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米商業向け融資の減速、銀行と経済にさらなる逆風
米国の商業向け融資の伸びが減速、特に中堅銀行には逆風になる恐れがある(写真はテキサス州ダラスのコメリカバンクタワー)
By AARON BACK
2016 年 10 月 4 日 10:57 JST 更新
米国の商業向け融資の伸びが7-9月期に予想外に減速した。既に苦戦している銀行や低迷している米経済にとって、さらなる逆風になるかもしれない。
米連邦準備制度理事会(FRB)が発表した週次データ(9月最終週を除く)によると、7-9月期は商工業向け融資が全ての商業銀行でおおむね横ばいだった。アナリストは、この時期は例年、融資が低調な時期だが、過去に比べて減速の度合いが大きいと指摘した。
FRBのデータ(季節調整済み)によると、7-9月期の商工業向け融資は年率換算で約5%増と、4-6月期の8.7%増から増加ペースが減速した。
理由ははっきりしない。モルガン・スタンレーのアナリスト、ケン・ザーブ氏は、景気減速の可能性、7-9月期にM&A(合併・買収)が減少したこと、銀行の融資基準厳格化など、考えられるさまざまな要因を挙げた。キーフ・ブリュイエット・アンド・ウッズ(KBW)のアナリスト、ブライアン・クロック氏は、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の賛否を問う国民投票や11月の米大統領選などの政治的不確実性が借り入れ需要を押し下げた可能性があるとの見方を示した。
消費者向け融資は引き続き堅調で、銀行にとっては緩衝材になっている。商業融資に依存している中堅銀行は最も厳しい状況にさらされている。モルガン・スタンレーのザーブ氏によると、コメリカ、ザイオンズ・バンコープ、サントラスト・バンクスなどが該当する。
融資の減速が一時的な不透明感によるものであれば、心配することはないだろう。だが大統領選が終わっても商業向け融資の需要が回復しない場合は、広範な経済の減速を示している可能性がある。そうなれば、記録的低金利の中で収入を増やし続けるために融資の伸びに頼っている銀行は苦しい戦いが続くことになろう。
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&uact=8&ved=0ahUKEwjDiOHWg8HPAhXDspQKHQXGDR0QFggeMAA&url=http%3A%2F%2Fjp.wsj.com%2Farticles%2FSB11248959841534934584204582352773143291332&usg=AFQjCNFM8H-cLvlBjEcSlE4EPoG5MvyL_A
銀行業界に共通するドイツ銀行の問題
ドイツ銀行の株価は明らかに金融危機前よりもはるかに割安感がある(写真はドイツ銀行ベルリン支店) PHOTO: BLOOMBERG NEWS
By
JAMES MACKINTOSH
2016 年 10 月 4 日 17:14 JST 更新
ドイツ銀行だけが不幸に見舞われていると考えている投資家は、気をつけた方が良い。何がドイツ最大手の銀行の歯車を狂わせたのか。基本的に三つの説明が考えられるが、これらは全て世界の競合他行にもあてはまることだ。
一つ目は、投機筋が株安を演出したという説明だ。株価が急落している銀行のトップなら誰もが一番気に入る説明だろう。ドイツ銀行の最高経営責任者(CEO)、ジョン・クライアン氏はこの議論で自行の株安を理由付けしようとしている。同氏は行員へのメモで、「信用が銀行の基盤だ。(中略)市場の一部の力が現在、この信用を傷つけようとしている」と述べた。
政治家や投資家はこうした主張を一笑に付してきた。だが、銀行業界全般に、正真正銘の謎がある。銀行の自己資本は2008〜09年の世界金融危機以前よりもはるかに増強されている。だとすれば、どうして銀行の株価はさらにリスクが高いことを示唆しているのだろう。
元米財務長官で現ハーバード大学教授のローレンス・サマーズ氏と同大博士課程のナターシャ・サリン氏は、先進諸国の銀行株価が足元で危機前よりも低く、資本増強を踏まえて期待されるほど株価の安定性は増していないことを明らかにした。
