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失業率が低下していても、なぜ家計は疲弊しているのか?(写真=Thinkstock/Getty Images)
失業率が低下していても、なぜ家計は疲弊しているのか?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161005-00000009-zuuonline-bus_all
ZUU online 10月5日(水)12時0分配信
3.5%が日本の自然失業率とされ、失業率がこれを下回ると賃金上昇が加速し、物価上昇も加速していくと言われてきた。失業率が示す労働需給関係で、需給が引き締まれば賃金上昇が起こる市場の「見えざる手」の効果である。
しかし、失業率は既に3%まで低下をしているが、賃金上昇は始まってはいても、加速しているとは言えない。
■企業貯蓄は、異常な状態が続く
これは、労働需給が引き締まっても、家計に回ってくる富が存在しなければ、賃金上昇は強くならないことを意味している。日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスの異常な状態が継続している。企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていることだと考えられる。
そして、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度であり、財政拡大が不十分で、企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要(マイナスが強い)が消滅してしまっていた。国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたのだ。
企業貯蓄率と財政収支の和であるネットの資金需要は、企業と政府が支出する力を意味する。
■賃金上昇が加速しない原因は?
企業活動が活性化するとともに、財政支出も増えれば、これらの支出は所得となるため、富が家計に移転しやすくなり、賃金も上昇しやすくなる。2011年ごろまで、ネットの資金需要は消滅しており、家計への富の移転は見られず、総賃金(すべての雇用者の賃金の合計)は縮小傾向にあった。
一方、2013年のアベノミクスの開始を経て、ネットの資金需要はGDP対比‐3%程度まで拡大し、労働需給の引き締まりと合わせ、総賃金を拡大し始めた。2012年までの5年間、総賃金の伸び率の平均は年−0.6%であったが、2013年以降の平均は同+1.5%となっている。
しかし、2014年以降、ネットの資金需要は縮小を始め、2015年には再び消滅してしまった。これが、失業率の低下が加速しても、賃金上昇に加速が見られない原因となっていると考えられる。
■ネット資金需要消滅の2つの理由とは?
ネットの資金需要の消滅の一つ目の理由は、2014年4月の消費税率引き上げ、歳出のキャップ、そして社会保障負担額の増加などにより、財政政策が緊縮になってしまったことだ。財政収支の赤字額は、2013年末のGDP対比8.1%から、2016年4−6月期の同2.8%まで、急激に縮小してきている。
二つ目の理由は、消費税率引き上げ後の需要の低迷、そしてグローバルな景気・マーケットの不透明感などにより企業活動が鈍化してしまったことだ。企業貯蓄率は、2014年10−12月期の+2.2%から、2016年4−6月期には+6.3%まで上昇してしまっている。ネットの資金需要の消滅による、家計への富の移転の阻害の結果として、家計の貯蓄率は2015年1−3月期の+4.4%から、2016年4−6月期には同+0.2%まで低下してしまった。
家計の貯蓄率はほぼゼロ%まで低下し、家計には消費を拡大する余力がなくなってしまい、中間所得層まで疲弊してしまっていることを意味する。
消費税率引き上げ後の景気低迷を見ると、増税などの緊縮財政により、将来の金利上昇の懸念のなくなった企業は投資を拡大し、社会保障システムが持続的になったと考えた家計が消費を増やすという「安心効果」が虚構であったことが分かる。
■次の注目は秋の臨時国会
企業が貯蓄行動を続けてしまっている間は、家計への富の移転が阻害されているため、緊縮財政は社会保障を含めた、将来に対する「安心効果」を生まないばかりか、家計をより防御的にしてしまうことが証明された。
景気対策や構造改革により、企業を刺激し、支出力を回復させることは極めて重要であるが、やはり時間がかかる。家計の貯蓄率がここまで低下してしまったことを考えれば、改善しすぎた財政の力を使って、大幅な減税などで家計に富を移転することが急務になっている。
この状況で、2017年4月の消費税率の再引き上げが強行されていれば、日本は深刻な景気後退に陥っていた可能性が高かっただろうから、安倍首相の先送り決断は正解であった。景気対策の手段となりうる減税には、代替財源の手当てが必要である税収中立が原則となっているため、その他の増税で効果が打ち消されてしまうことが多い。
税収中立の原則を外し、賃金上昇前の拙速な消費税率引き上げで、苦しんでいる家計を大幅な減税で支え、刺激するのが自然な考え方のように思える。疲弊した中間所得層を支えるため、税収中立の原則を廃止してでも減税を行い、低所得層には財政支出によるサポートの拡大が、早急に必要になってきている。
秋の臨時国会で可決される2016年度第二次補正予算による景気対策に加え、来年の年初の通常国会で第三次補正予算による景気対策の拡大が、景気回復促進によるデフレ完全脱却への推進力を強化するために必要であろう。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト
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