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汗水垂らして働く運送ドライバーが家すら買えない「日本国の病」=三橋貴明
2016年8月21日 ニュース
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記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年8月19,20日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
快適な日常生活の「大黒柱」運送サービスの危機から分かること
2016/8/20号より
現在の日本国は、生産年齢人口比率の低下により、必然的にあらゆる産業が「人手不足」になっていきます。無論、経済成長とは、
「人手不足(=インフレギャップ)を生産性向上により補う」
ことで実現します。中長期的あるいはマクロ的には、日本の人手不足は歓迎するべき事態です。
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とはいえ、産業の現場の方々にとっては、「生産性向上で人手不足を埋めろ」と言われても、一朝一夕にはいきません。今後、四つの投資(設備投資、人材投資、公共投資、技術開発投資)により、生産性は向上していくとは思えますが、現場の生産者にとっては、
「そんなことより、とりあえず目の前の人手不足を何とかしてくれ!」
と叫びたくなるでしょう。
特に、日本で人手不足が深刻化しているのが、介護、土木・建設、そして運送です。
わたくしたちは、この日本国で快適にネット通販を楽しんでいますが、その裏には運送サービスの現場の凄まじい労働環境があるわけです。皆さんは、Amazonで本を買ったときに、送料が「無料(実際にはタダではないのですが)」を当たり前のごとく受け止めているかも知れませんが、これは世界的に見れば「異常事態」です。
適正価格が支払われない限り、サービスに従事する生産者の賃金が下落し、やがては「超人手不足」で維持不可能になってしまいます。
運送サービスは、90年に物流二法が制定され、運賃・料金事前届出制や営業区域規制が廃止されました。いわゆる、規制緩和です。
規制緩和をしても、当初は良かったのですが、1997年の橋本緊縮財政以降、とんでもない状況になってしまいます。
※図:日本の企業向け道路貨物輸送サービス価格指数と道路貨物運送業の賃金の推移(1989年=1)
図の通り、90年の規制緩和以降、確かにサービス価格は下がったのですが、賃金は上昇を続けました。当時はバブルの余波で「需要」が十分にあったため、価格下落は所得縮小に直接結びつかなかったのです。
それが、98年のデフレ化以降は一変します。98年以降、日本の運送サービスの賃金はサービス価格を上回るペースで落ちていきました。
本来、デフレ突入後に規制を強化するなどの調整をするべきだったのですが、日本の規制緩和はいつでも「やりっぱなし」です。無論、サービス価格が抑制されれば、消費者側は得をします。とはいえ、少なくともデフレ期には、物価の下落が「同じ日本国民の所得」を引き下げてしまうのです。
所得が下がった日本国民は、今度は「皆さんが生産するモノやサービス」の購入を控え、結果的に皆さんの所得が下がります。他人の不幸(所得縮小)を喜んでいると、自分の脚も引っ張られるのがデフレ期です。
それでもいいじゃん。などとやっていると、やがては人手不足が限界を超えて(すでに超えつつありますが)、サービス自体が維持不可能になります。わたくしたちは、快適なネット通販生活と強制的にお別れすることになるのです。
Next: 日本人が取り戻すべき「サービスに対し適正な料金を支払う」感覚
さて、藤井聡先生を座長に、国土交通省がトラック運送業の適正運賃・料金検討会を立ち上げました。
国交省は7月13日、トラック運送業の適正運賃・料金検討会(藤井聡座長、京都大学大学院工学研究科教授)を立ち上げた。初会合では、規制緩和以降の事業規制や独禁法の規制概要などを確認するとともに、今後の議論の方向性を共有した。
議論の柱は、(1)標準運賃や最低運賃など価格の目安となる運賃の設定(2)原価計算に基づく受注(3)荷役作業や荷待ち時間など運送以外のコストを適切に収受できる仕組みの構築――の3点。
(1)(2)については、業界内で意見に隔たりがある。目安があることで企業努力によって得られた分の料金がもらえなくなり、創意工夫の意欲が損なわれる懸念があるためだ。ほかにも、原価を知ることで荷主の言い値で受注している実態の改善につながるという意見もある。そのため、アンケート等を実施して幅広い声を拾うと同時に、運賃以外の料金を収受できない実態の調査と具体的な方策の検討を進める。(後略)
出典:適正運賃収受のため議論 国交省が検討会立ち上げ – 物流ウィークリー
藤井先生のフェイスブックから引用しますが、
「トラック業界」というのは、実は日本のGDPの3%以上、18兆円もの規模を誇る巨大業界で、就業者は国内全就業者の約5%の300万人強。
市場規模が3%強で就業者は5%――ということはつまり、「平均賃金が低い」という状況にあるのが、このトラック業界の特徴です。
なぜ、賃金が低いのかというと、シンプルに言うなら「モノを送ろうとする荷主が、安いオカネしか払っていないから」――この一点に尽きます。
その傾向はデフレ下で年々深刻化し、最低限の必要経費(ガソリン代や高速道路料金)すら、きちんと払ってもらえないケースが続発しているのが現状です。
全くその通りで、デフレという「買い手」側が強い環境下において、規制緩和により過当競争を強いられ、運送業界は賃金を抑制せざるを得ませんでした。
