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4千万円マンションの35年ローン完済時、資産価値8百万円で廃墟化…物件で2千万の差
http://biz-journal.jp/2016/09/post_16695.html
2016.09.21 文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト Business Journal
35年前といえば、あの平成バブルが始まる5年前。日本にはまだ高度成長期の余韻が残っていた。団塊世代は30代の前半。人生の興隆期を迎えていたのではなかろうか。
その団塊の世代に属し、ほどほどの企業に勤める2人のサラリーマンが、東京でマンションを買うことにした。そして2人とも、当時としてはかなり思い切った価格である4000万円前後の高級マンションを購入した。それぞれ親からの援助もあったが、購入資金の大半は住宅ローン。もちろん、35年返済だ。
今、彼らは共にそのローンを無事完済できた。残されたのは築35年のやや老朽化した中古マンション。子どもは巣立ち、住んでいるのは団塊の夫妻のみ。
「このマンション、いくらで売れるのかしら」
老いが忍び寄っている。いつかはそこを出て介護サービスのある施設に移ることになりそうだ。少しでも条件の良い施設に入るには、それなりの資金が必要。貯金もあるが、マンションを売却したお金もあてにしたいところだ。
2人は同じ時期に、それぞれの地元の不動産仲介業者に売却額の査定を依頼した。A氏のマンションは3200万円。B氏のマンションは800万円。その差は2400万円。なぜ、これほどまでに差がついてしまったのか。
日本という国は、すでに膨張期を過ぎている。人口も、経済も、ダウンサイジングの時代に突入した。住むため、働くためのスペースも以前ほど必要としなくなった。つまりは、不動産に対する需要全体が縮んでいる。その縮み方は一様ではない。場所によってかなりの偏りがある。その差が、A氏とB氏のマンションの評価額に表れてしまったのだ。
■マンション格差
今月、『マンション格差』(講談社現代新書)という拙著を上梓した。マンションという住形態は、いまや日本の都市に住む人間にとってはなくてはならないものとなっている。東京や大阪などの大都市に限らず、政令指定都市クラスの都会でマイホームを求めるならば、住形態は分譲マンションが主流であろう。
しかし、分譲マンションという住形態はこの国に登場してまだ60年ほどでしかない。実のところ、その法整備も未熟なところが多々ある。すでに、建替えや区分所有のあり方においてさまざまな問題が生じている。行政側は大きな問題がクローズアップされるたびに継ぎ足しのように新たな法をつくったり、既存の法令を変更したりしてきた。しかし、いまだに万全とはいいがたい状態だ。
さらに、マンション自体の資産価値自体もA氏とB氏の例のように、年月を経ることによって大きな「格差」が生じている。「格差社会」というワードが世に登場して久しい。グローバリズムと呼ばれる競争社会の純化によって、日本社会の階層化が進んでいるという。資産や収入、学歴の差が世代を継いでつながっていくという。そして固定化される。
実のところ、それは人間社会だけの現象ではない。「マンション社会」においても、格差は確実に存在する。そして、日本経済の収縮によってその格差は広がっていくはずだ。
私は約30年間マンション業界にかかわってきた。今は物件ごとの資産価値についてあれこれ論評することを生業としている。その私の目から見ると、これからさらに広がるであろう「マンション格差」の問題は深刻である。
■必要な修繕さえなされず廃墟化も
まず、A氏は潤沢な資金で老後の生活設計ができるが、B氏はかなり窮屈な選択を迫られるだろう。では、B氏は35年前に間違った判断をしたのであろうか。
B氏は35年前の時点で、通勤時間は多少長くなるが家族が伸び伸びと暮らせる郊外の広々としたマイホームを選んだにすぎない。A氏は手狭であっても、通勤しやすくて便利な場所のマンションを購入し、35年の年月をやや窮屈な思いを我慢しながら暮らしてきた。
35年前なら、この両者の選択は共に何も間違っていなかった。お互いの価値観に従っただけである。しかし、35年後には大きな「格差」となった。
こういった格差は今後も拡大していく。たとえば、A氏のマンションは管理組合の財政にゆとりがある。不具合が生じても必要な補修ができる。管理組合のマンパワーも適度に新陳代謝がなされている。A氏の世代よりも若い人々が新たな区分所有者として入ってくるからだ。
一方、B氏のマンションは、建物も住人も老朽化が進む。管理組合の財政も豊かとはいえない。やがて必要な補修さえ行われなくなり、その先は廃墟化が待っている。
人口減少と少子高齢化、そしてグローバリズムはマンション社会にも深刻な「格差」を生み出している。そのなかで、これからマンションを購入する人々はどういう価値観で物件を選ぶべきなのか。あるいは、すでに購入して住んでいる人々は、この残酷なマンション「格差」社会でいかなる行動を起こすべきなのか。
日本は今後、人口減少に伴って生じるさまざまな問題に立ち向かわなくてはならない。特に、都市部においては老朽マンションが大きな問題になるはずだ。その根底にある「格差」の成り立ちと未来像を理解することは、この問題をひも解く一助になるのではなかろうか。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)
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