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コラム:
「株式化」する債券、見直すべき資産運用の法則
Swaha Pattanaik
[ロンドン 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 債券が「株式化」し始めている。利回り低下により、投資家はリターン確保の手段としてキャピタルゲイン(値上がり益)への依存が強まってきた。
これは利息収入よりも危険が大きい収益獲得方法だ。より安全とされていた債券関連資産への理想的な資金配分がどの程度かについての旧来の法則も見直さざるを得なくなるだろう。
ドイツ銀行のアナリストの計算では、過去10年で見ると米10年債保有による総リターンに占めるキャピタルゲインの割合は50%近くとなる。これほど高いのは少なくとも50年来で初めてで、長期平均の2倍に達する。一方でS&P総合500種の総リターンに対するキャピタルゲインの比率は3分の2、配当が残る3分の1だ。ドイツ銀によると、金融危機時の極端なケースを除けば、これは1980年代以降でキャピタルゲインの比率が最も低い。
債券の場合、利息収入が細っているので、全体としてはさえない株式のリターンに並ぼうとするだけでも、利回りが信じられないほどの低水準に下がる必要がある。もちろん利回りが非常に低い局面で何が起きても不思議ではない。例えばスイスの20年債利回りはマイナス圏に突入した。しかし通常は利回り上昇を伴う物価の上振れは、債券市場が過去の値上がりを再現するのが難しいかもしれない理由のほんの1つにすぎない。
資産運用の世界最大手ブラックロックは、向こう5年間はあらゆる資産クラスの中で先進国の政府債の運用成績が最低になると想定している。ブラックロックの見立てでは、期間10年を超える米国債のこの間のリターンはマイナス1.2%で、米大型株はプラス4.0%になるという。
債券利回りがもたらすごくわずかの収入は市場の大混乱によって吹き飛ばされるリスクもあり、昔ながらの資金配分方法はもはや時代遅れになりつつある。変化は既に見えてきた。ノルウェーの政府系ファンドは今後政府の諮問委員会の勧告に従うとすれば、債券保有に伴う損失を踏まえて株式への配分比率を60%から70%に引き上げる可能性がある。
利息収入が欲しかったり必要な人には、インフラ投資もしくはプライベートエクイティという道がある。債券市場を通じてリスクにさらされ続けるためにわざわざ対価を支払うよりも、別のさまざまなリスクを背負ってその見返りを受け取る方が望ましい。
●背景となるニュース
*ノルウェー政府の諮問委員会は18日、政府系ファンドは債券保有に伴う損失を受け、株式への配分比率を60%から70%に引き上げるべきだとの勧告を賛成多数で承認した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
http://jp.reuters.com/article/norway-swf-breakingviews-idJPKCN12P08T
コラム:英ポンドは通貨安競争の勝ち組なのか=唐鎌大輔氏
唐鎌大輔
唐鎌大輔みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
[東京 25日] - 10月に入ってからの為替相場のテーマは、ひとえに英ポンドの急落に尽きる。アジア時間の7日朝方には数分で米ドルに対して6%余り下落する、いわゆるフラッシュクラッシュ(瞬時の急落)に見舞われ、一時約31年ぶりの安値をつけた。
しかも、すでに6月23日の英国民投票における欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)選択を受けて歴史的安値まで落ち込んでいた状態からの急落であり、今年のポンド相場は2段階の大幅切り下げを経験したような格好となっている。足元では対ドルで1.22ドル台と、7日につけた1.18ドルから値を戻しているものの、歴史的安値圏であることには変わりない。
現状、ポンドの急落は、英国の落日と重ね合わせた自然な動きとして、どちらかと言えば「同情的な目線」が多いかもしれない。後述するように、ブレグジット後の英国を待ち受けている未来は明るいものとは思えず、通商上の甚大な不利益を背景に経済が停滞する可能性は拭えない。「とりあえず不安だから」という思いの下でポンドを手放す向きは多いと見受けられ、実際それは理にかなったリアクションと言える。
<ゴールデンウェンズデー再現の可能性>
