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安倍首相の誕生日でもあった21日の日経平均は前日比315円高。だが筆者は「日銀の政策は間違っている」と主張する(撮影:尾形文繁) 東洋経済
日銀の「総括検証」は何の意味も持たない なぜ黒田総裁はいつまでも間違い続けるのか
http://toyokeizai.net/articles/-/137026
2016年09月21日 中原 圭介 :経営コンサルタント、経済アナリスト
みなさんもご存じのとおり、今の日銀の金融政策は「デフレを脱却する」という目標を掲げて行われています。学問的にも遅れている経済学の世界では、「デフレ=不況」が未だに常識として捉えられているからです。
■デフレ脱却もインフレ目標も必要ない
ところが私は、そもそも「デフレを脱却する必要はないし、インフレを目指す必要もない」と考えています。なぜなら、インフレであるかデフレであるかは、歴史的に見て経済の好不況とはまったく関係がないからです。私がそういった考え方をできるのは、大学生のときに経済学ではなく歴史学を学んできた結果だろうと思います。
世界経済の歴史を検証すると、デフレ期では好況になっていることのほうが圧倒的に多く、デフレと不況に関係性が認められないという事実が明らかになっています。恐慌論で有名なベン・バーナンキ(前FRB議長)は、世界大恐慌の時期だけを研究して「デフレ=不況」と結論付けましたが、むしろ世界大恐慌の時期だけが例外であり、歴史的な見地から判断すると、稚拙な結論としか言わざるをえなかったのです。
なぜ偉大な経済学者たちは、歴史をありのままに俯瞰することができないのでしょうか。たとえば近年の事例では、2014〜2015年にドイツを大幅に凌ぐ経済成長を達成した英国では、その当時はデフレの状態にあったのです。原油安により実質賃金が上昇し、消費が拡大していたというわけです。景気が良いとされるドイツにしても、スウェーデンやスイスにしても、低インフレが定着している国々です。
歴史的な検証については私だけでなく、ミネアポリス連邦準備銀行に在籍していたアンドリュー・アトキンソンとパトリック・J・キホーの2人のエコノミストが、2004年1月に発表した論文「デフレと不況は実証的に関連するのか?」のなかでも明らかにしています。『デフレになると本当に不況が来るのか』(2015年4月8日の記事)でその論文の内容をご覧いただければ、「デフレの結果、不況になる」という経済学の常識は、単なる思い込みにすぎないことが判明してしまうのです。要するに、デフレは好不況の「原因」ではなく、「結果」にすぎないというわけです。
日銀の大規模緩和策の根底には、物価は上昇するのが好ましく、下落するのは好ましくないという、これまで宗教のように信じられてきた経済学の常識があります。ですから、大規模緩和策を支持する経済学者やエコノミストのすべてが、円安が好ましいと考えていますし、円安による輸入物価の上昇が全体の物価上昇につながれば、デフレ脱却に成功するだろうといっているのです。
■消費増税も円安も使えるおカネが減ることでは同じ
たとえば、価格に敏感な主婦層がいつも買っている食材や日用品などが、円安によって値上がりしたとします。値上がりの理由が、消費税の増税のせいなら好ましくないが、円安のせいなら好ましいというのは、本当に正しい考え方でしょうか。消費者の立場からすれば、そんな道理が通じるはずがありません。物価の上昇により、懐が寒くなったと実感した消費者は、なるべく消費を抑えるようにするのが自然な行動パターンなのではないでしょうか。
円安による輸入インフレが進むにつれて、家計の可処分所得が減っていくのは避けられない運命です。その結果、2013〜2015年の間に円安があまりに進んでしまったために、実質賃金が3年間累計で4.6ポイントも下がってしまいました。すなわち、この間の実質賃金の下落率は、リーマンショック前後の期間に匹敵していたのです。これでは、GDPの6割を占める個人消費が歴史的な低迷に陥ってしまうのは当然のことでしょう。
1990年代に日本のバブルが崩壊して以降、個人消費がマイナスになったのは、金融システム危機で貸し渋りや貸し剥がしが起きた1998年、リーマンショック期の2008〜2009年、そして実質賃金が大幅に下落した2014〜2015年の合計5年間です。
ここで深刻に受け止めなければならないのは、個人消費が2年連続でマイナスになったのは、2008〜2009年と2014〜2015年の2回しかないということ、さらには個人消費が2008年に0.9%減、2009年に0.7%減だったのに対して、2014年は0.9%減、2015年は1.3%減と、戦後最悪の減少率を更新してしまったということです。
