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(画像はイメージです:iStock)
食品輸入規制問題でかみ合わない日台、「急がば回れ」 いまだに「日本食品は放射能に汚染されている」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8500
2016年12月21日 小笠原欣幸 (東京外国語大学准教授) WEDGE Infinity
台湾で新政権が発足し7カ月になる。安倍政権と蔡英文政権は日台連携の思惑が一致しているので日台関係拡大の期待が語られたが,実は大きな進展は見せていない。
現在日台間の最大の問題は,台湾側の日本食品輸入規制である。福島原発事故後各国が日本食品輸入規制を導入したが,最近は規制を緩和・撤廃する方向にある。しかし台湾は福島,栃木,群馬,茨城,千葉の5県の食品(生鮮,加工共)の輸入禁止を続け,昨年逆に規制を強化した。馬英九政権が規制解除に動かなかったため,日本側の期待は蔡政権に向けられた。
11月に蔡政権が福島以外の四県の食品について規制を緩和する方針を示したが,激しい抗議行動が巻き起こり,押し込まれた蔡政権は解決を先送りにした。日本側関係者の失望は非常に大きい。日本側には東日本大震災で破格の支援をしてくれた台湾への感謝の気持ちが広く存在している。それがために被災地の風評被害を広げるような台湾側の対応に困惑させられている。
■食の安全に神経質
この問題は双方の議論がまったくかみ合わない。本来の争点は,日本からの輸入食品中に基準値を超える放射性物質が含まれているかどうかであるはずだ。台湾の衛生当局の検査では日本の輸入食品から放射性物質は検出されていないのだがその事実はほとんど注目されず,輸入食品の中に5県の産品が含まれているかどうかばかりが注目され,見つかるとスーパーの棚から同種食品を撤去する騒ぎを繰り返している。日本から見ると台湾の議論は感情的で方向がずれていると映る。
台湾では食の安全について人々の警戒感が極端に強い。台湾メディアは5県の食品を「核災食品」と報道し,市民団体も人々の不安を煽り,野党国民党は政治的目的で抗議活動を展開したので,「日本食品は放射能に汚染されている」という誤解やデマが独り歩きしているのが実情である。
日本側の交渉方針は,WTOの自由貿易ルールに違反している可能性が高い輸入規制を台湾側が解除してこそ,日台間の経済協力の協議のレベルを上げることができるとしている。つまり交渉の入り口である。
■かたくなな台湾
これは当然の対応であるが,台湾の民衆の眼には,日本が危ない食品を売りさばこうとして台湾に圧力をかけていると映る。台湾では食品安全の問題は貿易問題とは別という意識が強い。現状では,日本側が輸入規制解除を求めれば求めるほど台湾側はかたくなになり,日本への反発が高まる。
背景には,近年の「台湾アイデンティティ」の高まりもある。アイデンティティというのは他者にバカにされたくないという強い感情であり,中国にもアメリカにも日本にも向かうものである。中国は中台サービス貿易協定の批准ができなければその先の交渉に進めないとして馬政権に強い圧力をかけ,学生らによる国会占拠=ひまわり運動を招いた。日本側としてはこの問題では理が日本にあるので台湾の姿勢にいらだちを覚えることも多いが貿易のルールという大義で直進すれば,上から目線ということで「台湾アイデンティティ」を刺激しかえって事態の解決を遠ざける可能性がある。
ここは柔軟に並行的な協議を進めるべきではなかろうか。日台の経済協力拡大が双方のプラスになることが見えることによって台湾のかたくなな姿勢も変化してくるであろう。日本の消費者が台湾産のマンゴーをおいしそうに食べている映像が広がれば,台湾でも反応は変わってくる。急がば回れである。
■国民党との付き合い方
馬英九政権は「友日」を唱え,日台漁業協定を締結するなど日台関係の前進に貢献があった。しかし,最後の1年は,歴史認識,慰安婦,海洋問題で執拗な日本批判を繰り返す一方,中台首脳会談に象徴されるように中国傾斜が目立った。このため日本側での馬英九評価は低下した。洪秀柱国民党主席は日本に対し日常的に批判を続けている。
今回の食品問題で,国民党の立法委員らは蔡政権に対抗するため民衆の不安を利用して日本食品そして日本全体を貶める言動を展開した。国民党の抗議活動の現場を取材した日本メディアの記者はデマ宣伝のあまりのひどさにあきれている。多くの日本国民の眼に国民党は「反日親中」という印象が強まるであろう。
日本の行動パターンからすると表面上は変わらないが,日台交流の現場で,日本の議員,自治体,各種団体が「反日的な」国民党との交流を避ける傾向が出てくるかもしれない。国民党を見切って民進党と交流をしていけばよいという意見が広がるかもしれない。
しかしこれは望ましいことではない。国民党も台湾の民意のある部分を代表している。非友好的,気に入らないからといって交流をやめてしまえば中国と同じになる。中国は国民党とだけ交流し,民進党とは交流も対話もボイコットしている。日台関係は民主主義の価値を共有しているから貴重なのであって,日本側は台湾の主要政党との交流・対話を常に続けるべきである。
■日本側の情報発信を
日本食品規制問題での台湾メディアの報道を見ていると,日本の実情とかけ離れた報道がなされていることに驚く。これは日本側からの積極的な情報提供が少ないことも影響している。台湾メディアの誤った報道,政党や団体の誤った主張に対しては,日本政府の出先機関の交流協会がその都度記者会見を開き,安全性についての根拠,数値データなどを提供し,懇切丁寧に説明する必要がある。これは台湾の内政の問題なので,日本側の介入と受け取られないよう慎重に対処しているのだと思うが,中国語メディアではその都度反論していないと負けになる。台湾には中国寄りのメディアもあり,簡単な効果は期待できないが,日本側が反論していれば,少なくとも記事には載る。
トランプ政権の登場で日本も台湾も米中の動きにこれまで以上に揺さぶられる予感が漂う。日台の協力はますます重要になる。台湾は,よい点も悪い点も含め日本への理解が非常に深い。台湾=親日という思いに安住することなく,隣人の不安に思いを寄せることも必要だ。日本の食の安全への取り組みはしだいに理解してもらえるであろう。
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