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「日本人が働けば働くほど国が滅びに向かう」というパラドックス
http://www.mag2.com/p/news/224417
2016.10.20 まぐまぐニュース
「アリのように働く」とフランスの首相に揶揄されたこともある日本人。働けば働くだけ潤った時代は「長時間労働」にそれなりの意味もあったかもしれませんが、今やブラック企業という言葉が当たり前になるほど、労働時間に対する見返りの少ない時代になってしまいました。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「長時間労働で経済が成長することは幻想であり、国益を破壊する」と警鐘を鳴らしています。
■労働時間短縮は、日本の「国益」?
私は、「日本は世界一すばらしい国」と確信しています。モスクワに26年住み、いろいろな外国を見た結果の確信です。
しかし、そんな日本にも、「これはちょっと」と思うことがあります。それが、「働きすぎ」。いえ、「働かせすぎ」。なぜそう思うかというと、「働かせすぎ」が日本の国益に大きな打撃を与えているから。なぜ?
■8時間労働の歴史
皆さんも聞いたことがあると思いますが、19世紀の欧州では、労働環境がひどかった。労働時間は、1日14時間だったともいわれています。女性、子供も容赦なく働かせていた。朝の8時にスタートすると、夜10時まで。朝9時にスタートすると、夜11時まで。「なんだ。俺もそのくらい働いているぞ!」という読者さんも、結構いるかもしれません。
いずれにしても、「これはひどい!」ということで、「労働時間を短くしよう」という動きが起こってきます。イギリスでは1847年、「工場法」が制定されました。年少者や女性の労働時間は10時間と決められます。労働時間の短縮や労働条件の改善を目指す国際機関、国際労働機関(ILO)は、1919年に設立されました。ILOは当初、「労働時間1日8時間、週48時間」の世界実現を目指していました。つまり、当時は「週休1日制」だった。ところが後に、「1日8時間、週40時間」を目指すようになります。「週休2日をグローバルスタンダードにしよう」と。
このように、「労働時間を短くする世界的取り組み」には、すでに100年ちかい歴史があるのです。
■過酷な労働条件が、革命を起こす
19世紀、欧州の労働者は、過酷な条件下で働かされていた。その怒りを原動力に、パワーを得た思想があります。それが、共産主義。共産主義の話をすれば一冊本を書けますが、簡単にいえば、「労働者が資本家を打倒し、皆平等の共産世界を築くのは、歴史の必然だ!」という思想。
虐げられている労働者が、いじめている資本家を打倒することは、正当化される。それで、アッという間に世界に広がってしまった。1917年、ロシア革命。世界ではじめて、共産主義をベースにした国家ソ連が誕生します(正式な建国は、1922年)。共産国家はその後、東欧、中国、北朝鮮、ベトナム、ラオス、カンボジア、キューバ等々、全世界に勢力を拡大していきます。
もとをただせば、会社が「過酷な労働を強いたこと」が共産主義陣営の誕生と成長の理由なのです。だから反共産主義の人こそ、「8時間労働の厳守」を主張すべきです。
さて、「資本家皆殺し」を掲げる共産国家の誕生は、資本主義国である面肯定的な反応を引き起こしました。資本主義諸国の政府は、「俺達の国で共産革命を起こされたらたまらん!」と考え、労働者に優しくなっていった。
■長時間労働で経済は成長しない
1990年代はじめ、フランスの女性首相クレッソンさんは、「日本人はアリのように働く」と発言しました。当時日本は世界一豊かな国で、心に余裕があった。クレッソンさんの発言について、逆に「フランスは働かないキリギリスだから経済が発展しないのだよ」と笑うこともできた。
ところが日本はその後、「暗黒の20年」に突入。20年間、GDPがまったく増えないという異常事態になった。この20年、日本人は働かなかったのでしょうか? いえ、みんな一所懸命働いています。しかし、1990年前とここ20年の違いは、「昔はアリのように働けば確実に豊かになったが、今はアリのように働いても豊かにならない」ということなのです。(もちろん「全体」の話で、実際には働けば働くほど豊かになる人もたくさんいます)。
ちなみに一人当たりGDP世界一は、ルクセンブルグです。2015年、10万2,000ドル。(1ドル100円換算で1,020万円!)。同年日本は、世界26位で3万2,485ドル(1ドル100円換算で、324万円)。つまり、ルクセンブルグは、日本より3倍以上豊かである。
