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タカタ欠陥エアバッグ問題、なぜ「ホンダの責任」は問われないのか 「売り手責任」不問という不可解
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50505
2016.12.20 井上 久男 ジャーナリスト 現代ビジネス
■製造元の責任か、販売者の責任か
ある企業が問題を起こした場合、元請けと下請けのどちらに責任があるのか、あるいは共に責任を負うべきなのか――。
最近あらゆる業界で増えている品質問題の根本的な原因究明のためにも、あるいは消費者保護の観点からも、そうしたことを真剣にかつ冷静に考える時代が来ているのに、メディアの矛先は立場の弱い下請けに向くケースが多く、その結果、社会的な批判は一方的に下請側に集まっている。
こうした事態に陥るのは、日本社会では、製造責任を重視し過ぎるあまり、「売り手責任」について重く考えない傾向があるからだ。それでは、抜本的な対応にはならない。
特に人の命に係わる製品で品質問題が発生した場合、消費者に対しての責任は一義的には売った側にあると筆者は考える。そして、再発防止策や未然防止策を考えていくうえで、製造側と販売側が一体となってトラブルの原因を真摯に究明していく姿勢が求められるのではないか。
売り手責任欠如の顕著な事例は、2015年に発覚した「傾斜マンション問題」だ。
最初に消費者にお詫びしたのは下請けの旭化成建材だった。同社が行った杭打ちデータの不正は言語道断だが、そうした欠陥マンションを売ったのは、三井不動産レジデンシャルであり、顧客の中にも「三井不動産ブランド」を信用して買った人も多いだろう。
しかし、三井不動産側は当初、記者会見さえ開こうせず、むしろ「被害者面」をしていた。
大手メディアの批判も旭化成建材に集中し、三井不動産側の売り手責任と下請け管理責任を問う声はほとんどなかった。
今年発覚したカレーチェン店「CoCo壱番屋」が、廃棄した冷凍ビーフカツを横流しした産廃業者の事件でも、それを売ったスーパーの責任は問われることはなかった。
しかし、グローバル企業のリスク管理に詳しいコンサルタントは「産廃業者の行ったことは決して許されることではなく、警察も産廃業者を逮捕している。しかし、欧米でこうした問題が起こると、まず消費者の矛先が向かうのは売ったスーパー側。欧米では売り手責任が強く問われ、調達時の管理責任の方が問題視されるからだ」と説明する。
国際的ニュースとなっている「タカタ問題」でも、本来は売り手責任が問われるべきところ、見過ごされている。本稿では、タカタ問題から垣間見える、売り手責任論について考えてみたい。
タカタは、エアバッグやシートベルト、チャイルドシートなど自動車用安全部品を主に造っているメーカーである。
多くの読者がご存知のように、タカタ製エアバッグで異常破裂が発生して米国で死亡事故が起こり、タカタが米社会でパッシングを受け、米国子会社は事実上経営破綻した。
対策費用が1兆円近くになることから、タカタ単独での対応は不可能と見られ、タカタ本体の経営再建に向け、米ファンドなどがスポンサーに名乗りを挙げている。
タカタ製エアバッグの品質問題の原因は、衝突を感知してエアバッグを膨らませる「インフレーター」と呼ぶタカタ製の主要部品に欠陥があったからである。
エアバックを膨らませるガスを発生させるために使うのが火薬であり、タカタは業界で初めてエアバッグ用火薬の材料に硝酸アンモニウムを使ったが、硝酸アンモニウムは高温多湿下で使用すると、経年劣化を起こすことと、インフレーターの設計不備が重なって暴発が起こり、死亡事故につながった。
■「ホンダ責任論」が出ないのはなぜ?
こうしたことは、ホンダやトヨタ、フォードなど世界の自動車メーカー10社が2016年2月に第三者に委託して共同調査した結果などから分かっていることだ。
ガス発生材料としては1990年代にはアジ化ナトリウムが用いられていたが、毒性があるため使用禁止となり、タカタは硝酸アンモニウムを採用した。他社は別の硝酸グアニジンを用いた。「コストと性能面で硝酸アンモニウムの方が優れているとタカタは判断して採用した」(部品業界関係者)という。
そもそも国内では自動車にエアバッグ搭載は義務付けられていない。ただし、道路車両運送法によって衝突時の安全基準が決められており、その基準を満たすために、性能とコストの両面から判断してエアバッグが合理的との判断から搭載されているのである。安全基準を満たせば、別のものでもよい。
タカタとの関係が深いホンダは、両社が一体となって業界では率先してエアバッグの量産化と普及に取り組んできたことでも知られる。それが他社にも波及し、車の価格を大幅に上げることなくエアバッグが搭載され始めるようになり、衝突時に多くの人命を救うことにもつながった。
今回のエアバッグの暴発で死者が出ているのは、ほとんどがホンダ車だ。開発経緯から考えてもホンダには責任がある。購入者もホンダブランドを信用して買っている。しかし、ホンダがこの問題で矢面に立っていない。
矢面に立ったのは、タカタの役員らだった【PHOTO】gettyimages
むしろ、「ホンダとタカタは水面下では感情論で責任をなすりつけ合っている」(自動車業界関係者)との指摘もある。ブランドを信用して購入した消費者への責任がホンダにはあるはずだ。
ホンダ以外での他社ではエアバッグの開発ではこんなケースもあったそうだ。
