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山師の手帳〜“いちびり”が日本を救う〜
中国エリートたちの夢「国家資本主義」
中国の景気の動向(パート2)
2016/11/04
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中村繁夫 (アドバンスト マテリアル ジャパン社長)
パート1では、中国の成長目覚ましい交通インフラの話題と、レアメタルなどの鉱工業生産の不振について書いた。パート2では、個人消費の中でも大口消費である住宅投資と自動車市場とネット販売について深掘りし、「六中全会」を通じて習近平国家主席の掌握した権力と中国のエリートたちの夢についても書いてみたい。
中国で車が今年に入ってバカ売れしているのは本当か?
中国の自動車ショー(GettyImages)
今年になって自動車がバカ売れしたのは、昨年10月に開始された小型車減税(排気量1.6L以下)のおかげで、販売に勢いがついたからだ。上海や西安は当然のことだが、二級都市や三級都市でも交通渋滞がひどい。中国公安部交通管理局の統計データによると2016年6月末の自動車保有台数は1億8400万台になった(動力車保有台数は2億8500万台)。14年の新車販売台数がアメリカに約700万台の差をつけて世界一になるという市場に発展した。
それでも保有台数は人口比でいえばまだまだ伸びしろがあり、今年の10月以降も駆け込み需要で自動車販売は好調を継続している。減税の期限は今年の12月末であるから、購買客が殺到しているらしい。とはいうものの、自動車が買える経済力があるのは都市部の人々で地方の農民たちにとっては自家用車は高嶺の花だ。例えば、上海などの都市生活者の世帯収入は日本円で180万円〜250万円程度だから、個人で自動車を買うには借金をする必要がある。それでも2016年1-9月期の自動車販売(台数)は前年同期比13.2%と増加した。今年の7月以降には、なんと2割超の高い増加率を示している。中国自動車工業協会は、減税の延長がなければ17年は逆に販売量が激減するという危機感を表明している。中国政府は自動車消費の影響が内需景気の中折れにならないように、小型車減税の延長を検討するのではないだろうか。
中国の金持ちは住宅を何軒持っているのか?
これまで中国政府はGDPの成長を維持させるために貸出金利を6%から4.5%まで引き下げてきた。住宅購入規制を緩和させ、購入頭金の比率も引き下げた。その結果、住宅バブルが始まった。特に都市部の富裕層が投機買いに走ったのだ。先月号の山師の手帳『中国人は不幸か幸せか?』にも不動産バブルのからくりを書いたので参考にしてほしい。
ただし、来年以降の金融政策は景気重視から住宅バブルの退治に重点が移る見込みだ。インフラ整備の加速や、住宅バブルの黙認で住宅販売が急増したが、GDPの成長目標が達成できたことを踏まえて、2017年には住宅バブルの抑え込みに舵を切らざるを得ないだろう。だからといって住宅の価格が暴落すると思っている中国人はまずいない筈だ。都市部の富裕層は、住宅が多少の値崩れをしてもいずれは上がるだろうとタカを括っているのである。
一方、全国ベースで不動産投資を見てみると、今年の前半に比べて(1-3 月期は同10.7%増、4-6月期は同7.3%増)7-9 月期には同6.6%増と減速傾向が続いているようだ。ただし、都市部の不動産価格はまだ堅調で富裕層が二軒や三軒のマンションを持っているのは常識になっている。その意味では北京や上海が特別なのかもしれない。地方都市でも政府による開発地域では投資用の住宅建築がまだ増加しているのは日本人から見ると理解できない。
大都市のデパートは人影少なく全然売れない理由
上海のデパートやスーパーを回ってみると客足は伸びていないように見える。日本人の多く住んでいる上海の古北地区では日本のデパートはまだ閉店にはなっていないが、日本人駐在員は不況のために昨年比で3割くらいは帰国しているとの噂もある。上海の友人によると、一般市民はデパートではウィンドウショッピングをするだけで、値段をチェックして家に帰ってネットで買うのが購買パターンになっているとのことだ。
上海や北京のような大都市と二級都市(西安市や宝鶏市)とは購買行動には違いがあるようだが、全国の平均ベースでは中国の小売売上高の動向は、7-9 月期は前年同期比10.6%増と好調に推移しているらしいから、地域差によるまだら模様はまちまちである。
