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残業規制で景気回復……?
残業規制が強化されて、産業界が潤う可能性を考える。(塚崎公義 大学教授)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161103-00010004-scafe-bus_all
シェアーズカフェ・オンライン 11/3(木) 8:17配信
違法な残業を取り締まろうという動きが活発化しそうです。今まで野放しになっていたものが規制されることになるわけです。誰でも、規制が強化されるのはイヤです。産業界も、残業規制が強化されるのは嬉しくないと思っているでしょう。
しかし、規制される企業が困るとは限りません。業界に対する規制が「事実上の官製カルテル」として機能する場合も少なくないからです。今回も、残業規制で産業界がむしろ潤う可能性さえあると筆者は考えています。今回は、残業規制の影響について考えてみましょう。
■自動車の自主規制で日本車メーカーが儲かった話
1981年、当時は日本車の対米輸出が急増しつつあり、米国の自動車産業を保護するため、米国が日本に対処を求めていました。そこで、日本政府は対米自動車輸出自主規制を行ないました。自動車輸出各社に対し、「今年の対米輸出は何台以内」と枠をはめたのです。
当初、各社は困惑しました。昨年より輸出台数を減らせと言われたら、その分だけ利益が減ってしまうと思ったからです。しかし、そうではありませんでした。
「日本車は性能が良いから、高くても買いたい」という米国の消費者が多かったので、自動車各社は恐る恐る輸出価格を値上げしました。「どうせ政府から減らせと言われているのだから、値上げで輸出台数が減ったとしても、構わない」と考えたのです。結果としては、値上げをしても輸出台数はあまり減らず、政府の要請を上回ってしまいそうでした。
そこで、更に値上げをして、それでも輸出台数があまり減らずに更に値上げをして、という繰り返しで、結局政府の規制台数にまで減ったのは、相当大幅な値上げをしてからでした。後から振り返って見たら、利益は大幅に増えていたのです。
後から考えれば、これは官製の輸出カルテルでした。輸出企業同士が談合して輸出価格を吊り上げるために輸出台数を自主規制すれば、それは違法なカルテルですが、政府の要請に従っただけであれば、カルテルにはなりません。結果としてカルテルを組んだのと同じ利益が得られたのですから、自動車輸出企業にとっては非常に美味しい話だったわけです。
余談ですが、日本の自動車会社は大きく儲かりました。米国の自動車会社も儲かりました。ライバルの日本車があまり輸入されず、しかも高値で輸入されたので、米国車の売上台数が増え、価格も値上げする事が出来たからです。損をしたのは米国の消費者でした。しかし、そんな事は知りません。日本としては、米国政府に規制しろと言われて規制しただけですから(笑)。
■銀行の自己資本比率規制で銀行が一瞬儲かった話
銀行には、自己資本の12.5倍までしか貸出をしてはいけない、という規制があります。実際には相当複雑な規制で、BIS規制とか自己資本比率規制とか呼ばれていますが、本稿では詳細は省きます。
この規制が導入された時、銀行は困惑しました。「貸出を減らさなければならない。利益が減ってしまう」と考えたわけです。しかし、そうはなりませんでした。すべての銀行が貸出を減らしたため、「どうしても借りたい」という借り手に対して高い金利で貸し出すことが出来たからです。これも、自動車の輸出自主規制と同様、「結果としての官製カルテル」だったのです。
もっとも、銀行の利益は、すぐに縮小してしまいました。「どうしても借りたい」という借り手が多くなかったことと、銀行が利益を自己資本に蓄えることで銀行の自己資本が時間の増加とともに増えていったからです。
余談ですが、自己資本比率規制は、90年台後半以降問題となった「貸し渋り」「貸し剥がし」の原因でした。借り手の倒産で損失が発生した銀行は、自己資本が減少したため、「自己資本の12.5倍」が減少し、貸出を減らす必要に迫られたのです。
■残業規制は、産業界全体の労働力不足を招くので、カルテル効果が出そう
残業規制は、日本経済全体の労働時間を減らします。失業者が大勢いる時であれば、残業の規制は失業者を減らすだけで日本全体の労働時間は不変かも知れませんが、今回はそうではありません。
各企業は労働力の確保のために高い時給でアルバイトを雇おうとするでしょうが、現在すでに労働力不足なのですから、その奪い合いが激化するだけで、日本全体としての労働力が増えるわけではありません。違法残業が無くなった分だけ日本経済全体としての労働力は減ります。そうなると、日本企業全体として供給できる財やサービスの総量が減ります。
自動車の例のように、値段が上がるかも知れません。労働力不足から財やサービスの生産量が減れば、需要と供給の関係から値段が上がるのは自然な事です。これによって、企業は人件費の高騰を吸収できるかも知れません。
サービスの質を落とすことも可能でしょう。たとえば宅配便を即日配達せず、3日に1度の配達に変更したとしても、ライバル企業も同様に労働力不足ですから追随するかも知れず、そうなれば顧客を失わずに配達回数を大幅に減らしてコストを大幅に削減する事が出来るかもしれないのです。
少し大きな目で見れば、日本企業は過当競争だと言えるでしょう。価格競争も熾烈ですが、サービス競争も熾烈です。飛行機や電車が5分遅れるとお詫びのアナウンスが流れる国は、他には無いでしょう。それが、「30分以内なら許容範囲」と客も企業も割り切れるようになれば、必要労働力は大きく減少するでしょう。「5分以内に運行を再開するため、すべての駅に交代要員を置いておく」といった必要が無くなるからです。上記のように、宅配便も3日に1度の配達でも大きな問題は生じないでしょう。
■誰も損をしないのなら、直ちに実行すべし!
これは、日本経済の正常化と言えるかも知れません。それで日本企業の利益も減らず、労働者のワーク・ライフ・バランスが大幅に改善するならば、それは素晴らしいことです。
全国の労働組合は勿論、経済団体も企業経営者も、労働基準監督署が違法残業を厳しく取り締まるように応援しましょう。
本件のキモは、取り締まられる企業自体にとっても利益になり得るという所なのです。反対すべき人はいないのです。あるとすれば、労働基準監督署の検査官を増やすと財政赤字が増えてしまうと嘆く財政当局くらいでしょうか(笑)。
塚崎公義 久留米大学商学部教授
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