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働き方改革と、給与実態統計
http://blog.livedoor.jp/analyst_zaiya777/archives/52856000.html
2016年09月28日 在野のアナリスト
安倍首相が「安倍ノミクス第3の矢、構造改革の柱」とする働き方改革。しかし「改革」は必ずしも良い方向になることを約束しません。改革とは古い体制を変えることで、改善を意味しないからです。むしろ改悪もありうる。そして大企業優遇型の安倍政権では、労働者が後者になることもあり得るのです。
それは同一労働同一賃金、非正規をなくす、もしこれが現実に達成されたとき、正規雇用並みの待遇に労働者全員がなる、というなら企業には大幅なコストアップが迫られます。すると収益を圧迫するので、株価は下落します。しかし今の市場で、そんなことは全く意識されていない。つまりこの『働き方改革会議』とやらで決まることは、企業にとって優しく、労働者にとって厳しいものとなる、というのがコンセンサスだからです。市場が間違えている可能性もありますが、恐らくこの予想は市場が正しいのでしょう。
そんな中、国税庁から給与実態統計がでてきました。まず注目すべきは給与所得者数と、源泉徴収義務者数です。雇用が増えた、が安倍氏の主張ですが、給与所得者数をみると25年は2.1%、26年は1.0%、27年は1.0%と伸びています。ただし、リーマンショックの翌年の21年は1.6%減ですが、それ以前でも0.7%の伸びで推移しているので、殊更に安倍政権で高くなったわけでもありません。しかも東日本大震災のあった後、24年にも0.1%減と、大きな悪材料で減った分がこの3年で乗った、と考えると、殊更に高い伸びではないのです。また源泉徴収義務者が26年、27年と増えていますが、これと世帯主の収入源などの実態と重ねれば、妻が扶養控除を外れて働く割合が増えたのかもしれず、雇用が改善していない可能性も残されています。一つ云えるのは、安倍氏が誇るほどではない、ということです。
次に、給与総額における税額の割合です。リーマンショック以後、民主党政権の頃は概ね4%前後で推移していたものが、安倍政権になってから25年4.35%、26年4.38%、27年4.39%と軒並み4.40%近くで推移。実に0.40%も税負担が増えている。所得税は前年実績に基づきかかるので、給与が増えているのか? というと伸びはそれほどでもない。確かに東日本大震災後、大きく落ちこんだ後には反動増もめだちますが、26年は1.4%、27年は0.8%、それに比べて税額の伸びは2.1%増、1.0%増なので、給与を上回って納税が増えています。安倍氏はプライマリーバランスが14兆円改善した、といいますが、消費税増税分と所得税のとり過ぎ、これで消費が回復したら奇跡でしょう。税額割合は5%に近いときもあったので、『とり過ぎ』は言いすぎかもしれませんが、民主党政権時代より内需が振るわない原因は明白です。エコ補助金などの購入助成金もなくなり、納税額が増えているのですから。
1年を通して勤務した給与所得者数をみると、25年は正規が1.5%増、非正規が5.3%増、26年は1.6%増、4.9%増、27年は1.2%増、3.0%増。非正規の伸びが圧倒的に高い。しかも、非正規だと半年、3ヶ月など雇用形態もまちまちなので、この数字よりかなり多いと推測できます。これが安倍政権の雇用増のからくり。しかもその伸びは鈍化している。東日本大震災からの復興で、乗っかっていた事業再開のボーナスが剥落しかかっているのです。
大体、この統計の数字で注目されるのは民間企業の平均給与ですが、420.4万円と、1.3%の伸びです。そのうち正規は1.5%の伸び、非正規は0.3%の伸び、とここにも格差がありますが、平均給与は正規が484.9万円、非正規が170.5万円。同一労働かどうか、勤務時間は同じか、など詳細が分からないので、単純比較はできませんが、実に3倍近い開きがある。これを福利厚生まで含めて同一の条件にしようとしたとき、無理があるのは誰の目にも明らかです。
しかも、この平均給与の問題は、役職員も含んでいることです。役職員の手当てにはストックオプションなど、株式を宛がわれるケースも多い。つまりここ数年の株価の推移をみても、役職員の手当ては見かけ上、かなり上昇していたことになり、それを含んでの1.3%増であるなら、役職員を除く一般社員の給与は横ばいか、むしろ下がった可能性が高いのです。安倍政権は「有効求人倍率が改善した」という言い方をして、あたかも雇用が改善したかのように言いますが、国税庁という厳しく税をとりたてるところがだした指標からは、決して雇用が安倍ノミクスで増えた、今後も増えて行く、という傾向はうかがえません。そして働き方を改革した先に、どんな日本の姿が待っているのか? 構造改革の柱どころか、構造改革なのかしら? という懐疑的な見方が強まるなら、安倍ノミクス退散の矢となって、安倍政権に突き刺さることにもなるのでしょうね。
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