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なぜ市場は梯子を外されたのか?黒田総裁は「緩和祭りの後片付け」を始めた=E氏
http://www.mag2.com/p/money/25841
2016年11月3日 MONEY VOICE
日銀は11月1日に開催された金融政策決定会合で、大方の予想通り金融政策を現状維持としました。一方で物価目標達成の時期を18年に先送りしています。今会合でアクションを予想する声は事前にほとんどなかったのでノーサプライズでしたし、実際、会合前後の株価や円相場の反応は、黒田バズーガ第一弾である2013年4月の異次元緩和発表以降では珍しいくらいに変化に乏しい静かな日となりました。
しかし、日銀会合後の黒田日銀総裁会見を踏まえてのメディアの論調は、
・物価2%「18年度頃」…日銀、5度目の先送り(読売)
・日銀「黒田流」名実共に壁に(毎日)
・地上に降りたピーターパン、物価2%達成へ現実路線−黒田日銀(Bloomberg)
等のように、おしなべて否定的なトーンが目立ちます。
本日は今回(10/31〜11/1)の日銀金融政策決定会合に対する見方や、これを踏まえてのマーケットの方向性について考えてみたいと思います。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)
プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。
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夢から覚めた市場に「日銀の株価買い支え」はもはや通用しない
■サクラ演出
まず、発表直後の反応がノーサプライズかどうかという点に関しては、「日銀のサクラ演出でサプライズがなさそうになっていた」だけです。
過去数年の株式市場は過剰な位に日銀おねだり相場の色彩が強くなっており、今回のように会合までの株価水準が高い場合は、何らかの期待がマーケットに反映されている場合がほとんどでした。
従って、大方の事前予想通りのノーアクションとなった場合でも、マーケットは失望で下がり易くなっていましたが、その一方で、ノーアクションなのに材料出尽くしで上がるようなケースはほとんどありませんでした。
それが、今回非常に静かな反応だったのは、他でもなく日銀自らの演出があったからに他なりません。1日の日本株は前場弱含んだこともあり、707億もの日銀による日本株ETF買いが出ています。
別にルールはありませんが、過去は日銀金融政策決定会合前後に株価操作的なETF買いが出ることは稀でしたので、1日の日銀のアクションに私はかなり違和感を覚えました。
元来、黒田日銀は株価水準を金融政策の成績として考えているフシがあるのに、自らの決定内容に対する市場の第一印象を素直に耳傾ける事を放棄したのです。
これでは番組を盛り上げるために、テレビ局の動員でバラエティショーの観客席で笑い声をあげるサクラと何ら変わりがありません。
従って、市場の反応は1日のマーケットの動きほど好意的ではなかったと私は考えています。
■夢の終わり
次に、会見後に多くのメディアの論調がネガティブになった理由について考えてみます。
想定通りノーアクションだったのに、なぜネガティブな論調になったかというと、それは「ノーアクションであっても、従来はリップサービスをすることが多かったのに、今回はなかった」という点と「目標未達に対して開き直りとも思える発言をした」為でしょう。
そして、それもこれも「前回の決定会合(9/20〜21)で日銀が誤ったメッセージを送った事で、現在日銀が行っているオペレーションの方向性に対するマーケットの認識が不十分だった」ことに尽きると思います。
これらについて順を追って説明します。
■消えたリップサービス
まず、従来はノーアクションでも緩和に関して「必要ならば躊躇なく」というリップサービスをしていました。
1日の会見ではご機嫌取りのようなリップサービスは発せられず、代わりに物価目標達成時期の後退に関して「2年2%未達は残念だが、欧米中銀も同様」という開き直りとも取れる発言をしました。
始めの「必要なら躊躇なく」というセリフが無くなったのは、前回9月の日銀金融政策決定会合以降の黒田日銀総裁の発言を追っていればわかる事です。
