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日銀の新政策への批判が強い。だが筆者は新政策は成功する可能性が高いと読む(撮影:今井康一)
日本株は日銀新政策で「30%上昇」もありえる
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161019-00140794-toyo-bus_all
10月19日(水)5時0分配信 武者 陵司 東洋経済オンライン
■次々に崩れる「ブラックスワン待望論」
昨年来、日本の株式市場では、さまざまな危機到来論が市場を震撼させ、その都度「売り崩しを狙う投機家」が一時的に利益を得てきた。一般の投資家は市場の乱高下に振り回され、すっかり「リスクをとる意欲」を失ってしまった。
だが、日本株式の投資家心理を「裁定買い残」や「信用取引倍率」で見ると、いずれも歴史的低水準に沈み込んでいる。外国人、個人、機関投資家のほとんどが悲観派、売り方に回り、買い方は日銀と年金などの公的資金のみという状況だ。
世界を見渡せば、危機に陥れると騒がれた、ギリシャ、中国、ユーロ銀行不安などは難なく通り過ぎ、危機待望論者は失望しているのではないか。残るのは11月8日の米国大統領選挙だが、それも政策継続が見込まれるヒラリー・クリントンとなる公算が濃厚だ。もはや悲観論者は球を打ち尽くし、ポジションを大々的に巻き戻さざるを得ない時期が近づいている。米大統領選挙の結果が出る前に、「見切り発車的な世界的リスクテイクの波」が押し寄せ始めている可能性がある。
そうした中で、日本銀行は(1)イールドカーブの制御 → 長短金利の管理、(2)オーバーコミットメント → 際限なく目的達成を追求する、(3)追加的手段は潤沢(短期金利・長期金利の水準操作、資産買い入れ、マネタリーベースの増加加速等)、という「3つの柱」からなる新政策を発表した。
■日銀批判は的外れ、新政策は「実質バズーカ」だ
それまでの量中心の緩和から、金利のコントロールへとシフトしたことにより、「量の緩和政策が失敗した証拠」、「窮余の挙句の奇策」、「禁じ手」、という解釈が一般化している。
しかし日銀によるQE(量的金融緩和)以降の一連の金融緩和政策は、まったく失敗していない。デフレが終わり株価は2倍となり、企業収益も大きく向上している、が十分でない。「2%インフレ」はまだ途上である。これを確かにするための「ダメ押し政策」が今回の一連の政策である。
■「長期金利コントロール」は市場に絶大なインパクト
この中での日銀の新機軸は、長期金利のコントロールである。FRB(米連邦準備理事会)のQEでも、そこまでは踏み込んでいなかった。先進国において金融自由化、市場金融化が確立した1980年代以降では、初めての中央銀行による市場金利の直接コントロールに日銀が乗り出したのである。確かに極端な、QE以上に伝統・常識からかけ離れた政策ではある。
しかしそれだけに、市場インパクトも絶大となる可能性は大きい。日本株式を一気に3〜4割以上押し上げる威力を持っているかもしれない。となれば、当然リスクオンの円安となる。イールドカーブ・金利コントロール政策 → 株高 → 円安という好循環が起きる可能性がある。
そもそも金融政策がインフレやデフレを引き起す際に、必ず先立って資産価格が変化している。1990年からの日本の変化は、まず1989年末に金融引き締めが起き、直ちに株式が急落、そして2年後の1992年に不動産価格の急落がおき、CPI(消費者物価)がデフレに陥ったのは、それから9年も後の1998年であった。
米国でも2008年のリーマンショック以降、前例なき大胆な量的金融緩和政策(中央銀行がバランスシートを4倍に膨らませ、国債や住宅ローン債券を購入した政策)を実施、その直接的効果は資産価格に直ちに現れた。米国株式、不動産住宅価格が顕著に回復し、家計の資産内容が著しく改善した。
家計純資産はリーマンショック直前の2007年68兆ドルをピークに2009年には55兆ドルへと急減した。だが、資産価格の急回復により2016年1Q末には88兆ドルへと増加し、家計消費増加の推進力となった。資産価格上昇 → 家計消費(特にサービス)増加 → 雇用・生産回復 → インフレという好循環が定着し、今や完全雇用と2%インフレ目標というFRBの政策使命(mandate)がほぼ達成されつつあることは明らかである。
■日銀の新金融政策の成功の可能性は大きい
株式や住宅不動産などのリスク資産への資金誘導は、中央銀行の非伝統的金融政策(量的金融緩和やマイナス金利など)の目指すところであり、今回の日銀の「イールドカーブターゲティング政策」(=長短金利の制御政策)も、資産価格上昇への影響力があるかないかで評価しなければならない。
日銀による株式市場への影響力行使を官製相場と批判する声が大きいが、今異常なリスク忌避姿勢にとらわれ、正常な価格形成機能を失っているのは民間のほうであること、日銀の新政策はそれを是正しようとしているのだということを忘れてはいけない。少なくとも、日銀が長期金利さらには株価に影響力を行使する決意を見せている以上、それに対抗する投資ポジションは、成功しない。
今回の長期金利を0%にくぎ付けする日銀の政策は、一気にリスクテイクを促進する契機になるかもしれない。
そもそも、2013年以降雇用者数は増加、労働需給はタイト化し、ようやく賃金上昇が定着し始めている。原油価格の下落により一時的にマイナスとなったCPIが、2017年には1%程度まで回復することもほぼ見えている。28兆円の財政出動、中国経済の小康状態化、商品市況の底入れ、世界貿易の底入れと緩慢な回復、米国経済の堅調、等の環境の下で、日本の実質GDPの1%程度までの回復はエコノミストのコンセンサス(ESPフォーキャストでは0.9%)となっている。
■株高が一段の円安要因を招く可能性
昨年の企業統治改革(コーポレートガバナンスコード、スチュワードシップコード)に続き、安倍内閣での下では、働き方改革、緩慢ながら外国人労働者の受け入れ、今国会では見送りとなりそうだが配偶者控除の廃止方向と伝えられるなど、税制改革等成長政策も徐々に進展している。
円高による企業収益悪化も一巡となれば、株式市場に大きな追い風が吹く公算は大きい。まして日本株式はアベノミクス失敗、ないしは頓挫と見た外国人によって一時極端な売られ方をしており、需給(裁定買い残の歴史的低下)は大きく改善しているのである。また日本株式のバリュエーション(価値評価)も極端に安くなっている。
さらに為替市場では今のところ円高論者が多数派であるが、円高論者の多くが日本株に悲観的な見方をしている。しかし仮に日本株高が始まれば、それがリスクオンの円安要因となる可能性が考慮されていないことを強調しておきたい。
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