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ランプ氏が大統領就任後に選挙時の公約を守るとすれば、アメリカは自らの手で推進してきたグローバル化に幕を引くことになるだろう
水野和夫氏「トランプ後の世界は中世に回帰」 アメリカは自らグローバル化に幕を引いた
http://toyokeizai.net/articles/-/145510
2016年11月18日 水野 和夫 :法政大学教授 東洋経済
今回、ほとんどの人が予測できなかったトランプの大統領就任。これまで、多数の著書の中で成長信仰への批判と資本主義の限界を訴えてきた水野和夫氏は、この出来事が、マイナス金利の導入やイギリスのEU脱退にも見られる、現代世界に流れる新たな潮流、「中世への回帰」の1つなのではないかと指摘します。
現代を生きる私たちは、今日よりも明日がよりよくなることを疑わず、日々生活しています。こうした「成長への信仰」は、20世紀における人口の大量増加と、それに伴う資本主義システムの確立によって成り立っています。しかし、今後も世界は成長を続けていくと断言することはできるのでしょうか。
■現代社会は、再び「ゼロ成長」の時代へ戻っていく
日本やドイツのマイナス金利導入、先進国における人口減少予測、そしてイギリスのEU離脱などを見るにつけ、世界がこれまでと変わらない歩みを続けていくことをにわかに信じることはできません。先進国の人口が減少に向かい、そして経済が成長を止める中、世界はいったいどこへ導かれていくのでしょうか。
私は、現代社会と中世ヨーロッパとの間にいくつかの共通点を見出し、現代は今まさに、「中世への回帰」という流れの中にあると考えています。
経済の観点から見ると、ヨーロッパ中世(500〜1500年)はゼロ成長の時代でした。西ローマ帝国が滅んだ直後から中世が終わるまでの間(500〜1500年)、世界の1人あたりの実質GDP成長率は、わずか年0.03%(500年間で1.35倍)です。
それが近代(1500〜2010年)になると、実質GDP成長率はぐんと上がり、年0.22%となります(同期間で26.9倍)。特に第2次世界大戦後の1950年から、石油危機直後の1975年までの成長率は著しく、世界の1人あたりの実質GDPは年3.4%となりました。
ところが、日本が金融危機に直面した1997年から2015年までの1人当たり実質GDPは、年0.6%です。名目GDPで見ると、同期間で年マイナス0.6%になります。中世の成長率よりはまだましですが、名目利子率から期待インフレ率を差し引いた「自然利子率」がゼロ、ないしはマイナスであることを考えると、今後は中世のような定常経済と大きくは変わらない状況になると予想されます。
人口減少社会が到来していることも、中世に共通しています。中世の人口は、減少してこそいないものの、その増加率は年0.08%と、ほとんどゼロ成長でした。一方、近代(1500〜2015年)の人口増加率は年0.54%で、とりわけ戦後(1945〜1975年)は年1.82%と、人口爆発の時代となります。そして、それは同時に資本主義の黄金時代でもありました。
しかし、これは例外中の例外です。21世紀の前半に入ると、人口増加率はあっという間に減速し、2015〜2050年には年0.80%になると予想されています。産業革命から第2次世界大戦まで(1850〜1945年)の増加率、0.66%とほぼ等しくなるということです。
21世紀の後半には、年0.28%の増加率となり、産業革命前(1500〜1850年)の増加率である年0.29%とほぼ同水準です。現代でも人口が増加を続けているアフリカを除けば、さらにマイナス0.12%となり、ついに世界が人口減少の時代を迎えることになるのです。
■イギリスのEU離脱も「中世への回帰」の一潮流だ
2016年6月23日、イギリス国民はEUからの離脱(Brexit)を選択しました。これも「中世への回帰」の動向から理解することができます。EUはEuropean Union(ヨーロッパ連合)の略であり、ヨーロッパは「中世の創造物」だからです。これを理解するためには、まずヨーロッパという概念がいつからでき上がってきたのかを検討していく必要があります。
ヨーロッパは、地中海世界と北部ヨーロッパが一体化する過程で、徐々にその姿を現してきました。その原型は、およそ800年前にあり、現在のドイツ、フランス、ローマを含む北部イタリア、そしてバルセロナを含む北部スペインにあたる地域でした。そこで重要なのは、その中にイギリスが含まれていなかったことです。
