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[創論]年金、株式運用拡大どう影響
公的年金の運用で2015年度に5兆円規模の損失を計上した。政権が14年に株式の運用割合を5割に高める改革に踏み切った後で株価下落が直撃したためだ。株式運用の拡大で年金制度はどう影響を受けるのか。運用を担う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の高橋則広理事長と、年金に詳しい日本総合研究所の西沢和彦主席研究員に聞いた。
■評価額変動、管理できる GPIF理事長 高橋則広氏
――運用損益は15年度の損失に続き、16年4〜6月も5.2兆円の損失となり、14年10月の運用改革後の累計でも赤字になりました。
「要因は主に3つある。まず中国の景気の悪化、2つ目が5月の米雇用統計の想定外の低迷、3つ目が英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票だ。それらが重なり株安や円高となった。数字は謙虚に受け止めるが、時価による評価損が大きく、現実に年金積立金に損失が出ているわけではない。後の世代に積立金を安定して残すのが基本的な姿勢で、これからも長期的な目線で運用していく」
――そもそも株式での運用を増やす必要はあったのでしょうか。
「100%日本国債なら価格の変動は小さいが、利息はゼロだ。株式の割合を全体の半分まで上げると資産価格の変動幅は大きくなるが、配当も大きくなる。国債の金利がマイナスになる中で、株式をこれだけ持てるのは大きなアドバンテージだ。運用の選択肢が広がったともいえる。ただ価格の変動が大きい資産を増やしたことは事実で、振れ幅については四半期ごとにきちんと説明する。140兆円の運用資産があれば、資産価格が多少変動してもマネジメントできる」
――過去10年間の累計の収益額のうち、配当や利息の占める割合を公表するようにしました。
「国民のみなさんにご理解いただきたいのは、我々は保有する金融商品の売買で収益を上げるというよりも、長期保有に基づいた配当や利息が全体の収益に占める割合が高いということだ。累積収益額の約32兆円のうち約21兆円は配当や利息収入だった。そうした長期投資、長期保有の意義を分かりやすく伝えたい」
「配当や利息は安定的に相当な金額が得られる。金融商品の値段が上がったから売却をして、それでさらに資産を増やすというよりも、株式や債券を長期的、安定的に持ち続けることで、国や企業の経済活動の成果を取り込むことが運用の主眼となる」
――それでも国民には株式運用に不安の声があります。
「愚直に説明していくしかないが、長期で見てもらえば理解されるのではないか。社会全体や株主、従業員などのステークホルダーに利益が回る経営を永続できる企業は、配当を健全な形で継続して出してくれる。企業が成長するにつれて我々も配当をもらえるという循環が長期的にはできると思う。我々が公共インフラの一つとして機能していると納得してもらうことが重要だ。そうする中で国民の心配がなくなればと思う」
――株式での運用が増えると、積立金を少しずつ取り崩して年金給付に充てていく「100年安心プラン」の設計に影響は出ませんか。
「確かにあと数年は年間数兆円の積立金を年金給付に充てる必要があるが、その分は国債の償還金などで工面できており、運用とは切り離している。その後の20年ほどは保険料などの収入が給付額より大きいため、積立金を年金給付に充てる必要がなく運用に専念できる。その先、70年ほどは緩やかに積立金を取り崩す計画だが、市場に影響を与えるような規模ではない」
「市場で懸念されるのは株式相場への影響だと思うが、我々が大量に株式を売ったことで株価が下がるといった影響は最小限にしなくてはならない。市場に影響を及ぼさない形で資金繰りをしていく」
――国債の金利がマイナス、為替も円高に振れる中で今後の運用戦略は。
「基本的には現在のポートフォリオを前提として、長期的には引き続き配当や利息を安定的に得られるように資産を分散していく。(インフラや不動産などの)オルタナティブ資産が運用額に占める割合は0.06%とごくわずか。良い物件があれば少しずつ増やしていきたい。今、世界的にカネ余りの状態で、良い投資先は割高な傾向にある。長期投資家として目線にあった物にゆっくり投資していく」
――GPIFに合議制の経営委員会を設けるガバナンス改革が予定されています。
「重要事項は運用委員会に諮るなど、いまも運用としては実質的に合議制になっている。ただ法律で担保されれば国民の信頼が高まる。内部の会議でも率直に意見を言い合う雰囲気があり、投資組織としては良いことだ。改革の法律成立が遅れたとしても、実質的な合議制を維持していく」
(聞き手は小川和広)
たかはし・のりひろ 農林中央金庫で運用畑を歩みリーマン危機後の経営立て直しに手腕。4月から現職。58歳。
◇ ◇
■損失のツケ、将来世代に 日本総合研究所主席研究員 西沢和彦氏
――政府が2014年10月に決めたGPIFの運用改革をどう評価しますか。