だが、デフレ懸念がグローバルスタンダードとなった今、通貨安は各国が希求するものでこそあれ、忌避すべきものではなくなっている。例えば、日銀や欧州中央銀行(ECB)がここ数年、通貨安をてこにインフレ期待を押し上げ、ディスインフレ状況の打破(日本の場合はデフレ脱却)を図ろうとしていることは周知の通りである。
この点、ポンド急落を受けた英国の物価動向は堅調な推移が見通されており、2017年末にはプラス4%に到達するとの見方も目にする。もちろん、通貨安・輸入物価経由の物価上昇が消費・投資意欲を刺激できなければ、実質購買力を毀損(きそん)するだけであり、前向きな話にはならない。
とはいえ、中央銀行が「デフレの粘着性」に対し強い恐怖感を抱いているのも事実であり、インフレ期待を下支えるという大義の下、なりふり構わず通貨安を希求する向きは今後も後を絶たないと思われる。各国政策当局から悲観視されるブレグジットを経て、英国が通貨安をてこにインフレを実現するのだとすれば、皮肉な話だ。
なお、10月以降のポンド急落の最中、イングランド銀行(英中銀、BOE)のキング元総裁が英メディアに対して、「住宅価格や為替レートの下落などは過去3年間、BOEが実現しようとしてきたことであり、今やそれが手に届きそうな状況だ」といった趣旨の発言をしている。ブレグジットで起きている市況変動は望んでいたものであり、それらを危険視する向きに対し、「寝ぼけたことを言うな(dream on)」といった胸中を吐露している。通貨安を介して経済の復調を図ろうという気持ちがはっきり表れている。
また、筆者はその可能性は低いと考えるが、ポンド安を背景に英国の実体経済がうまく回るようなことがあれば、触発される他のEU加盟国が現れる可能性もあり、欧州委員会を筆頭とするEU政策当局にとってはリスクとなる。
欧州為替相場メカニズム(ERM)危機として知られる1992年9月16日のブラックウェンズデーは、その後、通貨安を背景に英経済が回復したため、ゴールデンウェンズデーと呼ぶ声もある。現在、世界の通貨安競争を出し抜いたポンドがゴールデンウェンズデー再現に至るのかどうかは1つの注目点ではある。
<ポンド安の割を食った円>
以上のような認識に立つと、ブレグジット騒動に伴うポンド急落が、結果的に各国間の通貨安競争に火を付けてしまうリスクはないのかという不安は生じる。この点、今回のポンド急落の裏でどの通貨が最も買われたのかは気になるところだ。言い換えれば、ブレグジット騒動を受けて、世界の通貨高の案分を最も引き受けさせられたのはどの通貨だったのか。
ポンドの実効相場を計算する際、最もウエイトが大きいのはユーロ(61.5%)であり、ドル(15.0%)、円(4.9%)が続く。2016年1―8月の期間、ポンドの名目実効相場は約12%下落したが、通貨別の動きに分けて見ると対ユーロでは約15%(寄与度マイナス9.2%ポイント)、対ドルでは約12%(同1.8%ポイント)、対円では約31%(同1.5%ポイント)の下落だった(各通貨の変化率は2015年12月31日から16年8月31日で計測)。
円のウエイトはドルの3分の1しかないが、ポンドの名目実効相場全体に与える影響(寄与度)はドルとおおむね等しかった。それだけ対ポンドでの円の買われ方が急激だったことを意味しており、今回のブレグジット騒動の中でかなり割を食わされた感はある。
一方、対ユーロでのポンドの下落率(15%)は主要10通貨の中でも比較的小さい方であり、下から数えて4番目(スウェーデンクローナ、ドル、スイスフランの次)だ。ブレグジットはユーロ圏にもリスクであるため、ポンドを対ユーロで売り進めるという動きは限定されたのかもしれない。
なお、筆者は2017年にかけて米連邦準備理事会(FRB)のハト派色が強まり、ドル相場は下落すると考えている。通常、そうした状況ではどの主要通貨も強含みが不可避と思われるが、恐らくポンドはブレグジットという特異な理由で上昇圧力を回避する可能性が高い。だが、為替相場がゼロサムゲームである以上、その分の通貨高圧力は誰かが引き受けることになり、代表的には円やユーロという話になる(経験則に倣えば円が割を食う可能性が高そうだ)。
そうした相場動向を不服と捉えるのか、それとも不可抗力の調整として受け入れるのかによって、通貨安競争の行く末は変わってくる。とはいえ、前者の道を取り、各種政策対応で抗おうとしてもポンドのように一方的な低め誘導を図るのは難しいというのが歴史的な経験則になろう。ブレグジットを材料として抱えたポンド相場は特例であり、その他主要通貨は最終的には基軸通貨の意向(ドル安)に沿った展開を想定するのが無難である。
