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「爆買い」の次は「爆留学」!? 東大に中国人学生が殺到する理由 報われない社会で暮らすよりは
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49963
2016.10.23 中島 恵 現代ビジネス
中国人の若者が、日本へ「爆留学」を続けている。いったい彼らは何を求めて日本に来るのか――。留学生に丹念に取材をし、『中国エリートは日本をめざす』(中公新書ラクレ)を上梓したジャーナリストの中島恵氏に聞くと、彼らの事情から、現代中国の「いま」がリアルに見えてきた。
■あまりに過酷な受験事情
あまり知られていませんが、東京・大久保には、日本の大学や大学院を目指す中国人向けの予備校があります。そこに通っている学生はいまやなんと1200人超。そのなかの一人、河北省出身の18歳の女の子は早稲田大学が第一志望ですが、彼女は日本に留学することについてこう言っていました。
「私の田舎の村でも日本の早稲田はすごく有名です。もし早稲田に留学できたら、私、中国ですごく自慢できます」
この予備校や女の子の言葉が示しているとおり、中国人学生の日本への留学は非常に盛んで、’15年の東京大学への中国人留学生は、前年より89人増えて989人。割合は留学生全体の43%にも上ります。
なぜ彼らが日本に来るのか、その事情を取材していくと、現代中国の若者の生き方、彼らが抱える問題などが浮き彫りになり、そこから中国社会の現状が見て取れることがわかったのです。
中国の大学入試制度をご存じでしょうか。中国では年に一度、全国で一斉に「高考(ガオカオ)」という大学入試が行われます。完全なる一発勝負です。高校生たちはこの日に向けて猛勉強をします。私が聞いただけでも一日10時間勉強する高校生なんてザラです。
家族や周囲がそれを応援する雰囲気も強く、遅刻しそうな学生をパトカーが会場まで送ったとか、試験のことを考えて、父親が亡くなったのにその事実を2週間も受験生の娘に伏せていたとか、そうしたエピソードには事欠きません。
中国の若者が日本の大学を目指すのは、こうした逸話に象徴されるように、国内での大学受験の競争があまりに激しいからです。人口の多い中国は、タクシーを捕まえるのも競争(横入りは当たり前)、飛行機のチケットを買うのも競争(友達に頼んで一緒にとってもらう)と、まるで、社会に「競争」がデフォルトで設定されているような場所です。
あらゆるところに競争が溢れていますが、大学入試はその象徴的な存在といっても過言ではありません。ごくシンプルに言えば、一部の若者たちがその競争を嫌って、日本を目指しているのです。
■はびこる「科挙」の歴史
――そんなに殺伐としているんですか……。どうしてそこまで受験競争が激しくなるんでしょう?
そもそも中国は、隋の時代から1400年の長きにわたってエリート官僚の選抜試験である「科挙」を実施してきた国で、学問、勉学を重視する姿勢は日本よりもはるかに強い。
いまでも、地域内で「高考」の点数がトップになった子は、科挙に由来する(!)「状元」という称号を与えられ、伝統的な服を着て地方の新聞の一面にデカデカと掲載されるのです。こうした伝統が、受験競争の基底にあるのだと思います。
また、多くの若者が大学を目指すようになったにもかかわらず、それほど大学が整備されていないのも競争が激しくなる要因ですね。大学は全体で2800校あるものの、そのなかで資金がふんだんに投入されている「重点大学」は80校のみ。’15年の試験では約940万人の高校生が試験を受け、この「狭き門」を目指しています。
しかも、一時より成長率は下がっているとはいえ、経済成長を続ける中国では、まだまだ立身出世主義が強く、いい学校、いい会社、いい人生という発想が生きています。
いきおい、数少ない重点校を目指して熾烈な競争が巻き起こるのです。日本も’70年代には「受験戦争」が問題になりましたが、現代の中国も似たようなフェーズにあるということです。
もっとも、激烈な競争ゆえ、中国の高校では部活動も恋愛も禁止されていて、いわゆる進学校の学生たちは、社会経験のない「受験秀才」になってしまっているという弊害もあるのですが……。
一人っ子政策で子供が甘やかされた影響もあって、登校する子供に親が付き添って、しかも鞄を持ってあげるとか、中高生の子供に親がものを食べさせてあげるとか、そんな子供が多くなっているという話はよく聞きます。激しい競争にさらされているのに軟弱……なんとも複雑な存在です。
■努力が報われないなら日本に行く
――たしかに、そうした中国での苛烈な競争に比べると、日本への留学はずいぶん効率的でしょうね。
そうなんです。さらに言えば、中国社会のデフォルト設定である「格差」「不公平」も、大きく影響しています。「高考」には、地域ごとの格差が見受けられるんです。
大学の合格者数は、試験の段階で地域ごとに割り振られていて、たとえば北京大学は、北京市出身者は1000人取るのに、四川省からは50人しかとらない(数字は非公表)、といったことがありえ、地方の学生には圧倒的なハンデがあるのです。
どんなに努力しても報われない可能性があり、「だったら日本に行くよ」と考える学生も少なくありません。
――日本の「公平性」に憧れて、やってくるわけですね。
そうです。「競争を避けたい」という後向きな理由だけではなく、むしろ「日本に憧れて」という要因も大きい。中国の中高年インテリ層は「ジャパンアズナンバーワン」の時代をよく知っており、日本に対していいイメージを抱いています。
若者が日本へ留学することは彼らのその後のキャリアにとって大きなプラスになります。アニメや漫画を通して日本に憧れを抱いている学生も少なくありません。私の知り合いの中国人留学生には、漫画『ラブひな』(主人公が東大に合格した途端モテモテになる)を読んで東大を目指した中国人の男の子もいますよ。
■中国の「ゆとり世代」
――優秀な人はアメリカに行くというイメージもあります。
もちろん、ものすごく優秀な学生は、アメリカのスタンフォード大やハーバード大に行きます。ですが、そこまでの頭脳は持たないけれど、そこそこ優秀で、ちょっとおっとり型の学生にとって、日本はある意味で、「一発逆転」「起死回生」の場になるんです。
また、先ほどの「立身出世主義」とは矛盾するようですが、日本で「ゆとり世代」と言われるのと同様、中国でも、上昇志向がそれほど強くない若者が増えています。90年代以降に生まれた「90后(ジウリンホウ)」と呼ばれる人たちですね。
私が取材したなかにも、プラモデルが大好きで、日本のおもちゃメーカーに就職した男の子がいますが、「好きなことをする」「上昇志向よりもやりがい」といった感覚を持つ彼のような若者にとって、日本は非常に「効率のいい」場所なんです。
アメリカに行くほど頑張らなくても、相応の成果が手に入る「いい湯加減」の場所とでも言うべきでしょうか。
――なるほど日本への中国人留学生は、ある意味で変化の時を迎えつつある中国の象徴なのかもしれませんね。
そうかもしれません。興味深いのは、日本では、「立身出世主義」→「ゆとり世代」と順を追って生じたように見える現象が、中国では同時期に現れていることです。中国では、一部の学生は国内で激しい競争に打ち勝つためがむしゃらに努力し、他方でサラリと日本へ留学をして、効率的に成功を収めようという学生もいる。
こうした、一見矛盾した特徴を持つものが同時期に現れるというのは、中国ではよくあること。その、様々なものを同じ土地に包み込んでしまう度量の大きさと桁違いのスケールこそが、中国の魅力だともいえるでしょう。
中国のエリート層は「爆留学」をしている。日本の一流大学は中国人留学生だらけに?
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