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自動運転車、警察庁が「安全ではない」宣言…制度も人も現状では受け入れ困難か
http://biz-journal.jp/2016/11/post_17263.html
2016.11.24 文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家 Business Journal
人が車のハンドルを手放すのは、もはや時間の問題かもしれない。カメラやセンサー、AI(人工知能)などが劇的な進化を遂げ、かなり先だと考えられてきた自動運転の普及が予想以上に急加速しているからだ。
世界の主要メーカーは2020年代前半の完全自動運転を視野に入れており、なかでも、独アウディは17年に世界初の「レベル3」の量産車の市場投入、米フォードは基本的な運転操作をすべてAIに任せる「レベル4」の車を21年までに量産すると明言している。
日本で自動運転の先頭を走るのは、日産自動車だ。13年11月、自動運転技術を搭載した「リーフ」の実験走行を国会周辺の公道で実施したのに続き、同月、神奈川県内の高速道路で実証実験をスタートさせた。
自動運転を一気に身近な存在にしたのは、日産が16年8月、事実上の「レベル2」とされる同一車線自動運転技術「プロパイロット」を搭載した初の市販車を発売したことである。プロパイロットを高級車ではなく普及価格帯の新型ミニバン「セレナ」に搭載したことについて、日産専務執行役員の星野朝子氏は、16年8月24日に横浜の日産グローバル本社で開かれた新型セレナの記者発表の席上、次のように語った。
「高級車からプロパイロットを搭載していくこともありだったと思いますが、一人でも多くのお客さまに、このすばらしい自動運転技術で、ラクで楽しいドライブを経験していただきたいと思い、あえてファミリーカーの代表格である『セレナ』から搭載する戦略をとりました」
自動運転車が人間の運転手にとって代わるようになれば、注意散漫、速度超過、判断ミスなど、人に起因する事故は大幅に減るだろう。マイカー通勤でためこんできたストレスからも解放される。
また、信号機と連携することから停止、発進の回数が少なくなり、環境負荷の軽減にも役立つといわれている。さらに高齢者の移動手段の確保、過疎地の公共交通の自動化なども期待できる。
国の調査によると、交通事故の経済損失は年間約6兆3000億円、渋滞の経済損失は同12兆円に上る。自動運転は、こうした社会コストの低減という意味でプラスに働くことは間違いないだろう。
課題は、速すぎる技術の進歩に社会が追いついていないことである。自動運転技術が急速に進むなかで、社会も人も、それを受け入れる準備ができているとはいえないのだ。
実際、私は16年7月、日産の追浜にあるテストコースで「セレナ」のプロパイロットを体験したが、そのとき持ったのは、「自動運転車に慣れるのには時間がかかるだろうな」という感想である。
コースでは、渋滞の想定のもと、前の車に追随するので、ハンドルに手を添えているだけで基本的にはアクセルもブレーキもいっさい踏まなくていい。確かに、ラクだと感じながらも、何もしなくても車が動くことに違和感を感じずにはいられなかった。頭では理解していても、実際に乗ってみると、自動運転を受け入れるのは結構難しいと感じた。
■自動運転の社会的受容
では、社会は自動運転といかに付き合うべきか。まず、自動運転を社会が受け入れるためには、自動運転システムを正しく理解する必要がある。それには、自動運転の法的側面からみるのがわかりやすい。
道路交通条約(1949年ジュネーブ条約)は、「車両には運転者がいなければならない」「運転者は適切かつ慎重な方法で運転しなければならない」と規定している。
しかし、完全自動運転になれば、運転者は不要だ。運転者の存在を前提とした現行の法令は見直さざるを得ない。事実、自動運転技術の開発では、運転者がいることを前提とした現行の法整備がすでに足かせになっており、米グーグルなどIT企業を中心に、法令の見直しを訴える声が高まっている。
自動運転の導入をめぐっては現在、安全基準などの国際的なルールづくりが進められている。国際連合欧州経済委員会の「WP1(道路交通安全作業部会)」では、「ジュネーブ道路交通条約」や「ウィーン条約」の改正に関する論議が行われており、日本からは警察庁が参加している。
同委員会の政府間会合(「WP29」)では、自動車の安全・環境基準に関する共通の基準づくりが進められている。14年11月に開催されたWP29では、「自動運転分科会」が立ち上げられ、システムに運転を任せたあと、人にどう返すかなどが議論されている。共同議長を務めるのは、日本と英国だ。また、WP29傘下の「自動操舵専門家会議」では、日本とドイツが共同議長を務め、10km/h超での使用が禁止されている自動操舵に関する規制改正の検討が進められている。
16年9月には、長野県軽井沢町で先進7カ国交通相会合が開かれ、自動運転の国際的なルールづくりに向けて協調することが合意された。同会合には、自動運転の規制において独自路線を走っていた米国も参加した。とはいえ、米国は日欧が進める枠組みに一部しか加わっておらず、独自路線を崩してはいない。
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は16年2月、グーグルからの問い合わせに対して、人工知能(AI)も人間と同様のドライバーとみなすことが可能だと答え、「ドライバーレス」へと一歩前進した。さらに、米運輸省は同年9月、自動運転の安全性を確保するため、システムが故障した場合の対応など15の審査項目を含めた独自の指針を発表した。
ただ、いくら安全性確保に向けた指針が示されたとしても、自動運転車が100%安全だとはいいきれない。完全な技術などありえないからだ。実際、16年5月、米テスラモーターズの電気自動車(EV)「モデルS」は運転支援システム「オートパイロット」を作動中に衝突事故を起こした。
