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コラム:
日本の問題先送り体質、日銀新政策で露呈
永井靖敏大和証券 チーフエコノミスト
[東京 11日] - 日銀が9月に導入した「新しい枠組み」(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)について、市場やエコノミストの間で、評価が分かれるなか、筆者は効率性という点で問題があると考えている。
日銀は、これまで金融政策を適切な方向に修正するチャンスを逃し、自ら制約条件を作ってきた。実践的で緻密な政策と評価することもできるが、問題の先送りにすぎず、将来に禍根を残す政策と言える。
まず、現在日銀の置かれている状況を考慮せずに、「新しい枠組み」を効率性という点で評価すると、優れた政策とは言えない。あらゆる政策運営にはコストが伴う。日銀の国債買い入れは、基本的に長期金利の低下を目指して実施してきたことから、より少ない金額で、より大幅な金利低下を目指す方が「効率的」だ。
特にマイナス金利の国債買い入れは、最終的に国民負担につながるため、極力回避すべきだ。国債を大量に買い入れながら「イールドカーブ・コントロール」で、長期金利の過度な低下をけん制するのは、アクセルとブレーキを同時に踏むような政策と言える。
確かに、国債を大量に買うことが重要、すなわち「量」の拡大が物価の上昇につながると指摘する向きもあるが、一般的な見方ではなく、「総括的な検証」でも、「マネタリーベースと予想物価上昇率は、短期的というよりも、長期的な関係を持つものと考えられる」と記載するだけで、具体的な実証分析は行われていない。
<日銀が効率の悪い政策運営を選んだ3つの理由>
もちろん、日銀が効率の悪い政策運営を導入したのには、それなりの事情がありそうだ。実際に金融政策の枠組みを変更する上で、多くの実務上の制約条件をクリアする必要があるためだ。
具体的には、1)これまで実施してきた政策運営を正当化する必要があること、2)多くのボードメンバーからの賛同が求められること、3)緩和の縮小と思われない形で政策運営の持続性を高めること、などが挙げられる。
1番目について、これまで日銀は、インフレ期待の抜本的な変化を狙い、物価上昇にコミットすると宣言した上で、大胆な金融緩和を実施してきた。コミットメントは、日銀に物価を押し上げる力がなければ、意味がない。
日銀は政策効果をアピールするため、過去の政策運営は成功したという前提に基づいて、連続性のある政策運営を行う必要があった。長期金利の買い入れ額を、おおむね現状ペース(保有残高の増加額年間約80兆円)という「量」のめどを残したことからも、連続性を重視する日銀の意図が読み取れる。
加えて、複数のボードメンバーが「量」を支持するなか、多数の反対票が出ると、「新しい枠組み」に対する信頼が損なわれる恐れがあった。2番目の制約条件に配慮し、妥協点を模索したと思われる。
3番目については、黒田東彦総裁が「物価安定の目標」達成前の緩和縮小の可能性を否定するなか、長期金利の行き過ぎた低下の問題が浮上した。「イールドカーブ・コントロール」を、枠組みの中心に据えることで、行き過ぎた低下を防ぐのと同時に、将来の「量」の縮小を円滑に行える道を模索することが求められていた。
「過去の失敗は素直に認めて、常に最も効率的な政策運営を目指すべき」と評論家的なコメントをすることは容易だが、「新しい枠組み」は当面の問題をクリアするという点では、緻密に練り上げた政策と評価することもできる。実際、導入直後、債券市場に大きな混乱を与えることなく、政策運営の持続性に対する不安が低下した。
<金融機関支援策とセットでマイナス金利深掘りか>
ただし、「新しい枠組み」の評価は、長期的な視点で行う必要がある。今回問題の先送りに成功したことにより、これまでの失敗の原因が曖昧になり、今後も効率の悪い政策運営が継続される恐れがある。また、後述するように、将来、市場の波乱を招くことが懸念される。
今から振り返ってみれば、マイナス金利政策導入時に、「量」を縮小しなかったことが、失敗だったと見るべきだろう。また、「物価安定の目標」の早期達成を目指し、国債の買い入れ額を持続不能なペースで実施したことについても、議論の余地はあるが、間違いだったと筆者は見ている。
「新しい枠組み」により、政策の持続性が高まったことで、これまでの政策運営を正当化することができる。「総括的な検証」でも、「量的・質的金融緩和」やマイナス金利の導入の有効性を強調するなど、日銀の政策運営の無謬(むびゅう)性を強調している。