デパートは売れなくてネットは繁盛しているのには別の理由もある。日本に来る爆買いツアーは、自分のものだけをお土産で買って行く訳ではない。何割かの観光客は日本製の安い製品の運び屋をやっていると聞いている。ネット販売業者が運び屋にお金を渡して「関税なし」「増値税なし」「贅沢税(消費税)なし」で公然と合法的な密輸を斡旋しているというのだ。
LCC(Low Cost Carrier)を使えば1万2000円で上海・東京が往復である時代だ。関税、増値税、贅沢品税をカットすれば60%も安く買えるから爆買いして転売するだけで月に100万円を稼ぐ中国人がざらにいる。例えば、紙おむつはワンパックを日本では1300円〜1500円で売っているが、これを中国で販売すると倍で売れるという。we chatを利用してミルクやオムツをEMSで中国に送っても20キロ以内なら郵送費は約1万円だし、やり方はいくらでもあるのだ。
スーパーでは紙おむつや粉ミルクの販売制限があるから爆買いツアーは家族ぐるみで日本のスーパーに買いに来るらしい。子供2人とお母さんとお父さんが都内のスーパーで開店と同時に販売制限2個づつを4人で買うのだ。バーゲンの日が狙い目だとは誰でも知っている。手配師はスーパーの値引きカードまで運び屋から取り上げるらしいから恐れ入る。価格が安くて品質が良くて日本製で安心できるなら誰だってネットで買うというものだ。
ところ変われば話題も変わる
上海や杭州の取引先との宴会の席ではしきりに経済問題の話題が中心であった。今回の後半の訪問先は陝西省の西安市と宝鶏市であったが、内陸部に行けばいくほど話題の中心は経済問題から離れて政治問題が中心になっていった。
今回の訪問先は中国一のチタン工場とモリブデン工場であるが、運営上は国営企業にぶら下がっている子会社である。実際の運営は民間企業と同様の自由裁量を有するが、人事権と利益配分権は共産党の直轄組織である親会社が支配する構造になっている。従って実体は中国流の「親方五星紅旗」である。早い話が損をしても国家が損失補てんしてくれるから気楽なものである。上海や杭州の民間企業は全てが自己責任であるから自然と話題は経済問題になるのだ。西安での宴会での話題の中心は経済ではなく「六中全会」の政治問題が中心となった。中国は広大なのだ。地域ごとに価値観が変わるからこの点を理解しておかないと中国ビジネスは上手く行かないのである。
第18期中央委員会第6回全体会議「六中全会」て何だ?
「六中全会」の様子(現地テレビ中継から筆者撮影)
六中全会のニュースが宴会の最中に流れていた。六中全会とは中国共産党の中央委員会が、党大会の開催以降、6回目に開く全体会議のことである。西安の友人によると、今回の六中全会では@共産党の管理強化のために党内の監督条件を決定。A党内の民主的な運営を進め集団管理体制を確認。B第19期六中全会に向って新たな目標を決定した。今回の六中全会では目立った決定事はなかったが、気になったのは引き続き「腐敗の撲滅方針」である。経済問題についてはほとんど触れられずに党内の集団管理体制を強調しながらも習近平国家主席の権力基盤を強化することを強調していた。経済にとっては13億人が食えるのかといった昔の概念ではなく、中国には大需要を活かしていくことが強みだと認識をし始めている。
新しい概念は「社会主義自由経済」ではなく「国家資本主義経済」なのだ
中国は今や「国家資本主義経済」である。20年前ならしきりに「社会主義自由経済」といっていたが今は企業の経営理念も大きく変化してきている。多くの企業は名前だけは国営企業であるが、実際の経済活動は一般の民間企業とそれほど違うわけではない。国営企業にぶら下がっているこれらの準国営企業の比率が全国的に増加している。経済活動は確かにこの子会社に任さかされてはいるが、人事権と利益の配分権は共産党組織の親会社が支配しているのである。従って民営企業のような子会社が増えているから自由に見える経済活動が許容されるが、最終的には国営企業の政治力学が働くのである。地方に行けば行くほど経済の話題より政治の話題が中心になるのはこうした企業の構造に原因があると考える次第である。
また、国家資本主義が推進している一帯一路構想とは、中国西部から中央アジアを経由して欧州につながる「シルクロード経済ベルトと、中国沿岸部からASEANからアラビア半島を経てアフリカ大陸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」の二つの地域で、インフラ整備、貿易促進、資金の往来を促進する大構想である。企業のエリート達の大好きな話題である。
中国のエリートたちの発想とは?
