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ドラマ「逃げ恥」のヒットと電通「鬼十則」の終焉? 日本社会はどこへ向かうのか
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161221-00000014-zuuonline-bus_all
ZUU online 12/21(水) 17:10配信
困難から逃げてはいけない。
難しい仕事から逃げてはいけない。
多くのサラリーマンが困難に立ち向かい、逃げないことが美徳であると教えられてきたように思う。しかし、テレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』がヒットするご時世である。日本人サラリーマンの美徳を打ち砕くかのような人気ドラマのタイトル。実は、これこそが現代のサラリーマンが目指すべき生き方なのかもしれない。
「逃げるは恥だが出世する」そんな考え方があっても良いのではないか。だが、逃げることは決して恥ではない。ときには逃げる勇気を持つことも必要なのだ。
■サラリーマンの矜持「鬼十則」
まずは、1951年に電通の4代目社長 吉田秀雄氏によって書かれた電通社員の行動規範とも言える「鬼十則」を見て欲しい。電通社員の過労死が、仕事のあり方、働き方について我々に大きな問題提起を行ったことから、あえて引用させていただく。
(1)仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
(2)仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
(3)大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
(4)難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
(5)取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
(6)周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
(7)計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
(8)自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらない。
(9)頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
(10)摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
もし、あなたの勤める会社にこうした社訓があり、上司や先輩が徹底してこれらを振りかざす毎日なら、どうだろう。あなたは仕事にやりがいを感じ、自由な発想で、前向きに仕事に取り組むことができるだろうか?
だが、我々サラリーマンは程度の差こそあれ、これと同じような発想で仕事に取り組んできたように思う。私の職場でも、こうした考え方のもとに部下や後輩を指導してきたのは事実だ。
■本質を分からずに「鬼十則」を振りかざす組織
電通だけではない。「鬼十則」は他の業種でも多くの人が行動規範として敬意を払っている。実際、銀行員である私も過去に「鬼十則」を読むことを薦められたことがある。確かに「なるほど」と、思えるところはある。だから、私は「鬼十則」を頭ごなしに否定するつもりはない。
しかし、全ての人がこんな生き方を実行する社会とはどんなものか想像してみて欲しい。冷静に考えると、それはとんでもなく殺伐とした、ストレスフルでとても疲れる社会に違いない。
皆が小さな仕事を嫌い、大きな仕事ばかりをやろうとすれば、組織は成り立たない。目立たぬところで、「地味にすごい」仕事をしてくれる人達に大きな仕事は支えられているのだ。周囲を引きずり回すだけの人は迷惑このうえない。
内容が伴わない自信は傲慢だ。本質を分からずに「鬼十則」を振りかざせば、百害あって一利なし。まともな人間であれば、それくらいのことは容易に察しがつくはずである。
■「自分が勝てる場所で勝負する」逃げることは恥ではない
『逃げるは恥だが役に立つ』はもともとはハンガリーのことわざである。自分が勝てる場所で勝負することが重要であるーーそんな意味が込められている。「鬼十則」と比較すると、一見軟派なイメージである。しかし、このことわざこそ、現代社会を生きるサラリーマンの矜持として相応しいのではないかと思えるのだ。
「自分が勝てる場所を探す」そんな重要なことに多くのサラリーマンが取り組んでこなかったのはむしろ驚きだ。とりわけ我々銀行員はその傾向が甚だしい。銀行員は特定の分野に特化して能力を発揮するスペシャリストよりも、ゼネラリストであることを求められる。
しかし、本当にそれでうまく人材活用ができるのか。銀行の業務内容は広い。預金、融資、金融商品の販売……銀行員は全ての分野で、それぞれの業務を「そつなくこなす」ことを求められる。仮に本人は融資業務は好きではなく、金融商品の販売を専門に行いたいと思っても、銀行はそんな人材を求めてはいない。だからスペシャリストと呼べるような人材が育たない。
逃げることは恥ではない。むしろ、これからの時代は自分が勝てる場所で勝負する「勇気」を持つことが大切なのだ。
■時代の潮目が大きく変わろうとしている
もちろん、自分が勝てる場所を探すのは、そう簡単なことではない。自分はどんな仕事をしたいのか、自分にその能力があるのか、それらを冷静に見極めることが必要だ。
しかし、本当に自分の好きな仕事なら、そして自分の能力が発揮できる分野の仕事なら、きっと良い仕事ができるはずだ。
サラリーマンは苦手な仕事、嫌いな仕事があれば、良い評価を得ることはできない。「苦手を克服する」ことを求められる。しかし、本当にそれが正しいのだろうか。
苦手な仕事があっても良いのではないか。嫌いな仕事があっても良いのではないか。それに勝るだけの「やりたい仕事」があり、能力を発揮することができるのであれば、会社にとっても本人にとってもずっと有意義なはずだ。
ストレスフルな「鬼十則サラリーマン」よりも、自分の得意分野で優れた能力を発揮し、成果を残せるような「逃げ恥サラリーマン」こそ理想ではないだろうか。
我慢することは美徳ではない。
耐えることは美徳ではない。
それは労力と時間の浪費に過ぎない。
「俺たちはこんなに苦労してきた」だからといって後輩や新人に同じことを強要して良いはずがない。そんな組織に未来があるとはとても思えない。
電通の社員手帳に記載され続けてきた「鬼十則」も、2017年版から記載を取りやめるという。時代の潮目が大きく変わろうとしている。私には、仕事に対する考え方を含め、社会全体がこれまでの価値観を大きく変えなければならない局面を迎えているように思えてならないのだ。(或る銀行員)
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