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米国の保護貿易が日本を利する可能性を考える トランプ政策を検証する(2)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8368
2016年12月12日 塚崎公義 (久留米大学商学部教授) WEDGE Infinity
トランプ氏(トランプ次期米国大統領、以下同様)は、米国第一主義を掲げています。具体的な政策が今一つ見えて来ない段階で、将来を予測するのは危険ですが、様々な可能性について考えてみることにしましょう。
■米国の保護主義は米国の得になる
トランプ氏は、米国の製造業を守るため、中国からの輸入品に高額の関税をかける、と発言しています。また、氏はTPPからも離脱すると宣言しています。中国以外に対しても、米国第一主義の観点から様々な輸入制限などが課されるとしましょう。
そうなれば当然、中国等の諸外国からも米国製品の輸入制限などが課せられるようになるので、米国の輸出も減ってしまうでしょう。果たして、それでも差し引きして米国の利益になるのでしょうか?
一般論としては、自由貿易が「国際分業」により各国にメリットを与えるとされているので、これに反する動きは各国にデメリットを与えると考える人が多いでしょう。「経済合理性が国内政治力学に負けた」と考える人も多いでしょう。
しかし、米国にとっては、そうとも限りません。米国は輸入が輸出より圧倒的に大きいので、保護主義が蔓延して世界の貿易が縮小した場合、輸入減少による国内生産の増加が輸出減少による国内生産の減少よりも遥かに大きいからです。
加えて、米国の輸入品は「国内でも作れるが、輸入の方が安いから輸入しているだけ」というものが多い一方で、輸出品は「途上国では作れないから米国から買わざるを得ない」というものが多いので、貿易戦争になっても輸出が止まってしまう訳ではありません。
国際分業のメリットである「得意な物に特化でき、不得意な物を作らずに済む」という点も、米国にとっては大きくないでしょう。たとえば日本政府が小麦農家保護のために小麦の輸入を制限したら、国内小麦農家の生産性が米国小麦農家の生産性よりも遥かに低いので、小麦の国内価格が高騰して大変なことになるでしょうが、米国の洋服メーカーの生産性と中国の洋服メーカーの生産性は、人件費の差を調整した後で比べると、それほど違わないので、米国人が中国製洋服から米国製洋服に着替えたとしても、影響はそれほど大きくないでしょう。
「米国が苦手とする洋服を作るために貴重な労働力を使うのはもったいない。もっと米国が得意なものに労働力を使うべき」と言うのが経済学的な正論なのでしょうが、それは米国に失業者がいない場合にのみ成り立つ議論でしょう。失業者がいるならば、得意な産業は失業者を雇えば良いからです。
失業者がいない場合であっても、米国洋服メーカーの生産が増えることは、良い面もあります。労働力不足は、賃金水準を押し上げて全米の企業に合理化・省力化投資を促すため、米国の企業の生産性が向上していくことに繋がるからです。労働力不足は、米国経済の生産性を上昇させる原動力となるのです。
中国製洋服の輸入制限が米国の洋服メーカーを甘やかすことになり、長い目で見ると米国の成長力を鈍化させる、という論者もいるようですが、中国製洋服の輸入制限に伴って多数の米国洋服メーカーが増産に走り、米国メーカー各社の競争が繰り広げられれば、やはりサボっている企業は淘汰されることになるので、米国の中長期的な成長力が鈍化することにはならないでしょう。
米国が輸入を制限すると、海外に進出している米国企業が困る、という論者もいるようですが、それは違います。米国の自動車メーカーがメキシコの子会社で自動車を生産して米国に輸入していますが、メキシコの子会社はメキシコの会社であって、米国の会社ではありません。従って、メキシコからの輸入が止まったとしても、困るのはメキシコ人労働者であって、米国ではありません。米国の損失は、メキシコの子会社からの配当が減ることくらいです。一方で、米国にある親会社の工場の利益は大幅に増大しますし、米国内の失業者が仕事にありつけるわけですから、差し引きした米国のメリットは大きいはずです。
■日本への打撃は限定的
