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税制改革 迫る足音
(上)所得税「累進性」高く 子育て世代へ再分配
2017年度税制改正に向けた政府・与党の論議が9月に始動する。所得税の抜本改革などを通じ、働き方改革と成長底上げにふさわしい税制を構築できるかが問われている。
7月末の自民党税制調査会で宮沢洋一税調会長は「20年ぶりの所得税大改正をする」と宣言した。政府税調は党に連動して9月から改革の青写真作りに入る。
目指す姿は昨年末に政府税調がまとめた論点整理の一文にうかがえる。「諸控除を見直し、税負担の累進性を高めることで低所得層の負担軽減をはかる」
「諸控除」とは、所得から一定額を差し引く(控除)ことで課税対象額を減らす仕組みだ。基礎控除や配偶者控除などが代表的だ。所得に応じて税率がきつくなる「累進」と呼ばれる構造の下では、所得から同じ額を引くと、税率の高い高収入者ほど有利になる。
一方、所得にかかわらず税金から一定額を差し引く「税額控除」ならば低所得者にとってのメリットが大きくなる。政府税調は17年度改正で所得税の最高税率は据え置きつつも、所得控除から税額控除への切り替えを進める意向だ。これにより中低所得者への所得再配分を強める道筋を描く。
専業主婦を優遇する配偶者控除は共働きでも控除が受けられる仕組みに変える方向で検討する。
背景にあるのは格差の広がりだ。若年層の平均年収は低下が続き、1994年は400万〜500万円が28.1%と一番多かったが、20年たった14年は300万〜400万円が27.5%と最多だ。
高齢化で医療や年金の負担は膨らむ一方だ。年収に占める所得税と社会保険料の負担率は現在、年収300万円の人が86年との比較で3.2ポイント高まる一方で、年収2000万円の人は5.5ポイント下がった。
都内の清掃業で働く川田康三さん(仮名、31)は昨年、外食店で働く女性と結婚した。年収は2人で500万円ほど。「子どもは欲しいが、子育て費を捻出できるか不安です」
こうした子育て世帯へ所得の再配分を増やして女性の労働参加を後押しし、経済の活力を高める――。英国やスウェーデンが税制改革をテコに経済活性化に成功したことを念頭に政府は二兎(にと)を追おうとしているが、壁は高い。
サラリーマンの税負担を軽くする給与所得控除は16年から年収1200万円超で、さらに17年からは年収1000万円超でそれぞれ縮小する。痛税感の大きい高所得層を狙い撃ちにすれば、さらに不満が高まる。
慶応大学の土居丈朗教授は税制改革について、「社会保障や労働政策と一体で進めなければ、絵に描いた餅になりかねない」と語る。正社員と非正規の格差を縮めるための同一労働同一賃金や残業時間削減、最低賃金引き上げなどが税制改革と相まって、若年層が働きつつ子どもを生み育てる環境が整う。
「社会の骨組みである所得税を変えることで、社会保障や労働政策といった“筋肉”を鍛え直す改革につなげたい」。財務省幹部は意欲を示す。アベノミクス第3弾の成否は、税と経済の構造改革を一体にしたグランドデザインを描けるかにかかってくる。
[日経新聞8月23日朝刊P.5]
(中)内部留保課税も浮上 「ガラパゴス税制」不要
8月2日にまとまった経済対策。経済産業省が「思い切った減税がないと投資は増えない」と企業に対する一律の投資減税案を明記するよう迫り、慎重な財務省との間で激しく対立する場面があった。
安倍政権は2013年度から3年連続で企業の税負担を軽減してきた。15年度は12年度に比べ企業の税負担は約1.5兆円減った。減税という「アメ」の見返りに設備投資や賃上げにお金を回してもらい、アベノミクスを好循環させるのが狙いだ。
だが、第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストの試算によると減税による投資押し上げ効果は2.8%増のはずだったが、2.1%増どまりだった。16年4〜6月期の設備投資も前年比0.4%減り、企業の動きは鈍いままだ。
「『攻めの投資』を後押しする対策を」。安倍晋三首相は7月27日、福岡市での講演でこう語った。年末の税制改正議論での投資減税の検討に含みを持たせたが、さらなる減税の効果を疑問視する声もある。
麻生太郎財務相は「経営者の(デフレ)マインドが変わっていない。企業が内部留保をためるだけの結果になっては全く意味がない」と減税に慎重だ。企業の内部留保は約350兆円と過去最高水準に膨らみ、多少の減税でお金の流れが変わるとは思えないという。
