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天才投資家ジョージ・ソロスの「再帰性理論」をもっと分かりやすく!=東条雅彦
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2016年11月22日 MONEY VOICE
ジョージ・ソロスは、自身が投資家として成功したのは「再帰性理論」のおかげであると、自身の書籍の中で繰り返し述べています。ただ、「本当は哲学者になりたかった」というだけあって、彼の説明はとても難解です。そこで今回はできるだけわかりやすく、ソロスの「再帰性理論」を解説していきます。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資〜雪ダルマ式に資産が増える52の教え〜』東条雅彦)
「本当は哲学者になりたかった」ソロスの再帰性理論を理解する
■投資家として成功できたのはこの理論のおかげ
ジョージ・ソロスは、書籍『ソロスの講義録』にて、次のように述べています。
私は危機(2008年のリーマン・ショック)を予測することができたのですが、それは「再帰性」の理論のおかげでした。また、危機が現実化した際の対処の仕方も、「再帰性」の理論のおかげで、わかっていました。(P24より引用)
ソロスは、自身が投資家として成功したのは「再帰性理論」のおかげであると、自身の書籍の中で繰り返し述べています。
ただ、この理論は、私たちの間で広くは認知されていません。その原因の1つは、哲学者を目指していたソロスの非常に難解な文章にある(=なかなか伝わってこない)、というのが私の個人的な見解です。
そこで本稿では可能な範囲でわかりやすく、自作の図解も示しながら、ソロスの「再帰性理論」を解説していきたいと思います。
■ソロス「市場は常に間違っている」の真意とは?
ソロスの言葉の中で最も有名なのは、「市場は常に間違っている」だと思います。一見、単純でわかりやすい言葉ですが、ソロスの真の意図はかなり深いところにあります。
なぜ、ソロスは「常に」と言っているのでしょうか?
いわゆる「適正株価」と呼ばれる、企業の実態と株価が釣り合っている時もあるはずです。それをなぜ「常に間違っている」と言い切れるのか?ここに、ソロスの説く「再帰性理論」の神髄が隠されています。
この「再帰性」を理解するにあたっては、まず「可謬性(かびゅうせい)」という考えを前提に市場と向き合わなければいけない、とソロスは言います。
【関連】痛恨の勘違いも? ジョージ・ソロスの「予言的中率」を検証してみた=東条雅彦
「可謬性」は哲学の用語なので、普段、耳にすることはほとんどありません。「謬」とは「間違うこと、過ち」の意です。ここでは、可謬性という用語を「人は誤解しうる」という意味で捉えてください。
ソロスは世の中に存在する事象を、次の2種類に分類しました。
・自然現象……(例)雨が降っている
・社会的事象……(例)Z社の株価が大暴落して割安になった
「雨が降っている」という自然現象は、人間の思考とは無関係に発生し、思考が原因の役割を果たすことがありません。
観察者であるAさんとBさんが同じ場所にいるとき、「雨が降っている」という現象には関与できません。2人に天気を変えることはできないし、AさんとBさんで解釈が異なることもありません。
一方、「Z社の株価が大暴落して割安になった」という社会的現象には、人間の思考が入っていて、人間がこの現象をコントールもできます。次の日にAさんは割安になったZ社の株を買うかもしれないし、Bさんは逆にZ社の株を信用売りするかもしれません。
このような「社会的事象」に対して、ソロスは「自然現象」にはない特徴を発見したのです。それが「可謬性」です。
「雨が降っている」という自然現象は、誰が解釈しても動かせない事実であり、「可謬性」は入ってきません。
ところが、「Z社の株価が大暴落して割安になった」という社会的事象は、人間という参加者がそこにいて、その参加者たちの解釈と行動によって生じるものです。
社会の参加者である人間は、社会のすべての情報を知っているわけではなく、常に一部の情報をもとに判断しています。Z社に関する情報を100%、知っている人はいないのです。
従業員、経営者、株主、顧客…それぞれの立場で持っている情報が異なります。そのため、「社会的事象」には、人間の誤解や間違いがもともと入っているのです。
【図解1】自然現象とは違って社会的事象には「可謬性(かびゅうせい)」が存在する!