米国の保護貿易は、世界全体としてマイナス効果が生じることは疑いありません。そうした中で、米国がメリットを受けるとすれば、米国以外が被るデメリットは比較的大きなものとなりかねません。しかしそれでも、日本のデメリットはそれほど大きくないかもしれません。
日本はすでに、日米貿易摩擦に長い間悩まされ続けて来たため、米国の保護主義に対する抵抗力がついています。たとえば自動車産業は米国内に多数の工場を持ち、現地生産をしているわけです。中国やメキシコのように、米国の保護主義の洗礼を今まであまり受けて来なかった国が受けるインパクトとは桁が違うはずです。
日本製品は、値段は高いけれども品質が良いという理由で世界中で人気があります。従って、関税が引き上げられても、一定のファン層からの需要は残るでしょう。中国製品が価格の安さで売っているがゆえに関税が引き上げられると対米輸出が激減するのとは、事情が違うのです。
余談になりますが、高度成長期の日本製品は、今の中国製品と同様、低品質低価格で輸出されていましたから、円高になると輸出が激減すると言われていました。実際、ニクソンショック後の円切り上げの際などには、輸出は大打撃を被りました。国内景気が悪化したことで、赤字覚悟の輸出が増えたため、輸出数量全体としてみれば減少こそ免れましたが、それまでの輸出数量の伸びが止まってしまったわけです。
そうした記憶から、プラザ合意(1985年)後の円高局面でも、日本の輸出が激減すると懸念されていました。しかし、そうはなりませんでした。高度成長期からプラザ合意までの間に日本製品の品質が向上していたため、「高くても日本製品を買いたい」と考える人々が世界中で増えており、円高によってドル建て輸出価格が値上がりしても、日本製品は世界中で良く売れたのです。
プラザ合意当時の時の経験からしても、米国の輸入関税が日本の輸出を壊滅させることはなさそうだ、と考えて良いでしょう。米国内に日本製品のフアンが大勢いて、関税を払っても日本製品を買ってくれるはずだからです。
■日本へのメリットも
米国の景気が良いことは、日本の輸出にとって大きな恩恵があります。米国の消費者が豊かになって贅沢をすると、多くの物を買うようになりますから、輸入が増えます。しかも、低価格低品質の途上国製品から高価格高品質の日本製品に需要がシフトします。加えて、米国が景気拡大を受けて利上げをすると日米金利差が拡大してドル高円安になります。これも日本の輸出にとってプラスです。
こうした効果が、対日輸入関税の効果を完全に相殺してくれるとは思われませんが、トランプ氏のその他の政策(大規模な公共投資等)の効果も併せて考えれば、日本の輸出が減るとは限らないでしょう。
日本の株価には、さらに大きなプラスになるかも知れません。日本の株価は、米国の株価の影響を大きく受けます。「原油価格が上昇すると米国の株価が上がり、つられて日本の株価が上がる」という大変奇妙なことが起きるのが株式市場という所です。原油を全量輸入している日本経済にとって、原油価格上昇が株高の要因となる事は、全く奇妙としか言いようが無いにもかかわらず、です。
そうした中で、米国の景気が拡大し、米国の企業業績が好調に推移すれば、米国の株価が上昇し、つられて日本の株価が上昇する可能性も大きいでしょう。
今一つ、日本株にとってはドル高円安がプラスに働く、という点も重要です。日本は輸出入が概ね同額ですから、ドル高で輸出企業が潤う金額と輸入企業が被る支払増は概ね同額です。しかし、輸出企業が潤った分がそのまま輸出企業の利益を押し上げる一方で、輸入企業の仕入れ値の値上がりは、製品価格の値上げという形で非上場中小企業や一般消費者などに転嫁される部分も多いので、上場企業の収益に与えるマイナスは、輸出企業の利益増に比べて小さいのです。
こうしたことも考えると、トランプ氏の当選によって日本の株価が上昇したことも、説明が可能なのかもしれません。
もちろん、トランプ氏の経済政策の全容が見えて来ないと本当の所はわかりませんし、トランプ氏の外交戦略によっては世界の平和が脅かされて世界同時株安になったりするリスクもあります。
筆者としては、到底強気に株を買おうという気にはなりませんが、米国の保護主義という点だけに絞って日本株への影響を考えれば、悪くなさそうだ、と言えるかのしれませんね。
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