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米で“ソーダ税”導入、炭酸飲料課税で肥満は減るか
http://diamond.jp/articles/-/106879
2016年11月5日 降旗 学 [ノンフィクションライター] ダイヤモンド・オンライン
天高く馬肥ゆる秋だが、何を食べても美味しいこの時期、海の向こうからコーラやソーダなど炭酸飲料に税金をかける“ソーダ税”導入のニュースが飛び込んできた。
炭酸飲料(ノンカロリーの人工甘味料を使った飲料を除く)にはスプーン何杯もの砂糖が含まれており、炭酸飲料の飲み過ぎは肥満の原因になり、ひいては健康を損なうため、課税することで消費を抑え、健康を取り戻そう――、というのが税制化の狙いだ。そのソーダ税を、フィラデルフィア市が導入するというのだ。
全米では、これまでに四〇を超える都市がソーダ税の導入を検討してきたが、飲料業界の反発が強く、実現には至らなかったという経緯がある。たとえば二〇一二年、当時のブルームバーグ・ニューヨーク市長がソーダ税の導入を提唱したときもそうだった。
少し古いデータになるが、アメリカの“肥満人口”の割合(二〇〇六年OECD(経済協力開発機構)調べ)は、日本の約十倍にあたる三四・三%だ。アメリカでは、国民の三人の一人が肥満なのである。当時のニューヨーク市だけで見ても、肥満が原因の疾病の治療費に、州は毎年七十六億ドル(約六九〇〇億円)を支出していた。
当時のブルームバーグ市長は「一缶につき十二セントの課税で年間十億ドルの歳入増になる」としてソーダ税導入を試みたが、飲料業界による激しいネガティブキャンペーンはもとより、課税対象と非課税の飲料とに一貫性がないとしてニューヨーク州の裁判所に税の施行を差し止められた。
こうした中、アメリカ初のソーダ税導入に踏み切ったのがカリフォルニア州のバークリー市だ(昨年施行)。バークリー市がソーダ税を導入できた理由のひとつに、街の規模が人口約十万人ほどと小さかったことが挙げられる。大都市でのソーダ税導入プランはことごとく失敗しているのである。
また、かつては公共の場での禁煙義務や歩道での喫煙に罰金を設けるなど、バークレー市は全米でもいち早く禁煙条例に取り組んだ街でもある。健康志向が顕著な地域だったことも法制化を容易にしていた。
ソーダ税導入に反対する飲料業界が導入反対のチラシの配布や看板の設置、反対派の支援に二一〇万ドルを投入したことに対抗し、ニューヨーク市での導入は不首尾に終わったものの、ブルームバーグ氏が個人で六十四万七〇〇〇ドルもの寄付をしたことが賛成派を勢いづかせもしたようだ。
そして今夏、全米第五の都市フィラデルフィア市(人口約一五〇万人)がソーダ税の導入を決めた(採決は市議十七人のうち賛成十三人、反対四人で可決)。大都市でのソーダ税導入はないと見ていた人たちにはこのニュースは驚きをもって迎えられた。
フィラデルフィア市はこれまでにも二回、肥満防止を理由にソーダ税の導入を進めてきたが、いずれも反対派に押され、ニューヨーク市同様、導入に漕ぎつけることはできずにいた。三度目の法案提出が叶ったのは、税収を“教育費にあてる”としたことで税に反対だった人たちの支持を得られたからのようだ。
フィラデルフィア市が課す税率は飲料一オンス(約三〇ミリリットル)あたり一・五セント(約一・六円)だ。これにより年間約九一〇〇万ドル(約九十四億円)の税収が見込まれ、税収の一部が保育園や公立学校、公園の整備などにあてられるという。日本でも待機児童が問題化している自治体がソーダ税を導入すれば、その税収ですぐに保育園が建てられるのである。
フィラデルフィア市のソーダ税導入に呼応するかのように、世界保健機構(WHO)も先月十一日、加盟国と地域に対し「糖分を多く含む飲料に課税するよう」呼びかけた。彼らの報告書では、課税によって価格を二割引き上げた場合、対象飲料の購買量が二割以上減ったとの研究成果も出ているのだそうだ。
ソーダ税は“SinTax”と呼ばれている。悪行税・罪悪税と訳されるが、要は健康や身体に好ましくない行為を防ぐための課税で、日本で言うところの“たばこ特別税”だ。たばこ税は平成十年の創設を足がかりに十五年、十八年、二十二年と都合四回にわたって税率が上げられた。
現在、一箱四三〇円で販売されているたばこでは、売値の六割近い二四四・八八円が“たばこ税”になる。日本たばこ協会によると、平成十年の年間販売量が三三六六億本だったのに対し、平成二五年では一九六九億本と十五年で販売量が四割ほど減ったとのことだ。
販売量四割減の背景には、健康志向の高まりや喫煙者の肩身の狭さ、禁煙条例の施行により喫煙場所が限定されたことなどが挙げられるが、やはり高い税率を課したことが何よりも大きかったように思う。
だが、アメリカの非営利研究機関『RANDコーポレーション』では、たばこ税のように高い税率では効果は出やすいが、ソーダ税のような「低い税率では十分な効果が得られない」としている。三五〇ミリリットルの缶にかかるソーダ税は、約二〇円ほどなのだ。
だから、ソーダ税を施行するからといって、それが本当に肥満の抑制につながるかどうかは疑問だとも言う。
また、フィラデルフィア市はソーダ税の導入を決めたが、今年九月半ば、米国飲料協会(ABA)などが市を相手取り、訴訟を起こしてもいる。彼らは、清涼飲料へのカロリー表示の徹底や、学校の売店からの炭酸飲料の撤去、さらには高カロリー飲料の消費の二割削減を目標に掲げ、「ソーダ税よりはるかに効果的な取り組みをしている」と訴えている。
