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貧困女子高生騒動 「相対的貧困」への無理解も原因
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160909-00000018-pseven-soci
女性セブン2016年9月22日号
NHK『ニュース7』の「子供の貧困」をテーマにした特集(8月18日放送)に登場した女子高生A子さん(17才)が、ネット上で“炎上”した騒動。経済的な余裕がないということでパソコンが買えないA子さんは、エアコンのない自宅の部屋で、母親が買ってくれた1000円のキーボードでブラインドタッチの練習をする──。そんなA子さんの貧困の現状が放送されると、ネット上では批判の嵐となる。
「アニメグッズが部屋にたくさんある」「2万円相当の高価なペンセットがある」などの意見が書き込まれたかと思えば、すぐさまA子さんのSNSが判明。過去のツイートを探り、「ランチに1000円使っている」「バンドのコンサートに行っている」などと、“貧困ではないのでは?”と炎上したのだ。
「食べるものがない」「住む場所がない」などすぐさま生命にかかわるような貧困は「絶対的貧困」と呼ばれる。一方で「相対的貧困」とは社会で標準的な生活を送れないことを指す。
日本などの先進国では、この「相対的貧困」を貧困の指針としており、日本の場合、単身で年間122万円以下、2人世帯で173万円以下、4人世帯で244万円以下で生活している人を貧困状態にあるととらえられているが、その判断は難しい。今回の大炎上では、まさに社会の無理解があぶり出されたともいえる。子供の貧困を研究する長崎大学教育学部准教授、小西祐馬さんは次のように話す。
「餓死や売春などの絶対的貧困は一定の基準で把握されているのに対し、相対的貧困は国や文化、社会の発達状況によって違ってくるのでわかりにくいし、誤解されやすい。だから非常に見えにくい。しかしこれだけ、熱中症が騒がれるなか、エアコンがないというのはかなり厳しい状況だと判断できます」
日本では、子供を貧困から救おうと、2014年に「子どもの貧国対策の推進に関する法律」が施行され、さまざまな取り組みがなされてきた。子供を支援するNPOができ、こども食堂も今や全国で300か所以上を数える。ただ子供の貧困といっても、小学生ら低年齢の子供と、高校生では貧困の見え方も違う。
「低年齢の子供には親の状況がダイレクトに出ます。親がお風呂に入れなければ子供は不潔な状態でいるし、服を着替えさせなければずっと同じ服を着ている。しかし高校生になればある程度子供自身が生活をコントロールできるようになります。また、本人も家族の状況が周囲にわからないようにと隠そうとするし、よほどのことがない限り人には相談しない。貧困が疑われても教師や友人がどこまで介入していいのかわからないので、手を貸しづらく、いっそう見えにくくなる」(小西さん)
今回の炎上を「貧困たたき」だととらえ、抗議するデモを行ったグループ「AEQUITAS(エキタス)」の原田仁希さん(27才)は相対的貧困とは、「選択肢を奪われること」だと言う。
「今回で言えば、この女子高生は“進学”という意思があったのに、それが選択できなかった。だから、相対的貧困だと思います」(原田さん)
2015年の高校生の進学率は7割に達している。また、大学・短大の進学率は過去最高だ。
「大学に入らなければ将来安定した職業に就ける確率はかなり低くなる。だから何が何でも大学へ行こうとするのです。しかし奨学金を借りて進学はしたものの、足りずにバイト漬け。テストにすら出席できず退学せざるを得ない人がたくさんいる。そして退学に追い込まれ、不安定で低収入の職にしか就けないというのが現実です」(原田さん)
貧困から脱しようと試みたもののそれも叶わず、親から子へと貧困が連鎖していくこともまた、現在の日本が抱える深刻な問題だ。前出の小西さんが貧困のイメージを調査した際、“ホームレスや飢餓寸前状態だ”と認識した人が大半だった。
「そういうイメージしか持てない人には現代の貧困、すなわち相対的貧困は理解できない。日本はここ数年でやっと『相対的貧困』という言葉が浸透してきた。今はその問題に社会が正面から向き合おうとしている過渡期の段階。理解がまだ不充分な中、この悲しいバッシングが起こってしまった」(小西さん)
貧乏人だったら貧乏人らしくしろ!──今回の炎上からは、そんな声が聞こえてくるように思えてならない。1000円のランチは食べてはいけない。食う物にも困っているのが貧乏人だからだ。当然、趣味も持ってはいけない。何もせず暗い家でじっと暮らすのが貧乏人だから。しかしそんな偏見は今すぐ捨ててほしい。
2012年、生活保護受給問題が起きた。もちろん、本来受け取るべきではない人が受け取っていた「不正受給」は解決すべき大きな問題だが一連の騒動がきっかけで「生活保護=悪」という誤った図式が世の中に強く印象づけられたことは事実だ。
その結果、生活保護を拒んで自殺した男性や、生活保護の調査を受けたことで「みじめになった」と無理心中した親子など、本来ならば生活保護をもらって生活を立て直せばもっと生きられたはずの人たちが命を落としているという現実もある。
その時と同じように、人々の無理解が今回の貧困問題に飛び火しないかが危ぶまれる。
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