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【第33回】 2016年11月10日 沖有人 [スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント]
「マンション暴落論者」がオオカミ少年である決定的な理由
「2020年の東京オリンピック後にマンション価格が暴落する」など、世間にマンション価格を巡る下落の希望的観測は少なくない。そう言いふらす人たちには、どんな根拠があるのだろうか?
「2020年の東京オリンピック後にマンション価格が暴落する」「東京オリンピック開催を待たずに、マンションが大崩壊を迎える」など、世間にマンション価格を巡る下落の希望的観測は少なくない。
こうした人は常に過去の価格を引き合いに出して「今のマンション価格は高い」と言うが、実際には価格が調整されたことなどない。過去と比べて人件費や資材調達などの上昇に伴い、相対的に価格が上がっているからだ。価格は何らかの理由があって、変動するものである。
今回は、マンション価格がなぜ下がりにくいのかについて取り上げることにする。
「五輪後にマンション暴落」説の真贋
実は新築マンション価格は下がらない?
新築マンション価格は土地代+建築費+粗利益の合計によって決定される。土地の仕入れは1年以上前から行われているので、価格が下落し始めたとしても仕入れの方針転換はすぐにはできない。おおよそ2年前に仕入れた土地が今分譲されているのが実態だからである。
東日本大震災からの復興と2020年東京オリンピックの開催で需要が旺盛な建設市場では、建築費も当面下げる見込みはない。事業予算上の販売価格は土地の仕入れの段階でほぼ確定している。その意味で2018年まで新築価格が下がる理由はない。
以前は売れ行きが悪くなると、利益を削って売っていたものだが、今はその可能性も低い。なぜなら、供給者側は供給戸数を絞れば価格を維持できるからである。新築供給を減らせば、需給バランスが改善され、価格はわざわざ下げなくてもよくなる。これは過去に何度も起きていることである。
特に、大手供給事業者が以前の財務基盤が脆弱な新興系の専業デベロッパーから財務力のある財閥系事業者に変化した今、その傾向は顕著である。
2008年のリーマンショック後の1年間は新築マンションの価格を下げたものの、財務力の乏しい新興系の専業デベロッパーが多数倒産したために、供給戸数が以前と比べて3分の1まで減少し、その後は価格が下がらなかったこともある。
「リーマンショックで不動産価格が暴落した」という話は自宅中心のマンション市場には当てはまっていない。リーマンショックから価格は下がり始めたが、底を迎えるまで4年を要している。その下げ幅は新築で13%、中古で7%となっている。100年に一度の金融ショックでもこの程度だった。
このように、新築マンションは売れ行きに合わせて供給戸数をコントロールすることができ、市場が悪くてもすぐには価格を引き下げなくても済む。2016年に入ると、前年比で20%以上供給戸数が減っているので、売れ行きは確かに悪いが、供給戸数を減らした分だけ価格の安定化が図られているのが現状である。
いつの時代でも供給戸数と物件価格は反比例する関係にある。すなわち、供給が増えれば、価格は下がる。供給が減れば、価格は下げ局面でも下がりにくくなる。それを以下の「供給戸数と分譲価格の反比例グラフ」で表わした。
「供給戸数×物件価格=市場規模」の数式はいつでも一定である。つまり、5000万円×5万戸=2.5兆円という市場規模としよう。もし物件価格が6000万円になれば、供給戸数は2.5兆円÷6000万円=4.2万戸に減ってしまうのである。まず私たちがすべきことは、正確に事実を把握することであり、そこから戦略を立てればいい。
◆図1:供給戸数と分譲価格の反比例グラフ
(注)右側の軸が逆なので逆相関です。
(出典)不動産経済研究所からスタイルアクト作成 拡大画像表示
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自民党総裁任期が9年に延長されると
不動産価格は高止まりか?
最近、不動産価格に大きく影響を与える出来事が報道された。その報道の内容が実現すれば、マンション価格は暴落どころか、東京オリンピック以降も高止まりする可能性があるので、詳しく説明しておこう。
連載第23回『バブル気味の不動産価格がなぜか弾けない「5つの理由」』では、不動産価格がまだ上がる要因として5つのポイントを挙げた。それが以下だった。
・民泊で賃料が上がる……世界的なシェアリングエコノミーの流れ
・金融緩和はまだ続く……金融政策
・局所的に人口は増える……人口動態(たとえば東京都区部)
・世界的に見れば東京はまだ安い……グローバルな投資マネー(円安になると加速する)
・資産は高齢者が持っている……節税市場の台頭(たとえば相続税の問題)
この中の金融緩和はアベノミクスの3本の矢の1つであり、不動産価格が金融緩和で上昇することは以下のグラフで何度も説明してきた。
◆図2:マンション価格と金融緩和の関係
(出典)日本不動産研究所、日本銀行からスタイルアクト作成 拡大画像表示
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そこに、2期6年の自民党総裁任期が延長されるという報道が出てきている。これまで安倍首相の任期は2018年までと思われていたが、3期になると安倍政権は2021年まで続くことになる。これに伴って、日銀総裁の人事も影響を受ける。日銀総裁の任期は5年だが、黒田総裁が再任される、もしくは黒田総裁と同様のポリシーを持つリフレ派が総裁に就任する確率が上がり、2023年まで金融緩和が続く可能性が高まる。そうなると逆に不動産価格は、東京オリンピック後も高止まり傾向を想定しなければならなくなるだろう。
1980年代のバブル期は、地価が際限なく上昇を続けたことが要因となり、バブル崩壊後は金融機関がお金を貸さなくなったことで地価の下落が止まらなかった。バブル期と現在の違いは、不動産鑑定評価の手法にある。