この史上初のヨーロッパ形成体は、アラブ人が地中海を閉鎖したことで崩壊しました。現在のヨーロッパの大きな課題の1つであり、イギリスのEU離脱の原因の1つともなったのが、アラブや東欧からの移民問題であることを思うと、中世と同じ問題に直面していることが分かります。
ヨーロッパへの脅威は、いつも東から来ます。北は北極海、南はサハラ砂漠、西は大西洋といった天然の要塞で守られているのですが、東は無防備なのです。EUの中で人の移動を自由にした結果、「陸の国」である東欧や中東からの移民流入に対して、「海の国」イギリスは自国の秩序が守れなくなったので、EU離脱を選んだのです。
一方、アメリカにおけるグローバリゼーションの幕引きは、オバマ大統領から始まったといえます。クリントン、ブッシュ大統領が続けてきたグローバリゼーションは、イスラームの反撃という形で世界の平和秩序を破壊するようになりました。
■アメリカ国民がトランプを支持するのは必然だった
オバマ大統領は、このことを受けて、アメリカが「世界の警察」であることを辞めると宣言したのです。しかし、平和秩序を保たないものが、経済秩序だけを保つことはできません。あの発言から、グローバリゼーションの終わりが始まりました。
そして2年前、ピケティ氏の「1%対99%の格差」の言説は、グローバリゼーションを通して貧困に苦しむ多くの人々に「反エスタブリッシュメント(反既存体制)」という目標を与えました。現状を維持しようとするクリントン氏と、反資本主義、孤立主義など、この反エスタブリッシュメントを支持する人々の心に響くフレーズを連呼したトランプ氏が戦った大統領選において、国民がどちらを選択するかは、明白でした。
そして、トランプ氏が大統領として選挙公約を守るとすれば、アメリカは自らの手で推進してきたグローバリゼーションに幕を引くことになるのです。
ドイツの法学者であり、政治学者でもあるカール・シュミットは、世界史は「陸と海との闘い」であると定義しました。市場を通じて資本を蒐集するのが「海の国」であるのに対して、「陸の国」は領土拡大を通じて富を蒐集します。どちらも蒐集の目的は、社会秩序の維持です。
フランク王国に起源をもつヨーロッパは「陸の国」ですが、近代を作ったのはオランダ、イギリス、アメリカといずれも「海の国」です。「陸と海との闘い」において、近代とは「海の国」の勝利の時代でした。
しかし、今はそれが揺らいでいます。「海の国」がもっとも恐れていたこと、すなわち世界最大の大陸であるユーラシアの一体化が現実味を帯びてきたのです。
そしてまさに、米大統領選においても、トランプが大統領に就任したことによって、TPPをはじめとしたグローバリゼーションは収斂に向かい始めました。「海の国」である英米が、グローバリゼーションを推進することにより、地球が1つになったかに見えたまさにその瞬間、「陸の時代」へと逆向きの力が作動し始めたというわけです。これも中世への回帰の流れの1つと言えます。
19世紀半ば以降、蒸気の力を得て発達していった近代社会の原理は、「より早く、より遠くに、より合理的に」でした。そしてそれは、資本経済社会を支配してきた「成長」という概念にほかなりません。
■21世紀は「よりゆっくり、より近く、より寛容に」
しかし、「より遠く」は、太平洋をノンストップで飛行するジャンボジェットの引退で、「より速く」は、大西洋をマッハ2で横断したコンコルドの運航停止で、そして「より合理的に」も、最も効率的エネルギー源であった原子力工学における安全神話が、2011年の東日本大震災で自然の力の前にあっけなく崩壊したことで、それぞれ限界を迎えたと言えます。
もはや「物理的・物的空間」にはそれらの成長を実現する場所はありません。
21世紀のシステムは、20世紀の延長線上ではなく、潜在成長率がゼロであるということを前提に構築していくことが必要です。それにのっとれば「よりゆっくり、より近く、より寛容に」が、21世紀の原理であるのです。
これを資本主義の中核を担っていた株式会社に当てはめれば、減益計画で十分だということ、現金配当をやめること、過剰な内部保留金を国庫に戻すことです。
おそらく2020年の東京五輪くらいまでは、「成長がすべての怪我を治す」と考える近代勢力が力を増していくでしょうが、それも向こう100年という長期のタイムスパンで見れば、ほんのさざ波に過ぎません。この22世紀へ向かう大きな潮流こそが、「中世への回帰」であるといえるのではないでしょうか。
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