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マンションより割安になった戸建をそれでも買いづらくしている元凶
http://diamond.jp/articles/-/104447
2016年10月13日 沖有人 [スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント] ダイヤモンド・オンライン
今やマンションより割安になっているのに、戸建物件はなぜリスクが高く「買いにくい」のか?
マンション価格はリーマンショック前の水準より高くなった。しかし、戸建て価格の上昇幅はかなり控え目だ。こうして、マンションと戸建ての価格差が大きく開いたために、遅ればせながら「戸建ての割安感」が出てきており、マンションと競合するエリアでは価格の上昇傾向を見せ始めている。
とはいえ、以前と比較して割安であることは明白ではあるものの、戸建ての購入には大きなリスクが潜んでいる。これは先進国では日本だけの傾向であり、実は過去の日本の政策が足を引っぱっているだけだ。それを変えれば戸建市場は大化けすることになるだろう。
以下のグラフを見ると、不動産価格はマンションだけの独歩高に見える。アベノミクス以降の金融緩和で、銀行の融資資金が担保を取りやすい不動産に多く流れたために、不動産価格は大きく上昇した。住宅ローンで資金が借りやすくなると、不動産価格がインフレするのは「資産(不動産)=債務(住宅ローン)+自己資金」の計算式から容易に想像がつくだろう。こうしてマンション価格は3割上がったが、戸建ては1割にも満たない水準にある。
◆グラフ1:不動産価格指数(東京都)
(出典)国土交通省
以下のグラフに見るように、2007年当時の戸建て価格は今よりずっと高い山を描いている。これまで不動産価格が上がるときには、マンション・戸建て・土地は同様の動きを見せていたが、今回ばかりは違う。
◆グラフ2:土地と中古戸建の価格指数の推移(首都圏)
(出典)東日本流通機構
なぜこれまでのように動かないのか、その理由は2つある。1つは建築費の高騰である。特に鉄筋コンクリート造の建物の建築費は高騰した。災害復興やオリンピックによって建設需要が急増したことに加えて、円安になって資材価格も上がった。建築費が上がると、土地よりも建築費比率が高いマンション価格は上がりやすい。
建築費が上がると、土地を購入して開発を行うデベロッパーは土地代を抑えようとする。土地+建築費が販売価格に直結するので、売れ行き悪化を懸念してやすやすと売値を上げられない事情があるからである。
もう1つ、この10年で変わったことは、本格的な人口減少時代に入ったことである。死亡人口が増えると、相続で土地が供給される量が増える。これに対して、子どもを産む世代は減っているので、需給バランスは悪化の一途をたどっている。たった10年でも死亡人口は20%増え、出生人口は6%減っている。
以下のグラフでは婚姻件数を比較したが、状況が一変したことが見てとれる。これは戸建用地にとっては深刻な需給バランスの崩れを発生させる。マンションは子どものいない世帯、高齢者、セカンドハウス、投資の対象になるが、戸建は子育て層にしかニーズがない。こうして、土地・戸建価格は頭の重い展開が続いている。
◆グラフ3:死亡数と婚姻件数の推移(全国)
(出典)人口動態統計
■戸建の着工数は安定していても
需要は供給のように安定しない
マンションを建てるには小さ過ぎるような土地を購入するのは、主に戸建分譲事業者になる。その大手事業者を「パワービルダー」と呼ぶ。戸建事業者の特徴の1つに安定的な供給がある。下記のグラフで見るように、分譲される戸建ての着工戸数はここ数年非常に安定しており、毎月5000戸前後である。
◆グラフ4:分譲戸建の着工戸数の推移(首都圏)
(出典)国土交通省
このように、供給が安定しているのはパワービルダーが上場企業であり、事業計画の統制が取れていることに起因している。しかし、需要は供給のように安定してはいない。消費税率の改定前後のように、毎年変わる税制を見越して需要は大きく変化する。結果的に、需給バランスで価格が決まるので、売れ行きが悪いときは値引きで調整しているのが実態である。しかし、下記グラフで見るように、直近の戸建価格は上昇傾向になっており、需給の引き締まり傾向を表していると思われる。
◆グラフ5:新築戸建ての価格推移(首都圏)
(出典)東日本流通機構
ただ、マンション価格との差額の広がりによって戸建ての資産性は上昇したかというと、そうとは言えない。それは本来の居住資産としての価値を無視して、20年後にはゼロ評価となってしまうからである。
不動産の銀行評価は新築時からの耐用年数で決まる。マンションは鉄筋コンクリート造で建物と土地が一体で評価され、47年の償却期間を基本とする。つまり大まかに言うと、100%を47年で割るので、年間2%強の価値下落を想定する。住宅ローンの10年後の元本の減り方は約25%なので、資産の下落幅(▲20%)よりも元本(▲25%)の方が大きくなっており、含み益が出やすい状況にある。
これに対して、木造の戸建は22年の償却期間で、物件価格の半分が建物とすると「50%÷22年=2.3%」となるため、10年後に23%の価値下落になる。これだと含み益が出るかどうかは微妙な水準になる。20年後には建物価値はゼロ評価になり、土地代が残る。しかし、その土地代も建物の解体費を差し引かねばならないので、売却価格は新築時の半分以下になる。これは土地代が下がらなかった場合であって、土地価格まで下がると購入時の2〜3割まで価値が減るということもよくあるケースだ。これに加えて、建物価値を築年数で決めることから、リフォーム価値は何千万円かけてもゼロ評価になる。
これだけ値下がりすると、売却側の心理的・金銭的なハードルは上がる。それだけではない。銀行評価がそこまで落ちると次に購入する人の住宅ローンは土地代程度しか貸されなくなる。売る方は損まで出して売りたくないと思うようになるし、買う方は住宅ローンがあまりつかない物件は高く買うことができなくなる。こうして戸建は、中古での取引はほとんどされなくなる。
■なぜ戸建は価値が目減りしやすいのか?
