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視点:
失業なき労働移動こそ働き方改革の本丸
大田弘子政策研究大学院大学教授/元経済財政担当相
[東京 4日] - 長時間労働問題や正規・非正規社員の待遇格差問題の背景には、日本の「就社」的な労働慣行があり、その部分が変わらなければ根本的な問題解決は難しいと、大田弘子・政策研究大学院大学教授(元経済財政担当相)は指摘する。
有効な解決策は、「同一労働同一賃金」の原則の下で、職務などを限定するジョブ型正社員のルール整備を政策面から促すとともに、セーフティーネット(安全網)の拡充によって、「失業なき労働移動」環境づくりを目指すことだと説く。
また、そうした改革が、成長分野や高生産性部門への円滑な労働移動を可能にし、ひいては日本経済の潜在成長力の引き上げにつながると主張する。
同氏の見解は以下の通り。
<「ジョブ」型は重要な選択肢>
働き方改革をめぐる議論では現在、長時間労働是正と、非正規社員の待遇改善策としての「同一労働同一賃金」導入が最大のイシュー(論点)になっている。これはこれで重要だが、根本から解決していくためには、正規と非正規の二分化から脱して、正社員のメニューの1つとしてジョブ型正社員のルールを整備し、併せてセーフティーネット(安全網)の拡充によって「失業なき労働移動」環境づくりを目指すことが不可欠だと考えている。
長時間労働問題にしても、正規・非正規社員の待遇格差問題にしても、背景にあるのは、「就社」的な日本の労働慣行だ。正社員は基本的に雇用継続の保障と引き換えに、職務・勤務地・勤務時間などで会社から命令があれば原則断れないという、いわば「無限定」の働き方を受け入れている。
このような状況では、長時間労働が発生しやすいほか、「無限定社員のメンバーシップ型雇用」の外にいる非正規社員に対する賃金・待遇格差が固定化されやすい。新卒一括採用も、就社的な意識を高めるとともに、労働市場の二極化を強める方向に作用している。結果的に、日本の雇用は硬直化しているのが実情だ。多様で柔軟な働き方の選択肢に乏しい上、成長分野や高生産性部門への労働移動が円滑に進まないという問題を抱えている。
他方、欧米ではジョブ型社員が主流だ。仕事の内容を細かく規定した「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を作成し、特定のジョブでの雇用契約を結ぶ。同じジョブならばどの企業に勤めても、待遇はほぼ同じであり、同一労働同一賃金が徹底されている。一部の幹部候補社員を除けば、無限定社員ではないため(また労働時間規制が厳しいこともあり)、長時間労働は発生しにくい。欧米型が良いというつもりはないが、選択肢の1つとしてジョブ型正社員があっていいのではないか。
ここで「ジョブ型」と言っているのは、職務・地域・労働時間のいずれかを限定する正社員のことだ。日本でも近年、ジョブ型雇用を導入し始めている企業は増えているが、就業規則や労働契約で明確化されていない場合が多いし、事業所閉鎖やジョブが終了した場合の人事上の取り扱いは不明確だ。また、ジョブ型と無限定正社員との相互転換も用意されていない。
多様で柔軟な働き方を保障することは、少子高齢化で人手不足に直面している日本経済にとっても非常に有益なはずだ。子育てや介護のため時間に縛られない働き方をしたい人、配置転換を望まない人など、正社員を希望するが無限定型の働き方は希望しないという人も少なくない。同一労働同一賃金の下、無限定型ではないジョブ型正社員の整備が進めば、労働参加率の向上も見込めるだろう。
日本に限らず、先進国では産業のサービス化が進んでおり、多様な働き方の下で処遇の公平性を確保することは急務と言える。相対的に一律的な働き方が多い製造現場に対して、サービス産業は繁閑の差が大きいので、パートなどの非正規の比重が高くなり、また小規模事業者が多いため雇用が不安定になりやすい。業種によって高所得と低所得の格差も大きい。働き方によって著しく不利になることなく、多様な就労形態を選べるようにすることが重要だ。
無限定正社員と非正規という二分化ではなく、ジョブ型正社員の整備を政策的に支援していくことは、経済のサービス化にも合致した動きだと考える。
<フレキシキュリティの重要性>
むろん、失業なき労働市場を実現するためには、働く場の受け皿づくりも欠かせない。就業者の7割が働くサービス分野には小規模事業者が多く、経営のイノベーションが進みにくい中、企業の新陳代謝は滞っている。政府としては、働き方改革に合わせて、事業者が成長分野に移っていけるように転廃業支援策を強化することも重要となろう。
なお、労働の流動化を促進していくならば、セーフティーネットの拡充が大前提となる。北欧諸国は、労働市場のフレキシビリティと労働者のセキュリティを合わせた「フレキシキュリティ」と呼ばれる積極的労働政策を確立した。競争力を失った企業は守らないが、失職者には多種多様なタイプの職業訓練などを用意し、迅速に次の職に移れるよう手厚く支援する。
安倍政権も2013年6月にまとめた日本再興戦略で、「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換(失業なき労働移動の実現)」を掲げていた。サービス化や技術革新によって企業の栄枯盛衰がますます激しくなる中では、柔軟な労働市場こそが雇用の安全につながる。労働市場改革だけでなく、働き方に関わる税制や社会保障制度の見直し、さらには岩盤規制を取り除く成長戦略など、さまざまな施策の合わせ技で、日本版のフレキシキュリティを実現すべきだ。
