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コラム:
円高終焉は本当か、ドル107円に壁
鈴木健吾みずほ証券 チーフFXストラテジスト
[東京 19日] - ドル円は昨年末の1ドル=123円台を起点に下落基調を強め、今年6月には99円まで、ほぼ一方的なドル安円高が進んだ。その後も夏場には100円割れを試すかのような値動きが続き、年末にかけてさらなる円高を予想・警戒する声は根強い。
しかし、筆者は、「リスクの後退」「テクニカル的な過熱感」「ファンダメンタルズの見直し」を理由に1ドル=100円近辺が底となり、年末にかけて105円を超える水準へ戻す展開を引き続き予想している。
8月にも一時99円台をつける場面があったが、10月に入り104円台後半まで一時反発しており、年内の100円割れの可能性は遠のいたのではないかと考えている。
<当面102―107円のレンジ相場が濃厚>
ドル高円安方向への反転の理由の1つとして挙げたテクニカル的な観点からは、トレンド転換はかなり明確となっている。
6月の99円、8月の99円台半ば、9月の100円近辺でいわゆるトリプルボトムを描いた後に反転し、今年の高値を結んだトレンドラインや日足一目均衡表の雲上限、90日移動平均線といったこれまで上値を押さえていたテクニカルポイントを軒並み上抜く動きとなった。昨年末の123円台を起点に、期間約10カ月、値幅約24円を示現した下落トレンドが転換した可能性は高い。
2012年以降の値動きを振り返ると、期間半年以上、値幅20円以上もの一方的なトレンドが終了した場合、その後半年程度は横ばいの動きが見られている。2012年終盤から2013年半ばの約9カ月にわたる上昇トレンドは、77円台から103円台まで26円もの値幅を伴ったが、その後2013年末にかけて96円から101円近辺で上下5円程度のレンジを横ばいに推移する展開となった。
また、2014年夏から2015年夏にかけては101円近辺から125円台後半まで25円近い上昇を見せたが、その後は半年程度119円から124円近辺の上下5円程度のレンジ相場へ移行した。
一方的で大幅な為替相場の変動を実体経済が織り込み、消化するために相応の時間がかかるためではないかと考えているが、今回も約24円もの円高を実体経済が消化するなかで、ドル円相場は来年序盤にかけて、もみ合い・横ばいとなるのではないか。具体的には、目先いったん105円を超える水準へ上昇後、102円から107円程度のレンジ相場への移行を想定している。
<3つのサプライズが重なればドル円急落も>
3番目の理由として挙げたファンダメンタルズの見直しも、ドル円相場を下支えしている。貿易黒字は原油価格の持ち直しなどによって4月以降頭打ちとなっていることに加え、日米金融政策の方向性の違いは金利差を拡大させている。
米連邦準備理事会(FRB)要人からは「このままいけば12月利上げ」を市場に織り込ませるかのような発言が増えている。年末にかけて米国のタカ派スタンスはさらに市場の注目度を集めると思われることから、ドルの下支え要因となるだろう。
また、8月のコラムにも書いた通り、これまでのドル安円高を演出したドライバーは、第1の理由に挙げたリスク、グローバルな不確実性にあると考えているが、これによる円高圧力も後退してきた。
米大統領選は、テレビ討論会の評価や相次ぐスキャンダルによって、民主党のヒラリー・クリントン候補が支持率のリードを拡大し、共和党のドナルド・トランプ候補が勝利する可能性は後退している。原油価格も産油国の減産合意に向けた動きを背景に持ち直してきた。腰折れが懸念された米国経済も緩やかな回復が確認され、12月には利上げが期待されている状況だ。
もちろん、これらのリスクは解決済みというわけではない。メインシナリオではないが、11月8日の大統領選挙でトランプ候補が勝利し、11月30日の石油輸出国機構(OPEC)総会で減産が決裂し、12月14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが見送られれば、一転、ドル円が急落する展開もあり得る。
同様に日程が決まっているリスクイベントとして、12月4日に憲法改正の是非を問うイタリアの国民投票やオーストリアの大統領選挙が予定されており、場合によっては反欧州連合(EU)派の台頭といった政治リスクにつながる可能性がある。
また、日程が決まっているものではないが、欧州の金融機関に対する懸念がくすぶっているほか、スコットランド独立を含め、英国のEU離脱問題にも再燃の兆しが見られている。人民元の下落も中国経済に対する懸念につながる可能性がある。
年内にこうしたリスクが顕在化する可能性は低いと思われるが、一方でリスクがくすぶっていること自体がドル円の上値を押さえる要因となろう。結果としてテクニカル的に下落トレンドが終了しても、大幅上昇とはなかなかなりにくい。リスク動向からも1ドル=100円割れは遠のいたと考えるが、年内の110円超えもまた難しく、結局、来年前半にかけて横ばい相場に移行していく展開を想定している。
*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-kengo-suzuki-idJPKCN12J0I5?sp=true