衝突時にメカニカルセンサーと電子センサーの両方で感知させて爆発、エアバッグを開く設計で、メカニカルセンサーの部品が錆びて機能しなくなる可能性が浮上したため、樹脂でカバーすることにした。しかし樹脂では水分が浸透する可能性があったため、ガラスへの変更を部品メーカーに指示した。
こうした指示は、自動車メーカーの設計者が検討と実験を尽くしたうえで出した結論だったという。そのメーカーの元役員はこう指摘する。
「今回のタカタ問題では想定外の利用のされ方も暴発の要因という論調を見かけるが、『想定外』という考え方は、自動車メーカーの設計者が絶対にもってはいけない。あらゆる知見を融合して『想定外』をなくすのが、人の命を預かる自動車メーカーの使命でもある」
実際、どの部品や技術を使うのかの決定権は、自動車メーカー側にある。さらに、市場の情報も自動車メーカーに真っ先に入ってくる。こうした点からも、タカタ問題ではホンダに責任があることは明白だろう。ホンダ社内にもタカタに責任をかぶせるだけではなく、タカタ支援論者はいるそうだ。
しかし、資金力豊富なホンダが矢面に立つと、訴訟社会の米国では「ディープポケット」が出てきたと見なされ、弁護士の格好の餌食となることを恐れているため、腰が引けた対応になっているとの見方もある。
ただ、メディアでは「ホンダ責任論」を指摘するところはほとんどなく、タカタが袋叩きにあっているイメージだ。だからといって、タカタに責任がないと言っているわけではない。
タカタの北米工場での製造管理が甘かったことも今回の不具合の一因だ。さらにタカタは、メディアや資本市場に対して適切かつ適時の情報開示を怠っており、説明責任から逃れていると批判されても仕方ない。
要は筆者が何を言いたいのかと言えば、「インフレーター」を造ったタカタにも、その不具合を見抜けなかったホンダにも責任があり、両社が一体となって再発防止策や顧客対応に取り組むべきだということである。
その責任をタカタだけに押し付けて終わりでは、「トカゲのしっぽ切り」になってしまうのではないか。
そもそも自動車部品で火薬を使っていること自体が異例だ。火薬類取締法の対象となるべきだが、エアバッグ部品は適用除外となっている。これについては「日本車がエアバッグを装備する前にドイツ車が先駆けており、80年代後半、それを輸入するために適用除外となった」(部品業界に詳しい関係者)からだと言われている。
すでにその際にはエアバッグの安全や耐用年数に関する議論もあったそうだが、輸入が優先され、こうした議論は尻すぼみになったという。
■なぜこれほどタカタは叩かれたのか
火薬を担当するのは経済産業省、自動車の安全基準は国土交通省の担当だ。議論がいつの間にか消滅したのも、省庁の縦割りが影響しているのではないか。いずれにせよ、経年劣化する火薬を使っている以上、定期交換制度などが検討されてもいいはずだった。
こうした点から考えても、自動車の安全は、車や部品を造ったメーカーが負うだけではなく、社会システムとして担保されるべき一面もある。
一般的に自動車の部品を開発する場合、大きく2つのパターンがある。自動車メーカーが開発仕様や設計図を提示して部品メーカーに依頼する場合と、部品メーカー側が新しい技術などを織り込んだ新製品を提案して採用を求める場合だ。
不具合が起こった際に、こうした開発経緯を踏まえながら、「開発、製造、検査、市場対応などの観点からどこに責任があるかを綿密に議論していかなければ、消費者に適切な対応も取れないし、本質的な再発防止策にもつながらない」(大手自動車メーカー元役員)との指摘もある。
日本の自動車産業の強みとして、各生産工程で品質は造り込み、下流工程に不良品を流さないという発想がある。モノの流れから自動車メーカーを下流、部品メーカーを上流と位置づけると、上流から下流には不良品を流さないということが大前提だ。
このため、「日本の自動車メーカーは納入時の受け入れ検査を求めない性善説の取引」(トヨタ系部品メーカー幹部)だという。
こうした取引が大前提となっているのだから、何か不具合が生じれば、自動車メーカーと部品メーカーが話し合って顧客対応と再発防止策を講じ、補償対応など資金が必要な場合は、最後は財力が豊かな自動車メーカーが前面に出るという構図だった。
これが自動車メーカーと部品メーカーの信頼につながり、競争力の向上に結び付いていた面がある。
これから自動運転時代を迎え、部品技術が高度化、複雑化していく中で、不具合が起こった際に原因を究明して抜本的な対策を打つには、自動車メーカーと部品メーカーの密接な協力・信頼関係は重要になる。タカタ問題を「他山の石」として得られる教訓も多いのではないか。
最後に、このタカタ問題では一つ不思議なことがある。
すでに2008年にホンダはタカタ製エアバッグのリコール・回収をしている。初の死亡事故が発生したのも09年だ。その頃に問題が大きくなるのではなく、2014年に事態は急転して、米国議会で取りざたされるようになり、米運輸省の高速道路交通安全局(NHTSA)のタカタに対する態度も一転して厳しい対応に変化した。
これについては日本の自動車業界の中には「大統領選を見据えて、共和党が民主党のオバマ政権叩きにタカタ問題を使い始めたので、NHTSAも強硬姿勢に転じざるを得なかった」とする見方もある。タカタがアメリカの政争の生贄になったとの見方である。その結果、タカタは経営的に窮地に陥り、米ファンドの餌食になろうとしている。
一般論として、こうしたことは、ロビー活動が盛んな米国ではありがちなことだ。
ただ、仮にそうだとしても、ホンダとタカタがもう少し連携を良くしておけば、これほど米国で叩かれることもなかったのではないだろうか。
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