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社員はなぜ、数字に興味を持ってくれないのか?
ドラ娘がつくった「おもてなし産廃会社」
第16回:産廃処理の職人が“相場師”に育つまで
2016年10月25日(火)
石坂 典子
経営に関する数字を社員に公開するのは、経営者にとって勇気が要ること。なのに、思い切って公開しても、社員はありがたがらないし、一向に興味を持たない――。産廃処理業界の改革を目指す、石坂産業(埼玉県三芳町)の石坂典子社長が、かつて直面した現実だ。社員の視線を「数字」に目を向けさせるため、どんな努力を積み重ねてきたか。そして、長い年月をかけて成功させたとき、どんな大きな変化が会社に生まれたのか。
ご無沙汰しておりました。約1年ぶりの更新にて失礼します。
その間、何をしていたのかといえば、本業(=社長業)の傍ら、この連載をまとめて1冊の本(こんな本です)にしていました。
せっかく本にするなら、あの話もこの話も書き足したい! と、のめりこむうち、連載の更新が滞ってしまった次第です。
大変、申し訳ございませんでした。
それはさておき、中途半端に終わっていた前回の続きです。
昨年の夏、私は、いわゆる「個人保証」を、取引のある金融機関のすべてから外してもらいました。個人保証とは、中小企業などの経営者が個人として、会社の借金の連帯保証人になること。会社の経営が傾けば、経営者が一家揃って路頭に迷いかねない、怖さをはらんだ仕組みです。だから、「個人保証を外してもらった」と、ほかの経営者の方々に話せば大抵、うらやましがられます。
昨年の夏、個人保証を外すことに成功した石坂社長。「数字に強い社員が揃っていたおかげ」と話す(写真:栗原克己)
では、どうして私は、個人保証を外してもらえたのか。
金融機関に「外してください」と、思い切って切り出すまで、私には相当な葛藤がありました。
しかし、いざ交渉を始めると、拍子抜けするほどあっさりしたもので、すぐに外してもらえました。
なぜ外してくれたのか。金融機関の方に尋ねたところ、「経営の透明性の高さ」が、評価されたらしいことが分かってきました。
では、「経営の透明性」とは何でしょうか。
どうやら、社員が会社の数字をきちんと把握していることが、「経営の透明性」として、評価されたようです。
しかし、社員に会社の数字に興味を持ってもらうというのは、実はなかなか難しい……。
前回のお話を駆け足で振り返れば、こんな感じです。
そして今回は、社員に会社の数字に興味を持ってもらえるようになるまでの、私の七転八倒です。
不器用なくらい、真面目な人がいい
2002年、私が30歳で社長に就任した後、わずか1年で、ベテランを中心に、約4割の社員が会社を去りました(詳しくは、第2回をご参照ください)。社長就任早々、したたかな洗礼を受け、人の上に立つしんどさを思い知らされましたが、へこたれてはいられません。辞めていった社員の穴を埋めるための採用活動に奔走しました。
面接で、私は意識的に「業界経験がない真面目そうな人」を、優先して通しました。
産業廃棄物処理会社では、珍しいことです。
なぜなら、産廃処理の現場では、パワーショベルやフォークリフトなどの重機を取り扱うことが多く、免許はもちろん、技術的な熟練が求められます。だから、どこの会社でも経験者の中途採用が圧倒的に多いのです。
けれど、私はそんな同業他社と、一線を画することを決意しました。
まだ産廃業界の常識を知らない、それどころか世間の常識にも疎いかもしれない。そんなまっさらな人材に、私と一緒に、ゼロからこの会社の新しいカラーをつくってもらいたい。それならば不器用なくらいに真面目で、経験のない若者のほうが合うだろう。私はそう考えたのです。
未経験者を優先して採用する代わりに、資格取得の支援制度を整備しました。重機の免許取得には、平均して10万円前後の費用がかかり、1週間ほどの講習を受ける必要があります。そこで、現場で2、3カ月ほど経験を積んだ新人については、免許取得の費用は全額、会社が負担し、講習期間は有給扱いにすることにしました。
こうして、石坂産業の現場には、産廃業界を初めて知る若者が、どんどん増えていきました。
そこでまた、頭を抱える事態が起きたのです。
石坂産業の産業廃棄物処理プラント。パワーショベルなど重機の取り扱いに慣れた社員が求められる(写真:的野弘路)
新入りの現場社員が、次々に陳情にやってきました。
「社長、あれが壊れた。直してくれ」
「今度はこれの調子が悪い。調べてくれ」
私の机に、重機の修理の見積書と請求書があふれます。お金のかかる話ばかりです。
「えええっ! なんで? なんでそんなに壊れるのよ」
そう私が尋ねても、「知りません」という、そっけない答え。
「そもそも、この重機のこれまでの稼働時間は合計何時間?」
そう尋ねても、やっぱり「知りません」。
要するに「過去のことなど、私たちは知りません。そんなことは誰にも教えてもらっていないし、私たちに分かるのは、とにかく今、この機械が動かないという事実だけです」と、主張するわけです。
そんなのは、言い訳なんじゃないかな。
正直に明かせば、最初は、そう感じました。
社員の主張は「言い訳」ではなく、「現実」である