これらの国営企業の下部組織を経営している企業エリートたちは大変魅力的な人材が多い。経営者としてのスキルも必要だが、いずれ親会社に引き上げられた時のために政治的なスキルも磨いているからである。彼らの意見は大所高所に立った意見が多い。例えば、このような意見である。@米国の評論家の中国に対する悪口は聞き飽きた。Aもしも彼らが言うように本当に共産党政権が悪ければ、もうとっくに中国経済は崩壊しているはずだ。B米国の単純な意見は単に理解が足らないだけではないか。C中国のやることなすことにケチをつけるのではなく双方が良いところも認めるべきである、といった調子である。勝手な意見を言わせて貰えば素朴な昔ながらの政治家のような意見である。
僕が初めて中国を訪れた1979年の中国は今の北朝鮮並みだったが対外開放政策や地方分権化を進めた結果、海外からの投融資も増加し、世界の工場といわれるまでになった。1989年(天安門事件)以降のケ小平の経済運営も大きな方向性として間違ってはいなかった。あの頃は明るい未来の中国に思いを馳せて良く似た意見交換をしたことを思い出す。
エリートたちの未来の話は、@中国の1人あたりGDPで7倍を達成すればアメリカを追い越せる。A北京と上海はもとより西安のような二級都市はすでに米国よりも良くなっている。と本気で話すから驚いてしまう。明らかに米国をターゲットにした経済的運営を視野に入れているのだが何故か違和感がある。
何か僕が1985年に米国に出張した時に「Japan as No.1」などと本気で話していた思い出とかぶる気もしてきた。でも彼らは「中国には夢がある」「我々の工場も従業員とともに夢を共有しているから発展が継続している」「未来の姿も明るいものがあるはずだ」と極めて健全な発想をする次期指導者層が多くいるから心強い限りである。
だが、なぜか素直に中国を応援できない自分がそこにいたのが何となく気がかりではある。北京や上海などの一級都市は別にして地方に行けば中国は政治の国であり経済の国ではない。今回の出張では現場の経済動向を勉強させて貰った。今後の中国の現政権の運営における経済と政治の舵さばきを注目してゆきたい。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8104
京都人は中国人観光客をどう見ているか?
2016/05/23
中村繁夫 (アドバンスト マテリアル ジャパン社長)
京都という土地柄から着物が似合うのだろうか?
京都旅行に訪れたAMJシンガポールの社員
京都のレンタル着物がブームになっている。昔の貸衣装屋さんは冠婚葬祭や卒業式やお見合いやパーティ用途が専門だったが、最近では誰もが気楽に利用するようになった。誰にも変身願望があるのか、太秦の映画村でお姫様や町娘の格好をしたり、お殿様や忍者や剣客に変身したりするのが流行った。ところが、しばらく前からは夏祭りや五山の送り火の時に若いカップルが着物を利用し始めた。そして、「舞妓はん」に変身する観光客のニーズが本格的なブームにつながった。
さらに、中国や台湾、香港、韓国からの外国人観光客が増えてきて、最近では主に爆買いツアーの中国人観光客がレンタル着物の需要の多くを占めだしたらしい。
たった3000円で変身願望が満足できる
タクシーの運転手さんによると、着物のレンタルショップから出てきた4人の中国人観光客が、貸切で数時間の名所旧跡を回るというのが流行らしい。さて、レンタル着物の内容は着物・帯・和装カバン・草履を好きに選べるらしい。着付け付のお任せコースは3000円からあるという。スタンダードコースは4000円、フルコースが5000円で丸一日楽しめるという訳だ。足袋だけは別売りで500円、ヘアメイクも別だから全て入れても1万円以下である。中国の観光客の場合はツアー料金に含まれているから多分半値くらいになっているらしいとタクシーの運ちゃんから聞いたが詳細は不明である。
さて、中国の観光客の皆さんは他県からバスを連ねて50人単位で五条近辺の大手レンタル着物店に朝一番に入り、絵柄の選択から着付け、ヘアメイクまで流れ作業で行うと1時間はかからないらしい。中国のお客さんは、そのまま名所旧跡を5軒も回れば夕方になる。ホテルに着いたら業者の方がホテルに回収に来ているから、段取りよくその日のうちに洗濯して次の朝一番には次のお客様用に提供されるという仕掛けらしい。今や観光客専門のレンタル着物の大手の店だけで15軒が軒を並べているとのことだ。
レンタル着物の戦略とは?
