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1. 論長論短 No.277
娘の質問に答えて
宋 文洲
今年から私の四人の子供全員が米国の高校や中学校で学ぶことになりました。
暇になった私達夫婦は、旅行を兼ねて子供たちを訪ねることにしました。
高三の長女を車に乗せて買い物に行っていた時です。後部座席で宿題をしていた
彼女が突然「パパ、正義についてどう思いますか?」と聞いてきました。
どうも学校の宿題が某哲学者の本を読んで感想を書くことだったようです。
その哲学者は「金銭や権力から独立した普遍的な正義が存在する」と主張しています。
普段から正義についてまじめに考えたことはないのですが、「普遍的な正義が
存在する」との言葉に自分の神経が強く刺激され、とうとう子供に熱く語る羽目に
なりました。
「その哲学者はきっと苦労したことのない人か、経験の浅い若者だと思う。
パパはいろいろな国のいろいろな文化背景や宗教を持つ人と会って、彼らは
それぞれ自分の正義感を持つことを知っている。個人的に付き合うと滅多に
悪い人はいないが、同じ問題に対して自分の正義感から出した結論はまるで違う。
つまり、現実としては普遍的な正義は存在しない。人々はよく自分の正義こそ
普遍性があると信じたがる。」
「正義感が強いほどタチが悪い場合がよくある。他人のことを否定し、現実や
事実を無視する、あるいは自分の信念に沿うように現実と事実を解釈する。」
「例えば今進行中の米国の大統領選挙。クリントンとトランプに対して大半の
米国人が反感を持っているのにも関わらず、この二人のどちらかを大統領に
しなければならない。米国の政治システムは世界で最も進んだシステムであるか
のように、米国のエリートは信じているが、それは米国が一番強く一番豊かだから、
そう信じられてきただけだ。戦後の歴代米国大統領が、その米国の民主主義が
世界にとって普遍的な正義だと思い込んで、その政治システムが合わない国々
にも強引に押し付けた結果、イラクやシリアの悲劇が起きている。」
「パパからみれば、正義でも悪でも道具に過ぎず、目的ではない。人々が生活の
中で正義を考えた場面は少ないはず。豊かな生活をすることが最も重要な目的
だろう。自由があって貧しい生活をするシステムは自由に貧乏になるシステムだ。
逆に豊かになることは、それなりの自由がないと無理である。したがって、
目的は正義ではなく、豊かさに置いたほうがわかりやすい。豊かであることは
物凄く発信力がある、豊かな社会のシステムが自然に魅力的になり、人々から
『正義』であるように感じられるはず。」
「人々が権力者と戦うのは正義のためではない。より良い生活をするためだ。
戦って勝利した人々から新たなリーダーやシステムが誕生するが、多くの場合、
結局同じことをするようになる。」
「米国人のほとんどは世界中から移民してきた人達だ。歴史も文化も中国や日本
などと比較すればないに等しい。だから特殊な正義が多い。たとえば『銃所持の
自由』はその一つの典型だ。政府も統治も行き届かないこの大地にやってきて
インディアンから土地を奪って自分を守るのは自分だけであった。これは数千年
前から土地をきちんと所有して丁寧に耕してきた中国では考えられない状況だ。
そんな特殊な略奪歴史に始まった銃所持は歴史の長い国から見れば明らかに
異常であり、人々の生命を危険に晒すシステムだ。政府も警察も法廷も整備された
今、個人が銃を所持しなくても、個人の権利は十分に守られる。廃止すればいいのに、
米国の正義によって未だに強く守られている。」
「この正義は明らかに陳腐化したもので、ライフル協会などの利権団体の道具に
なっているが、米国に文句を言う国はいない。なぜならばこれまでの米国は一番
豊かで強かったからだ。もし米国よりも豊かで強い国が現れたら、米国の正義の
多くは疑われるだろう。」
「・・・あれ、もうそろそろ着くな。行きより帰りがえらい早かったな?」
「それはあなたが熱く語ったからよ・・・」(助手席にいる妻の声)
「・・・・・・」(後ろの娘が半分寝ている)
住宅街の玄関先にはトランプの看板が目立って、
なぜかクリントンのものは見つかりません。
P.S.
