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経営危機にあるJR北海道。全線のおよそ半分の線区について「単独での維持は困難」と発表した(写真:CRENTEAR / PIXTA)
JR北海道を救うには「値上げ」こそが重要だ 利用者のためを考えるなら路線廃止よりいい
http://toyokeizai.net/articles/-/145757
2016年11月20日 梅原 淳 :鉄道ジャーナリスト 東洋経済
JR北海道は11月18日、利用者数の減少などにより「単独では維持することが困難な線区」10路線13線区を正式に発表した。
13線区の合計は1237.2キロメートルで、全線のおよそ半分にあたる。同社は、輸送密度が200人未満の3線区についてはバスなどへの転換について、200人以上2000人未満の8線区については上下分離や運賃値上げなどの方法により鉄道を維持する仕組みについて、地元との協議を開始したい意向だ。地元が廃止に合意している石勝線新夕張ー夕張間と、災害で不通となっている日高線鵡川ー様似間については、すでに協議を行っている。
■毎年90億円の返済は可能か
まさに、JR北海道は経営危機の真っ只中にある。前期(2016年3月期)決算で鉄道事業から生じる営業損失は482億8000万円となった一方、鉄道事業の営業損失を補てんする目的で民営化時に設定された経営安定基金からの運用益は349億1800万円に過ぎず、会社全体の経常損失は22億2400万円に達した。
国が支援装置を講じた設備投資助成金の72億1100万円を特別利益として計上した結果、55億8100万円の当期純利益が生じている。しかし、JR北海道の経営陣にとって、うれしいはずもない。2020年度まで実施される国の支援措置は総額1800億円に上る予定だが、そのうち900億円は無利子ながらも返済しなければならないからだ。
返済条件は10年据え置いた後、10年間で均等に返済していくという内容である。要するにJR北海道は2030年度以降の10年間、少なくとも90億円の経常利益を確保するか、または資産を取り崩すほか選択肢はない。後者の資産取り崩しは最終手段であり、存続のためには年間90億円以上の経常利益が必須となる。
鉄道事業で経常利益を生み出すには2つの方策しか存在しない。収入である営業収益を増やすか、もしくは支出である営業費用を減らすかだ。一般に、まずは支出削減だろう。JR北海道の鉄道事業における2015年度の営業費用は1251億2700万円であり、「8%程度の100億円くらい削るのは簡単ではないか」と思うかもしれない。
しかし、それは早計だ。
実はJR北海道の営業費用は、ほぼ限界まで削減し尽くされている。鉄道事業に関する国のデータがそろっている2013年度で比較してみよう。
この年、JR北海道の営業費用は1159億5968万9000円だった。営業キロは2499.8キロメートルなので、営業キロ1キロメートル当たりの営業費用は4万6388円ということになる。
これに対してJR東日本・JR東海・JR西日本のJR本州3社は合計で営業費用が3兆1226億7427万2000円だった。3社合計の営業キロが合計1万4499.1キロメートルなので、営業キロ1キロメートル当たりの営業費用は21万5370円だ。JR北海道の営業キロ1キロメートル当たりの営業費用は、JR本州3社と比べると5分の1に過ぎないわけだ。
無理をすれば、さらに減らすこともできるだろうが、軌道の保守は必要最小限になるため、安全のためには列車の速度を落とさなくてはならないだろうし、路線によっては雪が降っても除雪ができず、冬季運休も検討せざるをえないだろう。
もちろん、18日に会社側が正式に発表したように、利用者が少ない区間の営業廃止や上下分離はきわめて有効だ。とはいえ、沿線自治体からの反対にも直面するだろう。確実に実施できるかどうかは不透明である。
■運賃の値上げも必要だ
つまり、JR北海道が存続していくためには営業廃止や上下分離だけでなく、増収、それも利用者増ではなく運賃の値上げによる増収がきわめて重要な手段と言っていいだろう。
だが、運賃の改定は非常に評判が悪いうえ、現実にはJR北海道の営業収支を均衡させる運賃を国が認可することはまずない。JR旅客会社の運賃は総括原価方式の下での上限価格制を採用し、基準となる単価やコストはJR旅客会社同士で比較するヤードスティック方式を採り入れているからだ。
とはいえ、運賃を改定できなければJR北海道の明日はない。では、JR北海道にとって適正な運賃とはどのような水準であろうか。2013年度の国のデータをもとに試算してみたい。
JR北海道の旅客運輸収入(2013年度)は670億7006万1000円、そして営業収益は759億1990万8000円、営業費用は1159億5968万9000円。営業損失は400億3978万1000円と巨額に上る。
