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ステイシー・サリバン氏はグーグルで勤続17年。社員50人の時代から知る古参の1人だ(撮影:尾形文繁)
グーグルが実践する「大企業病」を防ぐ秘訣
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161016-00140601-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 10月16日(日)6時0分配信
カフェテリアでは無料で健康的な料理が食べ放題、各フロアにある小さなキッチンではちょっとした料理も作れる。休憩スペースにはビリヤードや卓球台、滑り台まで備え、あちらこちらにあるソファやハンモックでは気分を変えてのんびり仕事ができる――。
米IT大手グーグルは社員に優しい、充実したオフィスを持つ企業の草分け的存在だ。誰もがうらやむような職場環境は、長年注目を集めてきた。ただ、IT業界ではオフィスの充実化はもはや当たり前になりつつある。ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの2人が立ち上げたグーグルは、今や6万人を超える大企業になっている。イノベーションを起こし続けるには、先進的なオフィスだけでは不十分だ。
■従業員有志のグループで社内文化を育てる
大企業病に陥ることを避けるために同社が重視するのが、「社内文化」だ。グーグルらしさとは何か、グーグルの社員はどのような考え方を持つべきなのか、世界中に浸透させるべく日々取り組んでいる。
グーグルでいわば"文化大使"の役割を担うのが、チーフ・カルチャー・オフィサー(CCO)を務めるステイシー・サリバン氏だ。まだ社員が50人ほどしかいなかった1999年に入社し、グーグルの人事部門を立ち上げた。以降17年間、職場環境や文化の醸成に取り組んできた。
創業から18年を迎え、「グーグルはようやく大人になった」と表現するサリバン氏。グーグルの重視する文化とは何か。買収を繰り返し、ますます規模を拡大する中でどう文化を浸透させていくのか。10月上旬の来日にあわせ、直撃した。
■グーグルの文化の核とは
――CCOはどのような役割を担っているのか。
グーグルはとてもフラットな組織なので、役職をことさら取り上げることは少ない。だからいつも、「どのようにしてその仕事に応募したの?」、「募集情報はどうやって見つけたの?」などと聞かれる。就任したのは入社からしばらく経った後で、社内文化の醸成に取り組んでいたのを見た創業者のラリーとサーゲイに任命された形だった。
私が日々仕事をともにしているのが、世界中のオフィスから「カルチャー・クラブ」と呼ばれる、従業員の有志で構成されるグループだ。日常の業務と並行して、社内文化を育てるために必要なこと、たとえば働きやすい環境づくりや社内イベントなどを行っている。また、各拠点の責任者とも話し、文化を浸透させるためのメッセージの発信をしてもらっている。
■イノベーションの9つの柱
――イノベーションを可能にする文化とはどういうものなのか。
創業者たちは当初から、型にはまった会社にはなりたくないと考えていた。会社の核となるミッションは、世界中のすべての人々があらゆる情報にアクセスし、使えるようにすること。そのためには単なる検索サービスを超えた、非常に難しい仕事も必要になる。
ラリーやサーゲイは、社員たちに高い自由度を与えて、広い視野でクリエイティブに思考し、ほかの社員と協力する、そんな環境が必要と考えた。社員を大事にして、多くの情報を共有し、オープンな職場を作りだし、イノベーションを可能にする。これがグーグルの文化だ。
透明性はとても重要だ。毎週金曜には「TGIF(Thank God, it’s Friday、訳:やっと金曜日だ! )」という本社と全世界をつなぐ電話会議を実施し、経営陣たちが社員からどんな質問にも答えている。どんな情報でも共有することで、それぞれが会社に対して責任を感じるようになる。自分がオーナーであるかのように。
また文化の核となるものに、「イノベーションの9つの柱」がある。「イノベーションはどこからでも出てくる(Innovation comes from anywhere)」、「ユーザーにフォーカスせよ(Focus on the user)」、「10%ではなく、10倍大きく考えよ(Think 10x, not 10%)」、「技術的な洞察に賭けろ(Bet on technical insights)」、「(製品を)出荷し(改善を)繰り返せ(Ship and iterate)」、「社員には20%の自由時間を与えよ(Give employees 20% time)」「始めからオープンであれ(Default to open)」、「賢く失敗せよ(Fail well)」、「重要なミッションを持て(Have a mission that matters)」という9つだ。
■カフェテリア無料の狙い
――そうしたコンセプトはどのように社内で実現しているのか。
たとえば「イノベーションはどこからでも出てくる」というのは、よいアイデアは誰からでも、いつでも、どこにいても出てくるということ。創業初期のころは建物のあちらこちらにある休憩スペースに「アイデアボード」と呼ぶ大きなホワイトボードを置いていた。冗談やバカげた思いつきから、真剣なものまで、あらゆる社員が自分の考えを貼り付けた。