正直に言えば、格安のレンタル浴衣はペラペラの化繊の和装生地だから、レンタル業者も気楽なものだ。いくら汚してもジャブジャブ洗えるから和装着物の大革命である。まあ、言ってみれば数でこなすという着物業界のビジネスモデルが確立したわけだ。レンタル着物には手描き友禅などはない筈である。多分、中国のどこかでプリント柄をコンピューターグラフィックスでデザインして大量生産しているのだろう。
着物姿の女性が見られる
別の見方をすればあのけばけばしい着物の柄目は中国の観光客の皆さんにはよく映っているともいえる。日本人の着物のセンスは「詫び寂び文化」に近いから、レンタル着物ブームとは似て非なるものである。そういえば、旧来の冠婚葬祭のニーズについては別に結構繁盛しているとも聞く。市場ニーズの差別化もあって、結婚式の黒留袖になると正絹の着物になるから、最低でも1万5000円から2万5000円が相場になるらしい。和装の世界にも多様性とグローバル化が進んでいると言えないこともない。
高田好胤老師の視点
さて、修学旅行生のレンタル着物も流行しているが、中高生でも日本人だから、ペラペラの化繊生地はやはり嫌がるらしい。彼らは着こなしも見よう見まねで渋い着こなしをしているから堂にいったものだ。そう言われると最近では東京でも若者たちが着物を着て繁華街を歩いているのが流行っているのは修学旅行の学習効果なのかもしれない。
話は変わるが、奈良の薬師寺の故高田好胤管主は修学旅行生に説法をするので有名だったが、青空法話で600万人以上の生徒さんに青空法話をしたことを聞いたので「毎日、修学旅行の生徒さんに説教するのは大変でしょう」と僕が聞いたら「いや、将来のために今から市場開拓しとかんと日本の仏教は廃れるからな〜」と屈託なく笑われたのを思い出した。京都の呉服屋さんも高利益商いの限界を感じて高田好胤さんの真似をして、和服の市場開拓を目指しているのかとも、フッと思ったがそんな発想を持っている和装衣料の経営者は寡聞にして聞いたことはない。
和服の似合う外国人はどこの国だ?
さて、最近では中国系ではなく欧米人や東南アジアやアフリカの観光客も和服を着てそれぞれの変身願望を満たしているが、アジア系はともかく、欧米系やアフリカ系の方々は率直に言って和服は似合わないケースが多いようだ。欧米系のお嬢さん方は一般的にはスタイルが良すぎて似合わない。やはり和服は胴長短足に似合う様に感じるのだがどうだろうか?
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脚の長い西洋人が裾をはだけて歩いているのを見ると幻滅する。無論、アジア系の観光客の中にもがに股で歩くから前がはだけるお嬢さんも居るから目のやり場に困るケースも多い。一方では着物はのっぺり顔に良く映える。ポッチャリタイプのおたふく顔は良いが鋭い般若顔は違和感があるからだ。
タクシーの運ちゃんの意外な反応とは?
こうして見て行くと着物レンタルは新しい流れであるから京都の伝統文化にも結構寄与しているということになる。とはいうものの観光客以外のニーズについては、大体において着て行く場所も減る一方だし、日本人にとっては価格も高いし、要するに使い勝手が悪いと思ってしまうのだ。ところが、中国人観光客は何のこだわりもなく、人目を気にせずに京都の雰囲気を純粋に楽しんでいるというのだ。
最近の中国では、結婚式の写真も有名人気取りで撮影するのが大流行である。結婚式に招かれた僕の方が恥ずかしくなるぐらいのアイドル気取りである。ということは、中国からの観光客への新需要と囲い込みとリピーターを開拓しないといけないことになる。タクシーの運転手さんに中国観光客の風評を聞いてみたところ、意外にも「最近の中国の若い観光客の方はエチケットも心得ているし京都にとっては有り難いお客さんですよ」との答えが返ってきた。
京都人の腹の中は?
京都という街は、不思議な場所で古い歴史の中にも新しいものを常に開発してゆく伝統がある。信長も秀吉も家康も気がついたら京都の文化に染まっていった。西郷さんも坂本龍馬も新選組も京都を舞台に新しい時代を追いかけた。
2020年の東京オリンピックまでにはあと4年しかない。日本に来る外国人観光客の数は少し前には500万人といっていたのが、今や2000万人になったらしい。2020年には4000万人とも5000万人とも政府観光局は発表している。その内、狭い京都に何人の観光客が訪れるのかは分からないが多分、多くの京都人は冷ややかな視線で「嫌やわー、あんなペラペラの着物を着て恥ずかしないのやろか」と思っているに違いない。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6839
中国人は幸せか? 不幸せか?
