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杉本博司、資本主義が生んだ廃虚を見せる  ロスト・ヒューマン 資本主義の原則は拡大再生産だが、このままずっと生産量が増大
http://www.asyura2.com/16/hasan114/msg/183.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 10 月 08 日 14:29:05: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

杉本博司、資本主義が生んだ廃虚を見せる
小川敦生のあーとカフェ
2016年10月8日(土)
小川 敦生

 本当に写真専門の美術館の展覧会なのか。東京都写真美術館で開かれている「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展は、そんな疑問を抱かせる。理屈っぽいことなどは気にせずに、現代美術家・杉本博司の表現を見るために展覧会を鑑賞すればいいという意見もあるだろう。ただ、カメラ機能を持つ携帯電話やスマートフォンが広く普及し、SNSなど撮った写真を他者に見せる場も増える中で、「写真」の役割を改めて考えるのにいい機会になるので、ここではあえて気にしてみたい。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。3階の展示室入り口付近には「海景」シリーズがかかっている
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061000001/100500036/38-33.jpg

 3階の展示室に入ると、最初の小さなスペースにこそ杉本を写真の作家として世界的に有名にした1980〜90年代頃制作の「海景」シリーズの1枚がかかっていた。しかし歩を進めると、風化した板壁や錆にまみれたトタン板で囲まれた空間が広がっている。高度成長期に入る前の昭和、あるいはテレビの映像などを通じて記憶の底に蓄積されている戦前の日本を連想させた。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。錆びたトタン板とぼろぼろの板壁に囲まれている
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061000001/100500036/12-32.jpg

 展示されている物の大半は、いわゆる美術品ではなかった。ボロボロの作業用のつなぎだったり、今の50代以上なら記憶の底にありそうな牛乳配達用の木箱だったり。昔日本の街角でおばあさんが座って店番をしていたようなたばこ屋の店舗の実物らしいものもあった。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。昭和を感じさせるたばこ屋の店先
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061000001/100500036/22-16.jpg

 マッキントッシュの初期型のコンピューターは展示品の中では新しいほうの遺物だったと思うが、もはや十分な古び、すなわち歴史を感じさせた。進歩の早いカテゴリーの“物”は、古びるのも速いのかもしれない。これらに直接、杉本が写した海とのつながりがあるとは思えない。一方で、展示された物のほとんどに共通していることがあった。遺物ゆえに“過去”を想起させることだ。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。マッキントッシュの初期型のコンピューターも遺物として展示されていた
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061000001/100500036/14-39.jpg

 では、レトロを表現しているのか。「否」と答えるべきだろう。そこにはノスタルジーなどといった、人の心を落ち着かせるような言葉では語りきれない、「不穏」な空気が流れているように感じられたからだ。

 この展覧会は、パリのエッフェル塔の近くにあるパレ・ド・トーキョーというギャラリーで一昨年開かれていたものの巡回展である。杉本によると、錆びたトタン板など展示された物の多くは「パリでしつらえたもの」という。設定は“廃虚”である。廃虚をモチーフや被写体にする画家や写真家はこれまでにもいたが、杉本は集めた遺物で廃虚そのものを作り出すという行為に出た。
 実はパリ展の後、この展覧会はロシアのエルミタージュ美術館などを巡回する予定だった。ところが、ちょうどパリ展の終わりごろにロシアのクリミア併合をめぐる国際紛争が勃発したために巡回は頓挫し、展示物は2年間倉庫で眠っていたという。頓挫はまさに時事的な社会情勢がもたらしたものだったが、そもそも杉本はこの展覧会で現代の社会に対して、次のような言葉でアーティストとして疑問を投げかけている。

 「資本主義の原則は拡大再生産だが、このままずっと生産量が増大し続けることはありえない。どこかで歯止めをかけないといけないことがわかっているのに、明日明後日のことを考えないのが人間だ。どう警鐘を鳴らすか。この展覧会では、アーティストとして“物”に語らせた」
 杉本ははっきり「物」という言葉を口にしている。写真の美術館の展覧会なのに写真ではなく、普通なら被写体となる「物」を構成要素として作品を制作しているのは、極めて興味深いことだ。
 杉本が表現した拡大再生産の果ての行く先は、「世界の終わり」だった。会場では33の空間を設け、世界が終わる33の物語を創作。政治家、自由主義者、安楽死協会会長、世界保健機関(WHO)事務局長など33の職業人に手書きでその物語を記してもらう展示をした。すべての文章が、「私は◯◯だった。今日、世界は死んだ。もしかすると昨日かもしれない」(◯◯には各職業が入る)という書き出しで始まる。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。33のコーナーのうち建築家のエリア。文章は、建築家の磯崎新が設計図用のフォントで書いたという
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 たとえばWHO事務局長の文章は「発展途上国での人口爆発がコントロール不能に陥ってしまった…」と続き、人口抑制のための発情抑制剤を開発、正常な遺伝子が淘汰され、求愛行動がなくなって人生から生きる意欲がなくなり、世界はあっという間に滅ぶというストーリーが展開している。こうした設定は小説でもありうるかもしれない。しかし、空想とは異なるインパクトを、物は持つ。物にはやはりリアリティーがあるからだ。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。ジャーナリストのエリア
 一方で杉本は、「写真はもはや“真”を“写”すものではなくなっている」と話す。写真にはかつて、写った事物を“事実”と認めさせる力があった。だが、最近はパソコンやスマートフォンがあれば雰囲気を変えるなどの加工や切り貼りなどの改変は、一般的なユーザーでも簡単にできる。ひょっとしたら杉本は写真を見限ったのだろうか。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。こんな看板もあった
 実は3階展示室出口のすぐ前のスペースにも「海景」シリーズが展示されている。杉本によると、ここで見せようとしたのは、「文明が滅びた後の海」だという。このフロアの展示のほとんどは物で構成された廃虚だが、2枚の写真の海の間で「あだ花のように咲いて消えた」(杉本)人類の痕跡を示すものにすぎないというわけだ。いわば展示室全体は海の写真が提示する地球であり、33の廃虚は数十億年の歴史の中の一瞬なのである。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。電気の痕跡は杉本の制作。雷神の彫刻は鎌倉時代の作品
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 むしろ、杉本の創造した“物語”の世界の根源に写真があると考えたほうがおもしろいかもしれない。物としての海を美術館内に持ってくることができないという物理的な事情があるだけではない。写真作品にしたからこそ、向き合った者が想像力をふくらませる膨大な余地が生まれるからだ。

「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展会場風景。この展覧会は2階と3階の2フロアを使っている。2階には、新たに制作した廃虚劇場のシリーズなどが展示された
「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
2016年9月3日〜11月13日、東京都写真美術館


このコラムについて
小川敦生のあーとカフェ
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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061000001/100500036/?ST=print 
 

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コメント
 
1. 2016年10月08日 20:21:17 : UriUMyAuHw : pFoFQvN3BG0[145]
ゼネコンの ために廃墟を でっち上げ

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