現実に起きていることは、クライアン氏の主張とさして変わらない。07年にサブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローンの不良債権化が一気に進む前は、投資家は銀行が抱えるリスクを楽観していた。あまりにも多くの人々がまだ景気拡大期が続くと考えていた上、わざわざ銀行が抱える負債に目を向けようとする人はほとんどいなかった。投資家が銀行のリスクに過敏となっているいま、銀行は実際よりもリスクが高いように扱われている。
【上】株価純資産倍率(灰色=米銀、黄=ユーロ圏の銀行、青=ドイツ銀行)、【下】ドイツ銀行の株価
https://si.wsj.net/public/resources/images/OJ-AP883_STREET_16U_20161003161809.jpg
二つ目に考えられるのは、市場はリスクを正しく織り込んでおり、世界の銀行の中で単にドイツ銀行が自己資本がまだ少なすぎる劣等生中の劣等生というだけだという説明だ。銀行と規制当局がたびたび指摘しているように、銀行の所要自己資本基準はこの5年間で急速に引き上げられてきた。だが、これらの基準はまだ不十分であることが判明した。実際、英中銀イングランド銀行のアンドリュー・ハルデーン氏とバシレイオス・マドウロス氏が2012年に指摘した通り、危機前に銀行救済の必要性がうかがえる指針としていかなる規制当局の基準よりも有効だったのは株式市場だった。
つまり、市場の英知を信用し、銀行全般、中でもドイツ銀行への投資は避けた方が良いという解釈だ。
三つ目の説明は、銀行は利益が減ったのだから会社としての価値は以前より低く、今後もそうした状況が続くだろうというものだ。サマーズ氏とサリン氏は銀行経営の価値低下を論じている。だが、利益の減少につながる変化要因は多い。規制コストの増加、投資銀行市場の縮小、規制の緩いシャドーバンク(影の銀行)や新しい技術との競争、過去に犯した違法行為に対する罰金、預金金利と長期金利の差の縮小などだ。大まかに言って、銀行の数は多すぎる。需要の減少に合わせて減らす必要がある。
言い換えると、銀行の事業モデルは崩壊しており、銀行株が安いのは当然ということだ。
これら三つの説明は、どれもある程度真実を物語っている。金融危機前のバブルの間、投資家は明らかに自己満足に浸っていた。規制当局が定める自己資本基準はあまりに複雑で、投資家は不安を禁じ得ない。銀行の事業モデルはひどいことになっており、それを正すコストは高くつくだろう。
ドイツ銀行株は明らかに危機前よりもはるかに割安感が強い。先週時点で株価は純資産の22%の水準をつけていた。これはトムソン・ロイター・データストリームが1980年に統計を開始して以来最も低い水準だ。ドイツ銀行株が9月30日の取引で上下18%という異常なまでの値動きを見せたのは、非常に割安だという見方と、いずれ増資が行われ株価は下落するとの見方がせめぎ合っているせいもあるだろう。
銀行業界にとって危険なのは、ドイツ銀行がこうした三つの説明が全て当てはまった場合の最も極端な例にすぎないことだ。増資が必要だが株価の低い銀行が新株を発行すると、既存株主は不利益を被る。ほとんど利益を上げていない銀行が新たな株式を発行するのは難しいだろう。だが、あまりに多額の損失を計上している銀行はいずれ資本を積み増す必要がある。この場合、株主は打撃を受けるだろう。
ドイツ銀行株は今年に入ってからだけでも48%下落している。2018年までに同行の株主資本利益率(ROE)は投資家が求める水準をはるかに下回る5.6%にしか上昇しない、というのがアナリストのほぼ一致した意見だ。住宅ローン担保証券(MBS)の不正販売を巡る米司法省への和解金が当初提案された140億ドル(約1兆4000億円)に少しでも近い数字で決着すれば、すでに脆弱(ぜいじゃく)な自己資本がさらに悪化し、新株発行の圧力が高まるだろう。同行の過去が足を引っ張っており、株主にとって将来は暗い様相を呈している。
どの銀行もこうした問題を少しずつ抱えている。銀行株の投資家は誰しも注意し心配すべきだ。
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世界の中銀、4-6月期に英ポンド保有額を積み増し
2016 年 10 月 4 日 16:59 JST