以前の宋メールで上海で創業した優秀な日本人経営者について触れたと思いますが
(URL: http://r31.smp.ne.jp/u/No/2593169/ffPZfahJfeiD_42725/160916001.html )、
なんと!ご本人が宋メールに寄稿することに同意してくださいました。
この方は米国や中国の現場で多くの経験をしてきた日本の方です。
ぜひ彼の文章を楽しんでください。
今回の論長論短へのご意見はこちらへ↓
http://r31.smp.ne.jp/u/No/2593169/k7gW8EhJfeiD_42725/160916002.html
※いただいたご意見は自動的にコメントに掲載されます。
名前も掲載されますので、問題がある場合はペンネームをご入力ください。
また、次回以降の宋メールでご意見を掲載させていただく可能性がありますので
ご了承お願い致します。
【ソフトブレーンfacebook】でも宋メールへのコメントお待ちしています↓
http://r31.smp.ne.jp/u/No/2593169/GAOFCjhJfeiD_42725/160916003.html
宋のTwitterはこちら↓
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今までの論長論短はこちら↓
http://r31.smp.ne.jp/u/No/2593169/6aEWcchJfeiD_42725/160916005.html
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2.Yo-ren Limited CEO 金田修の新連載
ベンチャーの聖地はシリコンバレーから中国へ
金田 修
今回より連載をさせていただくことになりました。Yo-ren Limitedの金田です。
2011年から中国に移住し、翌年から上海でデジタルマーケティングの仕事を始めて
5年目になります。スマホを中心に、デジタル媒体上での消費者向けブランドの
マーケティングのお手伝いや、コンビニやスーパー向けの会員管理プログラムを
提供しています。
宋さんのこちらのメルマガの読者には、中国在住の方も多いと思いますが、
特に小売業向けのサービスでは、北京上海広州という一級都市のみならず、
地方都市の動向も日々感じ取ることが出来ますので、そんな日々の事業や
上海での生活を通じて感じることを共有していきたいと思います。
第一回の今日は、シリコンバレーだけがベンチャーの聖地だと思っている人は
5年遅れているということを、数値で把握したいと思います。GDPは、2010年に
中国が日本を追い抜いてから昨年末までの5年で2.6倍になりました。
このスピード感もすごいですが、IT領域のイノベーションの中心である
ベンチャー市場の変化は更に何十倍ものスピードです。
僕が中国に来る直前まで日本のベンチャー投資市場は中国市場を凌駕していました。
それが、MoneyTree発表による昨年の実績では中国のベンチャー企業の資金調達
金額は380億ドルと米国の6割超に達し、日本の30倍以上になりました。2016年は
まだ途中ですが、上半期は前年以下と弱含んでいる米国市場に対して、中国が
肩を並べる、追い越すという分析がなされています。2013年時点では中国は
米国の15%に過ぎませんでしたから、あっという間にベンチャー市場は、
米国一強時代から米中が二強になったわけです。
意味合いはなにか。もはやシリコンバレーに世界のイノベーションが集中して
いると考えるのは時代錯誤だということです。投資の妙味という観点では中国は
時既に遅し、インドを始めとした新興市場にチャンスが有ると思いますが、
企業のR&Dの対象として北京・深センの動向を真剣にサーチしなければいけない
時代だと思います。
そして、もう一つ。日本が抱える閉塞感の原因である人口と企業の双子の
高齢化は、中国では少なくとも同時発生しそうにない、ということです。
実際に昨年のTechCrunchというベンチャーイベントに合わせて北京を訪れた
Alphabet(Googleの持ち株会社)のエリック・シュミット会長は、世界の
イノベーションのコアがシリコンバレーだけという時代は終わり、北京も
ボストン、テルアビブと並んで世界のイノベーション基地として重要な位置を
占める、中国では一般消費者は使えないGoogleですら、中国市場でのR&Dを
怠るつもりはないと発言しています。
今月頭のG20に合わせて、G20の諸外国はこのタイミングに合わせて様々な
ビジネスイベントをここ上海でも開催しており、僕もオーストラリアと
フランスのイベントに参加しました。オーストラリアのイベントは、豪政府
肝いりで始めた豪ベンチャーの世界チャレンジプロジェクトのキックオフ
でした。彼らが選定した世界のイノベーションの中心にある5拠点で
成長可能性と資金調達の可能性を探る先として、上海が選ばれたそうです。
対する日本はどうでしょうか。サミットでは色々工夫を凝らして日本の良さを
訴えようと努力したようですが、G20を機会と捉えて官民一体で中国にて
何かを仕掛けたという話は聞きませんでした。上海にいる僕達がこうした
日本の意識を変えていかないと行けないと改めて感じたイベントでした。
(つづく)
金田さんが創業したYo-ren LimitedのURLはこちら↓
http://r31.smp.ne.jp/u/No/2593169/6en0gHhJfeiD_42725/160916006.html
http://www.softbrain.co.jp/mailmaga/back310.html
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