ここで注目すべきは、旅客1人当たりの旅客運輸収入の内訳。料金(特急料金や特別席など)を含む定期外運賃が1003.0円あるのに対し、定期運賃は143.3円に過ぎない。そして輸送人員で41.5%に過ぎない定期外運賃の利用者による旅客運輸収入が全体の83.2%に達しているのだ。
「定期運賃の少なさ」はJR北海道の苦境を語るうえで欠かせない。「地域の足」とはいうものの、実質的には観光客といった一見さん頼みの鉄道事業であることが明らかだ。
ちなみに、定期外運賃の利用者の平均乗車キロは50.5キロメートルで、札幌-新千歳空港間の46.6キロメートルとほぼ同じだ。この区間の運賃は1070円(46〜50キロメートルの930円に特例で140円を加算したもの)と、料金を含めた定期外運賃の1003.0円という数値に酷似している。
極論ながら、JR北海道の収入の過半数はこの区間から得られたものだと言っていい。
■現在の1.22倍の運賃で収支均衡
今回の試算では運賃を定期外、定期の別に分け、それぞれの輸送人員の比率に注目した。求められる旅客運輸収入をこの比率で運賃の種類別に分配した結果、求められた旅客1人当たりの旅客運輸収入が適正な運賃だ。
なお、わかりやすいように旅客運輸収入は営業収益と等しいと考えたが、実際には営業収益の部には手小荷物運賃、鉄道線路使用料収入、運輸雑収が含まれる。それからもうひとつ、国土交通省の統計には料金を支払って乗車した旅客の輸送人員や旅客人キロについては記載されていない。従って、定期外運賃とは料金を含めた定期外運賃と見なした。
営業収支を均衡させるに当たって、まずは経営安定基金の運用益を考慮した適正運賃を求めてみよう。
2013年度の経営安定基金の運用益は341億7300万円であった。したがって、営業費用の1159億5968万9000円から341億7300万円を差し引いた817億8668万9000円が目標とする旅客運輸収入となる。
輸送人員などほかの要件が変わらないという前提だが、この目標を達成するには、運賃を1.22倍に引き上げればよい。定期外運賃を例に挙げると、札幌-新千歳空港間は現行の1070円から1223.1円になる。
しかし、収支均衡だけでは、まだ足りない。前述のように、2030年度以降は毎年90億円を国に返済しなければならないからだ。そこで今度は、目標とする旅客運輸収入も、さらに90億円増やした907億8668万9000円として試算してみよう。
この試算では、1.35倍の運賃値上げが必要になる。つまり、札幌-新千歳空港間の定期外運賃は1357.7円になる。
さらに過酷な条件として、運用難により経営安定基金の運用益はゼロとし、そのうえで毎年90億円返済することを仮定してみよう。このケースでは、営業収支を均衡させるための旅客運輸収入は1249億5968万9000円となる。その場合に必要な運賃は現行の1.86倍だ。札幌−新千歳空港間の定期外運賃は1868.8円にハネ上がる。
■安い運賃を残すのか、JR北海道を残すのか
試算を振り返ると、定期外運賃は最初に挙げた1.22倍でも相当に上昇したように感じられるはずだ。一方で、定期運賃は通勤定期、通学定期とも、ほかの交通手段と比較すれば十分に割安だろう。
現行の運賃制度の場合、通勤定期乗車券で幹線に16.5キロメートル乗車したときの定期運賃は1カ月で1万1520円である。16.5キロメートル乗車したときの幹線の定期外運賃は360円で、360円×30日×2回=2万1600円と比較すると割引率は47%と極めて高い。
3番目の運用益を期待しない条件の場合、幹線に16.5キロメートル乗車した際の1回当たりの通勤定期の運賃は、現行の1.86倍である294.7円となる。この金額をもとにした1カ月の通勤定期乗車券の運賃は1万7682円だ。定期外運賃(現行の1.86倍で計算した場合の1カ月分は4万176円=360円×1.86倍×30日×2回)に対する割引率は56%にもおよび、現行の運賃制度よりさらにおトクになってしまう。
バス事業者の場合、通勤定期運賃の割引率は25%程度である。3番目の条件はJR北海道にとって、もはや緊急事態だ。通勤定期運賃の割引率は25%もあれば御の字だろう。
定期運賃にも手を付けなければならないことは明らかなのではないか。しかも、この試算では利用者数は2013年度と同じであることを前提としており、人口減少や運賃値上げによる影響を考慮していない。状況は、もっと深刻だ。
今後は18日に明らかにされた通り、路線廃止や上下分離が地元との交渉の軸になるだろうが、運賃値上げを組み合わせることで存続できる路線もあるはずだ。現行の運賃認可制度のもとで改定が難しければ、冬季割増料金や、設備の改修が必要な線区に対しては鉄道整備料金といった各種料金の導入も検討されていいのではないか。いずれにせよ、JR北海道の営業収支均衡化に向けての議論が活発に行われることを期待したい。
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