■築1年で2%の価格下落を念頭に
不動産売買のタイミングを吟味
では、不動産の売買において、今後は具体的に何を意識すればいいのか。不動産購入においては売主が強気になれない状況の中、情報収集を丹念にしていけば、割安で資産価値の高い新築・中古物件に行き着く可能性は高まっている。
その際に最も重要なのは、周辺の中古相場をつぶさに調べることだ。新築は築1年を経て中古になる際に価格が平均で10%下がる。都区部は5%ほどで、それ以外のエリアは10%以上の下落幅になる。ここ数年は相場自体が上昇していたので、中古になっても下がらないという感覚を持ち得たが、これからは価格が横ばいからやや軟調の中で、築1年経つと2%程度の価格下落を見込んでおいた方がいいだろう。
もちろん、タワーマンションや駅近物件の方が価格は下がりにくいという傾向はあるものの、ここでは標準ケースの2%下落で考えてみよう。
そうなると、元本返済が1年で2%以上下がるように、ローン条件を設定したおいた方がいつでも含み益を増やしながら引越しできることになる。ローンの借り方の原則は、次に述べるように3つある。
(1)金利を安くする
金利が安いぶん、元本の減り方が早くなる
(2)期間を長く借りる
期間を長くした方が毎月の返済が楽で、余裕資金で繰上げ返済を適宜行える
(3)頭金を多くする
贈与の特例などを活かして、なるべく頭金を増やすと返済負担が下がる
この原則を守りながら、バランスよく年間で元本を2%以上返済できるようにローン設定を考えよう。以下のように、前述の3つのバランスで初年度の元本返済額は変わる。2年目以降は元本の減り方はこれ以上に早いので、1年目をクリアすれば大丈夫である。35年ローンの場合、頭金1割で金利が1.5%以下なら、元本は2%以上減少することがわかる。
2017年は価格が軟調になりがちであるがゆえに、物件の選び方と同様、ローン設定は非常に重要になる。価格が高い現在の市場で、活かすべきは超低金利である。今年は不動産価格と元本残とを比較せざるを得ない状況にある。
◆ローン設定による1年間の元本減少額
■キャッシュフローが変わってしまう
マンション選びの「3つの要点」
ここで、いつの時代にも物件の選び方で重要なことを3つ挙げておこう。これは数百万円単位でキャッシュフローを変えてしまう可能性があるので、注意が必要である。
(1)管理費・大規模修繕積立金
財政難のマンションでは「高い管理費」と「修繕積立金不足」が発生する。この問題は早めに対処しないと無駄な出費に苛まれることになってしまう。これを同時に解決する方法はこれまでにも書いてきたが、管理水準を上げながらコストを下げ、修繕積立金に回すことで一件落着することができる。その際に、管理会社の選択とコストパフォーマンスの判断は専門家を含めて行わないと、実現は難しい。
(2)災害・施工リスク
地盤や杭問題などの施工リスクは、事前にある程度回避することができる。地震・火災・河川の氾濫・液状化などの災害リスクの高いエリアは、自治体が詳細な地図で公表している。ここでリスクが高いエリアは、一旦その災害が起こると不動産価格は大きく下がり、安全なエリアの不動産価格が上がるという結果になる。これは東日本大震災後の不動産価格の変化を見れば、一目瞭然である。何も起きていないときほど、これには敏感になった方がいい。
(3)公立小中学校区
不動産広告で「○○小学校区域内」というものは、よく目にする。それだけ一般的で購入を後押しする理由になっている。「小学校の『学区別世帯年収』と人気住宅地域との知られざる相関関係」で公立小中学校の学区年収の高さが学力レベルと相関が高いことは、当連載で明らかにしてきた。この学区年収は「住まいサーフィン」上で公開している。今月中に千葉と埼玉も公開し、1都3県に範囲を拡げる予定だ。これは不動産価格を安定させる1つの要因になっているので、注目したい。
このように、いつの時代でも、どんな市場環境下でも変わらない戦略として、思わぬ出費回避や価格の下支え要因がある。この意味で、管理費・大規模修繕積立金、災害・施工リスク、公立小中学校区に注目して、エリアや物件の選択に活かしてもらいたい。
(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖有人)
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