反対に、「自然現象」には人間が参加者として加わっておらず、人がいなくても、雨が降ったり風が吹いたり気温が上がったりします。
この「可謬性(=人は誤解しうる)」が、ソロスの「再帰性理論」の基礎になっています。
■再帰性には「永久ループする特性」がある!
社会的事象には、自然現象と違って人間が参加しています。そのため、すべての社会的事象には「再帰性」が伴っていることをソロスは見抜きました。
「再帰性」とは文字通り、「再び帰ってくる性質」のことです。ソロスは、再帰性の特徴を次のように説明しました。「私は嘘つきだ」と宣言したとすると、哲学的には次のように解釈されます。
私は嘘つきだと言う人が嘘つきならば、本当のことを言ってるので正直者となるように思うが、正直者が私は嘘つきだと言うのは嘘つきなので嘘つきになるが……(文頭に戻る)
「自己言及のパラドックス」と呼ばれる現象で、この命題は永久にループします。世の中は、黒か白かを明確に判定できるものばかりではなく、このように永久ループに陥るものもあります。
なぜ永久ループになるかというと、定義している命題に「自己参照」が含まれるからです。自己参照するものは、いつまで経っても答えが出ずに永久ループとなります。
社会的事象は、人間がその社会の中に入っているため、「自己参照」になっていることをソロスは発見しました。「私は嘘つきだ」という命題のように、命題の中に自分自身を定義してしまうと「永久ループ」が生じますが、それと同じことが社会的事象にも生じるというのです。
■人間の持つ2つの機能
まず、人間には次の2つの機能が備わっています。
・認知機能……人間が世界を知識として理解しようする機能
・操作機能……人間が世界に影響を与えようとし、改造しようとする機能
ソロスは、この2つの機能が相互に作用しあって永久ループするため、現実が歪められていることを見抜きました。次の2つの式をよく見てください。
・<認知機能の式>f(現実)⇒認識
・<操作機能の式>g(認識)⇒現実
人間は現実を認知して、現実とはこういうものなんだと認識します。その認識をもとに、操作(行動)を取って、新しい現実を生み出します。
ここで、注目すべきは、「操作機能によってアウトプットされた現実が、認知機能のインプットになっている」という点です。
【図解2】自然現象とは違って社会的事象には「再帰性」が存在する!
これは「私は嘘つきだ」の命題のように永久ループしています。
・f(嘘つき者)⇒正直者
・g(正直者)⇒嘘つき者
「私は嘘つきだ」と言うのが本当なら、私は正直者です。正直者が「私は嘘つきだ」と言うのなら、私は嘘つき者になります。答えのない永久ループになります。
「卵が先か?鶏が先か?」においても、同じように自己参照によるループになります。
・f(鶏)⇒卵
・g(卵)⇒鶏
世の中には白か黒かを判定できずに、ずっとループに陥る命題もあると、私たちは捉えなければいけません。
人間が参加する社会的事象では、認知機能と操作機能は相互に干渉しあってしまうために、永久にクルクルと回り始めてしまいます。自然現象には人間が参加していないため、このような再帰性は生じません。
■フィードバック・ループの正と負の性質
永久ループというと、同じところをクルクルと回っているようなイメージですが、正確には異なります。
社会に参加している人間は、「本当の現実」を誰もわかりません。現実という全体の中の一部として人間が参加しているため、現実全体を把握できないのです。
そのため、認知機能にインプットしている「現実」は、正確に言えば「現実」ではなく「現実’」となります。
そのため、次のように認知機能と操作機能の相互ループによって、現実がどんどん変化していきます。
・f(現実’)⇒認識⇒g(認識)⇒現実”⇒f(現実”)⇒認識⇒g(認識)⇒現実”’…
株式市場で言えば、次の通りです。
・(現実’)Z社の株価100ドル⇒(認知)価値がある⇒(操作)買う⇒
・(現実”)株価が120ドルに上昇⇒(認知)価値がある⇒(操作)買う⇒
・(現実”’)株価が140ドルに上昇⇒(認知)価値がある⇒(操作)買う⇒…
ソロスはさらに洞察を進めて、再帰性のループには、次の2種類の方向が存在することを発見しました。
<負のフィードバック>
参加者の現実に対する見方が現実の状況に接近するという性質
<正のフィードバック>