2016年10月18日 ロイター
米為替報告書で円相場「問題なし」、介入に高いハードル
10月18日、米財務省が14日に公表した為替報告書は、前回4月と同様に、これまでの円相場の動向はファンダメンタルズから逸脱した無秩序なものではないとの認識を改めて示した。写真はブダペストで2011年11月撮影(2016年?ロイター/Laszlo Balogh)
[東京?18日?ロイター] - 米財務省が14日に公表した為替報告書は、前回4月と同様に、これまでの円相場の動向はファンダメンタルズから逸脱した無秩序なものではないとの認識を改めて示した。
?さらに日本当局の「口先介入」については「執拗」と表現。今後、円高が進行しても、日本当局が円売り介入を実施するのは難しいとの見方が、市場関係者の中で一段と強くなっている。
問題なしとの認識変わらず
?半年に1度、米財務省が公表する為替報告書。今回もドル/円相場は問題なく機能しているという米側の認識は変わらなかった。
?前回4月の秩序だった(orderly)という文言から、「円滑に機能している(functioning smoothly)」と表現は変わったが、為替政策に関するG7とG20のコミットメントを順守することが重要であるとの主張を繰り返している。
?10月報告書では、円高の進行度合いについて、4月報告書時点の106円台を起点とせず、あえて年初からのより大きな上昇幅を取り上げた。9月末までの円相場の上昇を18.7%(実質実効ベースで8月末までに18.0%)とした上で、「円滑」な変動との判断を下した。
?10月の報告書で、国際通貨基金(IMF)による円の実質実効レートの評価が引用されたことも興味深い。IMFは昨年時点で、円相場がファンダメンタルズに比べ、やや割安だと見ていたが、2016年央では円相場が中期的なファンダメンタルズにほぼ整合的とした。
「今回、新たに引用したIMFの見方を米財務省が共有しているのであれば、円相場はこれまで過小評価されていたのが中立的な水準に回帰したとの認識となり、円売り介入へのハードルは依然高そうだ」と、JPモルガン・チェース銀行、為替調査部長の棚瀬順哉氏はみている。
日本の口先介入に不快感
?一方、今回10月の報告書では、日本当局の執拗(persistent)な口先介入を指摘したことも特徴だ。日本当局が2016年の円高局面で、ドル/円相場の値動きが「荒っぽい(rough)」とし、必要であれば「断固たる対応をする」と警告するなど、執拗に円高けん制発言を行ったとしている。
?前回4月も日本の口先介入ついての言及はあったが、執拗という文言は使われておらず、米側のいらだちも見え隠れする。
「今回の為替報告書を見ると、一方的な円安指向は米国、G7はもちろん、G20においても受け入れられず、他国がどう言おうと言うべきは言わせてもらうという日本の立ち位置は、厳しくなっていくように思われる」と三井住友銀行・チーフストラテジストの宇野大介氏は述べる。
?為替報告書の発表に先立つ今月7日、ルー米財務長官は麻生財務相とワシントンで会談している。
?米財務省が会談直後に発表したステートメントによると、ルー長官は会談の中で「成長促進のため政策手段を総動員し、競争的な通貨切り下げを避け、競争力のために為替レートを目標にしないという上海G20でのコミットメントが、ここ数ヵ月の世界経済の信頼醸成に寄与していると強調した」。
金融政策は「アナリストの見方」を紹介
?米為替報告書では通常、各国の金融政策についてまず事実を簡単に記述し、その上で財政政策や構造改革など他の政策との関連で金融政策の位置付けに言及する。
?例えば、昨年4月の報告書では「金融政策への過度な依存と財政の過度な引き締めを避け、バランスのとれたマクロ政策が必要」とし、昨年10月の報告書では「金融政策への過度な依存と、円安頼みの外需主導の経済成長を避けるために柔軟な財政政策が必要」との記述が見られた。
?1月のマイナス金利導入後の今年4月の報告書では、「G7とG20において、日本は金融、財政、構造改革という全ての政策ツールを使うことにコミットし、金融政策のみではバランスのとれた成長をもたらしえないことに同意している」とした。
?今回の報告書では、全ての政策手段を使うことが一段と重要になっているとし、GDPの6%規模の大型財政刺激策の真水部分は、事業規模の約4分の1に過ぎないとしつつも、労働市場対策などを評価している。
?ただ、日銀が9月に金融政策の目標をマネタリーベースから「イールドカーブ・コントロール」にシフトしたことや「インフレ・オーバーシューティング」に対するコミットメントについては、「こうしたレジーム変更が、マイナス金利の深掘りを含め日銀に一段と金融政策の柔軟性を持たせるとの『アナリストらの解釈』もある」とした。
?アナリストの解釈を引用するのは異例であり、米財務省が日銀の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」には一定の距離をとっているのではないか、との見方も市場には根強くある。
(森佳子?編集:田巻一彦)
http://diamond.jp/articles/-/105088
2016年10月18日 藤井 英敏
急激な円高にならない限り、日経平均は順調に推移!