このところの黒田日銀総裁は、当面の追加緩和は必要がないという論調を繰り返す他、マイナス金利も弊害が大きいという見方をしてきたので、「当面必要ないと考えているし、やる場合は弊害も多いので、(やるとしても)躊躇なくは出来ないだろう」という見方が根強くなったため、今回会合は事前からノーアクションという見方が主流になっていたのです。
また、原油安を背景にした世界的なデフレ傾向の長期化もあり、物価目標を後連れさせる動きは欧米中央銀行も同様なので、「目標の後連れは欧米も同じ」というのも全くその通りで、日銀だけが誹りを受ける筋合いは全くありません。
このように、会見の黒田日銀総裁の発言はこの1カ月の氏の発言から容易に推察咲きるものなので筋が通っています。
にも関わらず、メディアの論調や会見後のマーケット(昨晩の夜間市場)がネガティブな反応をしたのは、「そもそも前回会合での決定内容をミスリーディングした影響が今になって出た」からだと私は考えます。
■メディアによるミスリード
前回の決定会合は、黒田日銀総裁を始めとする日銀は「緩和の強化」を決定したことになっていますし、依然としてマーケットもそのような認識です。
詳細は前回の決定会合に対する私の見方を参照していただければと思いますが、この決定の結果、「今回については、量による短期決戦型から金利による持久戦型に切り替えた9月の会合から間もないので市場も想定内と受け止めた」訳ですし、「今後の主要追加緩和手段とするマイナス金利の深掘りは副作用も大きいので当面追加緩和はないとの見方が広がりつつある」のです。
というと非常にモノ判りが良いように思えますが、この「成果達成までの時間軸の後連れ」「金利重視型にする事で実際的な効果がどうなるか?」「今後の緩和手段としてマイナス金利という効果検証結果を示しながらも、マイナス金利の弊害を認めた」という前回会合の決定と会見で生じた「緩和発言」と「実際のオペレーション」の矛盾を、マーケットはきちんと認識していたでしょうか?
私は前回の決定会合直後の記事で、「今回の決定内容は、黒田日銀総裁が言うような緩和の強化ではなく、短期的には金融引き締めやテーパリング(緩和縮小)と同様の効果になる」と書きましたし、「もったいぶって出してきた効果の検証で有効とされたマイナス金利は、民間銀行の収益的なダメージが大きい事もあり、頻繁に行うことは困難」という見方もしました。
要するに前回の決定会合では、「当面有効な緩和手段は短期金利の調節なのでマイナス金利が依然として有効と説いた一方で、イールドカーブの平たん化の悪影響を避ける為に、長期ゾーンを(現行はマイナス金利なのに)ゼロに引き上げるようなオペレーションをする」という事を決定したのです。
しかし、勘違いした幾つかのメディアは、「長期金利がいくら跳ね上がっても金利ゼロになるまで国債買い入れを行うので、これはヘリマネと同じだ」といった訳の判らないことを書くところも出たくらいです。
しかし、考えてください。
今時点で長期金利はマイナスなのですよ。これをイールドカーブの平たんが問題だからといってゼロにするオペレーションをする場合、これは金融緩和ですか?少なくともゼロまで長期金利が上昇する以上、引き締めではないですか?
それどころか、テーパリング(緩和縮小)まで始めたのですよ。
■「緩和縮小」は始まっている
13年の黒田バズーガ以降、マーケットは国債買い入れという過剰流動性供給を金利以上に好意的に受け入れてきたのです。なので、年間の国債買い入れ量を増額するたびに、株式市場は急騰する反面、今年1月の日銀金融政策決定会合で「国債買い入れの増加ではなく、マイナス金利の導入」を決定した後は、急激な円高・株安になったのです。
現在の過剰流動性相場を支えていると言っても過言ではないこの国債買い入れという名の流動性供給量は、前回の決定会合で決定された「長期金利をゼロにする」というオペレーションの結果どうなったと思います?
前回の会合前は、これまでの日銀の決定通りに「年間80兆円の国債買い入れペース」でしたが、それ以降は「年間75兆円程度の買い入れペースに落ちている」のです。
理由は簡単です。需要と供給が価格を決定している以上、長期金利をゼロに引き上げるためには、長期国債の買い入れ量を減らすしか方法がないからです。
前回の会合の決定内容を受けた直後のメディアは、「長期金利が2%になる局面でも、日銀は長期金利をゼロにするまで、どこまでも国債買い入れを増やしてくれる」とはしゃいだのですが、今は長期金利もマイナスなのに、長期金利が2%の世界をなんで今から考えないといけないのでしょうか?