参加者の現実に対する見方が現実の状況から乖離・拡大するという性質
【図解3】フィードバックの種類
正と負のイメージが湧きにくいかもしれません。正はプラスで、負はマイナスです。次のようにイメージしましょう。
<負のフィードバック>
「本当の現実」という円の大きさに対して、人間が認知した「現実’」の円の大きさが近づいていく現象
<正のフィールドバック>
「本当の現実」という円の大きさから、人間が認知した「現実’」がどんどん大きくなっていく現象
ソロスはこの2種類のフィードバックを、次のように考えました。
・負のフィードバックは自己修正的で、いつまでも続くことが可能である。
・正のフィールドバックは自己強化的でどんどん拡大していき、永続的ではない。やがて事象の参加者の認識が限界に達してしまう。
そしてソロスは、正のフィードバックは「バブル構造」そのものであると見なしました。最初は自己強化的にどんどん大きくなり、最後は自己破壊的に転ずるのは、金融市場におけるバブル構造そのものというわけです。
■ジョージ・ソロス発案「再帰的な株価モデル」の8段階
ソロスは再帰性理論をベースに、正と負のフィードバックが起きることも考慮して、株価モデルを発案しました。それがこちらです(書籍『ソロスは警告する』P125〜126より引用)。
<第1段階>
第一幕、つまり初期段階では、このトレンドはまだ理解されていない。
<第2段階>
続いて訪れるのが、加速段階である。その時にトレンドは理解され、市販的なバイアスによって強化される。この時点で、すでに株価は均衡水準から懸け離れてしまっている。
<第3段階>
その後、試練の段階がやって来て、株価は一時的に下落する。
<第4段階>
確立期。もしもバイアスもトレンドもこの試練を克服すれば、どちらもかつてないほど強くなり、結果的に均衡から懸け離れているはずの株価が、しっかり確立してしまう。
<第5段階>
だが、いずれは誇張された期待を、もはや現実が支えきれない正念場がやって来る。
<第6段階>
次が「黄昏(たそがれ)の期間」で、ゲームに参加し続けている者たちも、自分たちのやっていることの危うさに気づいている。
<第7段階>
とうとう転換点に到達し、トレンドは一気に下向きになり、バイアスも逆転する。
<第8段階>
その後に発生するのが「暴落(クラッシュ)」として知られる、破局的な下向きの加速だ。
第一幕、つまり初期段階では、このトレンドはまだ理解されていない。
<第2段階>
続いて訪れるのが、加速段階である。その時にトレンドは理解され、市販的なバイアスによって強化される。この時点で、すでに株価は均衡水準から懸け離れてしまっている。
<第3段階>
その後、試練の段階がやって来て、株価は一時的に下落する。
<第4段階>
確立期。もしもバイアスもトレンドもこの試練を克服すれば、どちらもかつてないほど強くなり、結果的に均衡から懸け離れているはずの株価が、しっかり確立してしまう。
<第5段階>
だが、いずれは誇張された期待を、もはや現実が支えきれない正念場がやって来る。
<第6段階>
次が「黄昏(たそがれ)の期間」で、ゲームに参加し続けている者たちも、自分たちのやっていることの危うさに気づいている。
<第7段階>
とうとう転換点に到達し、トレンドは一気に下向きになり、バイアスも逆転する。
<第8段階>
その後に発生するのが「暴落(クラッシュ)」として知られる、破局的な下向きの加速だ。
当初は、一株当たりの収益と株価の足並みは揃って上昇しています。しかしある時、突然、株価が一株当たりの収益の動きに対して、大幅に急騰します。その後、株価が大幅に下落して、一株当たりの収益を下回っています。
ソロスは、このモデルが左右非対称でないことに注目してほしいと言っています。
株価の天井は時間軸の中心よりも後ろにあり、株価が上昇する速度よりも下降する速度の方が速くなっています。少し相場の経験がある人なら、このモデルは正しいと直感的に感じるはずです。
第4段階で一気に加速して、株価が上昇していきますが、第6段階以降の下落の方がより大きく株価が変動しています。
ソロスは書籍『ソロスは警告する』の中で、再帰的な株価モデルが正しいことを証明するために、LTV社、オグデン社、テレダイン社のチャートを掲載していました。確かにこれらの株価チャートの形は、このモデルと同じ形になっています。
■再帰性理論は「効率的市場仮説」への反論だった!