*本稿は大田弘子氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。
(聞き手:麻生祐司)
*大田弘子氏は、政策研究大学院大学教授。内閣府規制改革会議議長代理、税制調査会委員などを務める。2006―08年、安倍・福田両内閣で内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)。2014年6月から、みずほフィナンシャルグループ取締役会議長。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2017年の視点」に掲載されたものです。
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コラム:
トランプ氏の景気刺激策、景気後退を先延ばしするだけ
Gina Chon
[ワシントン 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ次期米大統領は景気がかなり良い状態で政権を受け継ぐ。減税やインフラ投資は短期的に景気をさらに押し上げるはずで、来るべき景気後退(リセッション)を遅らせるかもしれない。しかし無くしてしまうことは無理だ。
オバマ大統領は経済面で比較的しっかりした実績を残した。昨年11月の失業率は4.6%と9年ぶりの低さ。第3・四半期の成長率は年率3.2%と、2014年以来で最高だった。
トランプ氏はすべての所得層を対象とする減税や、法人税の35%から15%への引き下げを唱えている。1兆ドルのインフラ投資も掲げた。
しかし米国は既に完全雇用に近く、トランプ氏の景気刺激策の効力は削がれるかもしれない。2016年の雇用者数の伸びは月平均18万人で、前年の22万1000人から増加ペースが鈍った。長期失業者の復職がさらに増えたり、移民流入が加速しない限り、積極財政は賃金を押し上げ、物価上昇を招く可能性がある。
トランプ氏が米国の潜在成長率押し上げに向けた解決策を持っている様子は一切見られない。企業の設備投資の低迷を一因として、16年の成長率は1.5%にとどまる見通しだ。米連邦準備理事会(FRB)は9月、長期的な成長見通しを従来の年率2%から1.8%に引き下げた。
その上、過去の景気循環から察するに、米国は間もなく景気後退に陥る。2009年6月から途切れていない景気拡大は17年に入っても続きそうで、成長率の記録が始まった1854年以来で3番目に長い拡大期となりそうだ。
15年以来エコノミストらは間もなく景気が息切れすると予想してきた。トランプ氏はその時期を遅らせることができるが、そうすれば次の景気後退が都合の悪い時期にやって来るリスクが高まる。彼が再選を目指すであろう2020年の大統領選の直前だ。
http://jp.reuters.com/article/column-trump-stimulus-idJPKBN14O061?rpc=223
コラム:スピード違反の円安、正念場は秋か
植野大作三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト
[東京 4日] - 2017年のドル円相場が開幕した。1月2日に一時116円台に小緩む場面もあったが、その後は117―118円台に買い戻されて推移している。年末年始にありがちな攪(かく)乱需給による相場環境の急変が起きなかったことにホッとしている市場関係者は多い。
昨年のドル円相場は1年間で何度も風景が激変する大荒れの展開だった。想定外の価格変動にもみくちゃにされた市場関係者の売買疲れは著しく、「休むも相場」の年末年始を過ごしたドル円ファンが多かったのかもしれない。まずは無難な新春相場の船出だった。
ただ、つかの間の休息で英気を養った市場関係者の本格復帰が始まる今週から、マーケットは徐々に「戦闘モード」に転じるだろう。今年はどんな相場展開が待ち受けているのだろうか。以下、現時点における筆者の見解をまとめておきたい。
<年前半にスピード調整の公算大>
まず年前半に関しては、昨年終盤に加速した「トランプラリー」がいったんよどむ「スピード調整」の局面を迎えると見ている。昨年11月9日安値の101.20円から12月15日高値の118.66円まで、ドル円相場はわずか約5週間で17.46円も急騰したが、これを単純に延長すると今年3月末のドル円相場は160円前後に達する計算になる。
いくら何でも「スピード違反」の疑いが濃厚であり、どこかで自律反落が起きないと見る方が不自然な速度で吹き上がっている。通常、どんなに強い上昇ないし下降トレンドが発生している相場でも、一次関数のような動きには絶対にならない。自律反落や反転による短期的な「ジグザグ」は必ずあるものだ。
今月20日に発足するトランプ政権の政策に対する市場の期待が非常に強いのは事実だが、冷静な目で今後の米財政審議の日程を眺めると、2月頃に提出される大統領予算教書を皮切りに議会との協議が始まり、円滑な合意形成に至った場合でも現在の「オバマ予算」から「トランプ予算」に切り替わるのは、新しい会計年度が始まる10月以降になる。昨年終盤に猛威を振るった「トランプラリー」は、まだ実像が明らかでない「トランプノミクス」の良さそうな面ばかりを先行して織り込み過ぎている。