チャイナドリームの行方
2016/09/30
中村繁夫 (アドバンスト マテリアル ジャパン社長)
今月は北京、西安、宝鶏、香港を3泊4日の弾丸出張で回った。北京では25年以上のお付き合いのある老朋友の新居に招待された。今回は古い友人のチャイナドリームについて書いてみたい。
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(iStock)
チャイナドリームの象徴は何か?
老朋友の李先生は国営企業で最高峰の研究機関の教授だが、今や関連子会社を上場させた中国一流の企業経営者でもある。今回訪問した先生の新居マンションの価値は今や5億円以上ではないだろうか。まさにチャイナドリームの象徴であるが国から安く払い下げられた自宅のマンションは北京の中心部にあり東京でいえば青山のようなロケーションにある。
仕事場はすぐ近くで職住接近の恵まれた場所である。部屋は5LDKで250平米の広さで寝室が4つあって、広いリビングにキッチンもキラキラ光って素晴らしい。トイレが3つあって、最上階の7階にあるから眺望も最高だ。先生のマンション棟は研究所の一握りの幹部専用である。李先生は今年60歳の還暦を迎えるので、通常ならば今年一杯で退職して後は年金生活者になる予定だったが特別栄誉教授として、さらに5年間は研究機関の経営を行うことになった。こうした待遇は一般職員ではありえないのだが李先生の評価は学術面だけではなく経営者としての実績が評価されたものである。
広いリビング
昔の国営企業幹部の官舎と云えば狭くて国際比較をすると日本の公務員宿舎と同様に「ウサギ小屋」と形容されても仕方のない代物だった。それが今や様変わりである。政府の指導もあって10年ほど前から福利厚生のために職員の賃貸住宅を次々と建設したのである。その後、長年勤めて一定の条件を満たした職員にはその住宅を格安で払い下げられるようになった。その住宅価格もこの10年で5倍から6倍くらいに値上がりして住宅バブルの結果、幹部職員は全員の資産は膨れ上がったのである。これは日本でも高度成長期には資産インフレで住宅価格がバブルで数倍になったのと同じ現象である。
豪華マンションが支給された背景
幹部マンションの外観
同時にこの1年ほどの間に定年が近くなった幹部職員には特別に恩給の一部として新築の豪華マンションを払い下げることになったのだ。聞くところによると市中相場の8割引きの格安価格で払い下げされたのだから、まさに「濡れ手に粟」とはこのことである。
李先生は国営の新材料研究機関の指導者であり特にレアアースの開発技術では中国No.1である。5年ほど前に上海株式市場に子会社を上場させて株価が上昇して企業価値が上がった結果、上場企業としての含み益は等比級数的に膨れ上がった。ところが給与については国営企業であるから国家ルールに従って給与水準を欧米並みに引き上げる訳にはいかない。そこで、福利厚生について「お手盛り」の大盤振る舞いをすることになったのである。日本のように会計監査院のような組織が横やりを入れる訳でもなく、長年の貢献に対して応分の配慮がなされたのである。
私の多くの中国の国営企業の友人たちは社会主義経済だから残念ながら給料は欧米並みという訳には行かないが、住宅資産に関しては明らかに国際水準を超えていることは間違いない。
中国の金持ちと貧乏人の収入格差は?
スイスの銀行「クレディ・スイス」の報告2015年によると中国の富裕層の保有資産総額はアメリカに次いで世界第2位の22兆8000億ドルとなったらしい。日本は世界第3位に転落し、19兆8000億ドルと僅差だが中国の後塵を拝したことになる。
昔の友人がチャイナドリームを実現したことはご同慶の至りだが、僕にとってみるとそのスピードが速すぎることが気がかりである。なぜならば大半の中国人の生活は貧困で一部の富裕層だけがますます金持ちになって行くからだ。僕がこれまで取引してきた中国の友人達は都市部に生活しており特別に選ばれたエリート層である。
一方、地方では年間に20万件にも及ぶ紛争や暴動が発生していると聞く。その原因は格差社会に対する不平と不満が渦巻いているからだ。中国人民大学の国民の収入差に関する調査によると中国の10%の富裕層が何と80%の財を占めており富裕層と貧困層の収入格差は40倍になっているという。
ピョンピョン、パチパチ、ドンドンで儲けた配慮貿易とは?
