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間もなく地方都市を襲う「老朽マンション建替え」という大問題 その数、なんと20万戸超!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50525
2016.12.28 貞包 英之 山形大学准教授 現代ビジネス
■多くのマンションが直面する「建替え問題」
私たちの社会は、よくいえば楽観的、悪くいえば先を真剣に見通す力に欠けているようだ。たとえば年金運用や人口減少など、深刻な事態に陥ることがとっくに予見されていながらも、有効な対処はいつも遅れてきた。
マンションの老朽化に関しても同じである。永久に建つマンションはない。1960年代に分譲ブームが始まって以降、いずれ建替えか解体かが迫られることは明白だった。しかしそのための抜本的な解決の仕組みは作られず、そのせいで結果として多くのマンションが、先行き不透明な状態に置かれている。
国土交通省によれば、2015年末で全国のマンションストックは623万3000戸。そのうち35年以上経過し、また旧来の耐震基準に従い早急な対処が必要とされる1980年以前に建てられたマンションは、94万3000戸にのぼる。
とはいえマンション建替えや解体は、容易ではない。それを行うには、マンションの区分所有者の5分の4以上の合意が必要になるからである。
これまでマンションは、近所付き合いに気兼ねなく、気楽に住める都市的住まいとして好まれてきた。しかしその特徴が、建替えや解体には不利に働く。多様な人びとが所有し暮らすせいで、建替えや解体の合意形成がむずかしいためである。
それでもマンションの老朽化が真剣に問題とならなかったのは、ひとつには永住意識が高くなかったためである。土地がますます高騰するなかで、マンションを売り、いずれ庭付き一戸建てに引っ越すという選択を夢みる者も多かった。
しかし土地神話が崩壊した今、人びとはマンションの行く末に正面から向き合わざるをえなくなっている。
近年、高齢化にも伴いマンションを「終の棲家」とみる居住者が増えている(「平成25年度マンション総合調査」)。そのなかでマンションの老朽化は避けられない問題として意識され始めているのである。
■地方で建替えがむずかしい状況
こうした状況がとくにひどい、またはひどくなると予想されるのが、地方である。
マンション再生協議会によれば、2016年現在まで総計311件の建替えが実現、または実行中だが、そのうち東京都で155件、大阪府で41件など、東京圏(東京都、埼玉県、神奈川県)・大阪圏(大阪府、兵庫県)・名古屋圏(愛知県)で89.2%を占めるのに対して、地方では25件と少ない。
さらにその内訳も、札幌市7件、福岡市5件など大都市に集中し、それらを除く中小都市では数えるばかりしか建替えは実現されていない。
地方で建替えが少ないのは、ひとつにはそもそも地方に経年マンションが少ないからである。平成25年住宅・土地統計調査でみれば、1980年以前に作られたマンション(ここでは共同住宅、持ち家、三階以上、非木造)の87.6%は、東京・大阪・名古屋圏に集中している。
とはいえ地方に経年マンションが全くないわけではない。たとえば1981年から1990年までに建設された次の建替え予備軍をみれば、全体の20.3%、20万7000戸が地方圏に位置している。
1981年の耐震基準の改定によって改善されているとはいえ、遅かれ早かれそれらのマンションも老朽化することに変りはない。にもかかわらずロールモデルがないことで、地方のマンションの建替えはいずれ大きな問題とならざるをえないのである。
■特別な商品としてのマンション
ではなぜ地方では建替えが困難なのか。
それを理解するためには、マンション、またはそもそも住宅の商品としての特徴を知っておく必要がある。
住宅はしばしば、生涯の買い物のなかで一番高価な商品といわれる(二番目は生命保険)。しかしたんに高いだけではなく、住宅は他の商品のように、購入し自由に使って終わりとはならない特徴をもつ。
まずこれは嬉しいことでもあるが、住宅は中古でも売れる。主に土地価格が影響するとはいえ、買った時の値段以上が付くことさえある。つまり他の商品に較べ中古市場が整っていることで、住戸を購入した者はたんに使用者ではなく、売り時を細心に計算する潜在的な売り手になることが求められるのである。