古今東西、新政権が発足する前後の時期には政治的な高揚感が盛り上がってメディアもマーケットも「いいとこ取り」の心理状態に陥りがちだ。しかし、先行して盛り上がる「景気の良い話」に対して「総論賛成」の空気が漂ったとしても、「一体誰が金を出すのか」という議論が始まると、必ずもめるのが人間社会の常だ。
実際、昨年の米議会選挙で上下両院の過半数を維持した共和党議員の中には、数年前に米国の市場を混乱させた「財政の崖」騒動の時に活躍した財政均衡論者も多い。トランプ次期大統領が主張する大規模な減税や公共投資に必要な財源問題は、今後の財政協議で議論されるだろう。例えば「社会保障の削減」や「輸入関税の一部引き上げ」などが財源論議の対象になるだけでも、市場が現実を見つめ直す機会を提供しそうだ。
<52週線が示す「アノマリー破り」>
もちろん、あれだけ強く米国経済の再生を主張する人物が次の大統領になる以上、最終的には景気浮揚効果のある経済政策が採用される可能性が高い。だが、市場が織り込む順番としてプラス面への期待が先行している場合、マイナス方向への削り込みを行う段階になると、「トランプラリー」によって上昇した分の何割かは自律反落の対象になるだろう。
具体的な調整幅をピッタリ当てるのは困難だが、仮に「5週間で17円超」という上昇幅の38.2%押しを見るなら1ドル=112円前後、半値押しまで意識するなら同110円前後が攻防のめどになる。米財政審議が始まった後、どこかのタイミングで115円割れはあるのではなかろうか。
だが一方で、米大統領選の前後で相場の景色が一変した現実は認めざるを得ない。テクニカル的に見ると、米大統領選後に急激に進んだドル高の結果、足元のドル円相場は筆者が「トレンド判定の師」として仰ぐ52週移動平均線を下から上へ大幅に突き破る水準へ巡航高度を上げている。
1990年代以降、下降に転じた52週線との「ファーストタッチ」がこれほど明確な「ファーストブレイク」に発展した前例はない。過去のドル円相場は長期トレンドがいったん下向きに転じると少なくとも1年以上はその傾向が続くケースがほとんどだった。
昨年の米大統領選後に観測された「トランプラリー」は、古参の市場関係者が培ってきた「日柄の感覚」を暴力的に破壊した。これほど見事な「アノマリー(経験則)破り」で相場観察の目線が一気に引き上げられた結果、平均的な市場参加者が頭の中に思い描くドル円売買の想定レンジは大幅な上方修正を強いられている。
この先、ドル円相場が自律反落に転じたとしても、それほど深く差し込まず、「浅い押し目」しか作らなかった場合、筆者が想定しているドル高・円安の「スピード調整」は、「水準」ではなく「時間」で進む可能性がある。その場合、今年中頃には52週線が上向きに転じて、ドル高・円安の大局観を持つ市場関係者が一段と増えるかもしれない。
<2桁円台に逆戻りか、120円台再トライか>
今年の大みそかになってドル円相場を振り返ったときに、昨年終盤に加速した「トランプラリー」が「だましのドル高サインだった」と評価されているのか、「前例破りのドル高シグナルだった」と言われているのか、今年前半のドル円相場はチャートフェイス作りの正念場になる。「市場の審判」は一体どちらに下されるのだろうか。
鍵を握るのは、今秋までの米国景気になりそうだ。足元で期待先行気味に加速したドル高による景気下押し圧力に潰されて米国経済がトランプ財政の稼動前に失速した場合、先行して盛り上がった期待の反動で「倍返し」のようなドル安・円高局面が到来する可能性がある。その場合、ドル円相場は昨年半ばに岩盤の堅さを誇った99円台のフロアーを突き抜け、今年の大みそかは「2桁円台」で越年するだろう。
他方、今後の米国経済が緩やかな拡大基調を維持したままトランプ財政による景気刺激が入るなら、「ほぼ完全雇用の経済にカンフル剤が打たれる」との期待がいよいよ実現することになる。その場合、昨年末に1年ぶりの利上げに踏み切った米国と、昨秋に導入した「長短金利操作付き異次元緩和」によって超低金利策の持久力を高めた日本との金融政策の印象格差が、ドル高・円安圧力を育む温床になりそうだ。
こちらのシナリオが実現するなら、「トランプラリー」による急激なドル高は、当初こそ期待先行の「勇み足」だったが、後から見れば「先見の明」があったと市場で評価され、年後半のドル円相場はドル高方向に切り返してくるだろう。具体的な水準を特定するのは至難だが、今年の大みそかには120円絡みの攻防もあるのではなかろうか。
どちらのシナリオが実現するかについては、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長がいつも言っているように、「データ次第(Data-dependent)」で判断するしかない。
足元の経済指標を見ると、米国景気は堅調に推移しており、年後半にはドル高基調が復活する可能性が高そうだが、「トランプノミクス」に対する市場評価は今後始まる米予算協議を見るまで固まらない。政策的な不透明感が非常に強い時期であるがゆえ、丁寧な事実確認の積み重ねが大切だ。今後の米財政審議に目配せしつつ、地道な米経済指標観察に軸足を置いた相場予測を心掛けたい。
*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
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