そもそも、そんな水準まで長期金利が上がっていたら、日銀は前回の決定内容も速やかに放棄して、「日銀は物価目標2%をクリアしたので、今後は出口戦略を開始します」と高らかに宣言するでしょうよ。
実際、前回以降に日銀が行っているのは金利引き締めであり、国債買い入れ額の減額なので、市場が最も恐れているテーパリング(緩和縮小)と何ら変わりがないのです。
■黒田総裁の「屁理屈」
黒田日銀総裁は本日の衆院財務金融委員会で、1日の会見では封印した「(追加緩和が)必要に応じて追加措置を取る用意がある」と発言しましたが、この1カ月でやった事は国債買い入れ量を徐々に減額するという「出口戦略」に他なりません。
黒田日銀総裁は今のオペレーションはテーパリング(緩和縮小)とは違うという事を再三言っていますが、現実に長期金利が上昇気味になって、国債買い入れ量が減額されている以上、これをテーパリング(緩和縮小)と呼ばないのは屁理屈に過ぎません。
それでも、長期金利の引き締めとセットで短期金利の緩和(マイナス金利幅の拡大)をすれば、「物価に効果がある短期ゾーンを緩和する総合的な戦略」と評価することはできたでしょう。
しかし、日銀は前回9月の日銀金融政策決定会合で、2カ月かけて追加緩和手段の効果検証を行った結果マイナス金利が最適という結論を出したにも関わらず、「でもマイナス金利は短期的な弊害が多いので今すぐは考えていない」ような事を再三述べているのです。
2カ月もかけて効果の検証をしたのに、なぜ今すぐ出来ないような緩和手段を選んだのでしょうか?私はこの時点で、「日銀の追加緩和に対するやる気の無さ」を感じてしまいました。真剣に緩和について考えているのなら、理屈上望ましい手段以上に、支障がない現実的な手段を選ぶのが常識だからです。
この常識を放棄した時点で、「緩和の強化」と言ったものの、「長期金利は引き上げるし、短期金利は弊害が大きいのでマイナス幅を拡大できない。なので、両方合わせると、テーパリング(緩和縮小)であり金融引き締めである」事になるのは当然の帰結だったのです。
これが前回の日銀金融政策決定会合以降、日銀がやった事です。
■梯子を外された市場
しかし、市場参加者は黒田日銀総裁を始めとする日銀のうたい文句で動いていたし、いまだにそう考えている投資家もいるのです。
前回の決定会合当初は、ほぼ全ての参加者が日銀のうたい文句を額面通りに信じて、「緩和だ!ポジティブだ!」とはしゃいでいましたが、国債買い入れが減額されているという事実を目の当たりにして徐々に「これは引き締めじゃない?」という見方が広まっていました。
なので、「年内に日銀はテーパリング(緩和縮小)についての言及をするのではないか」とか「国債買い入れ80兆円という現行の目標の撤廃をするのではないか」という見方すら出てきたくらいです。
これに対し、今月の決定会合後の会見でのポイントはなんでしたっけ?
「必要とあれば躊躇なく」と言わなかったのと、「目標の後連れは欧米も同じだから仕方がないじゃん」という開き直りですよね?
これは、前回会合の決定が緩和の強化と信じていた人にとって、「まあ、先月緩和したばかりだから、今月ノーアクションなのは当然だよな」で済む発言だと思いますか?
前回緩和の強化というスキーム変更を行い、今後もマイナス金利を深掘りできる地ならしとして、まずは異常な状態の長期金利がマイナスというのをゼロに正常化させるというのを先にしているのですよね?
緩和を期待している人からしたら、「まず長期金利を引き上げ方向にしているのだから、短期の引き下げは今月無くても、それを匂わすのは当然」と考えるのは自然だと思います。しかし、黒田日銀総裁は、その梯子を外したのです。
また、緩和手段を量から金利に変えた時点で推察が付いたとはいえ、それを緩和の強化と額面通りに取った人からしたら、今回の「物価目標の達成時期の後連れ」は「緩和の強化をしてわずか1カ月で、なんで見通しを下方修正してくるの?」とネガティブな反応になっても仕方がないでしょう。
このように、前回の決定会合を緩和の強化と考えていた人にとって、今回の会合と引け後の会見は「梯子を外されたような印象になってしまった」のです。
■「やっぱり、緩和縮小っぽい」
一方、「前回の会合の決定内容はもしかしたら引き締めで、テーパリング(緩和縮小)じゃないの?」と勘繰り始めた人にとって、今回の会合と会見は「やっぱり、それっぽい」と感じさせるに十分でした。
「必要ならば躊躇なく」を言わずに、「欧米も物価目標を後ずれにしてるから」といって、物価目標を後連れにするというポイントは、今が、国債買い入れを増額している時期なら、「これ以上の目標先送りを回避するために追加緩和」という期待を醸成したでしょう。
しかし、この1カ月で日銀が行ったオペレーションは実質テーパリング(緩和縮小)であり金融引き締めなのです。
国債買い入れを減額しておいて「目標を先送りにしても問題ないよ」と開き直るということは、「今行い始めた国債買い入れ減額を正当化する発言」と取られてもおかしくないと思いませんか?