実際のところ、GDPの推移を見てみても、リーマンショック期を除けば、2013〜2015年の成長率は年平均で0.6%と、歴史的に低迷していたことがわかります。
このような現状を見れば、大手メディアの世論調査で押しなべて「8割が景気回復を実感していない」という結果が出るのは、当然のことだといえるでしょう。それにもかかわらず、日銀や政府が「景気の回復は続いている」という見解を示し続けるのは、あまりにも事実を歪めているといわざるをえません。
■黒田総裁はインフレやデフレの捉え方を間違っている
ただし、2016年は一転して円高に傾いているので、実質賃金は間違いなく上がることになりますし(『円安に頼る経済政策を終わりにする時が来た』(2016年6月25日の記事)参照)、それに伴い個人消費も幾分ながら増加に転じることが期待できます。
そこで懸念すべきは、日銀や政府が「大規模緩和策の成果で、実質賃金が上がり始めた」と支離滅裂なことを言い始めることです。黒田総裁はまったく当たらないIMFの経済予測を信じて金融政策を決定しているのかもしれませんが、国民は日銀の見解を決して信じてはいけないのです(『なぜ国際機関の経済予測は当たらないのか』(2016年9月16日の記事)参照)。
黒田総裁はインフレやデフレの捉え方を完全に間違っています。インフレやデフレは経済現象の「結果」にすぎず、決して「原因」にはなりえないのです。好況の「結果」としてインフレやデフレになることがあれば、不況の「結果」としてインフレやデフレになることもあるのです。
日銀の金融政策の「デフレを脱却する」という目標そのものが、最初から「原因」と「結果」を取り違えて金融政策を決定しているので、その点を正さない限りは、今回の「総括検証」は何の意味も持っていないといえるでしょう。
科学の世界では、「原因」と「結果」がひっくり返ることは絶対にありえません。経済学の世界で「インフレになれば、経済がよくなる」と主張する学者たちは、私から見れば、物理学の世界で「力が作用したから、モノが動く」という状況を「モノが動くから、力が作用する」といっているのと同じようなものなのです。ですから、科学の世界の学者たちからは、経済学は学問の体をなしていないという意見がよく聞かれるというわけです。
キリスト教の権威が支配していた中世時代の欧州では、神の権威によって科学の発展が著しく妨げられていましたが、クルーグマンの学説である「インフレになると人々が信じれば、実際にインフレになる」というインフレ期待などは、まさしく宗教そのものといってもいいでしょう。このようなクルーグマンの主張を根拠にして、わが国の金融政策が間違った現状を突き進んでいるのは、非常に憂慮すべきことだと思われます。
日本で「浅はかな経済実験」が行われてしまったのは、クルーグマンの「インフレ期待」なる理論が「原因」と「結果」を完全に取り違えているにもかかわらず、リフレ派と呼ばれる学者たちが権威の名のもとに、「愚かな為政者」にその理論を信じ込ませてしまったからです。
普通に暮らす国民の立場からすると、金融緩和に依存する経済政策はあまりにも筋が悪かったといえるでしょう。経済の本質や歴史について先入観を持たずにしっかりと検証していれば、このような愚かな経済政策を行うはずがなかったのではないでしょうか。
■物価が上がれば景気が良くなるわけではない
経済の本質からすれば、「物価が上がることによって、景気がよくなったり、生活が豊かになったりする」のではありません。「経済が成長する結果として、物価が上がる」というものでなければならないのです(もちろん、「経済が成長する結果として、物価が下がる」というケースもありえます)。
経済学の世界では、「鶏が先か、卵が先か」の議論が成り立ってしまうことがありますが、実際の経済は決してそのようには動いていかないものです。経済にとって本当に重要なのは、「どちらが先になるのか」ということなのです。
さらに、経済学の不可思議なところは、それぞれの国々における人口の構成、人々の価値観や生活スタイルなどが考慮されていないということです。
特に高齢化社会を真っ先に経験している日本にとって、本当にインフレが望ましいのかどうかは、社会保障制度の改革とセットで議論されるべきものです。そもそも人口減少社会に突入した日本の経済と、人口増加社会であり続ける米国の経済を、同じ土俵で比較すること自体、学問的にもセンスがなさすぎるといわざるをえません。
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