減税ではなく「増税」で企業に投資を半ば強制しようというムチを使った奇策もくすぶる。与党が昨年末にまとめた16年度税制改正大綱は「企業の意識や行動を変革していく方策も検討を行う」とした。多額の資金をため込む企業を対象に内部留保課税のカードを切ることをにおわせている。
有利な事業環境を求めて企業が国を選ぶ傾向は強まるばかりだ。減税の効果を巡る終わりなき神学論争を続ける間に、日本の法人税制は世界の潮流から取り残される懸念が強まっている。
減税を続けたとはいえ日本の法人実効税率は29.97%。韓国や中国は25%以下で欧州連合(EU)離脱方針を決めた英国は17%へ引き下げる。
欧州は法人税を下げる一方で、日本の消費税などにあたる間接税の比率を高めている。「消費税が企業や個人の経済活動に中立的でグローバル時代にあった中核の税制」(中央大の森信茂樹教授)との認識が根底にあるためだ。欧州各国の間接税の平均は20.18%と、法人税率(19.68%)よりも高い。
日本の経済界からは不満の声も聞こえる。ダイヤ精機(東京・大田)の諏訪貴子社長は法人減税の代替財源として15年度から2年連続で拡大してきた外形標準課税によって「税負担はむしろ増えた」という。
外形課税は賃金や事務所の賃料に応じてかかる。ヤマトホールディングスは外形課税による負担増を一因に17年3月期の営業利益を前期比で35億4千万円減と見込む。
「法人税の外形課税は世界で廃止が進んだガラパゴス税制だ」。森信氏は減税財源は消費税で補うべきだと言う。グローバルな視点に立って骨太な税制改革に取り組まないと、立地競争力向上という目的地にはいつまでもたどり着けない。
[日経新聞8月24日朝刊P.5]
(下)税逃れ防止 膨らむ事務 公平性保つ制度模索
「正直者がばかを見ない社会ではじめて、みんな一生懸命仕事をする」。5月、世界各国の富裕層らによる租税回避地(タックスヘイブン)の節税実態を明らかにした「パナマ文書」問題を受け、安倍晋三首相はこう説いた。
企業や個人の税逃れを防ぎ、公平性を担保しないと税制見直しへの支持を得られないと考えているためだ。財務省は今年末の2017年度税制改正で、企業や個人が海外に移した所得に対して日本から課税する「タックスヘイブン対策税制」という仕組みを厳しくする方針だ。
波紋は大きい。デロイトトーマツ税理士法人の山川博樹氏のもとには企業の経理担当者からの問い合わせが後を絶たない。非製造業大手の経理担当者は「事務作業は現在の20倍以上になる。今の体制では到底対応できない」と漏らした。
新たなタックスヘイブン税制では、法人税率20%以上の国に置く子会社でも配当や利子、知的財産といった所得は原則、日本の所得と見なして課税する。適用対象国が現在の「20%未満」から20%以上に広がれば対応は煩雑になる。
「ミクロネシアスキームなら対象にはなりませんよ」。昨年、都内の中小企業オーナーは税理士から助言された。西太平洋にあるミクロネシア連邦はあえて法人税の税率を21%に設定。日本語も話す職員を配置し、日本の企業や個人を「誘致」している。
全世界で知的財産権使用料の国境を越えたやり取りは20年で約7倍に伸びた。知的財産のような所得は税務当局は捕捉の網をますますかけづらくなっている。
例えば、オランダは知的財産使用料の受取額で世界2位だが、税率が25%のため日本の課税網の外だ。財務省が税率基準を廃止したいのは「オランダやミクロネシアのような抜け道を防ぐため」(幹部)。
新しい仕組みで税逃れを封じることができるかといえば、そう簡単ではない。
「チャリトラ」。英領ケイマン諸島で使われている節税スキームとして広く流布している愛称だ。ケイマンにある子会社の株式を慈善団体(チャリティー)に信託(トラスト)し、親会社と子会社の資本関係を遮断する仕組みだ。
子会社の所得を形式上、日本の親会社の所得から分離して合算できなくする。麻生太郎財務相も国会で「合法でできていることが問題だ」と批判し、巧妙な抜け道が存在することを認めている。
富裕層の税逃れも根が深い。かつて武富士(現在は更生会社TFK)創業者が海外に持つ財産を香港に住む長男に非課税で生前贈与し、社会問題になった。
国税庁はその後、制度の対応を進めてきたが、現在も親、子どもともに5年以上、海外に住めば国外財産は相続税の対象にならないという盲点が残る。
「節税していないまじめな企業や個人の事務負担を最小限にする取り組みが不可欠だ」(山川氏)。とはいえ、不公平な税逃れに歯止めをかけなければ、企業や個人が稼いで適切に税金を支払う意欲をそぐことにもなりかねない。来年度改正では制度設計の案配が問われることになる。
飛田臨太郎が担当しました。
[日経新聞8月26日朝刊P.5]
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