テーパリング(緩和縮小)を始めたせいで目標後連れになった可能性もあるのですから、これを「欧米も…」と正当化するという事は、テーパリング(緩和縮小)が第一義で、なんらかの減額ターゲットを持って国債買い入れの減額を行っている可能性が高いのです。
つまり、日銀の政策に疑念を持っていて、「早晩、国債買い入れ年間80兆増額という目標を撤廃するのでは?」と考えていた人からすると、1日の会見は「やっぱり、国債買い入れ80兆円増という目標が現実的じゃないから撤廃しそうだ」と考えるに十分だったのです。
■もう「株価買い支え」は通用しない
リーマンショック以降、日米欧中央銀行が競ってマネー供給を増やしてきましたが、ここにきて急速にその巻き返しが起きています。米国の量的緩和は既に終了し、今は2度目の利上げが間近に迫っています。
また、つい数か月前まではBrexitショックの対応の為に大規模な流動性供給をいとわないと発言していたECBも、先月来テーパリング(緩和縮小)の議論を始めたという話が漏れ始めています。
そんなこともあり、10月の世界の債券市場は、市場全体がリスクオフ気味にも関わらず、中央銀行の買い入れ減額懸念で大幅に売られています。
そんな中で、実は最も過激なテーパリング(緩和縮小)を行っているのが日銀なのに、当の日銀関係者が「これは引き締めなんかじゃなくて緩和の強化なんだよ。君たち信じなさい」と言ったばかりに、それをいまだに信じ続ける投資家やメディアが少なからず居るのです。
そんな楽観的でお人好しの人たちも、「日銀って、この1カ月でなんだかマーケットに冷たくなってない?」と不安にさせたのが、1日の会見だったのです。
元々、前回の日銀金融政策決定会合で引き締め&テーパリング(緩和縮小)の狼煙を上げたと思っていたら、1日の決定や会見は理に適ったもので全く違和感がありませんが、なまじ緩和に期待をしていたら、「急な梯子外し」に不安を覚えてしまうと思います。
当の日銀が緩和といっているというだけで、実質的に「金融引き締めのオペレーション」を行っているのに、こんなに長い期間ネガティブ視されないとは私は正直思っていませんでしたが、さすがの楽観主義者も1日の決定会合で何が起きているかを考えるきっかけになったと思います。
そういう意味で、今後日銀による「サクラ演出」的な株価買い支えは通用しなくなってくるでしょう。
■さよなら、黒田ピーターパン
黒田日銀総裁は昨年6月のカンファレンスで、ピーターパンを引用して追加緩和に対して、次のような意気込みを語っていました。
「皆様が子供のころから親しんできたピーターパンの物語に、『飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう』という言葉があります。大切なことは、前向きな姿勢と確信です」
今回の目標先送りで、「ピーターパンが飛ぶのを止めて、現実的な路線を採用する事で地上に降りた」と揶揄する人も出てきました。
せっかくですので、私もピーターパンの話を引用させていただきます。
夢(緩和)か現実(引き締め)かあいまいなピーターパンの世界からウェンディが戻ったとき、空には海賊船の形をした雲が浮かんでいました。そして、彼女はパパに「私、大人になる」と発言したのです。
黒田ピーターパンの本当かうそか判らない夢物語に付きあわされていた人たちが、一人また一人とウェンディのように目が覚めて大人になっていくでしょう。
我々はちょっと不思議な形の雲を見てそんな夢を見ていただけで、どこまでも緩和をしてくれるピーターパンなんて最初から存在してなかったのかもしれません。
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