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太平洋上から眺めた東京電力福島第1原子力発電所(2016年2月22日撮影、資料写真)。(c)AFP/TOSHIFUMI KITAMURA〔AFPBB News〕
原発廃炉費用の転嫁で電気料金はどれだけ増えるのか 賠償費用も転嫁されると家庭の負担はさらに増加
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48303
2016.11.7 加谷 珪一 JBpress
東京電力が廃炉問題をめぐって揺れている。これまで総額2兆円程度とされていた廃炉費用が大幅に膨れあがる公算が高まってきたのがその理由である。廃炉費用をすべて東電が負担するということになると、同社の財務体質は急激に悪化する可能性が高い。
今のところ政府は東電が経営努力で負担するという姿勢を崩していないが、福島第1原発以外の廃炉費用については、費用の一部を利用者に転嫁する方針がすでに提示されている。福島第1原発の廃炉費用についても、最終的に利用者負担となる可能性について指摘する報道も出ている。東電の現在の財務状況と廃炉費用について整理してみた。
■廃炉費用の総額は4兆円?
東京電力は、福島第1原発の廃炉や賠償に伴う費用として年間約4000億円程度を支出している。内訳は、廃炉費用が800億円、賠償費用が1200億円、除染などその他費用が2000億円となっている。
福島第1原発の廃炉には30〜40年の期間が必要とされているが、仮に年間800億円の廃炉費用が継続した場合、総額では2兆4000億円から3兆円2000億円の費用がかかる計算になる。
東電と政府は現在、廃炉費用として総額2兆円程度、被災者への賠償と除染に総額9兆円程度の支出を見込んでいる。現状の支出規模が維持され、廃炉作業や除染作業が30年で済めば想定範囲に近い水準で一連の処理を実現できる。だがこの見通しは、ほぼ実現が不可能となりつつある。
経済産業省は10月25日、「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」の会合において、福島第1原発の廃炉費用が大幅に増加するとの試算を提示した。それによると、現在、年間800億円程度となっている廃炉費用は、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しが本格化することなどから、今後、年間で数千億円程度に膨れあがる可能性があるという。
数千億円という極めて曖昧な表現であり、この試算だけでは廃炉の総額がいくらになるのかは分からない。最終的には総額が2倍以上になるとの話も出ており、それが事実であれば廃炉費用は総額で4兆円を越えることになる。
今のところ政府は、基本的に東電が経営努力によってこれを負担するという姿勢を崩していないが、4兆円が事実だとすると、東電にとっては現実的にかなり厳しい状況に追い込まれる。
■廃炉費用を会計上どう処理するか
東電は福島第1原発事故に伴い、2011年3月期決算で約1兆2500億円、2012年3月期決算で約7800億円、2013年3月期決算で約6900億円の純損失を計上した。だが、2014年3月期以降の決算では黒字化している。これは2012年9月に実施された家庭向け電気料金の値上げの影響が大きく、電気料金の値上げという事実上の国民負担の増加によって、何とか東電の経営を維持しているというのが現状だ。その効果もあり、事故直後には5%まで低下した自己資本比率も2016年3月時点では16%を超え、事故前の水準に近づきつつある。
だが、本当の意味で東電は黒字化を達成したとは言い難い。事故後に計上した損失の多くは災害に伴う特別損失であり、一連の決算には事故の損害賠償は反映されていないからだ。損害賠償に必要な資金は事実上政府が肩代わりし、これを東電が長期にわたって返済するというスキームがすでに確立しており、財務体質が悪化しないよう工夫されているのである。
政府は2011年9月に「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」を設立し、機構を通じて巨額の賠償費用の立て替えを行っている。東電はすでに賠償費用約6兆円を損失に計上したが、その分は機構から交付された交付金で相殺する形になっており、同社の決算に影響を与えない仕組みになっている。最終的な賠償費用は東電が長い期間をかけて負担金という形で機構に支払いを続けていくことになる。