それは、肥満を減らすためには課税が有効なのか、それとも企業努力によって肥満を減らしたほうが効果的なのかの問いかけでもある。裁判の結果が出るのはまだまだ先だ。
その一方で、大手飲料メーカー『ペプシコ』は、世界各地で販売する自社製品の砂糖含有量を大幅に減らすと発表した。二〇二五年をメドに、全体の三分の二以上の商品について、砂糖のカロリーを十二オンス(約三五五ミリリットル)あたり一〇〇キロカロリー以下に抑える方針を打ち出したそうだ。
ソーダ税について、産経新聞が面白い考察をしている。
〈喫煙に関する研究が進んだことで、禁煙はある種「正しい」決断だとみなされるようになった。肥満の研究も進んでおり、甘いものを摂り過ぎることに罪悪感を持つ人は少なくない〉
そこで思い出すのが、キリスト教が定める“七つの大罪”だ。
傲慢、強欲、嫉妬、色欲、怠惰などと並び、人間の持つ原罪のひとつにカソリックは“暴食(貪食)”を挙げている。この七つの大罪をなぞるように次々と起きる連続殺人を描いたのがブラット・ピットがモーガン・フリーマン、ケヴィン・スペイシーと共演した『セブン』という映画なのだが、ブルース・ウィリス主演の『シックスセンス』と『セブン』とではどちらのどんでん返しのほうがすごいか、という興味深い話は措いといて、キリスト教は“暴食”を罪深い行為だと定めている。
甘いものを摂り過ぎることに罪悪感を持つのは、この宗教観に根差すのではないかと私は思うのだが。
ソーダ税の導入が検討されても実現に至らなかったころのアメリカでは、モデル業界を中心に“痩せすぎはダメ”という運動も起こっていた。二〇一〇年、ラルフ・ローレン社が起用したモデルの全体写真に、加工ソフトを使って極端な“細身”に修正したのが発端だった。新作の宣伝用ポスターだったが、アメリカでもヨーロッパでも使われず、なぜか日本でだけ使用されていた。
このとき、数十人の女性がラルフ・ローレン本社前にプラカードを持って集まり、抗議のデモを行なったが、呼びかけ人のソニア・オソリオ氏は取材に応えてこう言った。
「ウェストが頭よりも細い女性なんてあり得ない。不自然だし、不気味でしょ。写真加工にもほどがある。こういう異常な細さをラルフ・ローレン社が世界に推奨しているのかと問いただしたい」
ネット上でも極端な写真加工を“やりすぎ”との批判が起こり、ラルフ・ローレン社は謝罪するが、後にモデルを務めたフィリッパ・ハミルトン氏が契約を解除されていたことをメディアに暴露した。
「専属契約を切られた。きみはもう太すぎて、わが社の服を着こなせないと告げられた」
ニューヨークの現職モデル・リジー・ミラー氏は言う。
「いまのモデルの主流は、とっても細い“ストレートサイズ”と呼ばれる女性たち。いい仕事をもらおうと、毎日、水とレタスだけ、一日四〇〇キロカロリー以下なんていう栄養失調生活を送る子もいる」
太らないために、スーパーモデルがあえてギョウ虫を飲んでいるなんて話を聞いたこともある。
アメリカで“痩せすぎモデル全盛時代に幕を”と自然な体形を求める運動が起きた時期と相前後して、日本ではタイ製の痩せ薬を個人輸入した女性が死亡するという事件も起きている。
この薬には日本未承認の食欲抑制剤や甲状腺ホルモン、利尿剤が使われていて、一週間の服用でカリウムやナトリウムの排出が急激に進み、電解質異常による不整脈と呼吸筋麻痺、意識障害を引き起こし、死に至ったという。
太り過ぎはダメで痩せすぎもダメという不確かな時代である。税率の低いソーダ税の導入は、財政難にあえぐ自治体の税収を潤すかもしれないが、肥満防止にどれだけ貢献するかははなはだ疑問だ。
それでも、フィラデルフィア市がソーダ税を導入したことで、サンフランシスコやオークランド、シアトルなどの都市が続くと見られている。
ヨーロッパに目を移せば、二〇一一年にデンマークでは“脂肪税”が導入された。これも肥満防止を目的に、バターやチーズ、牛乳などの乳製品と肉類、食用油、加工食品に、飽和脂肪酸一キロ当たり約二二〇円(十六クローネ)の税金をかけるというものだ。一箱二五〇グラムのバターは、これで約三〇円値上がりした。
ハンガリーでも、同じ年に“ポテトチップス税”が導入された。袋入りのスナック菓子やクッキー、炭酸飲料、栄養ドリンクなど糖分・塩分が大量に含まれる食品に五〜二〇%の税金を課している。
バブルのころ、日本では“カウチポテト”という生活スタイルが、いっときもてはやされた。ヤングエスタブリッシュメントやスノッブとは対照的な意味になるが、秋の夜長、ソファーでくつろいで、ポテトチップスをつまみながらコーラを飲み、アンジーに三下り半を突き付けられていまは失意のどん底にいるブラット・ピット主演の『セブン』を見て、ふと気づいたらテーブルに置いたポテトチップスにも、コーラにも、税金がかけられていた……、という時代になった。
健康のためにジムに通おうとしたら、ワシントンではすでにフィットネスクラブの利用に税金をかけた“ヨガ税”を導入していたりするので、アメリカでは肥満防止にも税金が課せられ、痩せるための運動にも税金を払わなければならないのです。
参考記事:朝日新聞2009年10月6日・2010年1月6日・2016年10月6日
産経新聞2014年12月19日・2016年6月18日
共同通信2010年3月25日
ヘルスプレス10月20日付他
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