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「130万円の壁」放置が若者を下流老人予備軍にする
http://diamond.jp/articles/-/102574
2016年9月23日 早川幸子 [フリーライター] ダイヤモンド・オンライン
前回は、10月から短時間労働者への社会保険の適用が拡大され、「パート主婦の130万円の壁」が見直されることをお伝えした。
短時間労働者の社会保険の適用要件が、130万円以上になったのは1993年4月。その後、経済環境も、労働環境も大きく変わり、いまや全労働者の3分の1がパートや派遣社員などの非正規雇用という状態になっている。
そのため、年収要件を引き下げ、社会保険に加入できる短時間労働者を増やそうという動きは、これまで何度もあった。ところが、この問題は長く放置され続け、今回、実に23年6ヵ月ぶりの見直しとなった。
なぜ、短時間労働者の社会保険の適用拡大は、長年、見送られてきたのか。今回は、社会保険の適用の壁の歴史を振り返りながら、あるべき社会保障の姿を考えてみたい。
■短時間労働者の適用基準
23年6ヵ月ぶりの見直し
日本では、誰もがなんらかの健康保険に加入することが義務付けられており、おもに、会社員は勤務先の健康保険、公務員は共済組合、自営業は国民健康保険など、職業に応じて加入先が決まっている。
会社員と公務員の制度には、その配偶者や子ども、親などが、保険料の負担なしで医療給付を受けられる「被扶養者」という制度が設けられている。
健康保険法で決められた被扶養者の要件は、「健康保険の加入者の収入で生活している三親等以内の親族かどうか」「同居しているかどうか」の2点。年収要件などは、とくに明記されていない。
そのため、1970年代半ばまでは、パートなどで働く妻が、夫の健康保険の被扶養者になれるかどうかは、それぞれの健保組合で独自に判断していたようだ。しかし、パート労働者が増え、国の基準が作られるようになった。
1977年、「収入がある者についての被扶養者認定について」という厚生省(当時)の通達(昭和52年4月6日)が出され、被扶養者の年収は70万円未満、加入者の年収の2分の1未満と決められた(ただし、2分の1以上でも、世帯収入を総合的に判断して決められることもある)。
70万円の根拠は、所得税の控除額に連動するもので、当時の妻本人の給与所得者控除(50万円)と夫の配偶者控除(20万円)の合計だ。その後、税制の変更とともに、被扶養者の年収要件は、1981年4月に80万円、1984年4月に90万円と引き上げられた。
年収要件の決め方が変わったのが1987年。パートで働く主婦が増えるなかで、妻を扶養から外さないようにするために、所得税との連動を中止。パート収入の伸びに応じて改定されることになった。
その結果、1987年5月に100万円、1989年5月に110万円、1992年1月に120万円と、年収要件はどんどん引き上げられた。そして、1993年4月に130万円になり、そのまま据え置かれて、23年6ヵ月もの年月がたったのだ。
厚生労働省の資料によれば、1987年以降の被扶養者の年収基準は、「実収入伸率」「可処分所得伸率」などから導きだしたと記されている。
だが、1994年以降、勤労者世帯の実収入は前年に比べてマイナスになる年が増えている(総務省「家計調査」)。被扶養者の年収要件を所得に連動させるなら、94年以降は引き下げられてもおかしくないのに、20年以上もの間、据え置かれたままになってきたのはなぜなのか。
■当初予定よりも縮小した
社会保険の適用範囲
短時間労働者への社会保険の適用は、長年の懸案事項で、2004年、2007年にも俎上にのぼった。しかし、保険料の事業主負担をしたくない経済界側からの猛反発によって、その都度、潰されてきた。
2012年の「社会保障・税の一体改革」で、ようやく短時間労働者への適用拡大は合意に至ったが、土壇場で年収要件がひっくり返される事態が発生。当初の予定では、新たな適用要件の所得基準は、月額7万8000円以上(年収94万円以上)で決まりかけていたが、最終的には月額8万8000円以上(年収106万円以上)で政治決着したのだ。
この10月から社会保険を適用される短時間労働者は、これまで同様に、「1週間の労働時間と1ヵ月の労働日数が、正社員の4分の3以上ある」という条件は変わらない。ただし、これより労働時間が短くても、次の1〜5の要件をすべて満たすと、新たに健康保険と厚生年金保険の加入が義務付けられた。
◆社会保険適用拡大の5要件
1.1週の所定労働時間が20時間以上
2.雇用期間が継続して1年以上見込まれる
3.月額賃金が8万8000円以上(年収106万円以上)
4.学生でない
5.従業員数501人以上の企業に勤めている
