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上場企業「不動産取得数の前年割れ」が意味すること(写真=PIXTA)
上場企業「不動産取得数の前年割れ」が意味すること
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161205-00000022-zuuonline-bus_all
ZUU online 12/5(月) 18:10配信
東京商工リサーチが発表した上場企業の不動産取得調査によれば、2016年1月〜10月に国内不動産を取得したり、工場社屋の新設を公表した上場企業数は43社と4年ぶりに前年割れとなった。調査の基礎となるデータは「会社情報に関する適宜開示資料」である。2015年1年間では56社が不動産の新規取得を行ったため、このペースで行くと前年割れの様相が濃くなってきた。
日銀のマイナス金利により、金融機関の貸出姿勢も積極的になり、借入側も低金利の恩恵を最大限活用できる環境にもかかわらず、企業サイドが投資に二の足を踏む姿勢が鮮明になっている。
日銀サイドからすると、金融緩和でマネーの供給量を増やし、さらにマイナス金利を導入し、借入サイド側の企業に対し最大限のメリットを与えているにもかかわらず、なかなか企業側の投資マインドが上向かない状態だ。
■不動産投資に対する企業の具体的な取引事例
その発表内容を細かく見ていくと、この期間の不動産取得で面積を公表した29社の総取得面積は、約71万2000平方メートルだった。期間が異なるので単純比較はできないが、去年1年間の新規取得面積は約77万1000平方メートルだった。
また、取得総額は、38社合計で約32億円に達した。中でも投資額のトップは、経営再建中のシャープで、大阪市阿倍野区の旧本社ビル隣の田辺ビルを今年3月に手放したが、先端開発技術の拠点とする目的で、再度買い戻した。また、三重県のスマートフォン向け電子部品会社が所有していた協力工場を約33億円で購入した。
不動産の取得理由は、43社中、新工場や新社屋の建設のための「事業拡大型」が最多の36社。続いて賃貸物件を自社所有に変える「安定経営型」が5社、賃貸用不動産、ビルの購入など、事業として不動産賃貸業を行う「賃貸不動産業進出型」が1社などとなっている。
■今後の不動産価格を占う他の経済指標
では、今後企業が不動産投資を行うかどうかの経営判断を行う上で、重要な判断材料となる他の経済指標はどのようなものがあるのだろうか。
(1)株価の動向
今後の不動産価格のトレンドを占う上で重要な役割を果たすのが株価だ。
株価は個別企業の人気投票ともいわれ、マーケット参加者の思惑により短期的に上下に振れることもあるが、基本的には経済合理性に基づき、投資家が自分の利益を追求し、損失回避に徹する結果、一般的には将来の景気動向を反映する。株価と不動産価格の動きのサイクルを比較すると、やはり株価が不動産価格に先行している。
株価が先行する理由はいくつか考えられるが、一番の理由は株価と不動産価格に織り込まれる収益のボラティリティの違いだ。企業業績は景気動向に連動して大きく変動するが、不動産収益は企業動向ほど大きな振れ幅とはならない。実際、TOPIXと東証REIT指数の構成銘柄の推移を比較すると、不動産収益のラインの方が全体的になだらかな線を描くことが見て取れる。特に相場の転換点では、様々な経済環境が企業業績に影響するとの予想から、株価が先行的に動き、一方安定的な不動産収益への影響はステップを踏みながら不動産価格に織り込まれるため、その動きは遅れがちとなるのだ。
最近では、株価と不動産価格とのタイミングディファレンスの間にREIT指標が入ってきた。REITはご存知の通り不動産をベースに、より取引をしやすいようにした金融商品なので、景気の動向を表す指標としては、株価、REIT、現物の不動産の順に動くこととなる。
(2)不動産取引件数の動向
不動産取引件数は、一見すると現物不動産取引価格と同じ動きをすると思われがちだが、一般的には取引価格のサイクルに先行する形で現れると考えられている。
通常の不動産取引では、不動産市況の回復時には、買い付けが増え取引増加に伴って新たに高値の物件が売り出される一方、市況悪化時は、買い付けが減少し、取引縮小に伴って売却希望価格の下げが進行するためだ。
(3)賃貸市場の動向
賃貸市場は基本的に不動産価格に遅行するものだが、オフィス需要のデータは先行的な指標とみることができる。オフィス市場のデータは種類が豊富なので、トレンドを容易に捕まえることが出来る。
具体的には、オフィス稼働率の先行性が目立つ。景気回復局面では、まずオフィス稼働率が高まり、それに応じビルオーナーが強気に転じ募集賃料を引き上げるケースが一般的である。
■今後は慎重姿勢が徐々に強まってくる
アメリカ大統領選にトランプ氏が選ばれ、来年1月に第45代大統領に就任する。株価は規制緩和や大幅減税などの政策が、今後の経済に良い影響を与えるとみて期待先行で上昇している。しかし、実際の政策実行が思い通りに行かない場合、株価の反落も予想される。
日本の株価は、アメリカの株価につられて動く傾向が強いので、国内景気そのものの強弱ではなく、アメリカの株価次第という側面でトレンドが決まるだろう。従って、不動産価格も、アメリカの株価の影響を大いに受けることが予想される。
2015年の不動産取引件数は、2014年と比べ減少傾向が鮮明になった。その理由は取引物件の不足だとする不動産関係者も多いが、実際のところは取引の活力が低下しつつあることが感じられる。
また、首都圏のオフィス稼働率は、低い空室率で順調に推移しているが、今後の頭打ちが懸念される。実際、今年下期に竣工予定の大規模ビルでは、満室竣工が相次いだ上期ほど入居予約状況は順調ではない。今後、市場のオフィス稼働率は新築ビルの相次ぐ竣工もあり、やや悪化する可能性がある。
このように、企業の不動産に対する見方は、これまでの強気一辺倒から、将来の景気に対する不安感から、慎重姿勢が徐々に強まってくるのではないだろうか。
マネーデザイン代表取締役社長 中村伸一(http://moneydesign.co.jp/)
学習院大学卒業後、KPMG、スタンダードチャータード銀行、日興シティグループ証券、メリルリンチ証券など外資系金融機関で勤務後、2014年独立し、FP会社を設立。不動産、生命保険、資産運用(IFA)を中心に個人、法人顧客に対し事業展開している。日本人の金融リテラシーの向上が日本経済の発展につながると信じ、マネーに関する情報を積極的に発信。
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