このため、今後追加緩和を行う場合、現行の政策運営をさらに拡大することになりそうだ。黒田総裁は9月26日の講演で、追加緩和の中心的な手段として、短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げを挙げたが、短期金利の引き下げが最も有力だろう。
長期金利操作目標の引き下げについては、「総括的な検証」で、具体的にデメリットを指摘しているが、短期金利の引き下げについては、「貸出金利の低下は金融機関の利鞘を縮小させることで実現しているため、さらなる金利低下に伴う貸出金利への波及については、金融機関の貸出運営方針にも依存する」と、工夫次第では引き下げ余地があると読み取ることもできるためだ。
実際には効果はないと筆者は見ているが、「政策発動のための政策」として、短期金利の引き下げと金融機関支援策を組み合わせた、一段と複雑な金融政策が実施されそうだ。
<物価目標達成後に長期金利急上昇の恐れ>
ところで、足元の相場安定は、将来の波乱の可能性という犠牲の上に成り立っている可能性もある。今のところ市場では、10年債利回りについては、「下限はマイナス0.1%」というコンセンサスが形成されつつあるが、超長期ゾーンについては、時間とともに居どころが変わりそうだ。
「イールドカーブ・コントロール」を枠組みの中心としているが、「量」の効果を否定したわけではないため、明らかに行き過ぎと言える水準まで低下しなければ、「量」の縮小は難しい。ただ、行き過ぎた低下を経た後に縮小すると、急上昇するリスクが高まるため、超長期ゾーンの金利が、今後も落ち着いた動きを続けるとは限らない。
中長期的には、10年債利回りの方が波乱含みだ。確かに将来、期待インフレ率が上昇した場合、操作目標を適切な水準に引き上げるという選択肢はある。「オーバーシュート型コミットメント」では、「物価安定の目標」が実現するまでマネタリーベース残高の拡大方針を維持することしか日銀は約束していない。
しかし、できるだけ早期に「物価安定の目標」を実現することを目指すと主張するなか、現実問題として、実現前の操作目標引き上げは困難と思われる。このため、「物価安定の目標」実現後、10年債利回りが急上昇する恐れがある。
日本人は、目先の問題への対応力は優れているが、長期的な問題への対応力は劣るといわれている。長短金利操作付き量的・質的金融緩和は、日本独自の金融政策で、世界の先端を走っていると日銀は主張しているが、問題の先送りを好む日本社会が生んだ独特の金融政策と評価すべきかもしれない。
*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-yasutoshi-nagai-idJPKCN12B0DM
日銀、物価2%を事実上の中長期目標に転換=門間・元理事
[東京 11日 ロイター] - 元日銀理事の門間一夫・みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミストは11日、都内の日本記者クラブで講演した。
門間氏は、日銀による9月の政策検証および「量」から「金利」への政策枠組み変更について、「2%の物価目標達成は結果的に時間がかかってしまう可能性が高いことを日銀自身が認めた」と指摘。さらに「2%は事実上の中長期目標になり、今後は80兆円の国債買い入れにこだわらず、緩和の長期戦に持ちこたえるようにした」と評価した。
景気を過熱も引き締めもしない中立金利(自然利子率)の低下が日本のみならず先進国の中央銀行の課題との見方を示し、黒田日銀の3年半にわたる「異次元緩和」も、「中立金利がほぼゼロの状況にゼロ金利状態を続けたため、ほとんど効果がなかった可能性がある」と分析した。
中立金利の低い低成長環境で取るべき政策について、米国などで議論されている案として、1)地道な構造改革、2)財政積極活用、3)物価目標の3─4%への引き上げ、4)マイナス金利の効果を出すための現金撤廃━を挙げた。
一方、門間氏としては「日本が経験した程度の緩やかなデフレが景気を悪化する可能性は乏しい」とし、2%の物価目標達成の是非を含め「物価安定の意味や金融政策の根本的な考え方をめぐって、内外の議論が進むことを期待する」と強調した。
http://jp.reuters.com/article/boj-idJPKCN12B0MN
債券下落、30年入札控えスティープ化圧力−日銀オペ通知なしで一段安
三浦和美
2016年10月11日 07:56 JST更新日時 2016年10月11日 15:21 JST
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• 長期金利がマイナス0.05%に上昇、9月23日以来の水準
• リスクオンの流れからグローバルに債券売り圧力強い−バークレイズ
債券相場は下落。日本銀行の新しい政策枠組み下で超長期金利などの上昇めどを探る動きが続く中、30年利付国債の入札を翌日に控えて売り圧力が掛かった。
