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[中外時評]資本主義に厳しい視線 機能は壊さず恩恵広げよ
論説副委員長 実哲也
資本主義が危機に直面している。そんな議論が日本を含む先進国の論壇でさかんだ。
状況がより先鋭的に現れているのは米欧である。
ハーバード大が全米の18〜29歳の若者を対象に今春実施した世論調査では、51%が「資本主義を支持せず」と答えた。民主党の大統領候補選びでは「民主社会主義者」を名乗るサンダース上院議員が若者から熱狂的な支持を集めた。英労働党も資本主義に批判的な勢力が指導部を牛耳る。
もちろん本気で資本主義を倒そうという勢力が台頭しているわけではなく、定義が曖昧なまま資本主義が悪者になっている面も大きい。とはいえ、こうした風潮を軽視してはならないとの危機感が米欧の実業界では高まっている。
「短期志向をあおり、貧富の格差を広げるようでは資本主義への支持は消え、繁栄への希望もついえる」(日用品・食品大手、ユニリーバのポルマン最高経営責任者)。そんな問題意識から同社を含む大企業や機関投資家のトップらは「(恩恵が広く行き渡る)包摂的な資本主義のための連合」を結成。今秋開く3回目の会合では提言だけでなく、成果につながる具体策を決め、実施を公約するという。
背景には世界的に成長が弱まり、若年層を中心に高失業や賃金停滞が顕著になってきたことがある。結果的に既存の経済・政治システムへの不信が拡大。それを覆す成果を出さないと極端な政策が現実化しかねない状況になった。
既存の体制への不信という時代風景はある意味で戦間期の1920〜30年代と重なる。ハイパーインフレから大恐慌と大揺れに見舞われた資本主義は信頼を失い、いっときは大きな成果を出したソ連の社会主義やドイツの国家社会主義が磁力を増した。
今は資本主義に強力な挑戦者はいない。かといって支持基盤が強固なわけでもない。
「世の中を目の敵にする衝動を抑えるには社会制度への愛着が必要だが、そうした感情的な思い入れこそ資本主義が構造上生み出せないものなのである」。資本主義の行方を考察したシュンペーターは名著『資本主義、社会主義、民主主義』でこう喝破した。
ケインズも「ビジネスマンが不当利得者に変われば資本主義は大打撃を受ける」と言い、不平等感が資本主義を危うくすると警告した。賢人たちのこうした指摘は今でも通用する。信頼を高める積極的なアクションが必要だ。
そもそも資本主義は私有財産を法で保障し、自由競争で富をうみだすものだ。人々のやる気や創意工夫が繁栄につながることを想定している。
まずはその機能をフルに発揮させることだ。金融危機後の経済低迷を受けて長期停滞論が台頭、成長や革新の種は枯渇しつつあるとの悲観論も目だつが、果たしてそうか。
吉川洋・立正大教授は「世界は高齢化や地球環境保全といった、解決策が求められる大きな課題を抱えている。シュンペーターがいま生きていたら、イノベーションの種はいくらでもあるに決まっているというはずだ」と語る。
シュンペーターは顕在化していない需要を先取りしてみつけ、新しいものをうみだすのが企業者だと説いた。企業が目先の利益にとらわれずに創造力を発揮し、社会の課題解決につながる成果を出していく。それが資本主義への信頼回復につながる第一歩だ。
政府の行動も重要だ。介護ロボットから自動運転車まで高齢化などの課題を解決するイノベーションを組みあわせ社会に根付かせる。そんなコーディネーターの役割が政府には求められると吉川教授。基礎研究への投資やベンチャー企業支援などでイノベーションを支えるのも大事だ。
同時に働く意欲のある人への支援は思い切って強化すべきだ。コンサルティング会社のマッキンゼーの最新分析(先進25カ国対象)では、93年から2005年の間に実質所得が下落または横ばいだった家計は2%だったが、05〜14年では65%以上に達した。
技術革新やグローバル競争によって負の影響を受ける人は少なくないと認識した上で実効性のある就労支援や所得の下支え策が求められる。それが不十分だと、自由貿易や企業活動を脅かすような政策の磁力が増すことになる。
資本主義は本来的に不安定さを抱え、欠点も目立つ仕組みだ。人々の生活の激変を和らげ、成果の恩恵が広く共有されるようにする。金融市場の過度の変動が実体経済を振り回すのを抑える。しかし、競争を通じて新たな価値を創造する市場機能はつぶさず伸ばしていく。求められるのは資本主義の再起動である。
[日経新聞8月28日朝刊P.10]
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