こうした中国の国営企業の富裕層だけが儲かる仕組みを見ていると、僕が中国貿易を始めた1970年代の中国の配慮貿易で大儲けした友好貿易商社の存在が思い出される。中国共産党と深い関係のあった日本の友好貿易商社さんたちは「ピョンピョン、パチパチ、ドンドン」を特別価格で輸入していたのである。この「ピョン、パチ、ドン」を知っている人はかなりの中国通であるが何のことか判るだろうか?
「ピョンピョン」とはウサギ肉の輸入、「パチパチ」とは天津甘栗の輸入、「ドンドン」とは花火の輸入のことである。どうやら当時は日本の友好貿易商社が配慮物資で大儲けした利益を社会党に献金していたのではないかと勝手な想像をしている。
僕の前職の蝶理は友好商社ではあったが、当時の社会党系の友好商社ほどのぼろ儲けをした訳ではなかったので、ひとこと言い訳はしておきたい。それでも古典的中国食品の輸入などでは配慮物資の輸入枠の配分を貰っていた。「魚ごころあれば、水ごころ」が中国的な社会習慣だから、それに対して誰も不公平だとは言わないのが中国のおおらかなところである。さて、話が横道にそれたので元に戻したい。
中国人の海外出張の予算は少なかった
25年前の国営企業の出張予算は国家の規定があったので客先訪問をするにしてもタクシーの利用すらできなかった。宴会の時に李先生の宿泊予算が限られていたので安いビジネスホテルを探したが、なかなか見つからなかった昔話が出てきた。今は懐かしい古き良き思い出である。それでも海外出張に行けるのは一握りのエリートだけだった。当時の中国は貿易を振興して外貨を稼ぐために中国元を安くコントロールする必要があった。中国元の為替レートを国家が安く誘導していたので、日本人にとっては中国出張時のコストは何でも安かったが、中国人の海外出張は厳しく管理されていたそうだ。今や中国人の「爆買いツアー」が有名になって海外不動産まで「爆買い」が流行っているというから隔世の感がある。
でも、考えてみると昔はみんなが貧困だったから別に恥ずかしくもなんともなかった。我々、日本人商社マンだって同じ経験は沢山やっている。
国民の不満を助長しているのが一般の中国人が10%の金持ちとの格差がますます開いていくところにある。農民戸籍しか持てない地方の貧困層は大都市で豊かな生活をしている富裕層の暮らしぶりを毎日テレビで見るのだから暴動が起こるのも当たり前だ。
しばらく前に尖閣諸島を日本政府が国営化した時に中国全土で暴動が発生した。ところが暴動が一段落した後には共産党政府に対する不平不満が爆発した。政府が国民の不満の目を外に向けさせるために日本を目の敵にした反日報道を繰り返しても、最終的には大衆の不満と怒りは格差社会に向かうのである。
資産バブルのメリットを享受しているのは一部の富裕層だけ?
ヨーロッパの調査機関のアンケートによると、中国人の幸福度(HPI)は世界150カ国中の128番目だったと云われている。一方、中国政府が行った「中国都市住民幸福感調査」によると75%の中国人が「幸福」であるとの結果が出たらしい。中国政府は都市戸籍を持てない農民層をこの調査の母数に含めていないのである。
この都市戸籍と農業戸籍の違いが中国の格差の原因であったが、今はかなり緩和策が進んでいるとの話も聞く。北京や上海などの大都市には農業戸籍から都市戸籍への移動はいまだに制限が厳しいようだ。
一般的には農業戸籍者は全人口の6割以上と予想されるが、現状を見る限りジニ係数(所得格差を測る指数)は0.61を示しており、中国の所得格差は危険域をはるかに超えており不平等社会であることは間違いない。
貧しきを憂えず、等しからずを憂う
中国人の幸福度の年代別の分析は面白い結果が出ている。年代が上がれば上がるほど幸福感は増えているが、若者たちの幸福感は減少傾向になっている。60代や50代は昔の貧困時代に比べ、今の生活水準は良くなったと感じているので不平感はなさそうだ。逆に30代と40代は「大変幸福だ」という人は少ないようだ。
日本でも同じだが今から20年前と比べると金銭的には豊かになったが50代や60代の人々のような貧困は経験していないから比較問題だが「生活がより良くなった」とは考えないのかも知れない。これには「一人っ子政策」も関係がある。
「貧しきを憂えず、等しからずを憂う」とは論語に出てくるが、世界中どこでも絶対的な貧しさよりも相対的な不公平さが気になるのが一般的である。中国の生活水準は20年前と比べてかなり向上しているとは云うが、10%の富裕層が目立ちすぎるために格差の問題が深刻になっているのだ。
ケ小平氏は天安門事件の後、民主化運動よりもみんながお金持ちになるべきだと言い始めた。その時に全員がすぐにお金持ちにはなれないが、一部の人々がお金持ちになり、富裕層が経済をけん引して発展させてから一般人もお金持ちになるように指導した。
ところが、今になって振り返ってみると富裕層と貧困層の格差は益々拡大しているのが社会問題になっているのだ。
富裕層の新たな悩みとは?