11月から年末にかけて、東証マザーズなどの小型株が
本格的に買われる「ラリー」の発生に期待しよう!
日経平均株価は、堅調に推移しています。
日経平均株価の11日終値は、前週末比164.67円高の1万7024.76円と、9月7日の1万7012.44円以来、およそ1カ月ぶりに1万7000円台を回復しました。11日の上昇の背景は、原油先物相場の一段高や、米大統領選挙でトランプ氏劣勢が伝わったことが好感されたことに加え、9月の米雇用統計発表後も12月の米利上げ観測が根強く残ったため、東京外国為替市場で1ドル=104円台に円が下落したことも追い風になりました。
日経平均株価チャート(日足・半年)*チャート画像をクリックすると最新のチャートがご覧になれます。SBI証券HPより
拡大画像表示
その後、日経平均株価は調整し、14日に一時1万6727.78円まで下落する場面がありました。しかしながら、14日終値は、前日比82.13円高の1万6856.37円と切り返し、17日には一時1万6954.44円まで上昇して1万7000円大台に迫る場面がありました。17日は、10時台に人民元の基準値が1ドル=6.7379元と、2010年9月13日以来6年ぶりの元安・ドル高水準に設定されたことが嫌気され、日経平均株価は前週末比マイナスに転じる場面がありました。しかし、1ドル=104円台前半の円安が日経平均株価を力強く支えました。
このように、1ドル=104円アラウンドのドル高・円安が、日経平均株価に対してポジティブに作用し続けています。よって、今後、1ドル=103円台を割り込み、急激な円高にならない限り、日経平均株価は問題なく堅調に推移するとみています。
また、需給面で明るい兆しが出たことも、堅調に推移するとみている理由です。というのは、10月第1週(3〜7日)の投資部門別株式売買動向で、外国人が6週ぶりに買い越しに転じました。これは、良好な米国経済指標を受けて、外国人が世界の景気敏感株である日本株の買戻しに動いた結果でしょう。
終値で52週移動平均線を超えれば
「踏み上げ相場」が期待できる!
ただし、引き続き52週移動平均線(18日前引け現在1万7075.81円)を終値で超えることができていません。このため、手放しで強気にはなれません。その一方、日経平均は13週移動平均線(同1万6685.01円)、26週移動平均線(同1万6437.35円)を共に超えています。また、13週移動平均線と26週移動平均線とは既にゴールデン・クロスが発生しています。さらに、MACD(12週−26週)とシグナル(9週)もゴールデン・クロスしています。よって、弱気になる必要はないでしょう。
日経平均株価チャート(週足・半年)*チャート画像をクリックすると最新のチャートがご覧になれます。SBI証券HPより
拡大画像表示
当面の日経平均株価については、26週移動平均線(同16437.35円)〜26週移動平均ベースのボリンジャーバンドプラス2σ(同1万7396.31円)が想定レンジです。終値で52週移動平均線を超えることができたら、売り方の損失覚悟の買戻しを起爆剤にした上昇、すなわち、「踏み上げ相場」が期待できます。
その際には、おそらく、26週移動平均ベースのボリンジャーバンドは、現在の「フラット」から「エクスパンション」に変化するでしょう。そうです、それは中期上昇トレンドの発生のサインです! 早晩、このサインの点灯を期待したいものです。
アクティブ個人投資家の動きは依然として鈍いものの
信用買い方からの売り物は枯れつつある?