「自分たちのEメールサービスが欲しい」というアイデアからは「Gメール」が生まれたし、「バスが必要」という書き込みからは、(多くの社員が住む)サンフランシスコからグーグル本社までのシャトルバスが実現した。今では毎日100以上のバスが運行され、インターネットも使える。
■社員同士のコラボレーションを促す
――ちょっとしたことが大きな変化をもたらすと。
その通り。そのために社員同士のコミュニケーションも重要だ。開放的なオフィスにはあちらこちらに休憩できるスペースや小さなキッチンがあり、カフェテリアでは1日中食事を提供しているが、そもそもの目的は普段は仕事でかかわらない社員同士で話してもらうことだ。
営業や財務、エンジニアといったばらばらの職種の人が話し、アイデアを出し合い、コラボレーションにつなげてほしい。
「20%の自由時間を与えよ」というのも、目的は同じ。(自分の業務ではなくても)社内で取り組んでみたいものがあれば、違う職種、違う国での仕事を手助けできる。また、「G to Gクラス」というグーグル社員同士が教え合う学習コースもある。そのようにして社員が人間関係を築き、新しいアイデアを考え、次世代のグーグルについて考えることを期待している。
――新しいことへの挑戦には、失敗も伴う。安心して取り組める環境をどう作っているのか。
9つの柱のうち「賢く失敗せよ」というのは非常に重要だ。要は皆にリスクを取ってほしいということ。そうでなければクレイジーで新しいアイデアは生まれてこない。たとえば(自動運転プロジェクトなどを手掛ける)グループ会社の「X(旧・グーグルX)」では、CEOのアストロ・テラーが「失敗したがよく練られていたグッドアイデア」に対する賞を設けている。
新しいことを試すのに安全な環境であることは、とても重要だ。創業者たちだって失敗している。以前、組織をよりフラットにするため、400人いたエンジニア部門からマネジャー職を廃止することになった。われわれは反対したが、当時CEOだったエリック・シュミットが賛成したので実施されることになった。ただそれは4か月でとん挫し、結局マネジャー職を復活させた。とんでもない混乱に陥ったからだ。このように失敗することもあれば、うまくいくこともある。
■グーグルの面接で聞かれること
――社内文化を維持するには人材の採用もカギになると思う。採用で重視していることは。
文化にあった人材であることは、それぞれの職種に必要なスキルを持つ人材であることよりも重要だと考えている。採用過程では4つのポイントを見ている。役割に応じたスキル、意思決定やデータ分析などに必要な批判的思考、リーダーシップ、そして何より重要なのが文化への適合だ。役職に固執せず、正しいことを行い、広い視野で考えてほしい。
グーグルの特徴は「採用委員会(Hiring Committee)」を設置していること。さまざまな職種の担当者が集まり、面接をする。財務部門の面接であっても、営業や法務、広報といった部門からもインタビュアーが集まる。各部門の管理職がやりたいように採用をしてしまうと、たとえばその人が以前いた会社から5人引き抜くといったような事態になる。それは社内文化に混乱を招くので避けなければならない。
■"グーグルらしい"のは話して面白い人
――応募してきた人材が文化に適合しているかどうかは、どのように判断しているのか。
その人の行動特性や柔軟性を見ている。たとえば「新たに会社を起こしたり、プロジェクトを始めたが、すぐに方向転換をしなければならなくなった。あなたはどのように対応する?」といった質問をしたり、「あなたがこれまで考えたクレイジーで壮大なアイデアは何?」といったことを尋ねたりする。チームワークやコラボレーションについての考え方も聞く。
特別な能力を持っている必要はない。カリスマである必要もない。ただ話していて面白い人と一緒に働きたいと思う。われわれはただ生きるために働くような人を採用したいとは思わない。チームメイトとの会話で面白い視点を提供してほしい。思い思いの方法で、他人にインスピレーションを与えるような人に、仲間になってもらっている。
――近年は多くのテクノロジー企業を買収しているが、買収先との文化的な融合にはどのような課題があるか。
過去何年にもわたって、ネスト(サーモスタットの開発)やディープマインド(人工知能の開発)といった大型買収を行ってきた。彼らに伝えているのは、われわれの企業理念の核となる部分は共有してほしいということ。その点は妥協しない。大きく考え、悪者にならず、正しいことを行う。そして敬意を持って社員に接し、ユーザーにフォーカスし、仕事を楽しむといったことだ。
それ以外の部分では、文化の違いを尊重したい。各社それぞれの文化も育んでほしいと思っている。たとえばネストはアップル出身者が多いため、アップル色が強い。最終的にはグーグルの文化とのよいブレンドになればいい。
――一方で、人材の流出を防ぐのも簡単ではなさそうだ。
多くの会社と同様に、われわれにも課題はある。採用するときも競争は激しい。特に小さい職場を好むような人は、より起業家精神を感じられるスタートアップに行きたがるため、難しくなる。ただXやネスト、ディープマインドといった、グーグル本体とは別のグループであれば、自分がより事業に貢献できていると感じやすいだろう。
最近の情報を見ると、グーグルからスタートアップへと移っていった人よりも、スタートアップからグーグルに移ってきた人のほうが多い。人材の維持は今のところうまくいっている。
中川 雅博
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