彼らも、その壊れた重機を自分が「何日」動かしていたかは、だいたい把握しています。しかし、「合計何時間」となると、お手上げでした。そして、そこを押さえていないと、どのようなメンテナンスが必要なのかが、よく分かりません。
そこはやはり、未経験の素人の弱さです。
以前にいたベテランは、正確な数値までは把握していなくても、長年の勘で、それぞれの重機について、どのくらい老朽化していて、どのようなことに注意して動かすべきかを判断できていたようでした。だから、故障が続出することもなかった。
半年間で、社員の4割が入れ替わった後、社員の平均年齢は55歳から35歳まで若返っていました。しかも素人ばかりです。石坂産業は、20年分の技能をごっそり失ったような状態でした。
しかし、それは私自身が望み、選んだことです。
とすれば、若い社員の「分かりません」の連呼も、見積書と請求書の山も、決して「言い訳」なんかではありません。彼らにとって、どうしようもない「現実」です。
猛省して、対策を考え始めました。
「分かりません」という、若い社員の悲鳴は、こう言い換えられます。
「情報がありません」
そうか、情報だ。私たちの会社には、社員に情報を提供する仕組みがなかったのだ。これこそ一番の反省ポイントだ。
そこで、情報公開に力を入れることにしました。本腰を入れたのは、社長就任から3年ほどたったころからです。
そして2011年、新しい情報管理システムを導入しました。
同業者からは冷ややかな視線を浴びました。何しろ合計1億円ほどかけました。
「それだけのお金を使って、どれほど効果が出るものですかね」というわけです。
どうして、そんなにお金がかかったのかといえば、独自のシステムを組んだからです。
産廃の処理料金を査定するハンディターミナル。これも、独自開発したもの(写真:的野弘路)
どこの会社のお客様が、何月何日の何時何分に、車両番号何番のトラックで、こういう廃棄物を、これだけ持ち込んだ。そのときの単価はいくらで、売り上げはいくら。これを処理した重機の稼働時間は、累計何時間。加えて、この日の何時何分、こんな故障で一時停止した。その重機を動かしていた社員は、何時に出勤して、何時に退勤。その分の残業手当はいくらになる……。
そんな具合に、廃棄物の受け入れ状況から、会計管理や勤怠管理、トラブルの発生状況まで、会社で起きたことのすべてを把握できるシステムを、自前でつくりました。
そこまでやらなくては、未経験の新人の「分かりません」の連呼を、封じ込めることはできない。そんな思いがありました。
「数字の公開」を、社員は歓迎しなかった
要するに、「会社のすべての情報を公開する」と私は決めて、そのためのハードとソフトを整えたわけです。
現場の状況や会社の業績を逐一把握できるのは、経営陣だけではありません。原則として社員全員です。そのために、競合他社があきれるほどの投資をしたわけです。
創業者で、当時会長だった父は心配しました。
お金のことではありません。
「社員に売り上げや利益まで、すべて公開して大丈夫か」と。
ごもっともです。だから、情報セキュリティーの国際規格であるISMS27001を取得しました。
こうしてとうとう、新しい情報管理システムを本格導入して……。
さあ、社員の皆さん、情報を公開しましたよ!ぜひ見てください!
そう意気込んだのですが……。
見たがる社員などほとんどいませんでした。
社員に数字に基づいて考え、行動し、結果にこだわってほしい。
そう思って、私は、数字を「見せた」。
ところが、肝心の社員は、数字を「見ない」。
経営者にしてみれば、社員に数字を見せるのは勇気の要ることですが、だからといって、思い切って公開しても、社員はさしてありがたがらない。それどころか関心すら持たない。情報公開に取り組んで、最初に直面した現実でした。
情報漏えいの心配をしていたなんて、バカみたいです。
だからといって、諦めるわけにはいきません。
整理整頓と同じように(詳しくは、第3回をご参照ください)、しつこく訴えかけました。
社長に就任してすぐ、ISOなどの国際規格取得に取り組んだ私の経営の基本は、PDCAサイクルです。会社が1年間の方針を出すと、それに基づいて、社員が計画(Plan)を立てる。さらに実行(Do)に移して、その成果を評価(Check)した後、改善(Action)を加えます。
その一連の流れを紙に書いて提出し、私が赤ペン先生のように添削します。
いわば、社長と社員の交換日記です。
「赤ペン指導」で、社員の意識を変える
このような交換日記のファイルが、社内に約30冊あり、それらの添削を、私は十数年間、今に至るまで続けています。最初はISOのいわゆる「管理責任者」を社長自らやっていました。代表権を得た3年前、ようやくその肩書を専務に譲りましたが、赤ペン指導は、私が今も続けています。
私は、この赤ペン指導を活用して、社員の数字に対する意識づけを図りました。
現場の状況を記録した社員の報告書に毎日、赤ペンでコメントを書きこむ( 写真:的野弘路)
彼らが書いたノートをチェックすると、「量」は、最初からきちんと意識していることが読み取れました。「搬入された廃棄物は合計××立米(立方メートル)でした」といった具合です。
一方で、「売り上げ」への言及はほとんどありませんでした。