今更ながら、運送サービスの規制について見直しが始まったのは、いいことだと思います。規制あるいは「規制緩和」自体は、別に善でも悪でもなく、「経世済民が実現できる規制は善」という話に過ぎません。同時に、経世済民からかけ離れた規制緩和は「悪」です。
規制を見直すと同時に、わたくしたち日本国民は、快適な日常生活の「大黒柱」である運送サービスに、感謝するべきなのです。もちろん、心で感謝するだけでは意味がなく、同時に「サービスに対し、適正な料金を支払う」という感覚を取り戻す必要があるのです。
さもなければ、我が国の運送サービスは、「価格は極端に高いが、まともにサービスが供給されない」という、発展途上国的なサービスへと落ちぶれるでしょう。
Next: ドライバー不足なのに「ならば、外国人労働者を」とはならない理由
昨日に続き、運送サービスの話題です。
なぜ、運送サービスについて取り上げるかといえば、まずは昨日も書いた通り、90年の規制緩和が、
「需要が十分にある時期(97年まで)は、サービス価格の低下(のみ)をもたらした」
「需要が縮小する時期(98年以降)は、賃金の低下をもたらし、生産者を貧困化させた」
と、規制緩和の「善と悪」がもろに出た業界であるためです。
さらに、デフレ期に規制「強化」に踏み切らなかった結果、人手不足が深刻化しています。現状、日本の「三大人手不足業界」の一つになっています。(残り二つは、介護と土木・建設)
トラック運送業界が危機的な運転手不足に直面している。規制緩和による競争の激化で収入が減る一方、近年はインターネット通販の拡大で細やかなサービスが求められ、負担は増している。「社会の血管」に例えられる物流システムをこの先も維持できるか、瀬戸際の状況が続く。(中略)
トラック運送業界は1990年の規制緩和で新規参入が進み、事業者が急増した。過当競争のあおりで運転手の平均年収は減り、大型トラックの場合、ピーク時(97年)の510万円に対し、2015年は437万円。全産業の平均より50万〜60万円も低い状況が続いている。(後略)
出典:トラック運転手不足深刻 物流システム瀬戸際 – 読売新聞
読売新聞が「規制緩和による競争の激化で収入が減る」と、正しいことを書いています。ちょっと、吃驚。
ところで皆さん、不思議に思いませんか?
これだけ人手不足が深刻化しているにも関わらず、なぜ運送サービスでは介護や土木・建設のように、
「ならば、外国人労働者を」
という話が出てこないのでしょうか。
それは「免許」の問題です。日本国内でトラックドライバーの職に就くには、日本語の運転免許試験に合格しなければならないのです。
以前、ある運送会社が「ベトナム人ドライバー」の育成にチャレンジしたのですが、やはり無理だったようです。日本語を「普通に」話せ、読み書きができない限り、日本の運転免許は取得できません。
今後、政府が「ならば、外国語でも運転免許を取得できるようにしよう」などと、アホな(究極的にアホな)規制緩和に乗り出さない限り、我が国の運送サービスは「日本国民」で賄うしかないのです。
というわけで、運送サービスは「人手不足を日本国民で、いかに補うのか?」の試金石になると思います。
もちろん、中長期的には「運転サポートシステム(あるいは自動運転)」や「ドローン」など、技術開発や設備投資による生産性向上が切り札になります。とはいえ、短期的には「給料を引き上げる」ことで、業界に人手を呼び込む必要があるのです。
Next: 日本が目指すべき「運送サービスで働き、家を建てられる国」の条件
読売新聞も書いていますが、大型トラックドライバーの年収は、97年の510万円から、437万円に、何と14%以上も下がってしまったのです。まずは、この水準を引き上げていく必要があります。
そのためには、昨日も書きましたが、我々日本国民が「サービスに対し、適正な価格を支払う」という意識を持たなければなりません。
高度成長期からバブル期にかけ、運送サービスはやはり人手不足で(だから、規制緩和という話が出てきた)、長距離ドライバーの方々の年収は相対的に高く、
「運送サービスで働き、家を建てる」
ことが普通にできました。
今は、まず不可能でしょう。
いかがでしょうか? わたくしは運送サービスのみならず、介護や土木・建設、医療といった「人が動かざるを得ないサービス」で汗水垂らして働く「国民」が、比較的高い年収を確保し、持ち家を建てられる社会こそが、「素敵な日本国」だと思うのです。高度成長期からバブル期まで、日本国はまさにそういう国でした。
もちろん、「人が動かざるを得ないサービス」でも生産性を高めていく必要がありますが、とりあえず我々日本国民が「人を大切にする」国民性を取り戻す必要があると思うのです。
読売新聞の記事のラストで、順天堂大学の川喜多喬・特任教授が、
「大災害で物流が止まると、人々はトラック輸送のありがたみを実感するが、日頃は当然のことと考え、高校で運送の仕事を教わる機会もない。運転手の待遇の改善に加え、『物を運ぶ仕事』の大切さに理解を広めていくことが必要だ」
と語っています。
まさに、その通りです。日本国民が『物を運ぶ仕事』の大切さを理解していかない限り、我が国の運送サービスは中長期的に現在の品質を維持することはできないでしょう。
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『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016/8/19,20号より
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