11日の現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の344回債利回りは、日本相互証券が公表した前週末午後3時時点の参照値と比べて1.5ベーシスポイント(bp)高いマイナス0.055%で取引を開始。その後はマイナス0.05%と9月23日以来の水準まで上昇している。
超長期債は軒並み下落し、利回りはスティープ(傾斜)化した。新発20年物の158回債利回りは一時2bp高い0.405%、新発30年物52回債利回りは2bp上昇の0.525%と、ともに9月21日以来の高水準を付けた。新発40年物の9回債利回りは2.5bp高の0.61%と9月16日以来の水準まで切り上げた。
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日銀本店
Photographer: Akio Kon/Bloomberg
バークレイズ証券の押久保直也債券ストラテジストは、「30年債入札を控えてそれに伴うポジション調整圧力がある」とした上で、「円安・株高・原油高と、リスクオンの流れから債券はグローバルに売り圧力が高まっている」と指摘。「日本国債は長いところで金利水準が調整しているという流れ」と付け加えた。
長期国債先物市場で中心限月12月物は、前週末比8銭安の151円91銭で開始。日銀が午前の金融調節で長期国債買い入れオペの通知をしなかったことで下げ幅を拡大し、一時151円75銭と日中取引ベースで9月26日以来の安値を付けた。その後は151円台後半でのもみ合いが続き、結局は18銭安の151円81銭で引けた。
東京株式相場は上昇。日経平均株価の終値は1%高の17024円76銭で引けた。ドル・円相場は一時2営業日ぶりに1ドル=104円台に上昇。米国の年内利上げ観測や原油高・株高を受けたリスク選好の流れを背景にドル買い・円売りが優勢となっている。
30年債入札
財務省は12日に30年利付国債の価格競争入札を実施する。発行予定額は8000億円程度。52回債のリオープン発行となり、表面利率は0.5%に据え置きとなる見込み。
SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは、30年債入札について、「0.5%台は日銀が長短金利操作を導入した当時の水準なので、大体これくらいが上限とみられており、ここで需要が出てきて金利の上昇が止まるのかが焦点だ」と指摘。「仮に需要が盛り上がらず、もう少し金利が上がった場合、日銀が対応してくるかに注目していくことになる」と述べた。
過去の30年債入札の結果はこちらをクリックしてください。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-10/OEO0X66S972X01
日銀の政策枠組み変更を評価、構造改革強化も=IMF副専務理事
[ワシントン 8日 ロイター] - 国際通貨基金(IMF)のリプトン筆頭副専務理事はロイターとのインタビューで、日銀が9月に採用した新たな政策枠組み、長短金利操作付き量的・質的金融緩和について、信頼性の向上につながるものだとして評価する考えを表明した。
同氏はまた、世界中で経済活性化の手段としての金融政策が限界に近づいているという見方があることに関しては、否定的な立場を示し、中銀は新たなアイディアを受け入れる姿勢を持つべきだと強調した。
「中銀は常に、直面する現実に基づいて可能なことは何でも実施する用意があるべきだ」と指摘。「想像力に富んだ手法という点で日銀は好例だ」と述べた。
日銀は9月の金融政策決定会合で、従来の「量」に代わり「金利」をより重視する政策の枠組みを打ち出した。
日銀が導入した短期金利と長期金利の目安を示すイールドカーブ・コントロール(YCC)についてリプトン氏は、「可能であることはもちろんだが、妙案だ」とし、リフレを図る取り組みを強化させたことを評価した。
そのうえで、新たな枠組みによって「政策の柔軟性が増し、信頼性が向上するだろう」と語り、「正しい方向への一歩」と述べた。
一方、安倍政権の経済政策「アベノミクス」に関しては、持続的でバランスの取れた経済成長を達成するためには機動的な財政政策と構造改革の2つの矢の強化が必要と指摘。「金融政策に依存しているだけでは最善の結果は期待できない」とし、「所得押し上げを一層重視し、(金融、財政、成長戦略の)3本の矢を組み合わせることで、中銀へのプレッシャーを軽くできる」と語った。
http://jp.reuters.com/article/imf-lipton-idJPKCN12A2ME
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