他方で、廃棄には多額のコストが掛かる。中古で売るにも限界はあり、最後には住戸は解体されざるをえないが、そのために家電のリサイクルなどとは比較にならない高額の費用が必要になる。
こうした二つの特徴がとくに目立つのが、マンションである。
規格が整っていることもあり、マンションは、戸建て以上に一定の値が付きやすい。実際、分譲マンションの購入者の17.7%が購買の理由として「将来売却した場合の価格が期待できる」ことを挙げており、これは戸建て分譲購入者(8.1%)の倍、注文住宅購入者(4.2%)の4倍以上になっている(「平成27年住宅市場動向調査」)。
ただ他方で解体がむずかしいという問題もある。費用が掛かるだけではなく、老朽化した場合も、多様な居住者の合意を取り付けるといった厄介な折衝が必要になるからである。
この意味でマンションの売買は、「ババ抜き」ゲームのような面を持っている。高値で売るためには、あせらず、またリフォームなど元手を掛けることも大切だが、売り時を逃すと元も子もない。
建替えや解体に多額な費用が掛かるだけではなく、リゾートマンションでしばしばそうなるように、解体の合意を集められないまま、高い管理費や修繕積立金を払い続けるはめに陥りかねないのである。
■地方が置かれた「笑えない状況」
こうした商品としてのマンションの特徴が、地方での建替えを困難にする。
問題は、マンションを無償で建替えることがむずかしくなっていることである。
費用を抑え、できるだけ広い換えの住戸を確保するために、多くのマンションではこれまで敷地売却や高層化や大規模化によって新たに住戸を作り、その収益で建設費を賄ってきた。
しかし地方ではそれが期待しがたい。東京同様に容積率ぎりぎり、またはそれ以上に建てられ、さらなる高層化を望めないマンションが多いからだけではない。人口減少や高齢化のため、地方ではそもそも住宅需要がますます限られ、新たな住戸を高値で売り切ることが困難になっているからである。
結局、地方では個々の所有者に建築費がしわ寄せされる。地価が下落によって、解体費に仮住まいに行って帰る2回の引越し費用などを合わせると、新規にマンションを買った方が安いといった笑えない状況まで生まれるのである。
さらに建替え後の住戸に高値がつかないことで、合意形成も困難になる。
マンション需要がさかんな地域では、建替え費用がかさむことは、合意形成を必ずしも妨げない。建替えられた住戸が高値で売れると予想される場合、それをあてに融資を得たり、または引き渡しの権利を売却し、より住居費の安い郊外や地方へ引っ越すこともできるからである。
しかし地方ではそうはいかない。今の経済状況では、建替え後のマンションがさほど高値になるとは期待できず、だからこそ住人は多額の建築費を負担し、また大幅に面積が小さくなることを我慢しても、同じマンションにしがみつくしかないのである。
■調査から見えてくること
地方のマンションの建替えが困難になる現実は、筆者が今年参加した調査(花里俊廣代表「マンション建替え意向調査」)からも確認された。
築25年以上のマンションの居住者856人に対してネットを通してアンケートしたところ、まず東京圏と大阪圏とそれ以外の地方圏(名古屋圏は1件のため議論から省く)を較べると、建替えに対して賛意を寄せる人が東京圏で統計的に有意に多かった(33.2%)状況が浮かび上がる。
こうした事態は、地方に対する東京圏の住宅需要の活発さからひとつに説明される。みてきたように、新設した住戸が高く売れる期待が大きいほど、マンションの建替えは容易になり、賛意も多くなるはずだからである。
たしかに大阪圏(23.3%)では地方圏(23.1%)と賛意はほとんど変わらず、反対はむしろ多くなることには留意する必要がある。
ここから大阪では地方同様に住宅需要が厳しいとみることもできるが、それ以上に注目されるのが、地方圏では「どちらともいえない」という選択が目立つことである。これは地方圏では建替えがそもそも現実的ではなく、それゆえしばしば安易に見積もられていることを推測させる。
実際、統計的には有意ではないが、東京圏や大阪圏では建替えがそれぞれ21.8%と22.7%、とにかく議論されていたのに対し、地方圏では14.1%しか議論されていなかった。ここから地方圏では、建替えの困難さのために、真剣な議論にさえ辿り着けていない状況が浮かび上がる。