英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を恐れていたのは誰だろう。中央銀行ではなさそうだ。
国際通貨基金(IMF)のデータによると、世界の中銀の英ポンド保有額は4-6月期に2.4%増えて、過去最高の3521億ドル(約36兆円)に達した。
アナリストらによれば、4-6月期にポンドの対米ドルレートが7.3%下落したことを考慮すると、ポンド保有額の増加は中銀が実際にポンドを買い増したことを示唆する。
クレディ・スイスのFX戦略部門のグローバルヘッド、シャハブ・ジャリヌース氏は「英国はさまざまな問題に直面しているにもかかわらず、海外の中銀が今もポンドを組み入れていることがうかがえる」とし、「一部の中銀は、外貨準備におけるポンドのポジションを比較的安定した水準に維持しようとしているかもしれない」と述べた。
世界各国の公的外貨準備の通貨別構成(COFER)は、3カ月遅れで毎四半期の最終営業日に公表される。
アナリストの間には、ブレグジットを取り巻く不透明感によって各中銀がポンドの保有を避けるとの見方もあった。ただ、外貨準備の通貨別構成の変化は極めてゆっくり進む傾向があるという。
一方、世界の外貨準備に占める日本円のシェアは4.54%に上昇し、2002年以降で最も高くなった。4-6月期に円の対ドルレートが9%上昇したこともあり、外貨準備の円のドル換算額は1-3月期から16%増えて3406億ドルとなった。だが為替変動を考慮しても、各中銀が円の保有額を積み増したことを示唆する、とアナリストらは語った。
日本国債の多くがマイナス利回りになっていること踏まえると、これは直観に反している。(中銀の外貨準備は通常、国債と現金で構成されている)
各中銀が円買いを続けていることは、日本市場の理解に苦しむ状況を改めて示している。円安に誘導するために日本銀行はさまざまな措置を講じたが、今年に入り円相場は20%近く上昇している。利回りがマイナスに沈んでいるにもかかわらず、投資家は引き続き日本国債に殺到している。安全な避難先としての円の地位と、同国の大胆な金融政策の影響によって、日本の資産価格はゆがめられている可能性がある。
クレディ・スイスのジャリヌース氏は「日銀の金融政策は日本国債の価格を押し上げ、購入しにくくしており、円の買い増しはその政策と関係があるとは言い難い。債券利回りは低下の一途をたどっている。今は買い増しに適した環境ではない」と語った。
世界の外貨準備に占めるドルのシェアは63.4%と、1-3月期の63.5%からわずかながら低下した。
IMFは来年3月に公表予定の10-12月期のデータから、世界の外貨準備に占める人民元のシェアを発表する。元は10月1日付でIMFの特別引き出し権(SDR)の構成通貨に正式に採用された。
しかしブラウン・ブラザーズ・ハリマンのアナリストらは、SDR構成通貨への採用が各中銀による外貨準備への元の組み入れに拍車を掛けるかどうかについては依然として疑問視している。
「元が(SDR構成通貨に)採用されたというだけの理由で、外貨準備の運用担当者がIMFの決定を既成事実として受け入れて元の保有額を増やすことはないと推測している。元相場と(外貨準備の運用先になるとみられる)国債市場の安全性、流動性、透明性が重要だ」と指摘した。
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&uact=8&ved=0ahUKEwi-oIrsg8HPAhUCnJQKHbTECNEQFggeMAA&url=http%3A%2F%2Fjp.wsj.com%2Farticles%2FSB12557326889379443597104582353352762030864&usg=AFQjCNE8w_q1rqhB8Mfp94FOlHM-am3tJg
【FRBウォッチ】米インフレ見通し、OPEC減産合意でも変わらず
OPECの原産合意後も米10年債利回りはほぼ変わっていない
By JON HILSENRATH
2016 年 10 月 4 日 10:37 JST 更新
石油輸出国機構(OPEC)加盟国による先週の減産合意は、米債券市場のインフレ見通しをほとんど変えることがなかった。
OPECは石油市場の過剰供給を和らげるため生産を抑制しようとしている。理論的にはこれで米国の物価や債券利回りに上昇圧力がかかるはずだ。だがOPECの合意後も米10年債利回りはここ数カ月と同じ1.6%近辺で変わっていない。物価連動国債(TIPS)の値動きに反映されるインフレ期待も2%をはるかに下回る水準で安定している。
本紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の市場担当記者は、10-12月期もこの傾向が続くとにらんでいる。OPECの合意でも原油相場に上昇圧力はほとんどかからず、米国債への需要も引き続き旺盛になるとの見方だ。
米債券市場に関するWSJ報道によれば、日本と欧州主要国が景気刺激策としてまだマイナス金利を採用する中、米国債の利回りが過去の標準よりも大幅に低い水準にとどまると考える米投資家は多い。
また石油業界アナリストの間では、生産を日量最大70万バレル減らすというOPECの提案は不十分かつ実行スピードに欠けるため、原油安の原因である供給過剰の問題を解決できないとの見方が優勢だ。
世界の原油生産ではOPEC非加盟国が全体の58%を占める。国際エネルギー機関(IEA)によると、4-6月期の生産量は日量9590万バレルで、推定需要の9560万バレルを上回った。OPECの減産が効果を発揮するのは、OPEC非加盟国の増産で打ち消されない場合だけだ。また減産で世界の生産量が需要に見合った水準まで減少したとしても、原油在庫は依然として高水準にある。
米連邦準備制度理事会(FRB)関係者は、12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が0.25%引き上げられると引き続き予想している。OPECの減産合意に対する市場の反応は、FRBに早期利上げを求める新たな圧力がほぼないことを示唆している。
関連記事
OPECの減産合意、需給是正効果は期待薄
OPEC合意、原油上昇もたらさない5つの理由
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&uact=8&ved=0ahUKEwiRwZH2g8HPAhUGpZQKHVtsAS0QqQIIHjAA&url=http%3A%2F%2Fjp.wsj.com%2Farticles%2FSB11248959841534934584204582352050063989654&usg=AFQjCNEAx83F9dMzrASRZR_5VdMO0DCefw
タンザニアの行商人に学ぶ「その日暮らし」の経済学
HONZ特選本『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』
2016.10.4(火) HONZ
本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。
タンザニア最大の都市ダルエスサラーム(資料写真、出所:Wikipedia)
(文:山本 尚毅)
「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)
作者:小川 さやか
出版社:光文社
発売日:2016-07-14
「いま、ここ」に真剣に生きる。
そのような当たり前の事実をアドラー心理学やマインドフルネスで説かれる。わかっちゃいるけど、実践できないのは、ついつい過去を悔やんだり、不確実な未来に思い悩むからである。一方で、リスクを出来るだけ最小化するために予測可能性を高め、テクノロジーが予見する世界像を理解・共有しながら、未来の解像度を高めようとする。そうして、現在と未来の間を行き来し、板挟みになり息苦しさを感じる。
くよくよ思い悩む私たちを尻目に、世界には「いま、ここ」を生きている人たちがいる。アマゾンの少数民族ピダハンである。ピダハンの言語には、過去や未来を示す時制がきわめて限定的にしか存在しないのだ。未来や過去を含め、抽象的な概念を表現する言語はほとんど存在しない。
そして、人類学者はしばしば、金銭的・物質的な側面では明らかに私たちの社会よりも貧しい社会に存在する異なる豊かさをに心動かされ、賞賛する。そこでは未来のために現在を手段化したり犠牲にすることなく、「いま、ここ」を生きている。そして、たいていの場合、資本主義経済、とくに新自由主義的な市場経済へのアンチテーゼを標榜する。
タンザニアでは「Living for Today」が一般的