<ポンド安をうらやむ必要なし>
だが、ポンド安をうらやむ論調が支持を得て通貨安競争が刺激されるにしても、それはあくまで短期的なものだろう。
確かに、「通貨を下げた者勝ち」という通貨安競争の尺度に照らせばポンドは「勝ち組」であり、「物価を上げる」という各国中銀が悪戦苦闘する命題も難なくクリアするかもしれないが、世界経済の成長が緩やかなものになっている今日、通貨安で取り込める需要は限定的なものである公算が大きい。結局は物価上昇によって国内経済主体の購買力が著しく奪われ、景気停滞につながる可能性が高いのではないか。
また、そうした結果はEU離脱派が唱えてきた「EUを離脱すれば移民も遮断でき、EUへ予算を拠出する必要もなくなるから豊かになる」といった主張とはだいぶ異なる話である。とすれば、ポンド急落は最終的に大きな政治問題として現政権を襲うのではないか。
ポンド安をうらやむような論調が見られるうちは、まだブレグジットの副作用に蝕(むしば)まれる以前の初期段階と考えられ、本当の苦しみはポンド安が国内物価上昇に浸透しきった頃に表れるはずである。物価上昇はあくまで景気回復の結果でしかなく、決して原因ではないことを今後の英国経済は証明するだろう。
*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-daisuke-karakama-idJPKCN12O0SV
メイ英首相、EU離脱交渉で国内3つの自治政府と協議
[ロンドン 24日 ロイター] - 英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を巡り、スコットランドと北アイルランド、ウェールズの国内3つの自治政府の代表が24日、メイ首相と会談した。
ブレグジットの手続きの中で各地域が果たす役割について議論し、メイ首相は3地域のブレグジットに関する意見を反映させるため、新たな委員会の設置を提案した。
委員会はブレグジット担当相のデービス氏をトップとし、スコットランドと北アイルランド、ウェールズの自治政府の代表も参加する。メイ首相の提案によると11月末までに最初の会合を持ち、クリスマスまでに少なくとももう一度集まるという。
専門家らは、メイ首相が国内の自治政府の見解を考慮せずに、ブレグジットの交渉を進めるならば、それは憲法上の大問題を引き起こす可能性があると警告している。
会談前に発表された声明でメイ首相は「英国は大変に重要な交渉に臨もうとしており、自治政府の交渉への参加は必須である」と強調した。
ブレグジットを巡ってはイングランドでは離脱支持が過半数だったが、スコットランドではEU残留を望む声が多数派だった。イングランドとの間の3世紀にわたる連合は危機に瀕している。
スコットランド自治政府のスタージョン首相は、ブレグジットに向けた交渉への「意味ある意見の反映」を期待するとし、スコットランドなど3地域にイングランドを加えた4つの議会が、今後提示される交渉パッケージについて、それぞれ投票できるようにすべきだとした。
スタージョン氏はこれまで、スコットランド自治政府はブレグジット後を見据えて、英国からの独立を含む全ての選択肢を検討しているとしてきた。
スコットランドと同じくEU残留を支持した北アイルランドでは、ブレグジットが1998年の北アイルランド紛争を巡る包括和平合意を無にし、アイルランドとの国境が再び不安定化するのではないかと懸念されている。
EU離脱派が多数だったウェールズ自治政府のジョーンズ首相は、自治政府がブレグジット交渉の中で前向きで活発な役割を担うことを期待すると強調。自身のツイッターで「もし英国政府が自治政府と折り合いをつけることができないのならば、EUの27カ国との間でブレグジットの交渉をうまく進めることは難しいだろう」とつぶやいた。
独立系シンクタンクのインスティテュート・フォー・ガバメントはリポートで「自治政府の反対(法律的に可能である)の中でブレグジットの交渉で合意するのは無謀な戦略だ」と指摘。「スコットランド、ウェールズ、北アイルランドを他のロビー団体や利益団体と同じように扱うことはできない。同じように自治政府は英国の議会の最終決定を尊重しなくてはならない」としている。
http://jp.reuters.com/article/britain-eu-may-idJPKCN12P04J
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