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「将来を楽観しがちな若者」は頼りになるのか?
上野泰也のエコノミック・ソナー
“アニマルスピリット”の減退傾向強まる
2016年10月4日(火)
上野 泰也
現状の生活に肯定的で、大きな夢や欲求を持たない、消極的な若者が増える傾向にある。
今後の生活は「同じようなもの」と予想する人が6割
内閣府大臣官房政府広報室は8月27日、2016年度の「国民生活に関する世論調査」(調査期間:6月23日〜7月10日)を公表した(調査対象を20歳以上から18歳以上に今回から拡充)。筆者が最も興味を抱いたのは、「今後の生活について」の回答分布である。
「お宅の生活は、これから先、どうなっていくと思いますか。この中から1つお答えください」という設問に対して3つの選択肢が用意され、回答の分布は「良くなっていく」(8.7%)、「同じようなもの」(62.9%)、「悪くなっていく」(25.8%)になった。
「リーマンショック」があった2008年に「悪くなっていく」が36.9%に増加して「同じようなもの」が減少するなど、発生したイベントや経済動向に応じた振れはつきまとうが、今世紀に入ってからの状況を大まかに言うと、「同じようなもの」と考える現状維持派が6割前後、「良くなっていく」と考える楽観派が1割弱、「悪くなっていく」と考える悲観派が3割弱である<図1>。
■図1:国民生活に関する世論調査 今後の生活の見通し
注:1974〜1976年は年に2回調査があったうち実施時期が遅い方の結果を表示。1998年と2000年は調査なし。(出所)内閣府
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/093000062/zu1.jpg
現状維持派は常に最大多数だが、1960年代終盤から1970年代には4割台の年が多かった。そして、1973年に第1次オイルショックが発生するまでは楽観派が3割台で、悲観派より多かった。日本経済が高度成長期にあり、まだ「元気」だった頃である。
楽観派は、その後しばらく2割前後で推移したが、平成バブル崩壊・不良債権問題で1990年代は低下を続け、結局、1割弱に落ち着きどころを見出した。
現状の生活に最も肯定的なのは若い層
2016年度の調査で回答分布を年齢別に見ると、楽観派が多いのは「18〜29歳」(22.9%)と「30〜39歳」(21.9%)。これらの層では悲観派の方が少なく、各々8.3%、13.6%である。一方、年齢が高くなるほど楽観派は減少していき、「60〜69歳」で3.1%、「70歳以上」で2.1%である。
最も楽観派が多い「18〜29歳」は、生活の現状に関して、他の層よりも肯定的である。
「あなたは、全体として、現在の生活にどの程度満足していますか」という質問への回答を見ると、「満足している」が20.6%、「まあ満足している」が63.1%で、合計は8割を超えている。全体では70.1%なので、それよりも10%ポイント以上高い。
「あなたは、日頃の生活の中で、どの程度充実感を感じていますか」という質問への回答を見ると、「十分充実感を感じている」が21.3%、「まあ充実感を感じている」が58.3%で、合計は8割弱。全体では71.5%なので、こちらも「18〜29歳」では高くなっている。
18〜29歳(さらにはそれより下の世代)が徐々に社会を担っていく中で、日本人のマインドはある程度楽観論に傾斜していき、前向きな投資行動などが出やすくなるのか。それとも、この年齢層の楽観論は現状への「安住」に立脚しているため“アニマルスピリット(野心、血気)”がむしろ発揮されにくくなるのか。
むろん、これは現時点でクリアな結論が出る話ではないのだが、社内の若手社員を観察していると、どうやら後者の確率が高いではないかと筆者は考えてしまう。そして、彼ら・彼女たちが好きでそういう方向を志向しているわけではなく、日本の社会がそういう方向に動くように仕向けているようにも思う。
このテーマは実は以前、一度取り上げたことがある(当コラム2014年1月27日配信「“さとり世代”よ、アニマルスピリットを抱け! 新入社員の意識に透ける日本の閉塞感」ご参照)。そこで用いた日本生産性本部「新入社員意識調査」は、2015年度秋と2016年度春のデータがその後、新たに出ている。新入社員の意識がどうなったかをここで見ておきたい。
入社後に夢を見失う傾向が強まる
(1)「自分には仕事を通じてかなえたい『夢』がある」という質問に、「そう思う」と回答した新入社員の割合<図2>
■図2:新入社員意識調査 「自分には仕事を通じてかなえたい『夢』がある」 〜 「そう思う」という回答の割合
(出所)日本生産性本部
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/093000062/zu2.jpg
春の調査で「夢がある」と回答した新入社員は常に5割を超えているが、秋の調査になると現実社会の状況に幻滅してしまうのか、必ず減っている。2015年度秋の調査では43.1%に沈んだ。これは1991年度に調査が始まって以降で、最も低い数字である。
新入社員の大半はリスクテイクに慎重
(2)「将来への自分のキャリアプランを考える上では、社内で出世するより、自分で起業して独立したい」という質問に、「そう思う」と回答した新入社員の割合<図3>
■図3:新入社員意識調査 「将来への自分のキャリアプランを考える上では、社内で出世するより、自分で起業して独立したい」〜「そう思う」という回答の割合
(出所)日本生産性本部
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/093000062/zu3.jpg