一方で、著者が長年調査してきたタンザニアの行商人マチンガは、これまでの人類学者が対象としてきた未開の民族や農村地域の住人と比べて、それほど遠い存在ではない。民族誌を読んでノスタルジックに浸るというより、資本主義経済で闘っている同志に励まされるように感じられる。
しかし、相対的に近いといえど、日本とタンザニアの二者の違いは大きい。日本では当たり前のように過去から未来への直線的で均質的な時間を生き、いつかどこか、未来の豊かさや安心のために現在を貯蓄している。しかし、本書を読めば、そんな時間感覚は特定の場所と時代において成立しているにすぎないことがわかる。タンザニアではその日その日のために生きる(Living for Today)のが一般的であり、日本に暮らす私たちとは違った時間軸と合理性を持って生活している。
また、Living for Todayに立脚する経済は現在において拡大し、主流派の経済システムを脅かす、もう一つの資本主義経済として台頭している。
このインフォーマルな経済圏は、 世界中で16億人もの人びとに仕事の機会を提供し、 その経済規模は18兆ドルにも上ると言われている。
儲けよりも仲間を優先
本コラムはHONZの提供記事です
前置きが長くなったが、その新しい経済の原動力と住人たちの生きぬき戦術、生活の論理をLiving for Todayの視点から論じるのが本書『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』である。
彼らの行動原理は「まず試しにやってみる、バラバラで」「稼げないとわかったら転戦する」「稼げるとわかったらみんなで殺到してすぐ終わる」だ。商売においては同じ商品は大量に仕入れずに、バラバラの製品を仕入れ販売する、一見非効率に見えるやり方だが、商機の探索とリスクの分散になっている。稼げるかどうかはやってみないとわからない、だからいつ転戦するかわからない。そういった短期決戦の姿勢は、共同経営や組織化のインセンティブと矛盾し、個人個人がバラバラで行動し、不確実性の高い市場を再生産し続ける。
一方で稼げるとわかってしまえば、商売の秘訣をあらゆる手段で囲い込み、できるだけ稼ぎを多くしようとするのが、商売の鉄則であると教わってきたが、マチンガはそうはしない。先鞭をつけた商人が後続の商人に気前よく教えるし、同業者によるパクリも歓迎である。その結果数カ月から1、2年のうちに商売が立ち行かなくなり、新たな市場や商品の開拓を繰り返す。
彼らが稼ぎの秘訣を共有する理由は、自分の商売に秘密にすべきことがあるとは思っていなかったり、教えなくても商売など簡単に盗めるものと考えているからだ。そして、それ以上に、仲間との関係性が重要であり、仲間から教えを請われれば断りはしないのだ。儲けよりも仲間優先の姿勢は終始崩すことはない。
一つの商機に殺到する経済は、インフォーマル経済の多大なる雇用創出の成果と論者の間では再評価されているが、一方で組織化せずに、個々でバラバラに商いを行い、過剰競争に陥ってしまう効率の悪さを指摘していた。
しかし、著者は個々が自由気ままに勝手に動くことで、自分たちよりも強い権威に管理・統制されない「アナーキー」な市場・経済領域を維持・再生産していると考える。マチンガに言わせれば、大商人や大家は自分たちに頼らざるを得ないのであり、やはり面白いのは、そのような状況を組織化・団結せずに勝手にやることの結果として生じていることだ。
商売の上で、現在のアフリカで問題視されているのは、中国人の商売のやり方だ。マチンガたちは、パクること自体は問題だとは考えない、意外な点で中国人の道義について抱く不満がある。
また、商売の根源にある貸し借りの感覚にも、Living for Todayが行き届いている。そこに、今やアフリカで生活になくてはならないインフラとなったテキストメッセージの送信で利用できる送金システムのエムペサ(M-Pesa)が影響を与えている。長い目で見る独特の貸し借り文化に、テクノロジーがもたらした変容と微動だにしない文化は、本質を浮き彫りにする。
なぜ効率性重視や成果追求主義にならないのか
著者はタンザニアに単身飛び込み、計3年半にわたり古着の行商人を経験した。きっかけは路上でのナンパである。そこからあれよあれよとマチンガに出会い、50着の商品を渡され、行商生活がスタートし、5カ月を過ぎる頃には500人以上の常連客を持つようになった。「路上経済学」を身をもって学んだ異色すぎる研究者である。街の超有名人になってしまい、現地に溶け込むように調査する文化人類学の鉄則は捨てざるを得ない状況となった。それがマチンガの一筋縄ではいかない複雑な心情に肉薄した考察の深さの理由に違いない。
