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NYダウは最高値、ドル高と「トランプ相場」は想定以上に強い。だが懸念材料が消えたわけではなく、好調な相場はいったん終了か(写真:Abaca/アフロ)
「トランプ相場」はいったん終了の懸念がある 長期では米国株も米ドルも上昇の可能性
http://toyokeizai.net/articles/-/144904
2016年11月13日 馬渕 治好 :ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト 東洋経済
トランプ氏が、米国の次期大統領に決定した。そのこと自体が意外であったかどうかは別として、その直後の日本株の暴落や急速な円高は、事前に「トランプがもし当選すれば、市場は不透明感から波乱に見舞われるだろう」として唱えられていたような市場の動きであり、意外性は乏しかったと言える。また、「いずれ内外株価や外貨相場は、落ち着きを取り戻すだろう」という見立ても、かなり広い範囲で共有されていた感が強い。
■想定外に強い「米大統領選後」の相場
しかし、早々に投票翌日から、米国株価が上昇色を強め、ニューヨークダウ工業株指数が史上最高値を更新していることについては、株価の戻りがこれほど早いと見込んでいた向きは極めて少なかったのではないだろうか。
またそれにつれて、米ドルの対円相場も、急速な戻りとなった。加えて、内外株式市場では、たとえばトランプ氏が「インフラ投資に力を入れる」と語ったことを受けて、個別に建機などのインフラ関連銘柄が買い上げられている。全体観による株価上昇だけではなく、個別銘柄にも買いが入っているというのは、投資家の積極的な姿勢が表れていると言える。
長期的な観点では、トランプ政権は、経済面に限れば、事前に懸念されていたほどひどい政権にはなりにくいだろう(外交や安全保障、米国内で表面化した階層間の対立といった点については、他の専門家に論を譲りたい)。というのは、トランプ氏は実業家であるため、経済的な感覚を全く欠いているということはないし、そもそも経済を活性化したいはずであるからだ。
加えて、米国は「ポリティカル・アポインティー」(政治任用制)の国だ。すなわち、政権が交代すると、各省庁のトップはもちろん、少し下の階層まで、管理職が一気に交代する。
現在ホームページでは、トランプ氏の政権移行チームは、4000人以上の希望者を募っている。これをチャンスと見て、有能で前向きな人たちが、決してトランプ氏自身の方向性には共感をしなくとも、登用を希望してくる。優秀なスタッフが集まり、新大統領に進言すれば、非常識な政策はとられにくくなる。
またそもそも米国は、民間企業が政府を当てにせずに、自力で利益成長を目指す文化がある。経済政策が経済に全く無縁だとは言えないが、民間主導の米国経済の長期成長、という姿は揺らがないだろう。
この点で、長期的には米国株価の上昇や米ドルの上昇(ただし極めて緩やかなもの)を予想しているが、目先の相場は、反動安をみせる恐れが十分残っている。
■プラス面だけを見て「先走る市場」のリスクに注意
たとえば全体観としては、選挙戦が中傷合戦の様相を帯び、具体的な政策論争に至らなかったため、市場はこれまでのトランプ氏の発言などから、将来の政策を予想し、経済にプラス、特定の産業にプラスとして、先走っている。
しかしトランプ氏が、現実を踏まえ、自身の過去の発言から路線変更する可能性がある。あるいはトランプ氏自身は、これまでの発言に沿った政策を打ち出そうとしても、周囲のスタッフや議会共和党(特に穏健派)に、翻意を促される展開もありうるだろう。
個別の政策をみると、インフラ投資の拡大は、おそらくありうるだろう。現時点では、交通インフラを中心に、5500億ドルの投資を行なうとの意向が表明されている。
また、法人税の減税の方針も、今のところ強く打ち出してきている。これが経済全般にプラスだとして、株価は上昇し、長期金利も10年国債利回りが2.0%を超えてきている。米ドル相場は、米国経済の拡大、米株価の上昇、それを受けた自然な金利上昇と解釈し、今のところ対円で強含んでいる。
しかし、公共支出を拡大し減税すれば、財政赤字が拡大する(もちろん、そうした財政政策により景気が拡大し、法人税収や所得税収が自然に増えて、財政が改善する、という可能性はゼロではないが)。こうした解釈が主流となってくれば、長期金利の上昇は財政悪化要因によるという「悪い金利上昇」と理解されて、米ドルの売りにつながる展開が否定できない。
また、長期金利の上昇が緩やかであればよいが、急速なものとなると、それが株価を押し下げ景況感を悪化させうる。この場合も、米ドル安の局面が生じそうだ。
そもそも為替相場については、トランプ氏の姿勢が米輸出産業の雇用を守る、という立ち位置であるため、米ドル高けん制はたびたび行なわれるものと懸念される。
金融業界の規制緩和が成るかどうかも、注目される。2008年のリーマンショック時の反省に立って、ボルカールールなどにより、金融機関の自己資金運用などを縛ってきたのが、オバマ政権の基本路線だった。
トランプ氏はこうした規制を緩める方向だと表明しているため、直近では、市場は金融株などをはやし、買い上げる動きを示している。
■不満の矛先が向かいやすい金融界に肩入れできる?
ただし、トランプ氏が支持された背景には、格差に対する不満があることを忘れない方がいい。
格差に対する不満の矛先は、2011年の「ウォール街を占拠せよ」の運動にも表れていたように、金融証券界に向かいがちだ。こうした世論を背景として選ばれたトランプ新大統領が、金融・証券界に肩入れするようにみえる政策をとることができるかどうか、個人的には大変疑問視している。
もし筆者の見立てが正しければ、金融株は反落を余儀なくされるだろう。また、現在の米国株式市場全般に、金融証券界の運用規制緩和により、リスクマネーが大いに流れ込むという期待があるのなら、それも裏切られる恐れが強い。
以上のように、トランプ新政権下の米国株式市場や米ドル相場、あるいはそれを投資環境とした日本株などの行方については、長期的には楽観しているものの、当面は警戒姿勢を解くべきではないと考えている。
さて、今週の国内株式市況だが、市場を大きく左右するような材料(イベントや経済指標など)が見出しにくい。前述のような、トランプ新政権の今後の経済政策についての思惑に、日米の株式市況や米ドル円相場が動かされる展開となろう。
今週の日経平均株価は、足踏み色を強めると考え、レンジとしては、1万7100〜1万7600円を予想する。
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