この質問は2003年度春から実施されている。「そう思う」という回答が多いようだと、ベンチャー企業設立などによる日本経済のサプライサイド活性化への期待が膨らむのだが、現実は正反対。新入社員の多数派はリスクテイクに慎重で、2016年度春の調査では「そう思う」が10.8%しかおらず、「そう思わない」が89.2%だった。
貪欲さはますます失われている
(3)「人より多く賃金を得なくとも、食べていけるだけの収入があれば十分だ」という質問に、「そう思う」と回答した新入社員の割合<図4>
■図4:新入社員意識調査 「人より多く賃金を得なくとも、食べていけるだけの収入があれば十分だ」〜「そう思う」という回答の割合
(出所)日本生産性本部
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/093000062/zu4.jpg
この質問は2006年度春から実施されている。2016年度春の調査では「そう思う」という回答が急増し、39.7%に達した。なんともさびしい結果だと言わざるを得ない。過去のパターンから考えて、2016年度秋の調査では50%前後を占める可能性がある。
上記の調査とは別に、日本生産性本部の「職業のあり方研究会」は毎年、新入社員の特徴・タイプをキャッチフレーズ的に言い表す調査研究を発表している。この研究会は若年者の就労支援や教育の専門家などで構成され、多くの企業や学校等の就職・採用関係者の協力を得ながら新入社員の特徴や就職・採用環境の動向などに関し調査研究を行っている。03年度以降は現代コミュニケーション・センターから新入社員のタイプの命名を引き継ぎ、毎年3月に発表している。
直近4年の新入社員のタイプは次の通りである。思い当たる節がある人もかなり多いのではないか(「 」内は公表資料からの引用)。
「自動ブレーキ型」「ドローン型」…直近4年の新入社員のタイプ
◆2013年度「ロボット掃除機型」
「一見どれも均一的で区別がつきにくいが、部屋の隅々まで効率的に動き回り家事など時間の短縮に役立つ(就職活動期間が2か月短縮されたなかで、効率よく会社訪問をすることが求められた)」
「しかし段差(プレッシャー)に弱く、たまに行方不明になったり、裏返しになってもがき続けたりすることもある。能力を発揮させるには環境整備(職場のフォローや丁寧な育成)が必要」
◆2014年度「自動ブレーキ型」
「知識豊富で敏感。就職活動も手堅く進め、そこそこの内定を得ると、壁にぶつかる前に活動を終了。何事も安全運転の傾向がある。人を傷つけない安心感はあるが、どこか馬力不足との声も。どんな環境でも自在に運転できるようになるには、高感度センサーを活用した開発(指導、育成)が必要」
「上の世代からすればいささか物足りない印象を持つようだ。新入社員についても、失敗を恐れずに『あたってくだけろ』の精神でパワー全開、突っ走って欲しいとの声もある」
◆2015年度「消せるボールペン型」
「見かけはありきたりなボールペンだが、その機能は大きく異なっている。見かけだけで判断して、書き直しができる機能(変化に対応できる柔軟性)を活用しなければもったいない。ただ注意も必要。不用意に熱を入れる(熱血指導する)と、色(個性)が消えてしまったり、使い勝手の良さから酷使しすぎると、インクが切れてしまう(離職してしまう)」
◆2016年度「ドローン型」
「強い風(就職活動日程や経済状況などのめまぐるしい変化)にあおられたが、なんとか自律飛行を保ち、目標地点に着地(希望の内定を確保)できた者が多かった。さらなる技術革新(スキルアップ)によって、様々な場面での貢献が期待できる。内外ともに社会の転換期にあるため、世界を広く俯瞰できるようになってほしい。なお夜間飛行(深夜残業)や目視外飛行は規制されており、ルールを守った運用や使用者の技量(ワークライフバランスへの配慮や適性の見極め)も必要」
「使用者(上司や先輩)の操縦ミスや使用法の誤りによって、機体を傷つけてしまったり、紛失(早期離職)の恐れもある。また、多くのものは充電式なので、長時間の酷使には耐えない」
「ぬるま湯」的環境が、意欲をさらに弱めている?
こうした近年の新入社員の特徴からは、基本的に安全・安定志向で、自分から積極的にリスクをとりたがらない姿が浮かび上がる。また、若年層の絶対数が不足しているので、仕事の指導で「昔流」に厳しく鍛えた結果、早期に退職されてしまうと、上司の責任問題にもなりかねない。このため、言い方は悪いが「ぬるま湯」的な職場の指導環境になってしまい、新入社員の上昇志向・リスクテイク意欲を結果的に弱めている面があると言えはしまいか。
付け加えると、最近の若者は異性に対しても消極的である(むろん、男女差や個人差はあるが…)。これでは政府がいくら旗を振っても、出生率はなかなか上がらない。筆者が先日参加した高校のクラス会では、息子・娘に結婚願望があまりないことを嘆く声が複数聞かれていた。
交際相手がいない男女の割合が過去最高に
国立社会保障・人口問題研究所が9月15日に発表した調査結果(2015年6月実施)によると、18〜34歳の独身者のうち、交際相手がいない男性は69.8%、女性は59.1%で、いずれも1987年調査開始以来の過去最高を更新した。結婚の意志がある人は男女とも8割を超えているが、「希望と現実のギャップで結婚を先送りするうちに、交際自体に消極的になっている傾向がみられる」という。
仕事でも男女交際でも、若い人にはもっとリスクをとってほしいものだと、筆者などは考えてしまう。人生は一度しかないのだし、そうしてくれた方が日本経済全体にとってもポジティブである可能性が高いのだから。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/093000062
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