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タワー投資顧問運用部長の清原達郎氏
年収100億円運用部長分析 AIの金融参入でどうなるのか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161130-00010000-moneypost-bus_all
マネーポストWEB 11/30(水) 16:00配信
【書闘倶楽部】『人工知能が金融を支配する日』/櫻井豊・著/東洋経済新報社/1600円+税
【著者】櫻井豊(さくらい・ゆたか)/金融市場、金融技術などの専門家。1986年早稲田大学理工学部数学科卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ソニー銀行執行役員などを経て、2010年からリサーチアンドプライシングテクノロジー株式会社取締役。
自ら学習する能力を身につけ、飛躍的な進化を遂げている人工知能(AI)。従来のように取引の執行だけでなく、意思決定まで行うAIが金融の世界に参入すると、どうなるか?
本書は、主にアメリカの現状を引きながら、「超高速ロボ・トレーダーが市場を席巻する」「カリスマの相場観、経験、勘に頼ったスタイルは凋落する」などと近未来を予測する。
最後の公表となった2004年度の高額納税者番付で1位となり、「年収100億円のカリスマ・ファンドマネージャー」と話題になった清原達郎氏(タワー投資顧問運用部長)は、どう考えるか。(インタビュー・文/鈴木洋史)
──清原さんが手掛ける日本株の市場でAIの存在感を感じますか。
清原:いや、感じませんね。結論から言えば、AIが市場に参入しても、うちのようなファンドが脅かされることはまったくないです。
うちは東証2部や新興市場の割安な小型株を大量に運用しているのですが、銘柄を選ぶ際、いろいろな情報を取ります。その情報がIR(投資家向け広報)資料やマスコミ報道のような文字化されたものだけなら、コンピュータの方が速く、正確に分析します。
しかし、そんなものは判断材料のごく一部に過ぎません。周辺の人から会社の評判などいろいろな情報を取り、社長にインタビューして経営方針や人物像を見るのはもちろん、その話し振りや顔色から自信や確信に満ちているかどうかまで判断する。AIが自己学習するためにはデータが豊富に揃っている必要がありますが、我々が判断材料とする情報はデータ化しにくい“ニュアンス”のものが多いのです。
そもそも日本の株式市場はアメリカと比べて歴史も短く、規模も小さく、経験も少ない。さらに小型株の場合、出来高が少ない。従ってデータが少ないんです。
──しばらく前、人工知能の「アルファ碁」が世界的な囲碁のトッププロと対戦して勝ち越しました。
清原:あのおかげで、何でも人間以上にできるとばかりに、AIの能力が過大評価されたと思います。イメージ的に言えば、株の運用というのは、碁のように線と線の交点にだけ石を置く単純な世界ではなく、交点から外れたところや碁盤の上部の空間にも石を置く世界で、複雑さのレベルが違います。
──東京証券取引所でも2010年から、コンピュータによる超高速の株式売買システム(アローヘッド)が導入されていますが。
清原:コンピュータが人間より有利なのは、基本的には短期のスプレッド取引(価格差、金利差を利用した裁定取引=鞘取り)です。それはスピード勝負ですから。しかし、AIが長期の運用に向いているとは思いません。
──運用に勝負度胸は必要ですか。AIが人間に取って代わったとき、その問題はどうなりますか。
清原:客観的に見て勝つ確率の高い運用なら躊躇する必要はないはずですが、巨額の運用をするファンドマネージャーは誰しも恐怖心を抱いた経験があります。だから勝負度胸が必要なのですが、恐怖心を抱くことは人間の弱さであり、決断を躊躇すれば運用にとってマイナス。その点では余計なことは考えないAIの方が有利ですよ。
しかし、恐怖心がプラスに働くことがないわけではない。運用を踏み止まった結果、大損せずにすむ場合もあるわけですから。反対に、恐怖心を抱かないコンピュータはそのまま運用を続け、どこかで大損する、といったことがあり得ます。
──今後、AIを使うヘッジファンドが日本市場にも本格的に進出してくると、お客さんの資金がそちらに流れませんか。
清原:最初はそうなる可能性はあるでしょうね。しかし、資金を集め、実際に運用が始まると、化けの皮が剥がれますよ。それに、AIは詐欺の温床になりやすい。ついこの前も、「高速取引ができる独自のシステム」を謳い文句にした投資コンサルタントが詐欺で捕まり、被害者の中に芸能人もいた事件が週刊誌で報道されました。
うちはこれまでこれだけ高いパフォーマンスを達成した。だから、今後も……とシミュレーションを示されると、つい信じてしまう。特に日本人はシミュレーションに弱いですからね。
しかし、運用の世界には「サバイバーズ・バイアス」があることを忘れてはいけません。成功したファンドの背後には、実は失敗して廃止になったファンドが屍のように転がっている。その失敗例は取り除き、成功して生き残っている例だけを計測するから、パフォーマンスが高くなるのです。そしてAIの場合、そのバイアス(偏り)がかかりやすい。
なぜかと言えば、プログラムの数だけ簡単にファンドを立ち上げられるから。もうひとつの理由は人材面。今、アメリカではAIを勉強する学生が多く、以前ならIT業界に就職していたのに、破格の高給に惹かれてヘッジファンドに入るケースが増えている。彼らは失敗してもIT業界に簡単に転職できるので、一攫千金狙いになりがちです。その2つの理由で“屍”が増えやすいのです。
──IT業界から人工知能の技術者が有力ヘッジファンドに超高給で引き抜かれている、と本書も書いていますね。
清原:アクティブ運用(市場平均を上回るリターンを目指す運用)の世界はゼロサムゲームで、誰かがプラスになれば誰かがマイナスになる。全体として見ると、社会に対して何の付加価値も生まない。金融工学も客を煙に巻いてお金を出させるために使われてきたようなものです。なのに、金融の世界にもっとコンピュータ・サイエンスをやる人間が増えないと日本は世界から遅れてしまう、などと言う著名な経済学者がいますが、寝言もいいところです。
私は今から予測しておきますが、AIが金融の世界に入ってくれば、流行語になるくらいAI詐欺が増え、優秀な人材が無駄に使われるだけ。いいことはありませんね。
【PROFILE】きよはら・たつろう/1959年島根県生まれ。タワー投資顧問運用部長。1981年東京大学法学部卒業後、野村證券入社。1992年に退社し、ゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレー証券などを経て1998年から現職。
【協力】伊藤博敏(ジャーナリスト)
※SAPIO2016年12月号
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