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コラム:スピード違反の円安、正念場は秋か=植野大作氏
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-daisaku-ueno-idJPKBN14O07S
2017年 01月 4日 12:34 JST
植野大作三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト
1月4日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は、今年のドル円が2桁円台の円高に逆戻りするか、120円超の円安になるかの鍵は秋までの米景気動向だと指摘。提供写真(2017年 ロイター)
[東京 4日] - 2017年のドル円相場が開幕した。1月2日に一時116円台に小緩む場面もあったが、その後は117―118円台に買い戻されて推移している。年末年始にありがちな攪(かく)乱需給による相場環境の急変が起きなかったことにホッとしている市場関係者は多い。
昨年のドル円相場は1年間で何度も風景が激変する大荒れの展開だった。想定外の価格変動にもみくちゃにされた市場関係者の売買疲れは著しく、「休むも相場」の年末年始を過ごしたドル円ファンが多かったのかもしれない。まずは無難な新春相場の船出だった。
ただ、つかの間の休息で英気を養った市場関係者の本格復帰が始まる今週から、マーケットは徐々に「戦闘モード」に転じるだろう。今年はどんな相場展開が待ち受けているのだろうか。以下、現時点における筆者の見解をまとめておきたい。
<年前半にスピード調整の公算大>
まず年前半に関しては、昨年終盤に加速した「トランプラリー」がいったんよどむ「スピード調整」の局面を迎えると見ている。昨年11月9日安値の101.20円から12月15日高値の118.66円まで、ドル円相場はわずか約5週間で17.46円も急騰したが、これを単純に延長すると今年3月末のドル円相場は160円前後に達する計算になる。
いくら何でも「スピード違反」の疑いが濃厚であり、どこかで自律反落が起きないと見る方が不自然な速度で吹き上がっている。通常、どんなに強い上昇ないし下降トレンドが発生している相場でも、一次関数のような動きには絶対にならない。自律反落や反転による短期的な「ジグザグ」は必ずあるものだ。
今月20日に発足するトランプ政権の政策に対する市場の期待が非常に強いのは事実だが、冷静な目で今後の米財政審議の日程を眺めると、2月頃に提出される大統領予算教書を皮切りに議会との協議が始まり、円滑な合意形成に至った場合でも現在の「オバマ予算」から「トランプ予算」に切り替わるのは、新しい会計年度が始まる10月以降になる。昨年終盤に猛威を振るった「トランプラリー」は、まだ実像が明らかでない「トランプノミクス」の良さそうな面ばかりを先行して織り込み過ぎている。
古今東西、新政権が発足する前後の時期には政治的な高揚感が盛り上がってメディアもマーケットも「いいとこ取り」の心理状態に陥りがちだ。しかし、先行して盛り上がる「景気の良い話」に対して「総論賛成」の空気が漂ったとしても、「一体誰が金を出すのか」という議論が始まると、必ずもめるのが人間社会の常だ。
実際、昨年の米議会選挙で上下両院の過半数を維持した共和党議員の中には、数年前に米国の市場を混乱させた「財政の崖」騒動の時に活躍した財政均衡論者も多い。トランプ次期大統領が主張する大規模な減税や公共投資に必要な財源問題は、今後の財政協議で議論されるだろう。例えば「社会保障の削減」や「輸入関税の一部引き上げ」などが財源論議の対象になるだけでも、市場が現実を見つめ直す機会を提供しそうだ。
<52週線が示す「アノマリー破り」>
もちろん、あれだけ強く米国経済の再生を主張する人物が次の大統領になる以上、最終的には景気浮揚効果のある経済政策が採用される可能性が高い。だが、市場が織り込む順番としてプラス面への期待が先行している場合、マイナス方向への削り込みを行う段階になると、「トランプラリー」によって上昇した分の何割かは自律反落の対象になるだろう。