一方、「ネット証券大手4社のうち、3社の16年4〜9月期の最終損益が前年同期比で悪化したもよう」、「株取引関連の手数料収入は、4社全てで前年同期を下回った」との報道からも分かるように、足元のアクティブ個人投資家の活性は鈍いままのようです。それは10月に入っても、大きく変わってないでしょう。
例えば、東証マザーズの1日の売買代金については、1000億円が活況の目安と言われています。最近では10月4日から7日まで、4営業日連続で1000億円を超えていました。しかし、11日以降17日までは、5営業日連続で割り込んだままです。
思い返せば、マザーズ市場が盛り上がっていた頃の4月20日の売買代金は3321億円でした。さすがに、すぐに3000億円超へのボリューム増加は期待できないとしても、少なくとも、1000億円を安定的に超えてこないと、アクティブ個人の活性が回復することはないでしょう。
確かに、2016年は、アクティブ個人投資家にとってろくな年ではありませんでした。しかしながら、東証マザーズ指数がピークアウトして以降、5月〜6月にかけての「東証マザーズ人気銘柄のナイアガラ・ラッシュ」と「ブレグジット・ショック」、そして、7月下旬の「ポケノミクス相場の崩落」という、数々の苦難を経て、信用買い方からの売り物は枯れつつあると考えられます。つまり、売り圧力低下を背景に、年末にかけ東証マザーズ指数も底堅い動きが期待できます。
第2四半期決算発表が一巡する11月中旬以降が狙い目
ただし、決算リスクには要注意!
まあ、小型株は、大型株と比較して決算のブレが大きいため「決算リスク大」です。このため、マザーズに代表される小型株が本格的に買われ始めるのは、3月決算企業の第2四半期決算発表が一巡する11月中旬以降とみています。そこから年末に向けてラリー(株価の上昇)が発生する展開を期待しています。
なお、東証の「決算短信・四半期決算短信作成要領等」によれば、「事業年度又は連結会計年度に係る決算については、遅くとも決算期末後45日(45日目が休日である場合は、翌営業日)以内に内容のとりまとめを行い、その開示を行うことが適当であり、決算期末後30日以内(期末が月末である場合は、翌月内)の開示が、より望ましいものと考えられると」、されています。
ちなみに私は、よほど業績の見通しに自信がある場合を除き、個人投資家は決算リスクを避けるべきだと考えています。つまり、決算発表予定日直前にいったん売却、発表後に買い戻すべきだと思っています。だから、小型株に関しては個別に決算発表を済ました銘柄を11月中旬にかけて、コツコツ拾う戦略を推奨します。
10月〜12月の相場に期待。ただし、日経平均株価が
26週移動平均線を下回ったら、即座に撤退を!
なお、現在の相場環境は、決して悪くないと感じています。投資家は9月までの手痛いヤラレを、10月〜12月の相場でそれなりに取り返せると考えています。だから、ここからは、前向きに個別企業の決算内容を精査して、狙った銘柄をしっかり仕込むべきだと思います。
ただし、このシナリオは、日経平均株価が26週移動平均線を下回ったら、いったん撤回します。下回るケースでは、オールキャッシュ化を推奨します。このように、撤収ルールを明確にした上で、積極的に決算通過銘柄を組み入れていくタイミングだと思っています。
http://diamond.jp/articles/-/105078
インデックス投資の思わぬ落とし穴とは
リスクとリターンの最適バランスを実現するには、そのポートフォリオに本当にすべての資産が網羅されていることを確実にするしかない
By JAMES MACKINTOSH
2016 年 10 月 19 日 18:02 JST
パッシブ投資がブームとなっているが、インデックス(指数)連動型ファンドに飛びつきたいと考えている人はその選択肢の多さに圧倒されるだろう。S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズだけでも100万以上の指数があるからだ。ダウ・ジョーンズ・イスラム市場・ペルー・スモールキャップ・テクノロジー・インデックス(冗談ではなく実在する)よりもS&P500種指数の方が本質的により魅力的に見えるが、どのようにして選べばいいのか。
経済理論の助けを借りるとしよう。過去半世紀の金融学は資本資産価格モデル(CAPM)とその変形型に支えられてきた。「すべてを購入せよ」がそうしたモデルの単純な提言である。そこでは、効率的な市場におけるリスクとリターンの最適なバランスは、すべての資産をそれぞれの価値に比例した割合で保有する「市場ポートフォリオ」で実現するということが示されている。