従業員が500人以下の企業は、これまで通り「130万円の壁」は維持され、社会保険の適用を受けることはない。また、当初予定より年収要件が引き上げられたことで、45万人と見込まれていた対象者は25万人にという小規模なものになってしまったのだ。
前回も紹介したように、自分で保険料を負担して健康保険や厚生年金保険に加入すれば、病気やケガをして会社を休んでも所得補償が受けられ、将来の年金額を増やすことができる。保険料を払った分だけ、恩恵も増えて、暮らしの安心を手に入れることはできるのだ。
それなのに、国民は目先の手取りにばかり目を向けて、「パート主婦は130万円の壁を越えないのがおトク」と思い込み、経済界の論理に追随してきてしまったのだ。
■全労働者の3分の1が
非正規雇用という現実
たしかに、企業にとっては、社会保険料の事業主負担をしないで、安く使える労働力がたくさんあるほうが都合はいい。
夫が会社員や公務員なら、妻は保険料の負担なしで健康保険に入れるので、目先ではパート収入の壁は高いほうがおトクかもしれない。
だが、短時間労働者は、養ってくれる夫がいる主婦だけではない。労働構造が大きく変わり、全労働者の3分の1が非正規雇用となっており、一家の大黒柱がパートやアルバイトで生計を立てている家庭もある。
こうした人は、本当は社会保険に入りたいのに、被扶養者の年収要件や労働時間の縛りによって入れない人たちだ。
企業の健保組合に入れない場合は、自分で保険料を支払って国民健康保険や国民年金に加入することになる。
本来、国民健康保険は、農林水産業や自営業などを営む人の健康をカバーするために作られたものだ。実際、1961年の加入者の割合は、農林水産業者が44.7%、自営業者が24.2%となっていた。
ところが、2013年は、農林水産業者は2.6%、自営業者は14.3%と大幅に減っている。代わりに増えているのが企業で働く非正規雇用の労働者で、1961年の13.9%から、2013年には35.0%まで増えている(「国民健康保険の安定を求めて 医療保険制度の改革」国民健康保険中央会 平成27年11月)。
おもに個人事業主のために作られたはずの国民健康保険が、会社の健康保険に入りたくても入れない非正規雇用の人の受け皿となっている。本来は、会社の健康保険に加入すべき労働者が国民健康保険に流れているため、ただでさえ苦しい保険財政が、さらに厳しい状況に追い込まれる一因になっている。
私たちは、この構造の変化を深刻に受け止め、早急に手立てを打つ方向に社会を変えていく必要があるのではないだろうか。
■社会保険の適用拡大の遅れは
「下流老人」を大量発生させる
とくに、若い世代が、このままの構造のなかで労働を強いられ続けると、「下流老人」予備軍になるのは確実だ。
国民健康保険は、会社の健康保険に比べると、保険料が高いのが一般的だ。家計が苦しいと保険料を滞納しがちになり、万一、病気になったときに十分な保障が受けられない可能性も出てくる。
また、非正規雇用の短時間労働者は、厚生年金にも加入できないので、将来もらえるのは国民年金だけ。40年間掛け続けたとしても、給付額は月額6万5000程度なので、これだけで生活していくのは厳しいものがある。
2012〜2013年にかけて行われた国の「社会保障制度改革国民会議」のメンバーで、一貫して「社会保障の機能強化」を訴えていた権丈善一教授(慶応大学商学部)の著書『ちょっと気になる社会保障』(勁草書房)には、こんな一説がある。
《いま、公的年金に必要な改革の話をしますと、それは、公的年金の「防貧機能」の強化――それはなによりも、将来の給付水準の底上げです。》
そして、社会保険の事業主負担を避けるために適用拡大に反対してきた経済界に批判的に論じたうえで、国民にこう訴えかけている。
《2012年に適用拡大がなされたことになってはいますが、事業主たちにより適用拡大の規模は極めて僅かに狭められました。今の若い人たちが、厚生年金が適用されない非正規の労働者として生きていき、退職後、将来の大勢の高齢者が貧困に陥ることを防ぐために、なんとしても今のうちに解決しなければなりません。ここは是非ともみなさんの理解――特に、どのような人たちがどのような理由で反対しているのかの理解――と民主主義という政治過程におけるみなさんの協力がほしいところです》
この10月から、一応は、短時間労働者の社会保険の適用が拡大される。だが、まだまだ十分とは言えない状態。このまま放置されると、老後に貧困に陥る人々が今以上に増える可能性がある。
国は、従業員500人以下の企業にも、徐々に適用拡大していく考えだが、それには国民の後押しが必要だ。
週20〜30時間で働く短時間労働者は、約400人いるといわれており、夫に養われるパート主婦だけの問題ではなくなっている。
「下流老人」を増やさないためには、社会保険の適用拡大は待ったなしのところにきている。
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