しかし、搬入された廃棄物の「量」を把握するだけでは、「売り上げ」は分かりません。
なぜなら、廃棄物の「質」によって、単価は変わります。
どの等級の廃棄物の搬入量が増減し、それが売り上げにどう影響したか。そこに意識を向けてほしい――。そんなことを、私は赤ペンで書き続けました。朝礼などでも、ことあるごとに話しました。
特効薬など見つかりません。地道に続けるしかありませんでした。
時間はかかりましたが、効果はありました。
「同じ搬入量でも、売り上げが高い月と低い月がある」
つい数年前まで、この事実に社員は気づけませんでした。しかし、今は違います。
「今月の売り上げが高かったのは、単価の高いE級の廃棄物の搬入が多かったからだ」
ここに、気づけるようになりました。大きな進歩です。
しかも、社員の進化は、これにとどまりませんでした。
社員の視線は、「出荷」にまで向かい始めました。
私たちの売り上げは、廃棄物を引き受けたときに受け取る対価だけではありません。例えば、雑多な金属を分別し、鉄スクラップなどのリサイクル金属として「出荷」すれば、そこにも対価が発生します。
では、いくらで出荷できるのか。
そこには相場があり、日々変動します。
そこに目をつけた社員たちがいました。
工場見学者に金属の見分け方を説明する社員。この日の見学者は、星野リゾートの星野佳路代表(写真:栗原克己)
金属系の廃棄物の処理を手掛ける彼らは、あるときから、スクラップを「売る時期」を、気にするようになりました。相場師のように市場の動向を見ながら、売るタイミングを見計らうようになりました。
彼らは一見したところ、普通の作業員です。工場見学にいらしたお客さんに、よく金属片を打ち鳴らして見せ、どうやって鉄とアルミを見分けて分別するかなどを解説して、喜ばせています。そういう意味では、エンターテナーでもあります。
しかし、その裏に、データの動きに細心の注意を払いながら決断を下し、利益を最大化する、知識労働者の顔も持っています。
現場の社員がここまでやるようになれば、会社は強い。
経営者の私の仕事は楽になり、彼らの仕事は楽しくなる。それが会社に、継続的な利益をもたらすのですから。
数字が分かれば、仕事はぐんぐん楽しくなる
かつて私は毎月、スクラップの単価表をしっかり読み込んでは、現場に出向き、「これは今、高い」「あれは安い」などと、こと細かく指示していました。けれど今は違います。
スクラップの単価表は、年次でしか見ません。月次の単価表は、現場の社員がしっかり見て、利益が出るように自分で考えてくれるからです。しかも、社員たちの数字の見方は、社長の私よりきめ細かいのです。何しろ、自分の持ち場のこと。会社全体を見ている私などより、ずっと丁寧に、しっかりとした責任感を持って分析してくれます。
金属系の廃棄物処理を手掛ける社員にあるとき、「今年はあなただけで売上高1億円を目指そうよ」と、持ち掛けました。達成したら、特別に賞与を出すと約束しました。
2014年のことです。果たして、彼は達成しました。
予想通りです。日ごろの働きぶりを知る私は、最初から達成できるだろうと踏んでいました。
こうなると、彼もノッてきます。
彼はそのうち、「廃棄物の買い付けをしたい」と、言い出しました。
今までは、お客さんから引き受けた廃棄物を売るだけだったけれど相場の動きに精通した今となっては、それだけではつまらない。安いときに買って、高いときに売るという新しいビジネスにチャレンジしてみたいというのです。
「そこまで言うなら、プラント1つを、あなたに任せるよ。自分が経営者になったつもりで、プラント1つの運営をすべて自分でやってみなよ」
私は、そう答えました。
1つのプラントに限るとはいえ、経営者である私がやってきた仕事をすべて任せるのです。うまく回れば、私の仕事はものすごく楽になります。
だから私も、新しいチャレンジに乗り出すのです!
(構成/小野田鶴、編集:日経トップリーダー)
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【人材教育編】「自分で考える」のは面倒くさい? 仕事の醍醐味を伝える
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【ワークライフバランス編】バツイチのワーキングマザーが、心の安らぎを取り戻すまで
【コミュニケーション編】社長業は、社員とのあいさつ一つから真剣勝負
エピローグ ―― 笑われてもなお、夢を描き続ける
このコラムについて
ドラ娘がつくった「おもてなし産廃会社」
トラック運転手の間で「心癒される運搬先」と評判の産業廃棄物会社、石坂産業。経済産業省の「おもてなし経営企業選」にも選ばれた異色企業を率いるのは、2児の母でもある石坂典子社長。最先端の設備と社員教育に大胆に投資しながら、価格競争とはきっぱり一線を画する――独自の経営戦略を、波乱の人生から得た教訓とともに語ります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/270191/101200004/
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