それだけではない。廃炉費用はこれまで費用の総額がはっきりしていなかったことから、正式な債務としては認識されておらず、同社のバランスシートには計上されていなかった。だが、ここで廃炉の費用が大幅に増大するということになると話は変わってくる。4兆円の廃炉費用の負債計上リスクが一気に高まってくるのだ。
経済産業省は2015年に省令を施行し、廃炉会計のスキームを措置しているが、これは廃炉に伴う減損が対象であり、長期にわたって発生する廃炉費用を念頭に置いたものではない。
このところLNG(液化天然ガス)の価格が下落していることから、電気料金は下落傾向を強めており、今後、収益が大幅に拡大するシナリオは描きにくなっている。同社の2016年3月期の純利益は1400億円しかなく、東電の経営努力だけで廃炉費用の追加原資を捻出するのは難しいだろう。
■柏崎刈羽の再稼働は振り出しに
東電は当面の解決策として原発の再稼働に大きな期待を寄せ、現在、停止中の柏崎刈羽原発をできるだけ早く再稼働させようとかけずり回っていた。その最大の理由は廃炉費用の捻出である。
原発は止まっていても莫大な費用がかかる。現在、東電が原発関連で支出している経費は年間約6000億円となっており、これが同社の収益の足を引っ張っている。現在、先行して安全審査が進められている柏崎刈羽の6号機と7号機を稼働させることができれば、筆者の試算では約2500億円程度の利益上乗せが可能だ。
だが、新潟県知事選の結果でこの筋書きも怪しくなってきた。10月16日に行われた新潟知事選では、原発再稼働に慎重な姿勢を示していた無所属の米山隆一氏(共産、社民、自由推薦)が、与党が推薦する候補を破って初当選を果たしたからである。
元経産官僚の泉田裕彦前知事は、福島第1原発の事故以来、原発の再稼働に対して慎重な姿勢を取り続けてきた。泉田氏の選挙基盤は盤石で、今回の知事選には4選を目指して出馬するとみられていたが、選挙の直前になって突如、出馬を断念している。
その結果、知事選は泉田路線を継承し「現状では再稼働は認めない」と主張する米山氏と、与党が推薦する元建設官僚で全長岡市長の森民夫氏の一騎打ちとなり、結果は米山氏が52万票以上を獲得して初当選となった。与党は幹部が応援に入るなど万全の体制で選挙に臨んだものの、支持を広げることができなかった。
県知事に再稼働を止める法的な権限はないが、原子力政策の推進は自治体の了承を得て進めていくことが大前提となっている。再稼働に慎重な米山氏が知事に就任したという現実を考えると、柏崎刈羽6号機と7号機の再稼働はかなり難しくなったと考えるべきだろう。
■急浮上する電気料金への転嫁プラン
つまり、今の状況が続いた場合、東電は自力で廃炉作業を行うことが厳しくなり、同社の財務の健全性の維持もままらないということになる。
政府では専用の基金を設立するといったプランを検討しているが、これも抜本的な解決策にはならないだろう。こうした状況を受けて急浮上しているのが電気料金(託送料金)への転嫁である。
政府は、今のところ福島原発の廃炉費用を利用者に直接転嫁するとは言っていない。だが、福島原発を除く他の原発については廃炉費用を新電力も含めて電気料金に転嫁する方針がすでに明らかされている。一部の報道では、福島原発の廃炉費用についても電気料金に転嫁されるのではないかとの指摘も出ている。
これについては今後の政府の対応を見ていくしかないが、仮に廃炉費用4億円を東京電力の営業圏内で電気料金に転嫁した場合、家庭の負担はどの程度増えるのだろうか。
これは、各種条件をどう設定するのかで大きく変わってくるが、家庭と企業(特定規模需要家)が半分ずつ負担し、30年間分割と仮定すると、各家庭では1カ月あたり200円程度の負担増と計算できる(家庭ごとの電力消費の違いを考慮していない数値)。
実は電気料金への転嫁が取り沙汰さているのはこれだけではない。先ほど被害者の賠償は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が支援していると述べたが、事故が発生してから機構が設立されるまでの期間に発生した賠償費用3兆円が宙に浮いたままなのだ。この費用についても電気料金への転嫁が検討されているとの報道があり、もしこれらの費用が加算されると各家庭での負担はさらに増加する。
福島第1原発の事故は、日本全体に関わる話であり、責任の所在がどの組織になるのは別にして、発生する負担は最終的には国民全体が負うべきものである。だが電気料金への転嫁という安易な方法に頼ってしまうと、その中身が不透明になり、外部からの検証がやりにくくなってしまう。
今回の事故を日本人にとっての教訓にするのなら、かかった費用の内訳やその出所が分かる形で処理するというのがあるべき姿だろう。
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