リスクとリターンの最適バランスを実現するには、そのポートフォリオに本当にすべての資産が網羅されていることを確実にするしかない。さもないと、資産の最適な配分からかけ離れてしまうかもしれないからだ。市場は機能すると考える合理的な投資家は、すべての資産から成るインデックスとの連動を目指すべきなのだ。
つまり、S&P500種指数は忘れた方がいい。それは世界最大の株式市場のベンチマークかもしれないが、米国株の一部を代表しているだけで、その他の国の株式は一切含まれていないからだ。それよりもむしろ、新興国市場を含むグローバルなインデックスを選ぶべきなのだ。
次に社債と国債を追加する。ここでもグローバルに考えなければならない。不動産も必須であり、商業用不動産、住宅、農地、森林地などを含めるのが理想的だ。未公開企業も含まれる必要がある。美術品、金、銀なども忘れてはいけない。自動車、株、洗濯機なども必要になるだろう。その理論上は理想的なポートフォリオを実現するためには、人的資源、訓練や教育の価値までもが必要になる。
ウィリアム・シャープ博士
CAPMの導出も含めた資産価格理論研究への貢献で1990年のノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・シャープ博士は、自分が考え出した市場ポートフォリオに最も近いものには4つのインデックスファンドが含まれるが、人的資源は言うまでもなく、不動産や未公開企業といった資産は含まれていないと話す。
「これは約50%が理論通りで、残り50%は単なる実用主義だ」とシャープ博士は説明。「その純度について大げさなことは言えないが、S&Pや株式市場全体のインデックスよりもましだと思う」
シャープ博士の基本的な主張――そしてCAPMの重要なメッセージの1つ――は、コストが低い限り、より広範な分散がリスクとリターンのバランスを向上させるというものだ。その目的を達成するために、シャープ博士版の市場ポートフォリオには米国トータル・ストック・マーケット・インデックス、FTSEオールワールド(除く米国)、ブルームバーグ・バークレイズ債券インデックスの米国版およびグローバル版と連動する4本のバンガードのファンドが含まれている。株式と債券の割合はほぼ半々で、その価値に比例するように他国の資産よりも米国の資産の方が少し多くなっている。
未公開企業、コモディティー(商品)、人的資本の欠如はこれが最適なポートフォリオにはなり得ないということを意味している。個別の企業やセクター(あるいはイスラム法適格のペルーの小型株)が困難に陥ったときにリスクを軽減してくれるので、理論上はより広範な分散の方が良い。とはいえ、最適なのはやはり、すべての資産を通じての最大限の分散だけである。
実際のところ、その理論の当然の結論だとしてインデックス投資に夢中になっている投資家は考えを改めるべきだろう。結果として1国、または数カ国だけに投資することになった場合はなおさらである。
投資顧問会社リサーチ・アフィリエイツの共同創業者で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン経営大学院の非常勤教授(金融学)でもあるジェイソン・フー氏は、すべての資産を買うという考え方は「本当にばかげている。それはある意味、純粋に数学的な理論だ」と指摘。一部の資産を除外したポートフォリオが最適になることはないので、CAPMは「最もばかげた金融学的理論だ」と主張する。
フー氏はCAPMやその理想のポートフォリオの背後にある考え方が大口の機関投資家をインデックス投資に向かわせていることに懸念を抱いている。機関投資家は、顧客の資産を配分するのにCAPMに基づく「効率的フロンティア」計算に頼っているコンサルタントたちにそれを勧められているのだ。
「ノーベル賞受賞者がそれこそが最適なポートフォリオだと言えば、顧客も平均的なものは要らない、最適なものがいいと言うことになる」とフー氏は話す。
パッシブ運用型ファンドをめぐるもう1つの議論はもっと単純である。理論などどうでもいい、インデックス投資は低コストで平均的な投資家と同じリターンを与えてくれるというものだ。平均的な投資家であればそれで十分であり、われわれは概して平均的である。ところが、複数の研究によると、われわれの大半が自分のことを平均以上だと考えているという。
特別な洞察がなく、単に平均的な投資家と同じリスクとリターンのバランスで資金を運用したいのであれば、広範囲なインデックス投資は、自分の見解を排除することに最も近い投資法であり、シャープ博士が推奨するポートフォリオはその出発点として妥当だろう。しかも、低コストでもある。
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