その富裕層も確かに経済的には満足はしているのだが、政府が贅沢禁止令を出して賄賂を受け取った幹部職員を逮捕して公職追放にした結果、肩身が狭くなって海外に逃亡する富裕層が増え始めている。
習近平政権は腐敗防止のために富裕層の幹部職員を見せしめのために粛清し始めてかなりの時が経つが、今や中国企業の組織の中では幹部は何時、従業員にタレこみさせられるかビクビクしている。元々、個人主義的な国民性がさらに疑心暗鬼になっているので富裕層は別の意味で幸福感を失くしつつある。
もともと、中国人には愛国心は少なく個人主義的で自分の家族さえが幸せなら国家はどうでも良いと考える傾向がある。上手く海外に資産フライトさせる事が出来れば良いのだがそうもいかない大半の富裕層は今や戦々恐々としているのである。
格差は解消されるのか?
それでも富裕層の比率はまだ10%とまだ多くはないので格差をなくして行けば中国の社会問題は緩和するのだろうか? 去年より今年が良くなって、来年は多分今年よりよくなるだろうと思わせる限り中国のチャイナドリームは維持できると思われる。
一般の中国人にとって一番、幸福感を感じるのは自分の家を所有できることである。しかも資産バブルが安定すれば所有欲が満足できるのだ。若者が結婚できる条件とは持ち家が大前提である。50代の親は一人っ子に家を持たせるために働き借金をしてでも息子に嫁を持たせれば最大の幸福感に包まれるのである。
中国社会では欧米に比べて社会福祉は整ってはいない。従って企業の中で福利厚生の名目で「チャイナドリーム」を達成させようとするのは悪いことではない。
チャイナドリームが弾けるとき
組織の中の就労年数に応じて「自宅の取得を配慮する」のは中国の文化そのものである。組織に貢献した幹部社員が「お手盛り」で豪華マンションを手に入れても40代の社員はあと10年も経てば自分の順番が来ると信じている。
30代の社員たちも今は給料が安くても国営企業に勤めている限りいずれは自分もチャイナドリームが待っていると信じさせる限り、社会主義自由経済は何とか維持できるとみんなが信じているのだ。そのためにも中国経済にとっては次から次へと国中にマンション建設を自転車操業でも良いから継続させることでGDPの成長率は維持できると思いこまずにはいられないのではなかろうか。
これが中国のチャイナドリームの本質だと言い切ったら僕の老朋友からお叱りを受けるだろうか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7852
したたか者の流儀
日本人が知らない投資の極意
2016/11/04
パスカル・ヤン (著述家)
外国にも“駄洒落”があるのをご存じだろうか。英語では一言PUNという。フランス語は一言ではないと記憶している。“スリ” “安価”や”鼻くそ“など華麗ではない言葉は英語を使うか、または数語で説明することになる。すなわち、下品な言葉は公式には存在しない。公式に存在しないと、非公式サイドはバラエティーに富むのは世の常だろう。ただし、ネイティブ以外は聞きかじりで使うと命取りになる。そんな言葉を“gros mots”という。
したがって、だじゃれは、かわいく数語使って“jeu de mots”(言葉遊び)という。
投資の日
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さて、英語のPUNが10月4日の英国FT(ファイナンシアル・タイムズ)に大きく取り上げられた。すなわち日本では10月4日は投資の日として大々的に“貯蓄から投資”を喧伝する日としていることを揶揄しているのだ。科学であるべき投資を駄洒落にしてけしからんというなら謹んでお聞きすべきだ。しかし、このFTのコラム記事はそうではない。この日、10月4日が投資の日として制定されて以来20年で日本株式は16%下落し、10年で18%下落したことを嗤っているのだ。
そもそも長期投資は勝つと大学で習う。10年は十分長期投資だ。念のため20年間ほっておいてこの体たらくとなると、どこか間違っているといわざるを得ない。投資の日にこだわらなくても、日本の株式は1989年末の日経平均4万円を25年間も抜いていないどころか半分以下の水準だ。