具体的な調整幅をピッタリ当てるのは困難だが、仮に「5週間で17円超」という上昇幅の38.2%押しを見るなら1ドル=112円前後、半値押しまで意識するなら同110円前後が攻防のめどになる。米財政審議が始まった後、どこかのタイミングで115円割れはあるのではなかろうか。
だが一方で、米大統領選の前後で相場の景色が一変した現実は認めざるを得ない。テクニカル的に見ると、米大統領選後に急激に進んだドル高の結果、足元のドル円相場は筆者が「トレンド判定の師」として仰ぐ52週移動平均線を下から上へ大幅に突き破る水準へ巡航高度を上げている。
1990年代以降、下降に転じた52週線との「ファーストタッチ」がこれほど明確な「ファーストブレイク」に発展した前例はない。過去のドル円相場は長期トレンドがいったん下向きに転じると少なくとも1年以上はその傾向が続くケースがほとんどだった。
昨年の米大統領選後に観測された「トランプラリー」は、古参の市場関係者が培ってきた「日柄の感覚」を暴力的に破壊した。これほど見事な「アノマリー(経験則)破り」で相場観察の目線が一気に引き上げられた結果、平均的な市場参加者が頭の中に思い描くドル円売買の想定レンジは大幅な上方修正を強いられている。
この先、ドル円相場が自律反落に転じたとしても、それほど深く差し込まず、「浅い押し目」しか作らなかった場合、筆者が想定しているドル高・円安の「スピード調整」は、「水準」ではなく「時間」で進む可能性がある。その場合、今年中頃には52週線が上向きに転じて、ドル高・円安の大局観を持つ市場関係者が一段と増えるかもしれない。
<2桁円台に逆戻りか、120円台再トライか>
今年の大みそかになってドル円相場を振り返ったときに、昨年終盤に加速した「トランプラリー」が「だましのドル高サインだった」と評価されているのか、「前例破りのドル高シグナルだった」と言われているのか、今年前半のドル円相場はチャートフェイス作りの正念場になる。「市場の審判」は一体どちらに下されるのだろうか。
鍵を握るのは、今秋までの米国景気になりそうだ。足元で期待先行気味に加速したドル高による景気下押し圧力に潰されて米国経済がトランプ財政の稼動前に失速した場合、先行して盛り上がった期待の反動で「倍返し」のようなドル安・円高局面が到来する可能性がある。その場合、ドル円相場は昨年半ばに岩盤の堅さを誇った99円台のフロアーを突き抜け、今年の大みそかは「2桁円台」で越年するだろう。
他方、今後の米国経済が緩やかな拡大基調を維持したままトランプ財政による景気刺激が入るなら、「ほぼ完全雇用の経済にカンフル剤が打たれる」との期待がいよいよ実現することになる。その場合、昨年末に1年ぶりの利上げに踏み切った米国と、昨秋に導入した「長短金利操作付き異次元緩和」によって超低金利策の持久力を高めた日本との金融政策の印象格差が、ドル高・円安圧力を育む温床になりそうだ。
こちらのシナリオが実現するなら、「トランプラリー」による急激なドル高は、当初こそ期待先行の「勇み足」だったが、後から見れば「先見の明」があったと市場で評価され、年後半のドル円相場はドル高方向に切り返してくるだろう。具体的な水準を特定するのは至難だが、今年の大みそかには120円絡みの攻防もあるのではなかろうか。
どちらのシナリオが実現するかについては、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長がいつも言っているように、「データ次第(Data-dependent)」で判断するしかない。
足元の経済指標を見ると、米国景気は堅調に推移しており、年後半にはドル高基調が復活する可能性が高そうだが、「トランプノミクス」に対する市場評価は今後始まる米予算協議を見るまで固まらない。政策的な不透明感が非常に強い時期であるがゆえ、丁寧な事実確認の積み重ねが大切だ。今後の米財政審議に目配せしつつ、地道な米経済指標観察に軸足を置いた相場予測を心掛けたい。
*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
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