不動産評価の手法としては、(1)取引事例比較法、(2)収益還元法、(3)原価法の3つが使われている。以前は(1)の取引事例比較法が主流(と言うより、それしかなかった状態)であった。つまり、隣の土地が1年で2割上昇すれば、周辺の地価も2割の上昇を余儀なくされたのである。しかし、この手法で評価すると、不動産価格が際限なく上がり続けることが可能になり、結果的にバブルを生んでしまった。
今は(2)の収益還元法で不動産価値は評価される。これは、将来得られるべき資産価値を予測し、現在の価値に割り戻してどれだけのキャッシュを生み出すかで不動産の価格を決める方法である。その割り戻す利回りは上下に変動しても、市場の原理が働くので、上限や下限の値には暗黙の了解が存在している。すなわち、不動産価格が過熱することがあっても、今がバブルと言えるような水準ではないため、大幅に価格を下げるということもあり得ないのである。
中古価格は「売り止め」頻発で高原状態
分譲年と中古騰落率で資産の明暗がわかる
自宅を購入する上で1〜2割の頭金以外は住宅ローンを組む人が少なくない。自宅の売却時には住宅ローンは全額返済する必要がある。たとえば、頭金が1割の人は物件価格が1割以上値下がりすると買ったときよりも価格が安くなり売却損になるため、売るに売れなくなってしまう。結果、マンション価格が一気に下がることはなくなる。なぜなら大幅に下がると売り物件が少なくなるからだ。
とはいえ、アベノミクスで総じて含み益が出たマンション購入者は非常に多い。東京23区内に2001年以降に購入した人は、平均で5%以上の含み益が出ている。10%以上の含み益が出ている行政区は7つに上り、都心で買った人ほどその含み益の幅は大きい。逆に23区内でも10%以上含み損を出した足立区のケースもあるので、購入するエリアの資産性は非常に重要である。
もう1つ重要な要素に購入時のタイミングがある。リーマンショック直前の2007〜08年は含み益を出しにくい時期であったことは以下のグラフから明白である。つまり、エリアの中古騰落率と分譲年の関係で資産の明暗が分かれる。マンション所有者と話をするとき、「いつ、どこで、買いました?」と聞くだけでその人が資産に余裕があるかどうかを瞬時に判別できるのは、この数字に基づいている。
◆図3:分譲年×都県別中古騰落率
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自宅は3000万円までの含み益
が譲渡所得控除で無税に
値上り幅の大きい市区町村は都心3区で、港区では平均21%の含み益が出ている(下表参照)。都県別中古騰落率で含み益が出にくかったリーマンショック前でも含み益が出ていた。プラスの最高値は30%を超える。購入価格が1億円の場合は含み益が3000万円であり、自宅の場合、3000万円までの含み益は譲渡所得控除で無税になる。売却で同額の資産を積み増すことが可能である。
◆表4:分譲年×市町村別中古騰落率
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もし、住まいの資産について各行政区単位で閲覧したい場合、スタイルアクトが運営する「住まいサーフィン」上にある特設ページを活用してほしい。閲覧するとわかるように、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)と、近畿圏(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県)の分譲年別騰落率について、200以上の市区町村が網羅されているので、ご自身の住まいが含み益があるかどうかについて容易に判別できる。
また、ご自身の住戸の取引想定価格は住まいサーフィン上の自宅査定で「マンション名+号室」で瞬時に算出される。自らの資産管理は含み損益を含めて定期的に把握しておいた方がいいだろう。
たとえどんなに含み益があろうとも、売却しないと実現益にはならない。しかし、人は行動経済学で言う「アンカリング効果」の影響を少なからず受ける。アンカリング効果とは、提示された数値が基準点(アンカー)となり、判断に影響を及ぼすことである。つまり、3000万円の含み益があればそれより少なくなると損をしたかのように感じる。
こうなると、売却期限を持たない人はいつまでも夢を見るか、売り止めをする(売るのをやめる)ことが多くなる。客観的には儲かっている人なのに、欲の皮だけは突っ張っている状態が続くので、成約価格は下がりにくい。
◆図5:都心3区の成約と在庫の平方メートル単価の推移
(出典)東日本流通機構からスタイルアクト作成 拡大画像表示
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自宅マンションは価格が
下がりにくい安全資産である
最後にまとめると、次のようになる。
自宅用のマンション価格が下がりにくいのは、新築の供給者側の「供給調整で価格は下げない」という論理と、中古の供給者側の「含み益の最大値からすると下げたくない」というアンカリング効果によるところが大きいことを見てきた。
これに加えて、住宅ローンを借り入れる際には団体信用生命保険(死亡保険金でローンを完済する商品、略して団信)に加入するため、働き手が亡くなっても自宅の売却を余儀なくされることはない。これは、自宅用のマンション価格が市場で暴落しにくい大きな要因になり得ている。
このように自宅資産の価値が緩やかに上昇していくことは非常に良いことだと私は考えている。なぜなら資産価値の上昇に伴い、所有資産が増加し、働かずして資産形成やキャッシュを生み出してくれるからである。資産価値が上昇することは、少子高齢化社会で働き手が減少し続けている国に残された富を生み出す有効な手段である。これは働き手でなくなった人ができるという面からも促進すべきであろう。
不動産を持つリスクを過剰に怖れることはない。それよりも、むしろリスク管理する知恵を学習したほうが将来の備えに役立つと思う。
http://diamond.jp/articles/print/107337
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