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トランプ氏の経済政策をどう評価すべきか(大前研一氏)
トランプ流保護主義の先に悪性インフレが待っている
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161205-00010000-moneypost-bus_all
週刊ポスト2016年12月9日号
アメリカの次期大統領にドナルド・トランプ氏が決まって以来、これからの経済はどうなるのかという予測が様々に行なわれている。これまでのグローバル主義から保護主義に転じると明言しているトランプ氏の経済政策によって、今後、どのような未来が待っているのか。経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。
* * *
トランプ大統領の誕生で世界はますます反グローバリズムの潮流が強まる、という指摘もある。しかし、グローバリズムを否定した先に待っているのは悪性インフレだ。
アメリカ人が、低所得層でもそれなりに豊かな生活を送ることができているのは、グローバル化のお陰である。様々な商品が世界の最適地でより安く生産できるようになり、それを輸入することによって物価が抑えられているのだ。実際、ウォルマートやコストコに並んでいる安い商品は、ほとんどすべてが中国をはじめとする「メイド・イン・世界各国」だ。
また、消費者が買う消費財だけでなく家畜の飼料や原材料などもグローバル化によって安くなり、その恩恵を世界中の人々が享受している。それは日本も同様で、牛丼が1杯300円台で食べられるのも、アメリカ産やオーストラリア産の安い牛肉や食材・原材料を輸入しているからである。
つまり、もしトランプ氏が中国製品などに高い関税をかけ、いろいろなものをアメリカ国内で作るようにしたら、アメリカの物価はとどまるところを知らずに上がり続け、コストプッシュインフレになって生活費が跳ね上がるのは火を見るよりも明らかなのだ。そうなれば、トランプ氏は1期4年で葬り去られる。葬り去られない唯一の方法は、ただ言い続けるだけで何も実行しないことだが、その場合は4年もたないだろう。
前号で、今回の大統領選挙は白人保守層が優勢な“内陸合衆国(United States of Inland)”と、様々な人種・民族で構成されているリベラルな“沿岸合衆国(United States of Coastal)”の対決だったと書いた。USA(United States of America)ではなくDSA(Divided States of America)になったわけだが、実はすでに勝負はついている。
“沿岸合衆国”の人々は、トランプ勝利でもケロッとしていると思う。彼らは世界中から優秀な人材を呼び込み、ICTや金融、通信などの分野で世界最強のビジネスを作っているので、誰が大統領になってもほとんど影響を受けないからである。トランプ氏が公約を実行した場合に悪性インフレで返り血を浴びるのは、競争力のない“内陸合衆国”の人々なのである。
かつて私は、「紙で投票する選挙は国内優先、財布で投票する選挙はグローバル化優先になる」と書いたが、実体経済はグローバル化の方向に一方的に進むしかなく、その流れを止められた政治家はいない。
トランプ氏はFRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長を任期途中で交代させる意向も表明している。いま為替は円安ドル高が進んでいるが、トランプ氏は「ドル高は市場と貿易に悪影響を及ぼし、金利の上昇はアメリカの利払い費用が増大する」と言っている。
実際はドル高で生活資材が安くなり、ドル安では高くなる。イエレン議長更迭となれば利上げは難しくなって円高ドル安に向かうため、インフレを誘発してアメリカ国民の生活は苦しくなるだろう。一方、日本企業は1ドル=70円台になっても生き残ってきたのだから、どうってことはない。トランプ大統領が迷走する間、日本は反グローバリズムの波に流されずに従来通り、ひたすら競争力を磨き続ければよいだけなのだ。
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