ところで、重要な予定があるときは目覚まし時計をセットする。しかし、統計的にいえば100回に一回は何らかの不具合があるようだ。経験的に二つセットすれば完璧だと知っている。両方が同時に不具合となるのは100分の1の100分の1、すなわち1万回に一度しか起きない事故となる。
これを分散という。10月4日が嗤われる原因の一つには金利のつかない預金に大事な金融資産の50%以上を当てていることはもちろんのこと、最近よく聞く“NISA制度”を利用して生まれてはじめて株を買った人のことだ。民営化時に抽選に当たった郵政三銘柄(日本郵政、かんぽ生命、ゆうちょ銀行)や、大手銀行株を買い付けても買値からずいぶんと下落している。満を持して祖父の世代からの禁を破って、株式投資をしたのに成果は出ていない。
「年末までに買値に戻らなければ、NISAだろうが、NASAだろうが売って株はやめる」と電車の中で息巻いている人を見たことがある。この人たちは、目覚まし2つセットするのを忘れた人いうことになる。
そもそも、一銘柄買うのは株式投資とは言わないのだ。投機ということになる。投機は失敗すれば下がる。当たり前のことだ。ではどうしたらよいのであろうか。指数すなわち全銘柄を長期で保有してもダメ。籤で当たった人気銘柄を保有してもダメではどうにもならない。正解は米国では義務教育レベルでも教えている。
日本の個人金融資産は1700兆円だと日銀は言っている。そのうち半分強が現金・預金だ。920兆円もの金が金利もつかずにドテッと昼寝をしていることになる。米国や欧州は小切手が不渡りにならない程度しか現金を持たない。残りは投資をしている。
日本は定期預金の金利がかつてのように5%であれば、預貯金でもよかったであろう。その金は、銀行から間接金融として資金がいくらでも必要な企業に貸し出されて、国民経済はうまく回っていた。現在は企業側にも現預金が数百兆円もたまっている。
銀行は、かつては預金総額に近い金額を融資に回していたのだ。この比率を預貸率と呼び、100%が目安であった。ところが現在は、半分程度まで下がっている銀行も多い。
優良企業は金余りで投資対象不足で資金は必要ない。仕方なく銀行は国債を買い込んでいた。10年国債の利回りはこの20年間2%以下で推移している。この頃はゼロを割ってきている。いまこそ貯蓄から投資にシフトするしかないと思うがいかがであろう。
投資の極意
そこで、投資の極意を一つ。資金が少ない人は、これぞという投資対象に、なくなってもどうにかなる金額をすべてつぎ込むことだ。10万円が年率3%で増えても、体勢に変化はない。一時のヤフーやソフトバンク株は数十倍数百倍にもなっている。逆に、数千万円もの資金があれば、あらゆる投資対象に少しずつ投資することが正解だろう。それでもリーマンショックの時はすべてが下落したことも忘れてはいけない。そのときにも慌てず騒がずが、肝要だ。
集中だろうが、分散だろうが、日本の株式を保有する限りにおいては、楽しいおまけがつく場合も多い。わずかに数万円の投資で、デパートなど割引優待や、株主総会の出席権利総会土産、懇親会、果てはスーパー内の株主お席などなど、一度株主の楽しさを知ると止められない。
日本には既にのべ5000万人の個人株主がいる。数銘柄保有している個人も多いので正味2000万人近い我が同胞は株式を保有していることになる。金額ベースでは100兆円内外となろう。まだ850兆円以上の現金が銀行に眠っているのだ。クレジット・カードの決済に200兆円残しても、自国の株式市場時価総額500兆円を丸ごと買う金が銀行で寝ている不思議の国が“日本”であろう。電車に中で、投資がうまくいっていないと騒いでいたお父さん、もう一度戦略を立ててみてはいかがだろう。BESPOKEで自分に合ったスタイルで。きっと喜ぶ日が来ます。今度こそ10年後の投資の日には。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8090
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