では、ルクセンブルグ人は、日本人の3倍仕事をしているのでしょうか? OECDのデータによるとルクセンブルグ人の平均年間労働時間は2012年、1,509時間。日本は同年、1,745時間でした。つまりルクセンブルグ人は、日本人より年間236時間も短く働き、3倍の収入を得ている! 236時間を法定労働時間8時間で割ると29日になります。ルクセンブルグ人は、日本人より1か月短く働いて、平均年収は3倍! 「経済成長のためには、もっともっと働かなければならない」というのは、完全に「幻想」であることがわかるでしょう。
ITmedia ビジネスオンライン10月18日付に、英エコノミスト紙からの引用がありました。
「(日本の)超過労働は経済にあまり恩恵をもたらしていない。なぜなら、要領の悪い労働文化と、進まないテクノロジー利用のおかげもあって、日本は富裕国からなるOECD(経済協力開発機構)諸国の中でも、最も生産性の悪い経済のひとつであり、日本が1時間で生み出すGDPはたったの39ドルで、米国は62ドルである。つまり、労働者が燃え尽きたり、時に過労死するのは、悲劇であるのと同時に無意味なのだ」
長時間労働は、「悲劇であるのと同時に無意味」だそうです。残念ながら、これが現実。日本経済が26年も停滞しているのには、それなりの理由があるのですね。
■長時間労働は、国益を破壊する
日本最大の問題はなんでしょうか? 私だったら、「日本には尖閣ばかりか沖縄の領有権もない!!!」と宣言している「中国が最大の問題です」と答えるでしょう。
その次は、「少子化問題」でしょうか。日本の出生率は2015年、1.46でした。深刻です。しかし、「既婚女性の出生率」は、なんと1.96なのです。つまり日本人は、結婚したら、たいてい2人子供を産む。要するに、「少子化問題」の根本は、「未婚化」「晩婚化」なのです。
なぜ、「未婚化」「晩婚化」なのでしょうか? もちろん、「私は結婚したくない」という人もいるでしょうし、それは個人の自由です。しかし、「結婚したいのにできない人」もたくさんいる。なぜ?
私は、「金の問題」「時間の問題」だと思います。「金の問題」というのは、「金がなくて結婚できない」。もう一つは「時間の問題」。「時間がなくて彼氏、彼女を見つけることができない」。社会人で時間がないのは、「働いているから」でしょう? 長時間労働の弊害は
1.個人の時間が少ないので、彼氏、彼女を見つけるのが困難
2.つきあいはじめても、デートの時間があまりないので、結婚にいたるのが困難
3.結婚しても時間がないので、なかなか子作りができない
4.子供は生まれたが、長時間労働で、男性(あるいは男女共)が子育てに関われない
5.結果、しばしば女性が追いつめられ、幼児を虐待したり、時には殺すケースも出てくる
こんな惨状なのに政府は、「外国人家政婦を雇って、日本人のお母さんにはもっと働いてもらおう!」などと主張しています。どこまで残酷になれるのでしょうか?
「子供を外国人に預けて、女性はもっと働きやがれ!」
それが、「女性の人権向上だ!」というのです。
ところで、「お父さん、お母さんともっと一緒にいたい!」という「子供の人権」は完全無視なのでしょうか?
■長時間労働を解消する方法
これは簡単です。政府が、「1日8時間、週40時間労働を徹底せよ!」と決意をしめせばいい。罰則を決めて、厳格に実行し、「残業させると会社が損する状況」をつくりだせばいい。
「クールビズ」の成功をみればわかります。日本人は、政府のいうことをよく聞くのです。私が08年の夏に一時帰国した時、東京は、黒いスーツのビジネスマンであふれていました。しかし今は、夏にスーツの上着を着ている人を見つけるのが難しくなっています。「クールビズ運動」10年で、完璧に変わりました。
この運動をはじめたのは、東京都知事になった小池百合子さん(当時環境大臣)でした。小池さん、都知事に就任するとすぐ、「労働時間短縮」に乗り出しました。立派です。
ですから、日本政府が、「8時間労働徹底!」と繰り返せば、10年で全然変わることでしょう。安倍総理は、「私の任期中に、8時間労働が当たり前の国にする!」と是非決意して欲しいと思います
「ブラック企業」が栄えている国は、「美しくない国」。総理が目指す「美しい国」を是非取り戻してください。
image by: Shutterstock
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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