「改革は当初、成長戦略の観点で打ち出されたが、まずそこに違和感がある。私も単に140兆円のお金を渡されて『今後インフレが起こるなか、長期運用して増やしてほしい』と言われれば、株式投資を増やすだろう。だが年金は社会保障制度で、積立金は国民から集めたお金が原資だ。大きな改革を進めるなら、被保険者の十分な合意を得るプロセスが欠かせない」
――株式比率を5割まで上げたことをどう見ますか。
「2つ問題がある。1つ目は債券を減らし株を増やす根拠が乏しい点だ。14年6月の年金制度の財政検証では目標とする実質運用利回りを1.7%とした。これは前回09年時点の財政検証から大きく変えていない。一方でそれまでGPIFは自主運用以来3%近い利回りを確保している。インフレになると債券中心の運用では不利という意見もあるが、14年の財政検証では特に物価上昇を高く見積もったわけでもない。こうしたことを考え合わせれば、運用比率を変更する必要性は薄い」
「もう1つは運用改革について事前に合意を得ていない点だ。GPIFは15年度に5兆円超の運用損を出したことを『投資は長期で見るもの』と釈明している。ただ株式比率を上げるとボラティリティ(変動率)が高まることを被保険者に十分に伝えていない。それなのに『長期で見れば大丈夫』と言っても不安は解消されないのではないか」
――運用リスクへの対策は十分でしょうか。
「今の年金制度では運用損が出た場合、物価や賃金の上昇分よりも年金支給の増額を抑える『マクロ経済スライド』の発動期間を延長して補うことになる。現行ではマクロスライドは今後数十年続くことになっているが、さらに期間が延びる。つまり、運用損により支給額は直ちには減らないが、政策決定に参加できない子や孫の世代にまでツケを回すということになる」
「スウェーデンでは運用損が出ると想定利回りが下がり、時間を置かずに年金額が調整される仕組みになっている。しかも基礎年金部分の積立金は、被保険者の老後の最低保障を担保する意味で運用から切り離されている。日本は支給額の調整を将来世代に先送りし、基礎年金も運用に回している。二重の意味でリスク対策が不十分だ」
――政府やGPIFは運用改革で年金財政の持続性が高まったと主張しています。
「年金の持続性を高めるのなら、デフレ下でもマクロ経済スライドを発動して年金の支給額を抑えるとか、高額所得者の基礎年金を減額するとか、そちらが本丸だ。積立金の運用は脇役でしかない。安倍政権は受給資格期間の短縮や低年金者への給付金など年金額を増やす方に関心が強いが、痛みを伴う改革にも向き合うべきだ」
――年金制度は積立金を取り崩して年金支給に充てる計画です。株で運用することはリスクになりませんか。
「将来、株を売る局面は必ず来る。さらにそれはGPIFや当局が思っているよりも早く訪れる危険性がある。デフレ下でマクロ経済スライドの発動が遅れていることは、積立金を取り崩すペースを速めることになるためだ。保険料収入も、成長率見通しなどの前提条件が甘いため、予測より下振れする可能性がある。株売却を少しでも先延ばしする観点からも年金支給の抑制策を早急に講ずるべきだ」
――被保険者の声を年金運用に反映するには、どうすべきでしょうか。
「運用委員会などGPIFの重要な意思決定をする場に被保険者である労使の代表を数多く出席させるべきだ。国会で審議中のGPIF改革の関連法案では経営委員会を新設し、経営と執行を分離することになったが、新たな経営委に労使は1人ずつしか入らない。これでは実際に保険料を払っている私たちの気持ちは届かない。保険料を苦労して集めている日本年金機構の幹部を入れるのも一案だ」
――新しい経営委は経済や金融の専門家が大半を占めることになりそうです。
「そういう“運用オンリー”の考え方が、GPIFと国民の乖離(かいり)を招く原因になっている。保険料を納めたり、集めたりする苦労がわかれば、運用損の釈明として『長期で見れば安心』という言葉は使わないと思う」
(聞き手は中島裕介)
にしざわ・かずひこ 三井銀行などを経て日本総合研究所に入社。16年から現職。社会保障や税制が専門で医療や介護も詳しい。51歳。
◇ ◇
〈聞き手から〉制度持続へ給付抑制を
公的年金運用のあり方を巡る議論は2014年10月の運用改革が発端だ。それまで12%ずつだった国内、外国株式の割合を2倍に高めて計50%まで増やした。GPIFが説明するように、株式の割合を増やしたことで、より大きな配当収入を望めるようになった側面はある。
半面、収益の振れ幅は大きくなった。14年度に15兆円の運用益を計上したかと思えば、15年度は一転して5兆3千億円の損を出した。西沢氏が指摘するように、今の制度は運用損が出た場合は、年金給付の抑制措置である「マクロ経済スライド」の発動期間を延長する形で将来の世代にしわ寄せが行く仕組みだ。子や孫の世代に運用リスクを負わせるのなら、現在の年金受給者への給付を抑えることで制度の持続性を高めることが必要なのではないか。
国民生活に直結する年金の運用が時の政権の思惑に左右されることもあってはならない。GPIFは政治からの独立性の確保についても、引き続き丁寧に説明する必要がありそうだ。
(小川和広)
[日経新聞8月28日朝刊P.9]
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