となると、自動運転における損害賠償責任が明確にならなければ、怖くて自動運転車に乗ることはできないだろう。「ドライバーレス」の自動運転が、にわかに現実味を帯びるなかで、事故の責任を誰が負うのか。
自動運転をめぐる法整備は、自動運転が健全な発展を遂げるに当たっての待ったなしの課題といえる。
■自動運転における損害賠償責任
自動運転技術の導入と並行して考えなければいけないのは、法令の見直しである。自動運転車が事故を起こした場合、いったい誰が責任をとるのか。とりわけ、事故被害者の救済を確実にするには、法令を大幅につくり直す必要がある。
日本の自動運転をめぐる法的事情をみてみよう。自動運転にかかわる主要な法律は、警察庁が所管する「道路交通法(道交法)」と自動車保険制度の根幹となる「自動車損害賠償保障法(自賠法)」の2つであるが、どちらも「ドライバーレス」を想定してつくられたものではない。
政府は、自動運転について4段階のレベルを設定している。「加速・操舵・制動のいずれかをシステムが行うレベル1」、「加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行うレベル2」、「加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、システムが要請したときはドライバーが対応するレベル3」、「加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、ドライバーがまったく関与しないレベル4」である。
自動運転車の事故を現行法に基づいて考えると、「レベル3」までは、自動運転中であっても、ドライバーはいつでも運転に介入できることから、自賠法の「運行供用者責任」の考え方を適用できるとされている。対物事故についても、現行の考え方を適用できるとされる。
また、日本には自動車の対人事故の場合、自賠法によって、被害者救済が図られるという他国にはない特徴がある。運行供用者に対して、事実上の無過失責任主義を取ることにより、手厚い被害者保護が図られるのだ。
したがって、「レベル3」までは被害者の過失の有無にほぼ関係なく運転者に責任を負わせられる。ちなみに、対物事故の場合は、民法による過失責任が適用され、ドライバーに故意または過失がない場合は、ドライバーに損害賠償責任は発生しない。
ただし、グレーゾーンもある。たとえば、自動運転システムが鳴らしたアラームに、運転者がすぐに対応できずに事故が起きた場合だ。事故は人間の責任なのか、システムの責任なのか判断が分かれるだろう。ある大手損害保険会社の役員は、次のような見解を示す。
「その意味で、『レベル3』を通り越して、いきなり『レベル4』にいくのではないかという見方もできますね」
実際、「レベル4」では、そもそもドライバーという概念がなくなることから、従来の自動車とは別のものととらえるべきだろう。自動車の安全基準、利用者の義務、免許制度、刑事責任のあり方など、自動車に関する法令などを抜本的に見直したうえでの議論が必須になる。別の損害保険会社の社員は、次のように危惧する。
「安全運転支援システムや自動走行システムに不具合があった場合、自動車メーカーの責任なのか、部品メーカーの責任なのか、ドライバーの誤操作なのかという問題が出てくるでしょうね。また、雪が降って白線が見えにくくなっていたなど、道路交通インフラの整備不良に起因して事故が発生した場合、インフラメーカーが責任を負うのか、国が責任を負うのかという問題になる可能性もあると考えられます」
■複雑化する事故原因
つまり、自動運転車が起こした事故原因を特定するのは簡単ではない。膨大な調査には時間もお金もかかるだろう。結果、被害者に迅速な保険金支払いができなくなるなどの弊害が予想される。
また、従来の交通事故は、人間対人間で過失割合を決定できたが、これからは自動運転車同士の事故など、人間とシステムの多岐にわたる責任関係を想定する必要が出てくるのだ。事故責任でもめないためには、自動運転車にドライブレコーダーの装着を義務付けるなどして、過失割合に応じて損害を分担する仕組みが求められるだろう。場合によっては、自動車や運転システムの製造者、部品のサプライヤーなどが負担する責任が、今より重くなる可能性も出てくる。いわゆる製造者責任である。
このほか、自動運転車はインターネットにつながったITの塊であることから、サイバー攻撃による事故を考慮しなければいけない。15年7月、ジープ「チェロキー」へのサイバー攻撃が可能であるという実験結果を受け、米FCA社は140万台の車両を米国でリコールした。サイバー攻撃により自動車がコントロール不能になれば、とてつもない事故が発生する恐れがある。その場合の損害賠償責任についても、十分な検討が求められる。
メーカーが恐れているのは、自動運転にまつわる事故だ。かりにも、テスラが引き起こしたような死亡事故が再び起きれば、メーカーが積み上げてきた安全技術の信頼は大きく損なわれる。ひいては、自動運転の社会的受容にも影響が出てくるだろう。
警察庁はこの7月、「現在実用化されている『自動運転』機能は、完全な自動運転ではありません!!」とする告知を出した。運転者は、機能を過信せず、責任をもって安全運転を行う必要があるというメッセージだ。
ちなみに、ホンダは開発中の「自動運転」技術を、あくまでも「安全運転支援システム」といっている。
東京海上日動火災保険は2017年4月から、自動運転中の事故を自動車保険の補償対象に加える。
自動運転が、大きな可能性を秘めているのは紛れもない事実だ。イノベーションを閉ざしてはならない。ただし、自動運転のメリットを享受するためには、自動運転をめぐる社会的な影響、生命にかかわる重大性を踏まえたうえで、さまざまな仕組みを整備していかなければならないのも、また、いうまでもないことだ。とりわけ、法的責任をどうするか。また、自動運転車をめぐる規制のあり方をどうするか。これらの問題は、自動運転が今後、どのように進展するかを決める重要な指針になるだろう。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)
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