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いまが重要な岐路!インフレ目標達成には「財政緩和」が必要だ 日銀の「新目標」を読み解く
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49833
2016.9.30 山崎 元 経済評論家 現代ビジネス
■日銀の新目標の意味
9月21日の政策決定会合で、日本銀行は国債の買い入れ目標額の操作などを中心とする量的緩和政策から、短期の「政策金利目標」(現在、-0.1%)に加えて、10年国債利回りを対象とする「長期金利操作目標」を設け、これを「概ねゼロ%」とする「イールドカーブ・コントロール」を導入することを決定した。
また、量的緩和をインフレ率が2%を安定的に超えるまで続けるという、「オーバーシュート型のコミットメント」を追加した。
これは、大きな方針変更だが、今回の方針変更を巡っては、多くの評価が出回っている。中には、日銀が量的緩和の失敗や限界を認めたとする(いささか、そそっかしい)評価もあれば、長期金利の操作が上手く機能するのかをいぶかしむもの、量的緩和の後退ではないかとするもの、ヘリコプターマネー政策の準備だとするものなど、実に様々だ。
筆者は、今回の日銀の政策変更を「インフレ目標達成のためのポジティブな手段の追加だが、財政政策の協力の必要性がより明確になった。デフレ脱却のためのバトンは財政政策に渡された」と考える。
最近は低下傾向にあるがインフレ率が依然プラスゾーンにあること、失業率が低下して賃金が上昇する環境に近づきつつあることなどから見て、日銀の量的緩和を中心とするアベノミクスは一定の成果を上げていると見ることが適切であり、これを「失敗」と見なそうとするのは、無理筋だ。
しかし、日銀も21日に発表した「総括的検証」で語る通り、「2%」のインフレ目標は未だ達成されていないから、「道半ば」であることも同時に間違いない。
現状は、重要な岐路である。
■長期金利をゼロに誘導する効果
長期金利とは具体的には10年物国債の流通利回りであり、普通はマーケットで形成される「相場物」である。
もちろん、現在も国債利回りはマーケットで形成されるが、ここに巨大なプレーヤーとして日銀が現れて、この相場を概ねゼロに固定してしまおうということが、今回発表されたイールドカーブ・コントロールの意味だ。
効果は複数あるだろう。
まず、これが「出来る」として、長期金利の下がりすぎによる、金融機関の収益悪化及び貸出意欲の減退を抑える効果を持つだろう。「総括的検証」を見ると、日銀が金融機関の収益悪化を気にしている(あるいは「収益悪化に気を遣っている」)ことが分かる。
ただし、長期金利が下げ止まることに関しては、金融緩和の効果の点で、プラス・マイナス両方の効果があろう。
プラス効果は、貸出金利の下げ止まりが、広義のマネー拡大に必要な銀行貸出の伸びを後押しする効果だ。
今回、日銀は、この効果に期待したのではないか。これまで、マネタリーベースを拡大させても、銀行貸出がさして伸びずに日銀の当座預金ばかりが積み上がる現象が起こって、金融緩和の効果が十分に発揮されなかった。金融政策は銀行のためにある訳ではないが、銀行貸出が伸びるような条件を整備することは悪くない。
ただし、長期金利が高止まりすることは、社債の利回りの高止まりなどにもつながるので、金融緩和の投資、ひいては需要刺激効果を減殺する意味合いがある。こちらの効果が大きくなってしまうと、「金融緩和が後退した」という悲観ないし批判に一定の説得力が出てくるだろう。
もう一つの影響は、今後の「マイナス金利深掘り」に制約が出てくることではなかろうか。もともと、長期金利は、予想される将来の短期金利に大きな影響を受ける。長期金利を固定したまま、政策金利のマイナス幅を拡大しようとすると「無理」が起きかねない。
理屈上、長期金利の誘導目標を下げることが出来るが、金融機関の収益悪化、年金・保険などへの悪影響を日銀自身が認めた後だけに、やり辛いのではないか。
将来の円高に対する対抗カードとして、政策金利の「マイナス金利深掘り」には「まだまだ大きな余地がある」という態度を日銀は崩しにくいだろうが、長期金利の低下に歯止めをかけるために日銀が長期国債を売ることには抵抗があるだろうから(理屈上可能だが、ショックが大きいかも知れない)、日銀としては、マイナス金利の深掘りを、出来ればあまり使いたくないカードと思っているのではないか。
■「ヘリコプターマネーに似ている」
FRB(米連邦準備制度理事会)前議長のバーナンキ氏は、今回の日銀の政策を「ヘリコプターマネー政策に似ている」と評した。
「物価上昇率が安定的に2%を上回るまで」という条件が達成されるまでは、日銀が政府の長期借り入れコストをゼロに維持する訳だから、確かに財政ファイナンスの要素がある。
そう考えると、今回の政策の意味が分かる。
国債相場において価格(この場合長期金利)をゼロに固定するということは、今後は、政府が発行する国債の量に応じて、量的な金融緩和の規模が決まるということだ。「財政緩和」の規模が「金融緩和」のスケールと効果を決める。
つまり、財政が拡大的にならない限り、金融緩和の効果が制約されるということだ。
そもそも、物価が期待したほど上がらないのは、需要が乏しいからであり、財政が有効需要を追加して物価を上げようとすることは、インフレ目標の達成に対して直接的に有効であるのと共に、需要の増加に応じた民間投資需要の増加にもつながるので、銀行貸出拡大を通じた広義のマネーサプライの拡大にも効果があるはずだ。
財政赤字の拡大を中央銀行がファイナンスする政策の「一般論としての弊害」は、インフレの昂進であるが、現状は「インフレが足りない」ことが問題なのだから、現状ではむしろ大いにやるべきだろう。
もちろん、インフレが過剰になれば、財政も金融も緊縮的・引き締め的に転換すればいい。これも、インフレ目標の重要な機能だ。
目下の経済政策の最大のリスク要因は、財政が十分緩和的にならないことだろう。かつて、民主党政権時代に消費増税を決めた張本人である野田佳彦前首相が民進党の幹事長に就任するなど、財政が緊縮に向かいかねない「嫌な予感」がする悪要因があるので、大いに気をつけたい。
ついでに言うなら、今回の政策が、必然的にヘリコプターマネーの様相を帯びるなら、「マネー」をばらまくヘリコプターは、世間に広範且つ公平にマネーを撒布する必要がある。
当面、消費の停滞が需要不足の主な問題でもあり、ばらまき先が偏る「インフラの強化」などではなく、消費者に広くお金が渡る減税ないし給付金が良い。
即効性と公平性の観点から、消費税率の引き下げを一番に推奨しておこう。
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