住宅ローンと減価償却の奇妙な関係
そもそも、住宅ローンが減価償却期間に準じた不動産評価をすることに、意味があるのだろうか。日本の建築関係者は20年で無価値になる建物をつくっているのだろうか。そして、多額の借金をして購入したマイホームの資産価値が毎年5%ずつ必ず減るという自虐的な政策は、現状に合っているのだろうか?
そもそも減価償却は税金を納めるための費用計上方法の決め事に過ぎない。実際の使用期間とは無関係である。ここで、戸建資産がインフレ傾向を続けている米国の例を紹介しておこう。
まず、木造戸建の減価償却期間は27.5年で計算する。これは所有者が代わると次の人も27.5年で償却することになる。建物価値はリフォーム・リノベーションすることで評価を上げることができ、それを銀行も税制上も評価してくれる。その評価方法は賃料から算出される。市場在庫の平均築年は40〜50年ほどだから、耐用年数を過ぎた物件はたくさんある。しかし、空室率は全米で7%程に過ぎない。築50年でも新築同様の仕様に変えれば、新築同様の賃料が取れ、新築同様の価値になる。
こうなると、購入者は築年を参考程度にしか見ないし、投資をして価値を上げることがビジネスになるし、そこにローンの出し手もいる。結果的に、市場規模は新築と中古で20:80になる。日本ではこれが逆になる。
そもそも不動産はロケーションが最大の武器であり、築年に大した意味はない。不動産の価値はいくらの賃料を生むかにかかっており、それはロケーションと建物の状態に依存している。賃料は1年で約1%下落するので、20年経っても新築時の約80%の賃料は取れる。これに大規模な改装の費用を入れたら、築浅物件並みの価値にすることはできる。
■戸建市場を縛り付ける過去の政策
豊かな「住ライフ」にはその転換が必要
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現行の不動産の制度・政策の多くは人口が増え、地価が上がり、住宅が足らなかった時代の産物である。そのために、新築を多く建てさせる「スクラップ&ビルド」が主流になるようにし、建設会社・工務店・ハウスメーカーの産業を創出した。たとえ建物価値が大きく下がっても、土地価格が上がったので購入者が大きな痛手を負うことは少なかった。1980年代末期のバブル時まではそれで良かったが、「失われた20年」を経た今は、困ることが多い。
今後、少子高齢化で人口が減り、地価は下がり続け、住宅は「空き家問題」が叫ばれるほど余っていく。そこで縮小均衡しながら我々が豊かな生活をするためには、賃料が取れる好立地物件に再投資の資金が向かい、賃料による評価体系によって資産価値を上げ、労働力不足の中で資産が稼いでくれる社会を創るという方向性が望ましいと筆者は考える。
戸建は物件評価とローンの仕組みが変われば、賃料同様に価格が高く維持され、流通量が増え、働かない世代が多く持っている金融資産とあり余る不動産が経済活動に寄与できるようになる。資産価値が維持される効果は絶大にあり、その下落幅が数%縮まれば、それだけの価値を端的に産み出すことができる。
それは不動産の真の価値を反映しただけに過ぎないので、シンプルな仕組みである。人口減少社会での新たな豊かさを創るのは自分たち自身であり、過去の政策から脱却するところから始めなければならない。
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