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日本銀行(撮影=編集部)
日銀、異次元緩和の失敗を認める…景気低迷を糊塗、産業活力低下と構造改革の遅れ
http://biz-journal.jp/2016/10/post_16786.html
2016.10.01 文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授 Business Journal
9月20日、21日に開催された金融政策決定会合で日本銀行は、これまでの異次元の金融緩和からの方針転換を示した。新しい金融政策の枠組みとして日銀は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。
今回の政策変更によって日銀は、マネタリーベース(現金の供給量:日本銀行券発行高、貨幣流通高、日銀当座預金の合計額)の残高は、「長短金利の操作(イールドカーブ・コントロール)」のもとで短期的には変動する可能性があるとの認識を示した。その上で、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」を採用した。
日銀が政策目標としてきたお金の供給量は、短期と長期の金利のコントロールに影響される。そして、2年で2%の物価安定の目標を達成するといった、限られた期間で物価上昇を目指す考えも外された。日銀は量から金利へ、政策を転換した。
こうした金融政策の方針転換の背景には、2つのポイントがある。ひとつは、お金の量を増やせば物価は上昇するという理論の限界を日銀は認めた点だ。もうひとつは、マイナス金利には悪影響があることだ。日銀はこの2つの点を認め、柔軟かつ持続的な金融政策を、市場とのコミュニケーションを重視しながら進めようとしている。
日銀の方針転換は、日本の経済政策=アベノミクスにも大きく影響する。アベノミクスは金融政策を重視してデフレ脱却、経済再生を目指してきた。日銀がこれまでの方針を変えた今、経済政策は問題の根幹を再認識し、原点に立ち返らなければならない。
需要の低迷は潜在成長率の低迷につながる。これを解決するのが成長戦略の役割だ。この点を政府がどう受け止め、具体的な対策を打ち出すかが当面の注目ポイントだろう。
■異次元の金融緩和の限界を認めた日銀
今回、日銀がマイナス金利付き量的・質的金融緩和を改め、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入した背景は、「総括的な検証」の中に記されている。その要点をまとめると量的・質的金融緩和、およびマイナス金利付き量的・質的金融緩和は、金利低下等の相応の効果をもたらしたものの、限界や悪影響もあることが示された。
まず、限界とは、お金を増やせば物価は上がるというリフレ理論の限界だ。
2013年4月の量的・質的金融緩和以降、日銀は物価上昇が進まないのは、経済全体に出回るお金の量が少ないからだと考え、国債の買い入れを増やすことで積極的にお金を経済に供給してきた。日銀は、お金の供給量を増やせば人々は消費を増やし、物価は上昇してデフレ脱却は可能と考えた。それでも、物価は上昇していない。これに対して日銀は物価上昇が抑制されているのは海外要因などに原因があると主張してきた。
しかし、今回の総括的な検証の中で日銀は、お金を増やしても物価が上昇しないことを認めた。日銀は、わたしたちの物価上昇に対する期待が上昇しづらくなっているために、2%の物価安定の目標が達成されていないと示した。この要因として、原油価格の下落や新興国経済の減速などの外的要因に加え、長引く景気低迷の影響から将来の物価上昇期待が上がりづらいことが指摘された。物価低迷は、お金の量ではなく、産業の活力低下に影響された側面が大きいのである。
つまり日銀は、お金の供給量を増やしても人々の物価に対する期待はコントロールできず、不確実性があることを認めた。記者会見の場で黒田東彦総裁も、17年度中に物価目標を達成するには不確実性が高いと述べている。
こうして金融決定会合は「お金を増やせば物価は上がる」と主張してきたリフレ派のメンバーを説得することに成功し、より長期的な視野で柔軟な金融政策を進める方向にかじを切った。
■鮮明化するマイナス金利の悪影響
次のポイントが、急速な金利低下が経済にもたらす悪影響だ。総括的な検証の中で日銀は、マイナス金利政策は国債の買い入れとの組み合わせによって短期から長期までの金利を大きく押し下げたと評価している。問題は、金利押し下げの効果が日銀の想定を上回ってしまったことだろう。
当たり前だが、金利が低下すると、利息収入は減る。銀行にとってみれば、貸し出しを増やしても、十分な利ザヤを稼ぐことが難しくなる。その結果、預金の利率も引き下げなければならなくなる。これが金利低下の悪影響だ。14年6月からマイナス金利政策が導入されてきたユーロ圏の銀行は、収益低下を受けて経営への不安が取り沙汰されている。
1月のマイナス金利政策の導入以降、一時は40年国債の利回りが0.1%を下回るなど、金利は急速に低下した。その結果、銀行業界、金融庁からもマイナス金利が金融機関の収益を悪化させ、経営体力を奪うとの懸念や批判がなされてきた。つまり、過度な金利の引き下げは金融機関の経営悪化を通して経済に悪影響を与えるのだ。
総括的な検証において、日銀は「イールドカーブの過度な低下、フラット化は、広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」とマイナス金利政策の悪影響を認めた。なお、イールドカーブとは短期から長期、超長期の金利をつないだ曲線のことだ。
そこで日銀は金融機関からの批判など市場の声に耳を傾け、過度な金利低下の弊害を取り除くために長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入を決定した。日銀の政策の軸は金利の操作であり、短期と長期の一定の金利差を保つためには国債買い入れ(お金の供給量)が当初のペースを下回ることもある。こうして、日銀は量から金利へ金融政策の目標を修正し、市場とのコミュニケーションを行いながら金融政策の持続性を高めることを重視した。
■今後の経済再生は成長戦略次第
日銀が短期決戦型の金融政策を改めた今、アベノミクスは大きな転換点にある。これまで、アベノミクスは景気回復を金融政策で達成しようとした。具体的には、金融緩和で円安の流れを強めて企業業績をかさ上げし、株高・賃上げ期待を醸成することに力を入れた。
本来、円安の背景には米国がドル高に耐えられるだけの景気回復を遂げ、それが世界経済を支えてきたことがある。しかし、米国はドル高への抵抗力を失い、政府も本音では緩やかなドル安を志向しているようだ。つまり、円安はわが国の事情だけで決まるものではない。
それでも、アベノミクスは金融政策を重視した。その状況を「アベノミクスは金融政策一本足打法だ」と揶揄するエコノミストもいる。今回の日銀の方針転換は、金融政策一本足打法のアベノミクスの修正が必要であることを示唆している。
政府は、成長戦略の本義に立ち返る必要がある。つまり、労働市場などの改革を進めて企業の経営を支え、より効率的に付加価値を生み出す経済の仕組みを整備するべきだ。これは、生産性が低下した旧来の組織などを刷新し、新しい技術や製品を生み出す“イノベーション=創造的破壊”を経済全体で進めることにほかならない。それは金融政策ではなく、政府の産業政策の担当分野だ。アベノミクスは構造改革の原点=成長戦略の意義に立ち返り、痛みを伴う改革の重要性を国全体に伝え、進めていくしかない。
金融政策で経済を再生することには限界がある。金融の緩和は一時的な資産価格の上昇、期待の維持にはなるが、それは需要低迷を糊塗しているにすぎない。このことは黒田総裁も認識しているはずだ。それでも総裁が量・質・金利の3次元の追加緩和の可能性を示しているのは、イノベーションが進み経済再生が動き始めたとき、それを金融政策で後押ししたいからだろう。
日本経済の成長は、業界再編や労働市場における規制緩和等の構造改革の動向にかかっている。そのイニシアティブは中央銀行ではなく政府が握っている。デフレ脱却、経済再生のボールが政府の手にあることは、今一度、しっかりと認識する必要があるだろう。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)
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