地方でのこうした建替えの困難さを別の角度から示すのが、移動可能性と建替え賛意のリンクである。
まず総体の結果を示せば、現在のマンションから引っ越してもよいと答えた居住者は、建替えに賛成する確率が有意に高かった(23.9%に対し34.1%)。
建替え後のマンション、またはその前に引き換えの権利を売り出て行けば、仮住まいの煩わしさや煩瑣な折衝は回避できる。その意味で、引っ越しという選択肢をもつ人が、建替えに合意しやすいことは頷ける。
ただしより詳しくみると、大都市、それも東京都ではこの結果は妥当するが、地方圏ではそうではなかったことが興味ぶかい。東京都では移動を受け入れる人は建替え賛成が40.9%、そうでない人は26.5%と差があったのに対して、地方圏では有意なちがいはみられなかったのである。
これは先にみたように、東京で建替えをしたマンションが高く売れることが期待されるのに対し、地方ではそうでないことが影響していると考えられる。
東京では建替えによって価値の上がったマンションを売却して、より郊外や地方に移動して豊かな生活を送るという選択肢が充分現実的である。
対して地方では、@マンションがそもそも高値で売れず、Aまたより安い住宅もみつけにくい。農山漁村地域に移動するなら別だが、マンションの多くが立地する地方都市と同等の環境にこだわれば、住戸は今と較べ格段に安くはならず、にもかかわらず地方の移動希望者の多くが地方都市部に住むことを望んでいる(「平成27年 国土形成の推進に関する世論調査」)。
こうした二重の制約のせいで、引っ越しの可能性が建替え賛意を増やすことは少ないのである。
■明確な答えはないけれど
以上から、大都市とそうでない地域の「建替え」格差は今後ますます激しくなると予想される。
住宅需要が活発な地域では、マンションは比較的容易に建替えられたとしても、そうでない場所では建替え合意に達せないまま、経年マンションがスラム化する危険性が強いのである。
では、どうすればよいのか。残念ながら、それに明確な答えはない。
準備金を積み立てるなどして、自己責任で建替えを担うことがまず当然、求められる。しかしそれは容易ではない。安値な中古で買った購入者を含め、経年マンションの多様な所有者の5分の4以上が充分な余裕を持つとは考えにくいためである。
それゆえ近年では、個別に、または都市計画を見直し容積率を引き上げ、マンションをより高層化することで、建替え資金を捻出する道が期待されている。
ただし東京でさえ人口減少が予測される社会では、それにも限界がある。建替えに合わせ規制緩和し住宅供給を増やすことは、売れ残りのリスクを拡大するだけではなく、郊外や地方に建つ経年マンションの状況をより悪化させかねないためである。
実際、経年マンションほど空き家化が目立つことが確認されている(「平成25年度マンション総合調査」)。結果、所有関係や利害関心が複雑になることで、建替え困難なマンションも増える危険性が強い。
だとすれば最終的には公的資金の導入や、新築時に一定の金額を賦課し他のマンションの建替えにあてる一種の「保険」によって、建替えや解体を賄うしかないのかもしれない。
ただしそれには公平性に問題があることに加え、マンションを新規に買う人が他のマンションの解体費用を肩代わりすることにどこまで社会的合意が得られるかという未解決の問題が残る。
■戦後的居住システムの「死」
こうして解決の道筋が見出だせないまま、多くのマンションが空き家化しスラム化する危険に晒されている。
くり返せば、マンションの建替えがこれまで問題化されなかったのは、新規の住戸の増設によって建替え費用を賄うことが、基本路線とされていたためである。その意味では、各人が住戸を所有し解体にも責任を持つという戦後のマンション居住の仕組みそのものが、尽きることのない住宅需要という夢のなかで、ようやく維持されるものだったといえる。
しかし少子化や高齢化によって、まず地方から、次には東京でも、その夢から覚めようとしている。
そのはてに私たちはいかにマンションの「死」を看取るのかという困難な問題を突きつけられているのだが、マンションを買い暮らすことを一般的な選択肢としてきたこれまでの居住の可能性を掘り崩しているという意味で、その死は個別のマンションのみならず、戦後の居住システムそのものの「死」に通じているのかもしれない。
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