“ではなぜ人びとは効率性重視や成果追求主義とならずに暮らしているのか、 いまを生きることはいかにして可能かと問うと、「そう生きたいから」といった 個人の信条や願望と、「そう生きざるを得ないから」という状況的な制約あるいは社会的制度や道徳とのあいだに、幾層も複雑に入り組んだ価値と実践があるように思う。”
呪いのように染み付いた直線的な時間軸に生きる中で、Living for Todayに生きる人びとを参考にして、大きく戦略を転換することは難しいだろう。しかし、未来と現在のどちらを重視するかで揺れ動く中で、個人として、他人との関わりにおいて、さらに社会全体のシステムを考える中で、前提を疑う視点と深いレベルでの再考を促す一冊である。
都市を生きぬくための狡知―タンザニアの零細商人マチンガの民族誌―
作者:小川 さやか
出版社:世界思想社
発売日:2011-03-01
パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する
作者:カル・ラウスティアラ 翻訳:山形 浩生
出版社:みすず書房
発売日:2015-11-26
ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観
作者:ダニエル・L・エヴェレット 翻訳:屋代 通子
出版社:みすず書房
発売日:2012-03-23
山本 尚毅
1983年石川県生まれ。北海道大学農学部農業経済学科卒。農業は机上で学ぶ。上京後、システム会社に勤務した後、発展途上国の貧困解決を志すベンチャーを創業。2015年より一転、某学校法人に勤める。好きな本屋は近所にある往来堂(千駄木)。好きなジャンルは、文化人類学や人間の心理や認知に関するものや、答えのない課題を追い求める結論のない本。
◎こちらもおススメ!
・『臓器移植の人類学』生死の境界線は変わっていくか
・居酒屋トークを乗り越えて『世界の経営学者はいま何を考えているのか』
・『兵士は戦場で何を見たのか』
・『直径2センチの激闘』町工場の努力が結晶化されたコマの戦い
・『ハンター・キラー』対テロ戦争の主役ドローン。その運用の内幕を見よ!
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48023
仮想通貨の信認、紙幣超えの予想少ない=山岡・日銀決済機構局長
[東京 4日 ロイター] - 日銀の山岡浩巳・決済機構局長は4日、ロイターのインタビューで、金融と情報の融合技術である「フィンテック」をめぐる現状について語った。ビットコインのような仮想通貨は、日銀など各国中央銀行が発行する紙幣を超えて普及するとの見方は少ないとの見解を示した。
ただ、中銀の信認が揺らいだ場合には仮想通貨が急速に普及しうるとし、中銀による信認維持の努力の重要性を強調した。
フィンテックは、1)指紋認証やスマートフォンによる支払いなどの決済技術、2)ビットコインに代表される仮想通貨──に大きく二分される。
日銀では黒田東彦総裁をはじめ山岡局長ら幹部のフィンテックに対する関心が高く、4月には決済機構局内に専門組織「フィンテックセンター」を設立。日立製作所に出向経験がある日銀有数のIT専門家、岩下直行氏がセンター長に就任している。
山岡局長は「今後、仮想通貨が財やサービスの買い物に広範に使われる場合、マネーが経済活動で使われる割合が低下するので、金融政策の有効性が低下することが考えられる」と指摘する。
だが、現状では「ビットコインなどの仮想通貨が、既存の信認あるソブリン通貨を超えて広がるとの予想は少ない」という。「ビットコインは信認をゼロから作らないといけない」ためだ。
もっとも「万が一にも中央銀行の信認が低下するような場合は話は別。2013年のキプロスの資本規制は、インターネット上で自由に売買できるビットコインには効かなかったと言われている。このことを踏まえても、中央銀行は信認の維持に努めていく必要がある」と強調した。