書籍『ソロスの講義録』の中で、ソロスは次のように述べています。
私が自分の理論を新パラダイムとして提示したことは、時期尚早の誹り(そしり)を免れないでしょう。しかしながら、効率的市場仮説は徹頭徹尾間違っているということが証明されたのも、また事実なのです。(P86より引用)
ソロスは、効率的市場仮説への反論として、再帰性理論を提唱しました。
<効率的市場仮説とは?>
1960〜1970年代に米国で提唱されたもので、市場は効率的であり、どのような情報を利用しても、他人あるいは平均よりも高いパフォーマンスを一貫してあげることは不可能であるという説。そのポイントは…
・常に多数の投資家が収益の安全性を分析・評価している
・新しいニュースは常に他のニュースと独立してランダムに市場に届く
・株価は新しいニュースによって即座に調整される
・株価は常に全ての情報を反映している
…とされ、この効率的市場仮説は、今でも広く信じられている仮説です。しかしソロスの再帰性理論では、ことごとく効率的市場仮説を否定しています。反論している点をまとめると、次の通りです。
<ソロスによる効率的市場仮説への反論点>
(1)
全ての人間が本当の現実を理解できず、現実の一部しかわからないので、「現実’」として解釈している(社会的事象には可謬性がある!)
(2)
社会的事象は人間の持つ認知機能と操作機能が相互に干渉しあって現実に影響を与えながら、自己強化的に現実を歪めていく(社会的事象には再帰性がある!)
(3)
現実と人間との再帰的なループにより、現実が歪んでいき、本当の現実と現実’が大きく乖離して、時にバブルとなる。
(4)
バブル崩壊の過程では、株価は上昇する速度よりも下落する速度の方が速く、株価は実態よりも大げさに動く傾向がある。
(5)
「株価は常に全ての情報を反映している」わけではなく、再帰的に繰り返される正と負のフィードバック・ループにより、実体と株価は離れたり近づいたりを繰り返している。
再帰性理論の全体像をまとめた図解を下記に示します。
【図解4】再帰性理論のまとめ(3つのループ)
社会的事象は「認知機能と操作機能」「現実と現実’」「現実と人間」の3つのループによって、「本当の現実」と「現実’」が乖離していきます。それが時に「バブル」を引き起こします。
■今回のまとめ
ジョージ・ソロスの言葉「市場は常に間違っている」は、次の2つの原則に集約されます。
<金融市場の2大原則>
第1の原則
「市場価格は、その根本にあるファンダメンタルズを常に歪めるものである」
第2の原則
「金融市場は根底にある現実を反映するだけの受け身の存在ではなく、積極的な役割をも果たしている」
この2つの原則は、本稿で解説した「再帰性理論」から導かれたものです。
株価はランダムに動いているわけでも、ファンダメンタルズを完璧に反映しているわけでもありません。効率的市場仮説が間違っていて、社会的事象に再帰性があるからこそ、逆に私たちにもチャンスがあると言えます。
さて、次回のメルマガでは「ジョージ・ソロス発案の再帰的な株価モデル」を、過去に発生したリーマン・ショックや、日経平均株価の大暴落、中国株の大暴落などに当てはめてみて、本当に一致するのかどうかを検証していきます。ぜひ次回もご期待願います!
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