一方、インターネットで個人間のお金の貸し借りを仲介するサービス「ピア・ツー・ピア(P2P)」や、ネット上で一般から小口資金を募るクラウドファンディングについて「世界的にも非常に大きなボリュームになっているとはいえない。理由としては、先進国の中銀が大規模な金融緩和を行っている中、銀行などの融資が受けられなく困るといった例が、必ずしも多くないことが考えられる」と指摘した。
日本でも「P2Pやクラウドファンディングがボリューム的に大きく拡大し銀行融資を凌駕していくとはすぐには考えにくいが、銀行を通じた信用仲介とは異なり、資金の出し手が自らの好み・選考を反映させる手段としてこれらのチャネルが活用されていく可能性は考えられる」とみる。
(竹本能文、木原麗花、トーマス・ウィルソン)
http://jp.reuters.com/article/boj-bit-coin-idJPKCN1240XB?sp=true
コラム:OPEC増産凍結で円高か円安か
高島修シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
[東京 4日] - 原油価格の回復が進めば、日本の国際収支が悪化し、来年前半のどこかで、今回の円高には歯止めがかかるはずだ。だが、逆に言うと、原油回復による円安効果は、今後しばらくは顕在化してこないとも考えている。
当面のドル円は日米金融政策や、米国株・新興国市場などに象徴されるリスク選好の変化に左右されやすい状況が続くだろう。ドル100円割れとなった場合には下値目途が一気に拡大し、この10―12月期にでも95円を試すことになってもおかしくはないと見ている。
<北海ブレントで来年末65ドルも視野>
9月28日、石油輸出国機構(OPEC)はアルジェリアで臨時総会を開き、生産調整に乗り出すことで合意した。8月に日量3324万バレルだったOPEC諸国の生産を同3250―3300万バレルに削減するという。したがって、1日あたりの削減幅は24―74万バレルと小幅であり、減産合意というより、増産凍結に近いと見るべきだろう。
また、各国の新しい生産目標を含めた詳細は11月末のOPEC総会で決めることになっており、9月の大筋合意を過信するのは危険かもしれない。しかも、ロシアなど非OPEC諸国や米シェール産業の対応も不透明である。
ただ、米シェール革命時代にうまく適応できず、シェア争いを演じてきたサウジアラビアをはじめとした産油国が今回、価格維持のために生産調整に着手したことの持つ意義は軽視すべきではあるまい。後述するように、財政赤字に苦しむサウジ(スンニ派アラブ)は宿敵イラン(シーア派ペルシャ)と手打ちしてでも、事態打開に動かざるを得なくなったのだろう。
原油の需給環境が改善に向かっていることも、合意の1つの伏線になったと考えられる。原油の需給ギャップはここ数年、OPEC諸国を含め産油国が過去最高水準に近い生産を続ける中、日量100万バレルを大きく超えていた。しかし、中国など世界の原油需要の緩やかながらも着実な伸びを受け、同需給ギャップは、来年に向けて50万バレルほどへ圧縮されていくとの見通しを国際エネルギー機関(IEA)は示している。
需給ギャップが大きい状況下では、相当な生産削減を行わない限り、原油価格が顕著に反応する可能性は低く、それを断行するには産油国の負担やリスクが大きい。だが、最近の需給ギャップの改善を受けて、比較的小規模の生産調整でも原油価格が反応することが期待できるようになってきていた。こうした需給調整の進展も、予想外と言える今回のOPECの決断を促したのではなかろうか。
当社のコモディティリサーチは今年後半、原油価格(北海ブレント)は40―50ドルをコアレンジに推移すると予想してきたが、今や50ドルを超える上昇も十分に想定し得る状況になってきたと判断している。また、2017年に関しては年平均で60ドル、第4四半期には65ドルと想定している。
<原油回復の円安効果はいつ顕在化するか>
我々のファンダメンタルズモデルによる分析に基づくと、過去1年ほど続く円高の最大の理由は、過去2年の原油安とそれに伴う日本の国際収支の改善が、経験則通り、1年ほどのタイムラグを置いて表面化したものだ。
ここでは詳しい説明は割愛するが、このモデルの説明変数は、1)米日の名目政策金利差、2)米日10年国債の実質利回り格差、3)日米マネタリーベース倍率、4)日本の国際収支、5)日本の交易条件、の5つである。
このモデルに基づく、ドル円推計値は昨年4月に117円ほどでピークアウトし、足元では106円台まで低下してきた。このように、昨年、ドル円はこの推計値に対して、明らかな過大評価だった。今年に入ってからのドル円下落によって、このモデルの正当性は一段と高まった。
注目すべきは、ドル円が過去1年ほどで125円台から100円前後へ値崩れする中、モデル推計値が117円台から106円台へ低下したことだ。5つの説明変数のうち、政策金利差、実質長期金利差、マネタリーベース倍率は基本的に金融政策を反映するものであり、これまでもドル高円安要因として作用してきたし、今後も同様である。
だが、その一方で国際収支と交易条件の変化から生じるドル安円高圧力が、金融政策要因から生じるドル高円安圧力を上回ってきたために、この間、モデル推計値は10円以上もドル安円高方向へ変化してきたのだ。
日本の国際収支や交易条件が改善しているのは、2014年以降の原油安で輸入が減少し、輸入物価が下がっていることの影響が大きい。要するに、過去1年のドル安円高のうち、円高の部分だけを抜き出せば、単に原油安が理由ということだ。
その原油相場は今年1月を底に回復局面に入り、日本の国際収支の改善も止まったが、通常、日本の国際収支の変化がドル円のトレンドに影響するには1年程度のタイムラグがある。
例えば、昨年6月にドル円が125円の高値をつけ、円高局面に入ったのは2014年春に国際収支の改善が始まってから1年ほど経った時期だった。我々のモデル分析においても、経常収支などを1年先行させて回帰分析している。
来年前半になれば、今年始まった原油相場の回復と、その結果として想定される日本の国際収支の悪化が今回の中長期的な円高トレンドに歯止めをかけ始める公算が大きい。日銀と米連邦準備理事会(FRB)の金融政策ギャップが一段と拡大していれば、ドル円の円高からドル高へのトレンド反転はなおさら、確度を増すだろう。
<気掛かりなサウジ情勢、当面は円高に警戒>
とはいえ、逆に言うならば、そうした原油回復の円安効果が顕在化し始めるまでは当面、足元のドル安円高トレンドの抜本的な修正は期待し難いことになる。
こうした中、原油相場と世界市場のリスク選好の関係で注目したいのが、9月28日のOPECの増産凍結合意にもかかわらず、その中核をなすサウジアラビアのマーケットが値崩れ傾向を脱することができないことだ。
その典型が株式市場の軟調さであり、原油相場が1月に30ドルを下回る水準で底入れした後、50ドル台を回復しようとしているにもかかわらず、サウジのタダウル株価指数は春先の反発を経て、足元では年初来安値を割り込み、欧州ソブリン危機に揺れた2011年以来の安値圏に値崩れしてきた。
国際通貨基金(IMF)の分析によると、サウジの財政収支を均衡化させる原油価格は100ドル前後と見られており、今回の増産凍結合意で原油価格が多少反発しても、サウジの苦境が抜本的に解決されるとは考え難い。
しかも、米議会は9月、2001年の同時多発攻撃犠牲者の遺族らがサウジなど外国政府に損害賠償を求めることを可能にする法案を成立させた。その余波で、財政赤字補てんのためにサウジ政府が今月予定していた100億ドル規模のグローバル債発行が遅延するとの見方も浮上し、市場の不安心理があおられている。
実際にサウジの資金調達が不調に終わった場合、同国は財政赤字の補てんのために、海外市場から過去に投資していた資金を引き揚げる必要に迫られ、そのレパトリエーションが米株や米国債を含め、世界的な市場不安定化を誘発するリスクが高まる。
折しも、市場は11月の米大統領選や12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で予期される金融引き締めに向けて、先行き不透明感を強めていくだろう。そうした中で、突発事故的にドル円が一瞬でも100円を割れるようなことになり、それでも日本政府が円売り介入を見送った場合、機関投資家や輸出企業がヘッジ戦略の修正を余儀なくされ、再び雪だるま式に円買い需要が発生し、ドル円をさらなる安値圏へ押し下げるリスクが高まりかねない。
*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-osamu-takashima-idJPKCN1240AB?sp=true
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